当院はアレルギー科を標榜(★)しているので、「アレルギーの検査をしてください」と相談に見える患者さんが後を絶ちません。
★ 院長は日本アレルギー学会認定専門医
でも、お断りすることが少なからずあるのが現状です。
その理由は、「現在のアレルギー検査の精度は今ひとつで、症状と一致しないことがよくあるため、検査をしても診断にたどり着かないことがある」からです。
検査が陽性でも症状が出なかったり、検査が陰性でも症状が出たり・・・なので、「症状とアレルゲンの関連が確かなときに、確認する目的で」行うことになります。
「症状とアレルゲンの関連が確か」とは、例えば「卵を食べると毎回じんましんが出る」こと。「同じ卵製品を食べるとじんましんが出ることがあるがでないこともある」場合は、卵アレルギーの可能性はとても低くなり、別の原因を模索する必要が出てきます。
食物アレルギーは、
・その食品を食べると毎回
・同じ経過で
・同じ症状が出る
ことで診断されます。
繰り返しになりますが、この3つが揃わないときは可能性はとても低くなります。
なお、症状の強さには食べる量や調理法によりバリエーションがあります。
随分前から「小学校1年生100人にアレルギーの血液検査を行うと、40人(4割)にダニとスギが陽性」というのがアレルギー専門医の常識です。
でも、その40人が喘息やスギ花粉症という訳ではありません。せいぜい5〜10人でしょう。
このダニとスギの検査陽性率は、10歳では5割、大学生では5〜8割と上昇していきます。
スギ花粉症は多く見積もって4〜5割ですから、もう参考になりませんね。
食物アレルギーでも、症状とよく一致するのは乳児期までで、1歳以降は検査陽性でも食べられるようになることが多いことが観察されます。医師の指導の下に制限解除を進めると、3歳で7割、小学生になる頃には8割の患者さんが食べられるようになります。
アレルギー専門ではない医師の中には「検査が陰性になるまで食べてはいけません」と毎年検査を続ける方がいらっしゃいますが、それでは患者さんがかわいそうです。
1歳を過ぎたら、その患者さんの重症度を考慮しつつ、制限解除(食物負荷試験)へ方向転換するのが現在のスタンダードな考え方です。
アレルギー疾患は血液検査では必ずしも確定診断できない、白黒がつくわけではないことをわかっていただきたくて、この文章を書きました。
ちょうどこんな記事が目にとまったものですから;
□ 9歳時のアレルギー陽性率は約75%
日本では小児のアレルギー疾患が急増し、問題視されている。国立成育医療研究センターアレルギーセンターセンター長の大矢幸弘氏らのグループは、同センターが行ってきた出生コホート研究における小児のアレルギー検査データを解析。9歳時のアレルギー陽性率が約75%であることを明らかにし、詳細をWorld Allergy Organ J(2020;13:100105)に報告した。
◆ 前向き縦断研究「成育コホート」
日本でのアレルギーに関するコホート研究では、東京都の6〜14歳の小児で10.5〜18.2%に気管支喘息の症状が見られたという横断研究(Allergol Int 2011; 60: 509-515)があるものの、前向き縦断コホート研究はほとんど行われていない。
国立成育医療研究センターでは、出生前から成人するまでの期間を追跡し調査する出生コホート研究「成育コホート」を実施している。成育コホートは、2003〜05年に妊娠した女性(1,701人)を登録し、母親と出生児(1,550人)を継続的に追跡する前向き縦断研究。胎児期や小児期の環境因子を含めたさまざまな曝露因子が、児の成長と健康にどのように影響するかを調査する。医療機関を受診した児ではなく、同センターで出生した一般集団を対象とした前向き縦断研究のため、後ろ向き研究や横断研究よりも疫学調査としてエビデンスレベルが高い。
◆ 半数以上でダニやスギのIgE抗体が陽性
今回、大矢氏らは成育コホートのデータを用いて、児の5歳時および9歳時の健康状態を調査し、検討を行った。
対象は、2008〜10年の5歳児984人と2012〜14年の9歳児729人。児の親が回答したアンケートと血液検査の5歳時と9歳時におけるデータが得られた651人について解析した。
その結果、過去1年間に鼻炎症状を発症した児は、5歳時で10.6%、9歳時では31.2%と約3倍であった。
また、血液検査でIgE抗体が陽性を示す児は5歳時に比べ9歳時で増加し、9歳時では74.8%がなんらかのアレルゲンに対して抗体陽性を示した。さらに、抗ダニIgE抗体の陽性率が54.3%、抗スギIgE抗体の陽性率が57.8%と、9歳時では半数以上がダニやスギのIgE抗体が陽性であることが明らかになった。
今回の結果から、同氏らは「5歳時に比べ9歳時で鼻炎症状の発症が増加することが分かった。また、9歳時ではアレルギー検査陽性者が全体の4分の3を占め、アレルギー体質の児が極めて多いことが判明した」と結論した。
◆ アトピー性皮膚炎には4つ、喘鳴には5つの経過のタイプがある
大矢氏らはこれまでに、成育コホートのデータを用いた分析により、小児アトピー性皮膚炎には「なし・ほとんどなし」「乳幼児期のみ」「遅発」「乳児期発症持続」の4つの経過のタイプがあると報告している(Allergol Int 2019; 68: 521-523)。さらには、喘息症状の1つである喘鳴についても、「喘息なし」「乳児期早期のみ」「学童期発症」「幼児期発症改善」「乳児期発症持続」と経過のタイプが5つあることを報告している(Pediatr Allergy Immunol 2018; 29: 606-611)。
これらの知見を踏まえ同氏は「アトピー性皮膚炎は児によって症状が異なること、症状の経過も一様ではなく個別対応が必要であることが示唆される」と述べた。その上で「9歳時のアレルギー陽性率が約75%と判明し、多くの児がアレルギーに悩まされていることが明らかになった。乳児期のアトピー性皮膚炎には慢性で難治性のものもあり、アレルギー疾患については児の症状や経過のタイプに合わせて最適な治療を行うことが重要である」と付言した。
んん?
この記事では「アレルギー体質の子が増えている」と検査と診断の解離についてハッキリ書かれていませんね。
誤解を生みそう。