小児アレルギー科医の視線

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ASD(自閉症スペクトラム障害)早期診断・療育のメリット〜1歳半検診の重要性

2022年07月24日 09時30分35秒 | 乳幼児検診
先日、発達障害に関するWEBセミナー(講師は神尾陽子Dr.)を視聴しました。
勉強にはなったのですが、一本調子で2時間近く話し続けるので、
どこがポイントなのかわかりにくく、集中力が持ちませんでした(^^;)。

まずは「フ〜ン、なるほど」と感じた点;
・発達障害は一つの診断名ですむことは少なく、いくつかの要素を持っていることが多い。
・療育開始が早いほど予後がよい。
・1歳半頃に徴候が現れるので、1歳半検診は重要。
・“共同注意”という概念を理解しチェックの際に用いるべし。
等々。特に“共同注意”に重点を置いて説明されていました。

気になるポイントを備忘録としてメモしておきます。

▢ 発達障害への対応
・発達障害は単独の診断名ではなく一つ以上の特性を示すことが多い(ASD+ADHD+DSD・・・)
・発達障害の大多数に併存精神障害を認める→ 支援は一律ではなく個別の特性に応じて行うべき
・発達障害の症状/特性は早期に始まり、ライフコースに渡る。
・対応はまず、養育者の理解を促すこと(育児支援、心理教育)
・そして自己理解へ(上手につき合う)

本来「病名」とは、それをつけることにより治療や生活指導に役立つもの。
いくつも病名がつくような病態なら、その付け方が適切ではないのでは?と思ってしまいます。

現在の精神疾患は「DSM-5」に基づいて分類・診断されていますが、
これは症状を集めて診断するアナログ的手法です。

その背景として、遺伝子診断が日進月歩の現代医学を以てしても、
精神疾患は分類しきれない・整理できないのが現状、と耳にしたことがあります。

いずれにしても、発達障害を含めて精神疾患の病名は、
遺伝子異常による分類が確立するまでは、
これからもコロコロ変わることが予想されます。

▢ ASD早期療育の中長期的なメリット
・一部(25%)にASD症状の著明な改善を認めた(改善群)。
・改善群全員が3歳までに療育を受けていた。
・一般的に開始が早いほうが効果が大きい。
・複雑化してからだと回復に時間がかかる。
・良好なメンタルヘルス(併存障害なし、服薬治療なし)。
・良好なQOL。

早期発見・早期療育が有効であることを強調されていました。
「早期薬物治療開始」ではありません。

▢ ASDはいつからわかるか?
・1歳前ではまだわからない。
・0歳からよく知っているからといって後の発達障害診断を否定できない。
・1歳6ヶ月〜2歳で十分な情報があればわかる。
・全般的な発達の遅れがあればわかりやすい。
・わかりにくい子どももいる(女児、こわがり、発達の良好な子)
・家族歴があればハイリスク。

最近、1歳半検診と3歳児健診を担当するようになったので、
発達障害について基本的なことを勉強中の私です。

1歳半検診でグレーゾーンの子どもを拾い上げ、
保険相談〜療育につなげることの重要性を再認識させていただきました。 

▢ 幼児期の主なASD症状

A. 社会的コミュニケーションおよび対人的相互交流の障害
・“共同注意”が少ない。
・非言語的コミュニケーション(アイコンタクト、身振り、表情)が少ない。
・言葉の後れ、会話にならない、同じ言葉を繰り返す。
・ともだちをつくれない、ごっこ遊びをしない、ひとり遊び。

B. パターン化した行動、興味の限局、感覚過敏
・行動の切り替えの困難、初めての場所、ものへの不安、抵抗。
・新しいことを嫌がる、特定のもの、話題への没頭、興味
・聴覚、触覚などの感覚過敏

今まではなんとなくチェックしていた“指差し”が、
これほど重要であるとは・・・。
 
▢ 1歳時のASDスクリーニング
〜社会性をチェックし「出現しているはずの行動が出現していないこと」を問題視する。

(通常は1歳になるまでに出現している行動)
・アイコンタクト
・他児(兄弟以外)への関心
・微笑み返し
・呼名反応
・人見知り

(通常は1歳6ヶ月までに出現している行動)
・共同注意行動
・身近な大人の動作や言語の模倣

(あればASDを疑うべき行動)
・感覚的な遊びに没頭する
・音や触覚に過敏

▢ “共同注意”の概念
・他者とモノ・コトに向ける注意をシェアすること。
・自分の気持ちを他者の気持ちに重ねることの始まり。
・生後10ヶ月頃からみられるようになる。
 10ヶ月児の通過率:約50%
 1歳6ヶ月児の通過率:100%

▢ 実際の共同注意に関する質問項目

(質問)あなたが部屋の中の離れたところにあるおもちゃを指さすと、お子さんはその方向を見ますか?
★ 質問の意図:指差し追従(他人の指差しに応答する)できるかどうか

(PASS例)お母さんがモノを指さすと、
・指でさされたモノを見る。
・自分もそれを指でさす。
・それを見て、何かそれについて言う。
・もしお母さんがそれを指さして「ほら!」と言えば見る。

(FAIL例)お母さんがモノを指さしても、
・無視する。
・部屋中をキョロキョロ見回す。
・(モノではなく)お母さんの指を見る。

(質問)◯◯ちゃんは、興味を持ったモノを指をさして伝えますか?
★ 質問の意図:興味の指差し:要求の指差しではなく、興味を持っていることを表現するために指差しをするかどうか。1歳6ヶ月児の通過率100%。応答の指差しと区別する必要あり。

(PASS例)
・自分にとって面白いモノを指さして教える。
・お母さんの注意を興味あるモノに引くために指差しする。
例)空を飛んでいる飛行機、道路を通っている大きなトラック、地面の上を這っている虫など

(FAIL例)
・指差ししない、または、時々しか指差ししない。
・要求の指差しはするが、興味を指し示す指差しはしない。

(質問)◯◯ちゃんは、お母さんに何かを見てもらおうとして、モノを見せに持ってきますか?
質問の意図:要求ではなく、共有目的でモノを見せに持ってくるかどうか。1歳6ヶ月児の通過率:92.9%。

(PASS例)◯◯ちゃんはお母さんに見せようとして、
・**を持ってくる。
例)絵やオモチャ、自分が描いた絵、自分が摘んだ花、自分が見つけた虫など

(FAIL例)
・・・モノを持ってくるが、見せるためかどうかは分からない。
例)本(読んでもらうため)、オモチャ(動かす、修復のため)、お菓子(袋を開けて欲しいなど)

“共同注意”の概念は、
「興味のあること・モノを他人と共有することが楽しい、うれしい」
という「人間関係を気づく基本となる感情」なのですね。
 
▢ 日本語版「M-CHAT
・乳幼児期自閉症チェックリスト修正版。
・H30年度診療報酬改定により、検査D283:発達及び知能検査の「操作が容易なもの」(80点)として保険収載。
・対象年齢:16〜30ヶ月
・23項目 親記入式質問紙(はい・いいえ)
・日本語版の特徴:イラストの説明あり
・国内外の大規模研究で、健診場面での有用性が実証済み
 2段階(質問紙→ フォローアップ面接)>質問紙のみ・・・擬陽性例が減る
 2段階 陽性的中率 43〜46%(日本)、54%(アメリカ)
・海外の主要なガイドラインで推奨されている。

▢ A. 社会的障害(M-CHAT)
(園での友達関係)
・ひとり遊びを好む(周囲に子どもがいてもお構いなし、あるいは、周囲に子どもがいる場を避ける)
・自分からは仲間に入らないが、誘われると受け身的に参加する。おとなしい子や年下の子となら遊べる。
・自分から仲間に参加するが、自分のやり方を強要するのでケンカとなり、嫌がられる。
(情緒的反応性)
・他者に無頓着(マイペース)
・他者の気持ちに敏感だが(こわがり?)、意図は分からない。
(言葉の理解)
・言語理解は言語表出と比べて悪い(しゃべるけれども言われたことは理解できない)
・自分の関心のあることしか話さない。
・要求と関連して話しかける(質問に答えることもある)
・言語理解はしているが、答えられない。
・やりとりが目的の会話はできない。

▢ B. 限局・反復的様式と感覚反応(M-CHAT)
・苦手な感覚(聴覚・触覚・視覚・味覚・嗅覚)のために苦手な場面、活動がある。
・今している活動を止めることの抵抗、あるいは新しい活動への切り替えの困難・不安のために、集団生活がストレスになる。

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