小児アレルギー科医の視線

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その小児の急性中耳炎に抗菌薬(抗生物質)は必要ですか?

2019年10月06日 16時29分30秒 | 感染症
 私は小児科医ですが、必要に迫られて中耳炎の診療もしています。
 多くは、風邪を引いて何日か経過後、熱が続き、かつ耳が痛いと訴える子どもたちです。
 私の方針は・・・・

 耳の中を耳鏡で観察し、
・鼓膜が赤い(充血)
・腫れている(膨隆)
・膿が溜まっている(混濁)
 の3つの所見が揃うと抗菌薬(=抗生物質)を処方しています。
 揃わないときは解熱鎮痛剤で様子観察します。
 治療薬はペニシリン系抗菌薬です。5日間服用していただきます。
 服用終了後に治癒確認目的で再度来院を指示します。
 風邪は症状が良くなれば結果オーライですが、中耳炎は所見が消えることを確認する必要があります。
 なぜかというと、膿が溜まっている状態が続く(慢性中耳炎)と、聴力低下のリスクがあるからです。
 数週間後も所見が消えない場合や、中耳炎を反復してもともと耳鼻科に通っている患者さんは、治癒確認もそちらでしてもらうよう指示しています。

 さて、私の治療法は、日本耳鼻科学会から出ている中耳炎診療ガイドラインに合っているのでしょうか。

 小児の急性中耳炎に抗菌薬が必要かどうか問う記事を見つけました。
 自分の診療を振り返り、必要があれば修正する目的で読んでみました。

小児の急性中耳炎に抗菌薬を出しますか?
2019/10/3:日経メディカル
有吉 平(山口大学大学院医学系研究科小児科学講座)

症例:
 3歳男児。数日前から咳嗽、鼻汁があり、昨日から発熱したとのことで小児科外来を受診。
 体温は38.0℃で咳嗽、鼻汁があった。耳痛はなかったが、母親から「最近よく耳を触るんです。中耳炎がないか心配です」と言われたため鼓膜を観察した。すると右の鼓膜が、腫れてはいないものの全体的に発赤していた。右急性中耳炎と診断したが、抗菌薬を処方する必要はあるだろうか……?

 小児の急性中耳炎への抗菌薬投与に対して、Choosing Wiselyでは以下の推奨が示されている。

<推奨>2~12歳の重症感のない急性中耳炎に対して、経過観察が適切であれば、ルーチンの抗菌薬投与は行わない(米国家庭医学会)

◆推奨の根拠となった主な論文
Lieberthal AS, et al. The Diagnosis and Management of Acute Otitis Media. Pediatrics. 2013; 131: e964-99.

◎「重症感のない中耳炎」とは、48時間以内の軽度の耳痛や、体温が39℃未満の中耳炎を指す。
◎ 最初から抗菌薬を投与すれば、早期の症状緩和や中耳炎の治癒率向上に、わずかに寄与する可能性がある。一方で、下痢や発疹、アレルギー反応などの副作用や耐性菌の原因となる。
◎ 最初に経過観察することで、抗菌薬の使用量を減らし、副作用や耐性菌を減らすことにつながる。また、治療が遅れたとしても、患者が受ける不利益はわずかである。
◎ 経過観察する場合、発症48~72時間以内に症状の増悪がないか確認する。

解説:経過観察で済むに越したことはない。しかし…

 小児において急性中耳炎はありふれた疾患で、特に保育園に入園したての児ではよくみかける。従来は経口抗菌薬の投与で速やかに治癒する疾患と考えられてきた。しかし、本邦では近年、薬剤耐性菌による難治化が問題となり、抗菌薬の適正使用が重要視されるようになった。
 推奨の根拠となった論文(米国小児科学会の2013年の急性中耳炎診療ガイドライン)によると、急性中耳炎の診断は鼓膜所見と耳痛、耳漏の有無によってなされる。重症度は耳痛の強さと持続時間、39℃以上の発熱の有無で判定し、それに年齢と両側性か否かを考慮し、無治療で経過観察可能かを判定する(表1)。


表1 急性中耳炎が経過観察可能かの判定基準
(Pediatrics 2013; 131: e964-99.を参考に筆者作成)

 本邦の「小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版」でも、軽症例に限って3日間は抗菌薬の投与は行わず、自然経過を観察することが推奨されている。当ガイドラインでは以下の通り、鼓膜所見と臨床症状によってスコアリングして重症度を判定している(表2)。米国のガイドラインと細かな点は異なっているが、年齢と症状、鼓膜所見で抗菌薬の適応を決定するという点では一致しており、冒頭の症例の場合、いずれのガイドラインに照らし合わせても経過観察可能と判断される。


表2 重症度スコア
(「小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版」[p37]を改変し引用)
軽症:5点以下、中等症:6~11点、重症:12点以上

 ただし、Choosing Wiselyの推奨でも「ルーチンの抗菌薬投与は行わない」と言うにとどまっているように、経過観察はその後の臨床所見の評価が可能であることが前提である。もちろん、感冒と同様に不必要な抗菌薬投与は行うべきではなく、経過観察の重要性を患者に説明することは重要である。しかし、Choosing Wiselyの理念は医療者と患者が対話を通じて、患者にとって真に必要で、かつ副作用の少ない医療の「賢明な選択」を目指すことである。患者にも様々な背景や事情があることを考慮し、医療者が一方的に方針を押し付けることがないよう肝に銘じておくべきである。


 この記事の内容を吟味してみます。
 まず、中耳炎の診断は、
① 鼓膜所見
② 耳痛
③ 耳漏
 の有無で判定される、とあります。

 あれ? 
「耳漏」のところには、以前は「鼓膜混濁」があったはずなのに、いつの間にか入れ替えられていることに気づきました。

 次に重症度は、
① 耳痛の強さと持続時間
② 39℃以上の発熱
 の有無で判定し、それに
④ 年齢
⑤ 両側性か否か
 を考慮、とあります。
 これらを表のスコアで加算していき、その数字で重症度判定をします。

 では、シミュレーションをしてみましょう。

(症例1)1歳男児
(主訴)咳/鼻水、発熱(38.2℃)、右耳痛
(経過)約1週間前に咳と鼻水がはじまり、数日後に熱が出て、さらにその数日後(昨日)に右耳痛を訴えるようになり、夜間ぐずっていたので来院。診察時は耳痛はなさそうでケロッとしている。
(鼓膜所見)右鼓膜全体が発赤・一部膨隆・混濁している(耳漏はない)


 診断は明白です。
 重症度は、
・非持続性耳痛(1)
・発熱(1)
・不機嫌(1)
・鼓膜全体発赤(4)
・鼓膜膨隆(4)
・耳漏なし(0)
・年齢(3)
 合計14点で「重症」という評価になります。

 これを「経過観察可能かどうか」の表に当てはめると・・・
・重症
・年齢:生後6ヶ月〜23ヶ月
・罹患側:片側
→ 抗菌薬治療の適応

 となります。
 というわけで、私がふだんよく診るタイプの乳児中耳炎は抗菌薬が必要であると再確認できました。

 ここで気づいたのですが、鼓膜全体が膨隆していると8点、とハイスコアに設定されているのですね。
 鼓膜膨隆は重症所見のポイント、と覚えておきます。
 まあ、中耳炎の時の耳の痛みは、鼓膜がパンパンに張って痛いからですから、当たり前と言えば当たり前。

 もう1パターン提示してみます。
 私が「鼓膜炎レベルで中耳炎まで進んでないから、抗菌薬は不必要。解熱陣痛剤で様子観察し、良くならなかったらまた来てね」と説明している患者さんタイプ。

(症例2)3歳女児
(主訴)咳/鼻水、発熱(38.2℃)、右耳痛
(経過)約1週間前に咳と鼻水がはじまり、数日後に熱が出て、さらにその数日後(昨日)に右耳痛を訴えるようになり、夜間ぐずっていたので来院。診察時は耳痛はなさそうでケロッとしている。
(鼓膜所見)右鼓膜の一部が発赤・膨隆なし・混濁なし(耳漏もない)


 重症度は、
・非持続性耳痛(1)
・発熱(1)
・不機嫌(1)
・鼓膜一部発赤(2)
・鼓膜膨隆なし(0)
・耳漏なし(0)
・年齢(0)
→ 合計5点:軽症

 「経過観察可能かどうか」では、
・重症ではない
・年齢:生後24ヶ月以上
・罹患側:片側
→ 抗菌薬なしで経過観察可能

 はい、こちらも私の方針が間違っていないと再確認できました。


<参考>
乳幼児のかぜ診療で失敗しないコツ
2018/7/25:日経メディカル
日馬 由貴(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター)
・・・・・
◇ 急性中耳炎など細菌性の合併症に注意
 乳幼児では気道感染症自体は細菌が原因となることは少ないものの、気道感染症に伴う細菌性合併症は高頻度に発生する。乳幼児期に頻度の高いかぜの細菌性合併症は急性中耳炎であり、特に生後6カ月~12カ月で最も頻度が高い5)。そのため、子どものかぜに対して、ルーチンに鼓膜診察を行う小児科医は多い。
 日本耳科学会、日本小児耳鼻咽喉科学会、日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会による「小児急性中耳炎ガイドライン2018」は、ガイドラインの使用者を耳鼻咽喉科医だけでなく、小児急性中耳炎の診療に携わる全ての医師に広げている。また、ガイドラインの重症度スコアリングでは、「2歳未満」のスコアが重くなっている。重症度スコアリングで軽症の場合は抗菌薬非投与で経過観察を行うが、中等症、重症の場合には抗菌薬投与を推奨する 6)。
 米国小児科学会では、2歳未満の急性中耳炎は重症化、遷延化しやすいため、両側性の場合には重症度に関係なく、片側性の場合には重症の場合に抗菌薬投与を推奨している 7)。中耳炎が遷延すると、慢性化したり、海面静脈血栓症や脳膿瘍などの引き金となる乳突洞炎を生じたりするため、常に中耳炎を見逃さない心づもりが大切である。
 細菌性副鼻腔炎も乳幼児に起こり得る細菌性の合併症である。結合型肺炎球菌ワクチンが導入される前の疫学研究では、1~5歳児のかぜの9%程度が合併していた8)。データはないが、この頻度は肺炎球菌ワクチンの導入で減少している可能性がある。米国小児科学会はかぜ症状が10日を超えて改善しない場合、症状が悪化する場合、症状が重篤な場合に副鼻腔炎と診断するよう推奨している。また、偽陽性となることが多いことから、画像診断は通常、行わないこととしている 9)。これは日本のガイドラインにおいても同様で、日本では鼻漏、不機嫌・湿性咳嗽、鼻汁・後鼻漏の所見から判断する独自の重症度判定のスコアリングシステムが用いられている 10)。

【参考資料】
・・・・・
5) Kaur R et al. Pediatrics. 2017;140(3).
6) 日本耳科学会・日本小児耳鼻咽喉科学会・日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会. 小児急性中耳炎ガイドライン2018年版. 金原出版; 2018
7) Lieberthal AS et al. Pediatrics. 2013;131:e964-e99.
8) Aitken M et al. Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine. 1998;152:244-8.
9) Wald ER et al. Pediatrics. 2013.132:e262-80.
10) 日本鼻科学会. 急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010年版.(Accessed on 17th July 2018)


 中耳炎は鼓膜所見で診断可能ですが、副鼻腔炎(=蓄膿症)の診断はポイントとなる所見がありません。このため、症状から疑い診療することになります。
 アメリカでは「米国小児科学会はかぜ症状が10日を超えて改善しない場合、症状が悪化する場合、症状が重篤な場合に副鼻腔炎と診断」、日本では「鼻漏、不機嫌・湿性咳嗽、鼻汁・後鼻漏の所見から判断する独自の重症度判定のスコアリングシステム」を使用するよう推奨されています。
 私は、風邪を引くと副鼻腔炎になりやすい小児には漢方薬を併用しています。鼻の奥にたまる鼻汁を減らし、症状を軽減し、中耳炎・副鼻腔炎の予防になります。長期に耳鼻科で抗菌薬を使用している患者さんも半分位の確率で改善します。
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