この話題、前にも書いたような気がしますが・・・
頭の中を整理する目的で、今一度まとめてみたいと思います。
夜尿症は、日常的に出会う子どもの病気の中で、なかなか治療効果が得られない代表的なものの一つです。
以前はアトピー性皮膚炎もそうでしたが、私自身が近年集中的に診療を追求してなんとか手応えをつかみました。
ではもう一つの難敵である夜尿症も攻略、と意気込んで最近の出版物を何冊か読むことにしました。
まず、読む前の私の知識。
夜尿症は夜間に造られる尿量と膀胱容量とのバランスで決まり、
前者が後者より多ければあふれて夜尿になってしまう。
その病態は以下の3つのタイプに分けられる。
1.多尿型:夜間尿量が多いタイプ
2.膀胱型:膀胱容量が小さいタイプ
3.混合型:1と2の両方の要素があるタイプ
対応・治療は、上記タイプにより異なる。
1.生活指導(夕食後の水分制限)、抗利尿ホルモン製剤(ミニリンメルト®)
2.抗コリン薬(バップフォー®、)、アラーム療法
3.1と2の両方
といったところ。
しかし、夜尿症ガイドラインには、抗利尿ホルモン製剤とアラーム療法の使い分けがあやふやになっています。
ミニリンメルト®を販売している製薬会社に質問したところ、
「多尿型でなくてもミニリンメルト®が有効であるという論文が出たので、尿量・尿浸透圧を気にせずお使いいただけます」
との回答でした。
え?
何十年も常識だったことが、論文一つでひっくり返されていいの?
だって、ミニリンメルト®の添付文書には「尿比重が・・・の場合に使う」と条件も付いているのに。
・・・こんな釈然としない疑問をずっと持っていました。
今回、読んだ文章4つから、問題点が見えてきました。
それは「従来の多尿型・膀胱型という概念と対応する治療にはエビデンスとなるデータがない」という衝撃の事実。
つまり、この説は夜尿症専門家の意見に過ぎなかったのです。
現在は臨床データ(エビデンス)に基づいた医療が求められる時代です。
そのデータの信頼性は以下のピラミッドになぞらえて説明されています。
「専門家の意見」の順位は低く、上から7番目、下から3番目に過ぎません。
おお、無知とは悲しい。
なので、夜尿症ガイドラインを改定する際、
エビデンスのない概念・論説を主軸に解説することができなくなり、
ただ治療法を横並びにするという役立たずのガイドラインに成り下がったという背景です。
まあでも、参考になった部分は多々あるので、メモしておきます:
□ 小児外来:どう診るか、どこまで診るか「14. 夜尿」(大友義之Dr.:順天堂大学練馬病院)
・夜尿症の定義:「5歳以降で1ヶ月に1回以上の夜尿が3ヶ月以上続く状態」
・・・園の年中さんまでは、「夜尿」とは言っても「夜尿症」とは言わないのですね。
・夜尿症の病因:「夜間睡眠中の覚醒障害を基盤として、夜間多尿、および/あるいは、排尿筋過活動による膀胱への蓄尿量の減少」「覚醒障害の原因は、自律神経機能の異常などに起因する睡眠の質の低下による」
・・・近年よく見かけるようになった単語がこの「覚醒障害」です。確かに夜尿症児は「何があっても起きない」とよく耳にします。さらにその覚醒障害は「自律神経機能異常」によるとありますが、ここでアウトですね。自律神経異常に逃げ込んだら来迷宮入り、というのが30年以上小児科医をしてきた私の印象です。
・夜尿症児の2/3以上が夜間多尿
・夜尿症の分類方法は2つ
(その1)
1.一次性(75〜90%)
2.二次性(10〜25%):夜尿が6ヶ月以上にわたって一旦解消していたものが再燃した場合
(その2)
1.単一症候性(75%):夜尿だけ
2.非単一症候性(25%):夜尿以外の症状を伴う
その1でもその2でも、2の場合は背景に別の病気(基礎疾患)が隠れている可能性があるので、それを見逃してはならない、とされています。
・背景の基礎疾患を疑う症状・所見
(昼間の排尿異常)→ 便秘症、泌尿器科的疾患、代謝・内分泌疾患、脊髄疾患、発達障がいなどの可能性
(成長障害)→ -2SD以下では腎疾患の可能性
(仙尾部陥凹)→ 潜在性二分脊椎
・尿比重(起床時第一尿)の評価
<1.010→ 尿崩症の可能性
<1.020→ 就眠中の抗利尿ホルモン分泌不足による夜間多尿の可能性
・治療(単一症候性夜尿症)
(開始年齢)小学1年生が目安
(生活指導)夜間尿量を減らす目的で、
1.夕食は就寝2時間以前に済ませ、それ以降の飲水は極力制限する(10mL/kg未満)
2.就寝前に排尿を済ませる習慣を徹底する
※ 一般に、飲水後約2時間後に尿生成が行われる。
→ この生活指導で、約1割の夜尿が解消する。1ヶ月経過後も改善が見られない場合は次の治療へ。
大友Dr.は「抗利尿ホルモン製剤とアラーム療法が柱で、これらで効果が乏しい場合は他の薬物療法を考慮」というスタンス。
(薬物療法)
1.抗利尿ホルモン薬(デスモプレシン、DDAVP)
夜間多尿(0.9mL/kg/hrあるいは250mL以上)の患児で有効
副作用としての「水中毒」(低Na血症、浮腫、頭痛、けいれん)に厳重注意!←夕方以降の飲水制限を遵守させる必要があり、夜の運動や習い事などで夜間の飲食を制限できない場合は、本剤の使用は困難。
2.抗コリン薬(副交感神経遮断薬)
昼間の尿失禁に有効、デスモプレシンとの併用で夜尿にも有効。
ただし、便秘を誘発するので注意。
3.三環系抗うつ薬
効果は、アナフラニール>トフラニール>トリプタノール
薬理作用は、尿意覚醒促進作用、抗コリン作用、尿量減少作用など。
有効率50%(海外報告)も過量投与により致死的不整脈が報告されており、米国FDAでは使用禁忌扱い。他のすべての治療が無効の際に、心電図検査でQT延長がないことを確認した上で専門医が使用することは可。
(夜尿アラーム療法)
夜間多尿ではない患児に推奨
有効率:65〜70%、中止後の再発率は30〜60%
メカニズムは、覚醒排尿を促すのではなく、膀胱の排尿抑制力を高め膀胱容量を増加させる(まだ学説のレベル)
☆ Prof. Neveusのお言葉;
「家族が患児と一緒に就眠し、アラームが作動した際、自力で起きられなければ、親が起こす」
「開始2週間後に(主治医が)電話を入れるなどして、治療継続の応援と技術的な問題を解決すること」
「6〜8週間継続しても効果が得られなければ、一時中断すべし」
「治療は少なくとも14日間連続して夜尿がないというところまで継続」
・・・アラーム療法は家族の協力がなければできない治療法です。私の患者さんでアラーム療法にトライしたところ「家族全員が寝不足になって親の仕事に支障が出そうなので止めました」との報告がありました。
(アラーム療法の器機)・・・自費で購入
(専門医へ相談するタイミング)
・非単一症候性夜尿症児で昼間尿失禁が続く例
・単一症候性夜尿症では3種類の薬物治療でも抵抗性
・・・近隣、というか群馬県に「夜尿症専門医」は不在です!
■ 特集:小児の夜尿症はいま「1.次の夜尿症が銅鑼イン改訂に期待すること」藤永周一郎Dr.(埼玉県立小児医療センター)
(小児科診療 Vol.73 No.1 2020)
・国際小児尿禁制学会(International Children's Continence Society:ICCS)を参考に定義の標準化と治療アルゴリズムを掲載。
(夜尿症の定義)
① 5歳以上の就寝中の間欠的尿失禁
② 昼間尿失禁などの下部尿路症状(low urinary tract symptoms:LUTS)の有無は問わない
③ 月に1回以上の夜尿が3ヶ月以上持続し、1週間に4日以上を頻回、3日以下を非頻回
・二つの臨床分類とその意義
夜尿症の治療前に基礎疾患や併存疾患の除外診断を行い、存在する場合は先に治療するため。
(臨床分類その1)
① 一次性(75〜90%):夜尿が生来持続し6ヶ月以上の消失時期のない例
② 二次性(10〜25%):6ヶ月以上の消失時期が存在した後に再発(月に1回以上の夜尿)した例。精神的ストレス(保護者の離婚や同胞の誕生など)の存在や、夜尿を引き起こす基礎疾患(糖尿病、尿崩症など)の発症を考慮する必要あり。
(臨床分類その2)
① 単一症候性夜尿症(monosymptomatic nocurnal enuresis:MNE)
② 非単一症候性夜尿症(non-monosymptomatic nocurnal enuresis:NMNE):下部尿路症状(LUTS⇩)を伴う例。併存症(便秘、過活動膀胱、脊髄疾患、ADHDなど)を合併する可能性が高い。
(下部尿路症状 low urinary tract symptoms:LUTS)
① 排尿頻度過多(1日8回以上)または過少(3回未満)
② 昼間尿失禁(daytime incontinence)
③ 尿意切迫(urgency)
④ 遷延性排尿(hesitancy)
⑤ 腹圧排尿(straining)
⑥ 微弱尿線(weak stream)
⑦ 断続尿線(intermittency)
⑧ 尿こらえ姿勢(holding maneuver)
⑨ 残尿感(feeling of incomplete emptying)
⑩ 排尿後のちびり(post-micturition dribble)
⑪ 外性器や下部尿路の疼痛(genital and LUT pain)
・膀胱訓練と抗コリン薬単独治療は推奨しない(エビデンスが乏しいため)。
・三環系抗うつ薬の位置づけが下げられた(重篤な副作用が危惧されるため)。
・薬物療法(デスモプレシンーミニリンメルト®)とアラーム療法の選択基準を明示していない。
※ ICCSのアルゴリズムでは、
① 6歳以上の患児に対して、両者の利点と欠点を説明して家族に選択させる
② 夜間多尿+膀胱容量正常であればデスモプレシン、それ以外にはアラーム療法を提案する
の二本立て。
・患者の病態:
① 膀胱容量正常+夜間多尿例は少ない:3.16%
② 膀胱容量が少ない+夜間多尿なし:>80%
※ 一般的に夜尿症患児の2/3で夜間多尿を認めるとされている。
・・・このデータ、臨床現場の印象と一致します。膀胱容量が少ない(つまり薬物療法が効かない)例がほとんどなので、アラーム療法に誘導せざるを得ない、しかし諸般の事情(とくに家族の大きな負担)でなかなか始められない、というのが現実です。
・デスモプレシン製剤(ミニリンメルト®)の添付文書の記載;
「使用前に観察期を設け、起床時尿を採取し、夜尿翌朝尿浸透圧の平均値が800mOsm/L以下あるいは尿比重の平均値が1.022以下を目安とし、尿浸透圧あるいは尿比重が低下していることを確認すること」
・・・私はずっとこのルールを愚直に守ってきました。が、ミニリンメルト®を製造販売している製薬会社は「尿比重・尿浸透圧がこの数値を満たさなくても有効であるという論文が出たので使っていいですよ」と説明しているのです。私が危惧するのは、ミニリンメルト®の重篤な副作用である「水中毒」です。安易な処方が広がると必ずや水分摂取管理不十分例が出現し「水中毒」例が報告されることは「想定内」です。
・デスモプレシン(ミニリンメルト®)抵抗性の予測因子:
① 日中の膀胱様量低下
② 夜間の溶質排泄による高浸透圧尿
③ 高Ca尿症
④ 低年齢
⑤ 頻回の夜尿頻度
⑥ 一晩複数回の夜尿
⑦ 男児
→ これらを複数満たす例では、アラーム療法を選択するか、初回治療から抗コリン薬との併用療法を検討すべし。
・アラーム療法抵抗性の予測因子
① モチベーションの低さ
② 一晩複数回の夜尿
③ 膀胱様量低下
④ 季節(冬)
・筆者による「三者併用療法」(デスモプレシン、アラーム療法、抗コリン薬)の提案
膀胱容量低下+頻回かつ一晩複数回夜尿例には、はじめから三者併用療法を行うと有効率90%。
・基準となる「膀胱容量」のアレコレ。
① ICCS基準:(Hjalmasの提唱)
期待膀胱容量(expected bladder capacity: EBC)=(年齢+1)×30mL
夜間多尿:EBCの130%以上
→ 体格の小さい日本の患児では基準を満たす例が少ないことを問題視する専門家あり。
→ 夜間多尿基準を、EBCの100%以上を推奨する意見あり
膀胱様量低下:EBCの60%未満
→ 従来夜間膀胱容量の代用として昼間最大排泄量(maximal voided volume: MVV)を採用してきたが、「夜間のみ膀胱様量低下」例の存在から、その妥当性は近年疑問視されるようになってきた。
② 日本の基準(Hamanoの提唱)
期待膀胱容量(expected bladder capacity: EBC)=(年齢+2)×25mL
・「夜間排尿記録」の重要性
難治例では、昼間MVVの低下はなくても夜間のみ膀胱容量が低下し夜尿を起こす頻度も少なくないため、夜間排尿記録が重要である。
・日本の夜尿症診療のガラパゴス化
これまで日本では、夜尿症専門医が体重や年齢によって「病型分類」と称するサブタイプに分け、「多尿型」にはデスモプレシン、「膀胱型」にはアラーム療法といった治療戦略を推奨してきた。
しかしICCS等の基準とは大きく異なり、さらにその妥当性を証明した前方視的な臨床研究も存在しないため、ガイドライン2016における診療アルゴリズムでも活用されなかった。
・・・この文章に筆者の本音が表れており、私が知りたかった「夜尿症診療ガイドライン2016への疑問」の背景でもあります。夜尿症専門医の分野にも世代交代の波が押し寄せ、「職人のさじ加減」から「誰でも診療できるガイドライン」への産みの苦しみを経験している過度期なのでしょう。
・次のガイドライン改定に期待すること;
① 診療アルゴリズムにおいて、MNE患児の第一選択治療であるデスモプレシンとアラーム療法の選択基準を示す(つまり現行ガイドラインには示されていない)
② 本邦患児の体格に合わせたEBCの設定と、それを基準とした夜間多尿や膀胱容量低下の基準の統一(つまり現行ガイドラインではこれが達成されていない)
③ 昼間尿失禁の治療にも言及すべし
・・・ぜひ実現していただきたい。
■ 特集:小児の夜尿症はいま「2.夜尿症における薬物療法、アラーム療法を成功させるコツ」池田裕一Dr.(昭和大学藤が丘病院小児科・昭和大学横浜北部病院こどもセンター)
(小児科診療 Vol.73 No.1 2020)
・薬物療法・アラーム療法開始前に、少なくとも3ヶ月程度は生活改善を含めた行動療法のみで経過観察すべき。
・・・私はせいぜい2週間程度しか観察していませんでした。
・行動療法で約20%の夜尿症が改善(80%は無効)
① 連日の排尿日誌の記載
② 夕方以降の糖分・カフェインを含む飲料の制限
③ 夕食以降の水分摂取制限
④ 朝から午後の早い時間に水分を重点的に摂取する:1日のトータル水分量の40%を午前中に摂取、さらに40%を夕食までに摂取、夕食以降は20%ににとどめる。
※ DDAVP療法を開始し有効例が再度悪化した場合の食事内容のチェック内容:夕食で塩分やカルシウム、糖分などの摂取量が増加していないか、特に味噌汁やスープ料理が多くないか、夕食後にデザートやヨーグルト、果物などの摂取がないかを確認する。
・・・う〜ん、きびしい。これをすべて守らせるのは至難の業ではないでしょうか。
・積極的治療
① アラーム療法:有効率60〜70%、治療中止後の再発率15〜16%、脱落率10〜30%
患者や家族の治療意欲が高く、かつ夜尿頻度が1週間に3日以上と高頻度の例に適している。
② 薬物療法(DDAVP:デスモプレシン=ミニリンメルト®):有効率60〜70%、再発率60〜70%
アラーム療法に消極的な保護者、夜間多尿のある例に適している。
→ 数ヶ月行っても効果が診られない場合は、切り替えるか併用を考慮する。
・・・筆者はアラーム療法の方が効くと考え優先している節がありますね。
・アラーム療法 vs. DDAVP(ミニリンメルト®)
アラーム療法の長所:
① 薬剤による副作用がない
② 長期治療成績がよい
③ 再発率が低い
アラーム療法の短所:
① 器機購入・レンタルは自費
② 家族がアラームにより起こされ睡眠不足になる
③ 器機の不具合や故障で治療がしばしば中断される
・アラーム療法の器機の種類
①シート状のパットをセンサーに用いたタイプ
②センサーを下着や身体に直接装着させるタイプ
→ ②の方が感度がよいので最近好んで用いられる。
さらに②にはコード式とコードレス式がある。代表製品を紹介;
① コード式アラーム(WetStop3®):寝相がよく、夜尿量が多いタイプに向いている。
・・・コードレス式アラーム「ユリンスコープ®」は初耳です。著者の池田先生監修の元に開発され、2019年3月に発売された製品のようです。
・アラーム療法がなぜ夜尿症に有効なのかはまだ解明されていない。
現時点では以下のような説明になる。
① 覚醒時および夜間就寝時の機能的膀胱容量増大
② 夜間の尿酸出量の減少
③ 尿道括約筋の反射的収縮による排尿抑制
筆者は、③のアラーム装置による警告が、覚醒とは無関係に、排尿筋弛緩と反射的括約筋収縮を引き起こし、就寝時の排尿を抑制することで治療効果を発揮する(夜間睡眠中の排尿中断訓練)と考えている。
・アラーム療法のコツ
① 保護者だけでなく、必ず本人にも説明して同意を得た上で開始する
② センサーの感度と治療効果は比例するため、専用のオムツとセットになったコードレス式アラーム装置を使用する
③ 一旦開始したら、次回の外来まで休むことなく、必ず連日使用させる
④ 効果を実感できなくても最低2ヶ月は継続させる
⑤ アラームが鳴ったときは、できるだけ速やかに保護者が患児に知らせる
・アラームが鳴っても患児が起きないとき・・・
筆者は知らせることは必要であるが、覚醒排尿までは指導していない。
しかし、欧米の多くのガイドラインでは、患者を起こしてトイレ誘導する必要性を説いている。
一方で、アラームによる覚醒を促さなくても、覚醒排尿と同様の効果が認められるという報告もある(2018年、Tsujiら)
・再発させないDDAVP療法の減量中止方法
DDAVPは中止後の再発率が高い(60〜70%)のが最大の短所である。
有効例には段階的に減量していく方法がとられるが、定まった中止法はまだない。
① 時間依存的減量:隔日投与など
② 用量依存的減量:半量投与など
筆者の施設(昭和大学藤が丘病院小児科)では、240μg製剤を投与していた場合は、まず120μg製剤に減量し、その後120μg製剤を隔日投与としている。60μg製剤もあるが、夜尿症に適応がないので使えない。
・DDAVPはスプレー缶、それとも口腔内崩壊錠?
2012年に口腔内崩壊錠が使用できるようになった。
比較検討すると、口腔内崩壊錠の方が夜尿減少効果が高い。
もし、まだスプレー缶を使用している医療機関があれば、口腔内崩壊錠への変更を考えていただきたい。
・DDAVP口腔内崩壊錠の使い方と限界
就寝直前より、就寝30分〜1時間前の内服を原則とする。
服用時に水分と一緒に内服すると十分な治療効果を得られないので、確実に口腔内で溶解させるよう指導する。
筆者の施設では、口腔内崩壊錠120μgで開始し、2週間後の外来で夜尿日数が1〜2日減少していれば240μgへの増量を考慮し、変化がない場合はアラーム療法への切りかえや併用を検討している。
■ 特集:小児の夜尿症はいま「3.教育関係者に対する夜尿症啓発の必要性」西崎直人Dr.(順天堂大学浦安病院小児科)
(小児科診療 Vol.73 No.1 2020)
・夜尿症の治癒率は、
(治療未介入)毎年15〜17%が自然治癒
(治療介入)1年後の治癒率は約50%
・・・治療介入しての1年後治癒率50%は、アラーム療法をしっかりやった場合にしか得られないと思います。
・夜尿症とADHDの併存は20〜30%
その中でも不注意型ADHDにおける夜尿症併存率は20〜30%と高率であり、夜尿があること自体が不注意型ADHDの児童を発見するためのサブグループマーカーになるとの報告もある。
・DDAVP(デスモプレシン)製剤の副作用「水中毒」対策
① 夕食と服用の時間を2時間程度開ける
② 服用前2〜3時間の飲水は極力控える
③ 服用後の飲水はしない
の3つを遵守。
・・・これほどの水分制限が必要な薬であると認識できる患者さんにしか処方してはいけない薬だと思います。「夜尿症?とりあえずミニリンメルトを出しておくね」というスタンスでは、「水中毒」の犠牲者が必発・・・これを「想定外」と言ってはいけません。
・宿泊行事への対応
直前に受診してもできることは限られているので、宿泊行事の1年ほど前の受診が望ましい。
直前の受診では即効性のあるデスモプレシン(ミニリンメルト®)が適応になる。
事前の服薬量調節や効果確認のため、少なくとも4週間前からの開始を提案。
基本的な行動療法(就寝2〜3時間前からの水分制限)ができているかどうかを行事の前に再確認。
宿泊行事が短期間である場合、不安の強い児童にはデスモプレシン製剤やおむつの使用などに加え引率者に起こしてもらいトイレへ行くことを提案。この場合、事前に患児・保護者と引率者で具体的な時間を相談しておく。
オムツを使用する場合はプライバシーに配慮し、周囲の他の児童にわからないように教員の部屋で着替えさせ、使用後のオムツの廃棄方法についてもあらかじめ打ち合わせをしておく。
<参考>
■ 「おねしょ卒業プロジェクト」