食物アレルギーに関して、重要な総説の解説記事を見つけました。
抜粋・引用させていただきます。
■ アナフィラキシー死亡の最大原因はエピネフリン投与の遅延である!!
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正
(2017年10月20日:メディカル・トリビューン)
N Engl J Med (2017; 377: 1168-1176)に食物アレルギーの総説(Clinical Practice)がありました。この1、2年でLEAP studyという、ピーナツアレルギー治療のランダム化比較試験(RCT)が完了し、大変大きなブレイクスルー(breakthrough)が起こりました。大興奮の世界最新の食物アレルギー総説です!
最重要点は下記6点です。
・ピーナツを生後4~6カ月で摂取すると免疫寛容が起こる!
・アナフィラキシー死亡の最大の原因はエピネフリン投与の遅延である!!
・死亡しやすいのは青年のピーナツ、ナッツ類、魚、甲殻類アレルギー、喘息の存在!
・運動、ウイルス感染、生理、情動ストレス、アルコール摂取でアレルギー閾値が下がる!
・アナフィラキシーで20%は蕁麻疹を欠く!
・アナフィラキシーは二相反応あり4~24時間観察せよ!
1.ピーナツを生後4~6カ月で開始すると免疫寛容が起こる!
今まで、食物アレルギーは厳密なアレルゲン回避が常識でした。ところが、ピーナツアレルギーに対しては、生後4~6カ月でピーナツを投与することで免疫寛容が起こるらしいのです。免疫寛容が発達するにはどうやら window period(限られた期間)があるらしく、生後4~6カ月の間が最適なようなのです。これを外れるとうまくいかないようです。
食物アレルギーで最も致命的になりやすいのが、ピーナツ、ナッツ類、魚、甲殻類(shell fish:エビ、カニ)です。LEAP (Learning Early About Peanut Allergy) studyは「ピーナッツを幼児早期から摂取すればアレルギーを起こさないかも」という仮説を検証したものです(関連記事:乳幼児期の抗原摂取でピーナツアレルギー発症リスクが低下)。
生後4~11カ月の640人の重症アトピー、卵アレルギー、または両者を持つ小児640人をランダムにピーナツ摂取群と非摂取群に分けて5歳までフォローしたのです。ピーナツ摂取群は生後4~11カ月の幼児に最低週3回ピーナツを摂取させました。驚くべきことに、5歳時点でのピーナツアレルギーは、ピーナツ摂取群1.9%、ピーナッツ非摂取群で13.7%でした! 生後11カ月以内のピーナツ摂取はピーナッツアレルギー予防に極めて効果的であることが分かったのです。
これらの結果から新ガイドラインでは、ピーナツ摂取を最初の4~6カ月に開始することを推奨することになりました(関連記事:ピーナツアレルギー予防に指針、NIH)。生後4~6カ月というとまだミルクを飲んでおり、そろそろ離乳食が始まるかもという時期です。
LEAP studyの重大な発見からピーナツアレルギーに対しては患者を次の3つのカテゴリーに分類することが考えられています。
① 重症患者:重症の湿疹、卵アレルギーまたは両者がある幼児(infants)。アレルゲンテストを行い、ピーナッツを生後4~6カ月で開始する
② 中等度患者:ピーナツを生後6カ月で開始
③ 湿疹や食物アレルギーのない患者:ピーナツは随意に開始
日本国内の「食物アレルギーの診療の手引き2014」(厚生労働省、外部リンク参照)には以上のことはまだ一言も書かれていません。
2.アナフィラキシー死亡の最大の原因はエピネフリン投与の遅延である!!
また、この総説で何よりも強調されているのはアナフィラキシー時の即座のエピネフリン筋注です。アナフィラキシーの死亡例はエピネフリン投与遅延によることが最も多いというのです。またエピネフリンの半減期は数分ですから再投与も必要なことがあります。
食物アレルギーがあるのにエピネフリンのautoinjector (エピペン)が処方されていない例が多過ぎるというのです。抗ヒスタミン薬、β刺激薬、ステロイドはあくまでも補助薬にすぎません。西伊豆健育会病院では、救急室にはアナフィラキシーセットとして、アドレナリン(商品名:ボスミン筋注)の後、d-クロルフェニラミン(ポララミン)5mg、ヒドロコルチゾン(サクシゾン)100mg、ファモチジン(ガスター)20mg、生理食塩水50mLをひとまとめにして透明袋に入れてあります。
喘息の存在は食物による「致死的」アナフィラキシーの大きなリスク因子です。
エピペンといえば20年くらい前、森林組合の方が、蜂アレルギーでエピペンがほしいと外来に来られました。その当時、営林署勤務で蜂アレルギーの人にはエピペンが配られていました。同じ林業といっても営林署は国家公務員、森林組合は民間業者です。労働条件も随分差があり、営林署ではチェーンソーの使用は振動病(長期の使用で手指のレイノーなどを起こす)予防のため、1日2時間以内に抑えられていましたが、森林組合では5、6時間の使用は当たり前でした。
小生、それまでエピペンは知らなかったのですが、この一件で使用申請をして、当院が静岡県の病院でエピペン許可第1号になりました。ただこの総説によると、autoinjector以外に他の選択肢(舌下、吸入など)があるのか、追加注射の必要性、肥満または痩せた患者に対する針の長さ、患者に何本まで処方すれば良いのか、などは分かっていないとのことです。
驚くのはエピペンの高価なことです。ボスミンは1アンプル(1mg/mL)で92円(2017年現在)ですが、エピペンは小児用0.15mgが7,979円、成人用0.3mgが1万894円もします。ほとんど容器代なのでしょう。皆様が処方して需要が広がれば安くなっていくでしょう。
3.死亡しやすいのは青年のピーナツ、ナッツ類、魚、甲殻類アレルギー、喘息の存在!
下記は致死的アナフィラキシーに至りやすいリスク群です。喘息の存在は死因の最大リスクの1つなのです。年齢的には幼児よりも思春期から若年成人が危険であり、特に死亡に至りやすいのはピーナツ、ナッツ類、魚、甲殻類(エビ、カニ)です。
またこのリスク因子で注意すべきは「皮膚症状の欠落はアナフィラキシー死亡のリスク」になることです! 食物によるアナフィラキシーで蕁麻疹や発赤、皮膚の痒みのない者が20%くらいいます。アレルゲン曝露後、突然血圧の低下があっても、蕁麻疹などがないと訳が分からずアナフィラキシーの診断が遅れてしまうのです。
【致死的アナフィラキシーに至るリスク】
【最大リスク】
・エピネフリン投与の遅延!!
・ピーナツ、ナッツ類、魚、甲殻類(エビ・カニ)アレルギー!!
・思春期から若年成人!!
・喘息の存在!!
【その他のリスク因子】
・中年以上で心血管疾患の存在
・妊婦
・皮膚症状の欠落!!
【食物アレルギー悪化のその他の因子】
・喘息
・慢性肺疾患
・全身性mastocytosis
・β遮断薬、ACE阻害薬、α遮断薬の使用
4.運動、ウイルス感染、生理、情動ストレス、アルコール摂取でアレルギー閾値が下がる!
また、「へー」と驚いたのは、アレルギーの閾値を下げる因子が幾つかあるというのです。すなわち「運動、ウイルス感染、生理、情動ストレス、アルコール摂取」です。このような因子があった上でアレルゲンに曝露されると、アナフィラキシーが起こりやすいというのです。うーん、「運動、ウイルス感染、生理、情動ストレス、アルコール摂取」かあ。肝に銘じなければなりません。
"Food dependent excersise induced anaphylaxis"といって、食事だけならなんともないけど運動が加わってアナフィラキシーが起こることがあります。
なお、さまざまな食物アレルギーが自然寛解するかどうかですが、N Engl J Med 2008; 359: 1252-1260の総説Food Allergy (Clinical Practice)に一覧表がありました。
大変役に立つと思いましたので、以下に載せます。牛乳、卵、小麦、大豆は自然に改善することが多いようです。下記の一覧表をよくよく見ると、歳を取っても改善しない(grow outしない)ものが致死的アナフィラキシーを起こすことに気が付きます。
【さまざまな食物アレルギーの自然歴、交差反応、予後】
なお、ピーナツとtree nutsは、同じナッツとはいっても全く別の種類です。Tree nutsにはアーモンド、 ブラジルナッツ、カシューナッツ、チェストナッツ(クリ)、ヘーゼルナッツ、マカデミアナッツ、ピスタチオ、パインナッツ、シーナッツ、ワルナッツ(クルミ)などがあります。
また、上記一覧表には蕎麦が出てきません。蕎麦って日本だけのものなんだろうかと調べてみました。蕎麦はもともと中国南部の原産らしく、日本には奈良時代以前に入ったようです。イタリアではピッツオケリ(蕎麦のパスタ、日本の二八蕎麦とほぼ同じ)、シャット(蕎麦粉の生地でチーズを包んで揚げる)、スロベニアのクラクフカーシャ(蕎麦の実のおじや)、フランスのガレット(蕎麦のクレープ)、ロシアのブリヌイ(パンケーキ)、朝鮮の冷麺(蕎麦粉を原料とすることがある)など一応、郷土料理でいろいろあるようです。
5.アナフィラキシーで20%は蕁麻疹を欠く!
食物アレルギーの症状は下記4つですが、全てそろうわけではありません。アナフィラキシーで蕁麻疹、痒みは最も多いのですが、20%ではこれを欠き呼吸器、消化器症状のみ出るのです。大変重要なポイントです。
【食物アレルギーの症状】
① 皮膚症状:蕁麻疹、発赤、痒み、舌・口唇・口蓋垂腫脹
② 呼吸器:呼吸困難、喘鳴、ストライダー
③ 消化器症状:腹痛、嘔吐
④ 血圧低下:失神、失禁
患者を見たとき、果たしてアナフィラキシーを起こしているのかどうか、診断基準があります。Criterion 1は蕁麻疹があるとき、Criterion 2は蕁麻疹が必ずしもないもの、Criterion 3は血圧低下のみで診断に迷う最もやばいものです。
【アナフィラキシーの診断クライテリア】
以下の3つのクライテリアのどれかに当てはまればアナフィラキシーの可能性が高い。
【Criterion 1】
アレルゲン接触数分から数時間で皮膚、粘膜、または両者の症状(蕁麻疹、発赤、痒み、口唇・舌・口蓋垂腫脹)があり、かつ次のうち1つの症状がある。
・呼吸器症状(呼吸困難、喘鳴、stridor、PEF減少、低酸素血症)
・血圧低下またはend-organ dysfunctionの症状(失神、失禁、hypotonia、collapse)
【Criterion 2】
アレルゲン接触数分から数時間で下記の2つ以上の症状がある。
・皮膚または粘膜症状(蕁麻疹、発赤、痒み、口唇・舌・口蓋垂の腫脹)
・呼吸器症状(呼吸困難、喘鳴、気管支攣縮、stridor、PEF低下、低酸素血症)
・血圧低下またはそれに伴う症状(hypotonia、collapse、失神、失禁)
・消化管症状の持続(腹部疝痛、嘔吐)
【Criterion 3】
アレルゲン接触数分から数時間で血圧低下。
・幼児、小児:その年齢平均より血圧が低いか、収縮期血圧の30%以上の低下
・成人:収縮期血圧90mmHg未満または普段の血圧より30%低下
6.アナフィラキシーは二相反応が4~24時間で起こる!
アナフィラキシーの治療で、エピネフリン筋注は死亡回避に最も有効ですが、その半減期は数分ですからしばしば2本目が必要です。エピネフリンは致死性アナフィラキシーに最も有効であるにもかかわらず医療機関で処方されることが少なく、抗ヒスタミン薬が優先されていると、この著者は嘆いています。
「抗ヒスタミン薬、ステロイド、吸入β刺激薬はあくまでも補助薬にすぎない!」ことを肝に銘じて下さい!「食物アレルギーによる死亡の最も大きな原因はエピネフリン筋注をしないこと」なのです!
また食物アレルギーによるアナフィラキシーでは、10~15%でbiphasic reaction(二相反応)が4~24時間後に起こりますので、重症の場合、4~6時間以上は観察が必要です。これは経口で腸管に入った食物が腸管で吸収されて再度アレルギー反応を起こすものです。まあ、1日は入院させた方が無難でしょう。
食物アレルギーの普段の注意としては、標準治療はアレルゲンの回避です。牛乳、卵は火を通せば安全なこともありますが、food challengeで確認が必要です。
この総説によると、food challengeはoutgrowしたかどうかの確認に使われることが多いとのことです。
なお、調理した卵に対する免疫寛容は生卵より前に起こるとのことです( N Engl J Med 2008; 359: 1252-1260)。ですから、調理卵でアレルギーが起こらなくても生卵でアナフィラキシーが起こる可能性はあります。
患者教育としては必ず食物の成分表示ラベルを読ませます。またMedical-allert Jewelryってのがあります。アレルギーである旨を書いたブレスレットをいつも身に着けるのです。外部リンクに「蜂アレルギーでエピペンを使ってくれ」と書いたブレスレットを示しました。
食物アレルギーの予防療法としてはアレルゲンの皮下注射がありますが、無論アナフィラキシーの危険があります。その他に、経口、舌下、表皮(epicutaneous)投与の3つあり、皮下注よりはるかに安全ですがまだ実験的段階です。
なお言葉の定義として下記3つの違いに注意して下さい。
【言葉の定義】
・Desensitization(脱感作):食物アレルギーの閾値を上げる。数カ月の治療を要する。
・Sustained unresponsiveness:予防治療終了後も無反応が維持される。年余かかる。
・Oral tolerance:生後間もなく自然に起こるもの。現在のデータでは「真の免疫寛容」は起こらない。
免疫療法は、皮下投与以外に次の3つの方法がありますがまだ実験段階です。
① 経口免疫療法
アレルゲンの粉を食事に混ぜるもので、効果は大きいのですが、アナフィラキシー、eosinophilic esophagitis(5%未満)、胃腸症状を起こすことがあります。経口免疫療法は食物アレルギーに比し季節性アレルギーでは有効率が低いのだそうです。ウイルス感染、生理があったりアレルゲン摂取後2分~2時間で運動する場合はアレルゲン量を減らすことがしばしば必要です。経口療法初期にオマリズマブ(ゾレア、75mg注2万3,128円、150mg注4万5,578円)使用は副作用低減に有用ですが最終的に大きな利点があるかは不明です。
② 舌下免疫療法(Sublingual Immunotherapy)
主にピーナツアレルギーに対して評価されましたが、アレルゲンを毎日舌下に年余投与、1年ほどで多くで脱感作、中等度免疫変容に至るそうです。ただ長期のsustained unresponsivenessに至るかは不明です。副作用は少なく口腔咽頭の痒み、チクチク(tingling)する程度です。
③ 表皮免疫療法(Epicutaneous Immunotherapy)
ピーナツ、牛乳アレルギーで試され、背中や上腕に24時間ごとに貼り付け数年継続します。効果は小さい(modest)ですが副作用も少ないようです。副作用はパッチ部の皮膚刺激程度で全身反応はありません。
抜粋・引用させていただきます。
■ アナフィラキシー死亡の最大原因はエピネフリン投与の遅延である!!
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正
(2017年10月20日:メディカル・トリビューン)
N Engl J Med (2017; 377: 1168-1176)に食物アレルギーの総説(Clinical Practice)がありました。この1、2年でLEAP studyという、ピーナツアレルギー治療のランダム化比較試験(RCT)が完了し、大変大きなブレイクスルー(breakthrough)が起こりました。大興奮の世界最新の食物アレルギー総説です!
最重要点は下記6点です。
・ピーナツを生後4~6カ月で摂取すると免疫寛容が起こる!
・アナフィラキシー死亡の最大の原因はエピネフリン投与の遅延である!!
・死亡しやすいのは青年のピーナツ、ナッツ類、魚、甲殻類アレルギー、喘息の存在!
・運動、ウイルス感染、生理、情動ストレス、アルコール摂取でアレルギー閾値が下がる!
・アナフィラキシーで20%は蕁麻疹を欠く!
・アナフィラキシーは二相反応あり4~24時間観察せよ!
1.ピーナツを生後4~6カ月で開始すると免疫寛容が起こる!
今まで、食物アレルギーは厳密なアレルゲン回避が常識でした。ところが、ピーナツアレルギーに対しては、生後4~6カ月でピーナツを投与することで免疫寛容が起こるらしいのです。免疫寛容が発達するにはどうやら window period(限られた期間)があるらしく、生後4~6カ月の間が最適なようなのです。これを外れるとうまくいかないようです。
食物アレルギーで最も致命的になりやすいのが、ピーナツ、ナッツ類、魚、甲殻類(shell fish:エビ、カニ)です。LEAP (Learning Early About Peanut Allergy) studyは「ピーナッツを幼児早期から摂取すればアレルギーを起こさないかも」という仮説を検証したものです(関連記事:乳幼児期の抗原摂取でピーナツアレルギー発症リスクが低下)。
生後4~11カ月の640人の重症アトピー、卵アレルギー、または両者を持つ小児640人をランダムにピーナツ摂取群と非摂取群に分けて5歳までフォローしたのです。ピーナツ摂取群は生後4~11カ月の幼児に最低週3回ピーナツを摂取させました。驚くべきことに、5歳時点でのピーナツアレルギーは、ピーナツ摂取群1.9%、ピーナッツ非摂取群で13.7%でした! 生後11カ月以内のピーナツ摂取はピーナッツアレルギー予防に極めて効果的であることが分かったのです。
これらの結果から新ガイドラインでは、ピーナツ摂取を最初の4~6カ月に開始することを推奨することになりました(関連記事:ピーナツアレルギー予防に指針、NIH)。生後4~6カ月というとまだミルクを飲んでおり、そろそろ離乳食が始まるかもという時期です。
LEAP studyの重大な発見からピーナツアレルギーに対しては患者を次の3つのカテゴリーに分類することが考えられています。
① 重症患者:重症の湿疹、卵アレルギーまたは両者がある幼児(infants)。アレルゲンテストを行い、ピーナッツを生後4~6カ月で開始する
② 中等度患者:ピーナツを生後6カ月で開始
③ 湿疹や食物アレルギーのない患者:ピーナツは随意に開始
日本国内の「食物アレルギーの診療の手引き2014」(厚生労働省、外部リンク参照)には以上のことはまだ一言も書かれていません。
2.アナフィラキシー死亡の最大の原因はエピネフリン投与の遅延である!!
また、この総説で何よりも強調されているのはアナフィラキシー時の即座のエピネフリン筋注です。アナフィラキシーの死亡例はエピネフリン投与遅延によることが最も多いというのです。またエピネフリンの半減期は数分ですから再投与も必要なことがあります。
食物アレルギーがあるのにエピネフリンのautoinjector (エピペン)が処方されていない例が多過ぎるというのです。抗ヒスタミン薬、β刺激薬、ステロイドはあくまでも補助薬にすぎません。西伊豆健育会病院では、救急室にはアナフィラキシーセットとして、アドレナリン(商品名:ボスミン筋注)の後、d-クロルフェニラミン(ポララミン)5mg、ヒドロコルチゾン(サクシゾン)100mg、ファモチジン(ガスター)20mg、生理食塩水50mLをひとまとめにして透明袋に入れてあります。
喘息の存在は食物による「致死的」アナフィラキシーの大きなリスク因子です。
エピペンといえば20年くらい前、森林組合の方が、蜂アレルギーでエピペンがほしいと外来に来られました。その当時、営林署勤務で蜂アレルギーの人にはエピペンが配られていました。同じ林業といっても営林署は国家公務員、森林組合は民間業者です。労働条件も随分差があり、営林署ではチェーンソーの使用は振動病(長期の使用で手指のレイノーなどを起こす)予防のため、1日2時間以内に抑えられていましたが、森林組合では5、6時間の使用は当たり前でした。
小生、それまでエピペンは知らなかったのですが、この一件で使用申請をして、当院が静岡県の病院でエピペン許可第1号になりました。ただこの総説によると、autoinjector以外に他の選択肢(舌下、吸入など)があるのか、追加注射の必要性、肥満または痩せた患者に対する針の長さ、患者に何本まで処方すれば良いのか、などは分かっていないとのことです。
驚くのはエピペンの高価なことです。ボスミンは1アンプル(1mg/mL)で92円(2017年現在)ですが、エピペンは小児用0.15mgが7,979円、成人用0.3mgが1万894円もします。ほとんど容器代なのでしょう。皆様が処方して需要が広がれば安くなっていくでしょう。
3.死亡しやすいのは青年のピーナツ、ナッツ類、魚、甲殻類アレルギー、喘息の存在!
下記は致死的アナフィラキシーに至りやすいリスク群です。喘息の存在は死因の最大リスクの1つなのです。年齢的には幼児よりも思春期から若年成人が危険であり、特に死亡に至りやすいのはピーナツ、ナッツ類、魚、甲殻類(エビ、カニ)です。
またこのリスク因子で注意すべきは「皮膚症状の欠落はアナフィラキシー死亡のリスク」になることです! 食物によるアナフィラキシーで蕁麻疹や発赤、皮膚の痒みのない者が20%くらいいます。アレルゲン曝露後、突然血圧の低下があっても、蕁麻疹などがないと訳が分からずアナフィラキシーの診断が遅れてしまうのです。
【致死的アナフィラキシーに至るリスク】
【最大リスク】
・エピネフリン投与の遅延!!
・ピーナツ、ナッツ類、魚、甲殻類(エビ・カニ)アレルギー!!
・思春期から若年成人!!
・喘息の存在!!
【その他のリスク因子】
・中年以上で心血管疾患の存在
・妊婦
・皮膚症状の欠落!!
【食物アレルギー悪化のその他の因子】
・喘息
・慢性肺疾患
・全身性mastocytosis
・β遮断薬、ACE阻害薬、α遮断薬の使用
4.運動、ウイルス感染、生理、情動ストレス、アルコール摂取でアレルギー閾値が下がる!
また、「へー」と驚いたのは、アレルギーの閾値を下げる因子が幾つかあるというのです。すなわち「運動、ウイルス感染、生理、情動ストレス、アルコール摂取」です。このような因子があった上でアレルゲンに曝露されると、アナフィラキシーが起こりやすいというのです。うーん、「運動、ウイルス感染、生理、情動ストレス、アルコール摂取」かあ。肝に銘じなければなりません。
"Food dependent excersise induced anaphylaxis"といって、食事だけならなんともないけど運動が加わってアナフィラキシーが起こることがあります。
なお、さまざまな食物アレルギーが自然寛解するかどうかですが、N Engl J Med 2008; 359: 1252-1260の総説Food Allergy (Clinical Practice)に一覧表がありました。
大変役に立つと思いましたので、以下に載せます。牛乳、卵、小麦、大豆は自然に改善することが多いようです。下記の一覧表をよくよく見ると、歳を取っても改善しない(grow outしない)ものが致死的アナフィラキシーを起こすことに気が付きます。
【さまざまな食物アレルギーの自然歴、交差反応、予後】
なお、ピーナツとtree nutsは、同じナッツとはいっても全く別の種類です。Tree nutsにはアーモンド、 ブラジルナッツ、カシューナッツ、チェストナッツ(クリ)、ヘーゼルナッツ、マカデミアナッツ、ピスタチオ、パインナッツ、シーナッツ、ワルナッツ(クルミ)などがあります。
また、上記一覧表には蕎麦が出てきません。蕎麦って日本だけのものなんだろうかと調べてみました。蕎麦はもともと中国南部の原産らしく、日本には奈良時代以前に入ったようです。イタリアではピッツオケリ(蕎麦のパスタ、日本の二八蕎麦とほぼ同じ)、シャット(蕎麦粉の生地でチーズを包んで揚げる)、スロベニアのクラクフカーシャ(蕎麦の実のおじや)、フランスのガレット(蕎麦のクレープ)、ロシアのブリヌイ(パンケーキ)、朝鮮の冷麺(蕎麦粉を原料とすることがある)など一応、郷土料理でいろいろあるようです。
5.アナフィラキシーで20%は蕁麻疹を欠く!
食物アレルギーの症状は下記4つですが、全てそろうわけではありません。アナフィラキシーで蕁麻疹、痒みは最も多いのですが、20%ではこれを欠き呼吸器、消化器症状のみ出るのです。大変重要なポイントです。
【食物アレルギーの症状】
① 皮膚症状:蕁麻疹、発赤、痒み、舌・口唇・口蓋垂腫脹
② 呼吸器:呼吸困難、喘鳴、ストライダー
③ 消化器症状:腹痛、嘔吐
④ 血圧低下:失神、失禁
患者を見たとき、果たしてアナフィラキシーを起こしているのかどうか、診断基準があります。Criterion 1は蕁麻疹があるとき、Criterion 2は蕁麻疹が必ずしもないもの、Criterion 3は血圧低下のみで診断に迷う最もやばいものです。
【アナフィラキシーの診断クライテリア】
以下の3つのクライテリアのどれかに当てはまればアナフィラキシーの可能性が高い。
【Criterion 1】
アレルゲン接触数分から数時間で皮膚、粘膜、または両者の症状(蕁麻疹、発赤、痒み、口唇・舌・口蓋垂腫脹)があり、かつ次のうち1つの症状がある。
・呼吸器症状(呼吸困難、喘鳴、stridor、PEF減少、低酸素血症)
・血圧低下またはend-organ dysfunctionの症状(失神、失禁、hypotonia、collapse)
【Criterion 2】
アレルゲン接触数分から数時間で下記の2つ以上の症状がある。
・皮膚または粘膜症状(蕁麻疹、発赤、痒み、口唇・舌・口蓋垂の腫脹)
・呼吸器症状(呼吸困難、喘鳴、気管支攣縮、stridor、PEF低下、低酸素血症)
・血圧低下またはそれに伴う症状(hypotonia、collapse、失神、失禁)
・消化管症状の持続(腹部疝痛、嘔吐)
【Criterion 3】
アレルゲン接触数分から数時間で血圧低下。
・幼児、小児:その年齢平均より血圧が低いか、収縮期血圧の30%以上の低下
・成人:収縮期血圧90mmHg未満または普段の血圧より30%低下
6.アナフィラキシーは二相反応が4~24時間で起こる!
アナフィラキシーの治療で、エピネフリン筋注は死亡回避に最も有効ですが、その半減期は数分ですからしばしば2本目が必要です。エピネフリンは致死性アナフィラキシーに最も有効であるにもかかわらず医療機関で処方されることが少なく、抗ヒスタミン薬が優先されていると、この著者は嘆いています。
「抗ヒスタミン薬、ステロイド、吸入β刺激薬はあくまでも補助薬にすぎない!」ことを肝に銘じて下さい!「食物アレルギーによる死亡の最も大きな原因はエピネフリン筋注をしないこと」なのです!
また食物アレルギーによるアナフィラキシーでは、10~15%でbiphasic reaction(二相反応)が4~24時間後に起こりますので、重症の場合、4~6時間以上は観察が必要です。これは経口で腸管に入った食物が腸管で吸収されて再度アレルギー反応を起こすものです。まあ、1日は入院させた方が無難でしょう。
食物アレルギーの普段の注意としては、標準治療はアレルゲンの回避です。牛乳、卵は火を通せば安全なこともありますが、food challengeで確認が必要です。
この総説によると、food challengeはoutgrowしたかどうかの確認に使われることが多いとのことです。
なお、調理した卵に対する免疫寛容は生卵より前に起こるとのことです( N Engl J Med 2008; 359: 1252-1260)。ですから、調理卵でアレルギーが起こらなくても生卵でアナフィラキシーが起こる可能性はあります。
患者教育としては必ず食物の成分表示ラベルを読ませます。またMedical-allert Jewelryってのがあります。アレルギーである旨を書いたブレスレットをいつも身に着けるのです。外部リンクに「蜂アレルギーでエピペンを使ってくれ」と書いたブレスレットを示しました。
食物アレルギーの予防療法としてはアレルゲンの皮下注射がありますが、無論アナフィラキシーの危険があります。その他に、経口、舌下、表皮(epicutaneous)投与の3つあり、皮下注よりはるかに安全ですがまだ実験的段階です。
なお言葉の定義として下記3つの違いに注意して下さい。
【言葉の定義】
・Desensitization(脱感作):食物アレルギーの閾値を上げる。数カ月の治療を要する。
・Sustained unresponsiveness:予防治療終了後も無反応が維持される。年余かかる。
・Oral tolerance:生後間もなく自然に起こるもの。現在のデータでは「真の免疫寛容」は起こらない。
免疫療法は、皮下投与以外に次の3つの方法がありますがまだ実験段階です。
① 経口免疫療法
アレルゲンの粉を食事に混ぜるもので、効果は大きいのですが、アナフィラキシー、eosinophilic esophagitis(5%未満)、胃腸症状を起こすことがあります。経口免疫療法は食物アレルギーに比し季節性アレルギーでは有効率が低いのだそうです。ウイルス感染、生理があったりアレルゲン摂取後2分~2時間で運動する場合はアレルゲン量を減らすことがしばしば必要です。経口療法初期にオマリズマブ(ゾレア、75mg注2万3,128円、150mg注4万5,578円)使用は副作用低減に有用ですが最終的に大きな利点があるかは不明です。
② 舌下免疫療法(Sublingual Immunotherapy)
主にピーナツアレルギーに対して評価されましたが、アレルゲンを毎日舌下に年余投与、1年ほどで多くで脱感作、中等度免疫変容に至るそうです。ただ長期のsustained unresponsivenessに至るかは不明です。副作用は少なく口腔咽頭の痒み、チクチク(tingling)する程度です。
③ 表皮免疫療法(Epicutaneous Immunotherapy)
ピーナツ、牛乳アレルギーで試され、背中や上腕に24時間ごとに貼り付け数年継続します。効果は小さい(modest)ですが副作用も少ないようです。副作用はパッチ部の皮膚刺激程度で全身反応はありません。