私は小児科専門医、かつアレルギー学会認定専門医ですので、食物アレルギーの相談をよく受けます。
乳児期発症の食物アレルギーは卵、牛乳、小麦が多く、基本は除去です。
乳児期発症の食物アレルギーは治ることが多く、時期を見て除去解除を試みます。
皮膚症状のみの軽症例では自宅で行っていただき、
心配な患者さんはクリニック内で食べていただき、1時間様子を見ます。
しかし、アナフィラキシー・ショックを起こす重症例は、開業小児科医では危険なので扱えません。
総合病院小児科に紹介して、有事の際に対応可能な万全の体勢を取って行う食物負荷試験を依頼しています。
このたび、鶏卵アレルギーの負荷試験に取って代わる検査が登場したという記事を拝見しました。
特異的IgE抗体の抗原親和性(抗原に結合する能力の強弱)を測定することにより、高ければ症状が出やすい、低ければ症状が出にくいことを証明し、臨床応用すればリスクを伴う食物負荷試験を回避できる、つまり開業医における食物アレルギーの診療の幅が広がる可能性があるのです。
大きな期待を寄せ、保険適応になるのを待ちたいと思います。
▢ 鶏卵アレルギー、負荷試験に代わる新検査法
鶏卵は食物アレルギーの代表的な原因食物であり、鶏卵アレルギーの確定診断には食物経口負荷試験が欠かせない。しかし、アナフィラキシーなどの危険を伴うことから、より負担が少ない検査法の開発が求められている。国立成育医療研究センターアレルギーセンターセンター長の大矢幸弘氏、徳島大学先端酵素学研究所生態防御病態代謝研究分野教授の木戸博氏らの研究グループは、食物経口負荷試験に代わる鶏卵アレルギーの新しい検査法に関する応用研究を実施、結果をJ Allergy Clin Immunol Pract(S2213-2198(20)30285-3)に報告した。IgE抗体の"質"を評価する検査法だという。
◆ 世界初の技術で、特異的IgE抗体の抗原親和性を測定
鶏卵アレルギーの主なアレルゲンは、卵白を構成するオボアルブミン、オボムコイド、リゾチーム、オボトランスフェリンなどの蛋白質。その中で、オボムコイドは最もアレルゲン活性が強く、鶏卵アレルギー患者のほとんどがオボムコイドに対する特異的IgE抗体を保有している。経口摂取したオボムコイドは、患者の持つオボムコイド特異的IgE抗体と結合することでアレルギー症状を引き起こす。
現行のオボムコイド特異的IgE抗体価測定検査では、抗体価が非常に高い場合は鶏卵アレルギーをある程度の確率で予測できるものの、抗体価が17.5UA/mL未満などの低値だと、食物経口負荷試験でアレルギー症状の出現を確かめなければならない。
木戸氏らは、高密度集積カルボキシル化プロテイン(DCP)チップを用いて特異的IgE抗体の抗原親和性を測定する技術を世界で初めて開発し、応用研究を実施している。特異的IgE抗体の抗原親和性とは、IgE抗体がアレルゲンと結合する能力のこと。今回、共同研究グループは鶏卵アレルギーの診断精度の向上を目指して、IgE抗体価の低い小児において鶏卵アレルギーの発症とオボムコイド特異的IgE抗体の抗原親和性との関連を調べた。
◆ IgE抗体の"量"と"質"がアレルギー発症に関連
対象は、国立成育医療研究センターにおいて2013年11月〜19年1月に加熱卵白の経口負荷試験を行った2〜3歳の幼児のうち、試験開始前4カ月以内に血液検査を行い、オボムコイド特異的IgE抗体価が低値(0.7〜17.5UA/mL)を示した59例。オボムコイド特異的IgE抗体の抗原親和性については、保存していた血液を患児家族の同意を得て使用し、徳島大学先端酵素学研究所でDCP法により測定した。
その結果、食物経口負荷試験でアレルギー症状が出現した児は出現しなかった児に比べて、IgE抗体の抗原親和性が高いことが分かった。すなわち、鶏卵アレルギーの発症には、血中のIgE抗体の"量"(IgE抗体価)と"質"(IgE抗体の抗原親和性)の2つが関連していることが明らかになった。
また、IgE抗体価およびIgE抗体の抗原親和性を検査することで、食物経口負荷試験とほぼ同じ精度でアレルギーを診断できることも発見した。
◆ より安全な診断が可能に
今回の結果から、研究グループは「食物経口負荷試験は実際にアレルギー物質を体内に入れることからアナフィラキシーを引き起こす可能性があるが、血中のIgE抗体の"量"と"質"を組み合わせた検査ではそうした心配はない」と結論。その上で、「本研究がさらに進み、この検査法が一般診療で利用できるようになれば、食物アレルギー診断がより安全に実施可能になる」と期待を示した。