現在、アトピー性皮膚炎の軟膏治療はステロイドとタクロリムス(商品名:プロトピック軟膏)の二本柱です。
プロトピック軟膏は、ステロイド軟膏で心配になるような副作用がありません。
プロトピック軟膏が登場した際、「アトピー性皮膚炎患者の人生を変える薬」と高く評価されましたが、
動物実験で皮膚がんの発生の報告があり、かつ実臨床でも「リンパ腫」という皮膚がんの症例報告がされたため、
患者さんに処方する際には「癌化の報告例がある」ことの説明を義務づけられ、かつ使用量の制限も盛り込まれました。
そのため、プロトピックだけで治療することができないというジレンマが発生しています。
しかしこれは日本のみのルールで、諸外国ではそのような義務づけはありません。
動物実験では人体では考えられないほど血中濃度を上げたことと、
人の症例報告も非常にまれであり、自然発生と頻度に差がないため、
「制限の必要なし」と判断されたのです。
この事実を持ってしても、日本の厚生労働省のスタンスは変わりません。
「一度決めたことを変更できない」日本の因習がハードルになっています。
さて、私の専門である小児科領域では2歳以降に使用が許可されています。
前述の通り全身に使用することはできませんので、適応としては、
「2歳以降で顔面アトピー性皮膚炎の難治例」
となりますか。
私は主に乳児のアトピー性皮膚炎を診療していますが、目の周りの湿疹はやっかいです。
ステロイド軟膏を使う場合、皮膚の副作用以外に目への副作用も考慮する必要があります。
眼圧が上がる緑内障のリスクがあるのですね。
明らかなデータは見当たらないのですが、「連続使用は1〜2週間にとどめる」のが通例。
しかし、ステロイド軟膏使用を躊躇して目を掻き続けると、今度は白内障のリスクが上がります。
高齢者の白内障ではなく、物理的刺激による外傷性白内障という病気です。
こんな現状の中、以下のニュースが目に留まりました;
(2020.5.27:ケアネット)
長期安全性を前向きに検討した「APPLES試験」から、米国・ノースウェスタン大学のAmy S. Paller氏らによる、タクロリムス外用薬を6週間以上使用したAD児におけるその後10年間のがん罹患率のデータが示された。観察されたがん罹患率は、年齢・性別等を適合した一般集団で予想された割合の範囲内のものであり、著者は「タクロリムス外用薬がAD児の長期がんリスクを増大するとの仮定を支持するエビデンスは見いだされなかった」と報告している。
<原著論文>
・Paller AS, et al. J Am Acad Dermatol. 2020 Apr 1. [Epub ahead of print]
医学論文なので表現が回りくどいけど、単純に「プロトピックを使ってもガンは増えなかった」との結論です。
このような報告を積み重ね、いずれプロトピックの使用制限が解除されることを切に願います。