小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

ブログ閉鎖のお知らせ

2018年02月23日 07時36分02秒 | 医療問題
 自分自身への備忘録として始めたブログですが、「ネット上の記事を引用して感想を記す」というスタイルは著作権法違反になるとのご指摘を受けました。
 引用元を明記すればよいのでは(宣伝にもなるし)との考えは、私の勝手な思い込みだったようです。

 2018年3月に閉鎖する予定です。
 ご愛読ありがとうございました。
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ノロウイルス集団感染と対策

2018年02月17日 13時59分27秒 | 感染症
 ノロウイルスの集団感染がニュースにならない年はありません。
 各施設、対策は取っているのに、なかなか征圧できない感染症の一つです。

 朝日新聞からの事例報告と、読売新聞の感染対策の解説記事を紹介します。

■ 病院でノロウイルス集団感染 患者ら18人 福岡
2018年02月15日:朝日新聞
 福岡市は14日、南区の病院で18人が下痢や吐き気などの症状を訴え、うち5人からノロウイルスが検出されたと発表した。市はノロウイルスが原因の感染性胃腸炎の集団感染とみている。保健予防課によると、症状を訴えたのは60~90代の入院患者11人と、20代と40代の職員7人。重症者はいないという。


※ 下線は私が引きました。

■ ノロウイルス感染予防…嘔吐物は新聞で覆い、次亜塩素酸ナトリウムで消毒を
2018年2月13日:読売新聞
 下痢などの症状が出る「ノロウイルス感染症」は、秋から冬にかけて流行します。ウイルスは感染力が強く、人にうつさないように注意することも大切です。感染者が出たら、汚染物の管理など対策を徹底しましょう。(冨山優介)

◇ なぜ起きる?
 ノロウイルスは直径30~40ナノ・メートル(ナノは10億分の1)で、インフルエンザウイルスの3分の1程度の大きさです。小腸の上皮細胞(表面の細胞)に感染して、増殖します。
 感染の経路はウイルスが口から入る「経口感染」が中心です。感染者の便や 嘔吐おうと 物に触ったり、感染者が触ってウイルスが付着した食品を食べたりして感染します。二枚貝などウイルスに汚染された食品を食べることでも感染します。

◇ どんな症状?
 ウイルスに感染してもすぐに症状は出ませんが、小腸の上皮細胞はやがて大量にはがれ落ち、1、2日後に下痢が起きます。嘔吐も主な症状の一つです。いずれも2、3日続きます。
 ほかにも38度程度の発熱や腹痛、頭痛、悪寒、筋肉の痛み、のどの痛み、 倦怠けんたい 感など、様々な症状を伴うこともあります。
 健康な人が感染した場合は、下痢や嘔吐は軽症で回復しますが、子どもやお年寄りでは重症化する危険があります。お年寄りが吐いたものを詰まらせて窒息し、死亡することもあります。

◇ どう治すの?
 本村 和嗣 ・大阪健康安全基盤研究所総括研究員(ウイルス感染症)は、「ウイルスの活動を抑え込む抗ウイルス薬や、感染を防ぐワクチンはいずれもありません。症状に合わせて対応する『対症療法』が中心になります」と説明します。
 下痢で脱水症状が起きやすくなるため、必要な水分を点滴などで補給し、胃の調子が悪い状態が続けば整腸剤を服用します。痛みがひどければ鎮痛剤も使います。
 症状が治まるまでは、安静にして過ごします。食欲も減退していることが多いので、おかゆなど消化に良いものを食べて、しっかり栄養を取ることが大事です。

◇ 予防には?
 感染力が強いため、人にうつさないようにするのがポイントです。嘔吐物などを片付ける際には、まず新聞紙などで上から覆い、ウイルスを含んだほこりなどが舞い散らないようにした上で、殺菌力の強い次亜塩素酸ナトリウムを使ってしっかり消毒しましょう。漂白剤として使われることも多く、50~100倍に薄めて代用できます。
 床や便座、ドアノブなど、感染者が触れたところも消毒が必要です。マスクやゴム手袋をつけて作業しましょう。感染者が使ったタオルは避け、食品はしっかり加熱することも大事です。体力が落ちていると感染しやすいので、体調が悪ければ不要な外出を控え、人混みを避けることが賢明です。
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“病の姿”が見えない 新潟水俣病の50年

2018年02月16日 07時51分19秒 | 医療問題
 先日、水俣病を世に問うた作家である石牟礼道子氏が亡くなりました。
 水俣病患者の声を、自然からの叫びを「苦海浄土」(くがいじょうど)という壮大な叙事詩にまとめ上げた人物です。

 もう一度水俣病を見つめ直すよい機会と感じ、録り溜めておいたTV番組の中から、新潟水俣病のドキュメンタリーを視聴しました。

 水俣病は工場廃水に含まれていた有機水銀による中毒です。
 しかし、高度経済成長期の日本においては、その責任を企業も日本政府もなかなか認めたがりませんでした。
 健康を犠牲にして経済成長を優先する時代だったのです(原発事故の扱いを見ていると、今も変わらない?)。
 被害者は同情よりむしろ差別を受けるという悲しい現実がそこにあり、名乗り出て患者申請することさえ躊躇されるような雰囲気もありました。
 人間はこのような過ちを繰り返してきたのですね。
 そこに“歴史を見つめる”意味があるのでしょう。

※ 下線は私が引きました。

■ “病の姿”が見えない ~新潟水俣病の50年~
2015年6月4日:NHK
◇ 水俣病と認めて欲しい 認定審査を待つ人々
阿賀野川中流の新潟県阿賀町です。
神田三一さんです。
手足のしびれやめまいなど、水俣病特有の症状を抱えています。
特に深刻なのが手の震え。
物をうまくつかむことができません。
視野も狭く、周囲の様子が分かりづらいといいます。
「(視野は)これが精いっぱい、ここから上は見えない。
なんともしょうがない。」

三一さんの兄、栄さんも水俣病の症状を抱えています。
2人はこれまで、国の救済策などに名乗り出ることはありませんでした。
水俣病に苦しみ亡くなった父親が、周囲から偏見の目を向けられていたのを見てきたからです。
しかし80代後半を迎え、生きているうちに水俣病と認めてほしいと、一昨年(2013年)新潟県に認定審査の申請をしました。
「認定されなければ、いつまでたっても解決のめどはたたないわけだから。」

◇ 水俣病 認定審査 新たな指針
去年(2014年)、国は新たな通知を出し審査の指針を示しました。
これまでほぼ認定されなかった、1つの症状しかない人でも、有機水銀に汚染された魚を食べたこととの因果関係が認められれば認定できるとしたのです。
しかし、「できるだけ客観的な資料で裏付ける必要がある」ともされました。



◇ “新潟システム” 救済の道は開かれるか
今、新潟で認定審査の結果を待つ人は、113人。
国の通知に対し、県は独自の方法を取り入れた認定審査を始めています。
これまで主に医師が行ってきた審査に、水俣病に詳しい弁護士や研究者を新たに参考人として加えることにしたのです。
従来は、手足のしびれなど水俣病の症状を調べる医学面の審査が重視されてきました。
新しい仕組みでは、専門家の視点を生かし、疫学面の審査を重視することにしたのです。
当時の資料がなくても、汚染された魚の流通ルートなどを参考人の意見をもとに丁寧に調べることで幅広く救済の可能性を探ることにしました。

新潟県生活衛生課 藤田伸一課長
「当時の状況ですとか、魚の関係であれば専門的な知識等を補充していただいて、きちっと解明できるという部分で近づければと考えています。」

参考人の1人、坂東克彦弁護士です。
長年、患者側の立場で訴訟に関わってきました。
坂東克彦弁護士「新潟第1次訴訟の原告の診断書です。」
坂東さんは疫学面の調査をするにあたって、50年という歳月の壁を痛感しています。
魚を入手した人の名前や居住地運搬方法や調理法など50項目以上からなる細かな調査。

坂東克彦弁護士「大正11年生まれの方で93歳。」
しかし、高齢の申請者の中には記憶があいまいになってしまっている人も多く、詳しく思い出せない人もいます。
申請者に残された時間が少なくなる中、それでもできるだけ救済につなげていきたいと坂東さんは考えています。

坂東克彦弁護士「取り残すことのないようにね、これが最後の機会だと思ってますから。
精いっぱい落ちのないように、きちっとして仕事を進めていきたいと思っています。」

偏見を恐れ、一昨年ようやく認定申請を行うことができた神田栄さんと三一さんも、2か月前に詳しい調査を受けました。
当時、食べていた魚の種類や量など、思い出せることのすべてを伝えたといいます。
日々、体調の悪化を感じる2人。
一日でも早く水俣病と認められることを待ち望んでいます。
神田栄さん(87)
「認定申請する以上は認定に結びついてほしいなと思いますけど、結果はどうなるのかですね。」

◇ 立ちはだかる“年齢の壁”
認定申請をしている113人の中には、若い世代の人もいます。
佐藤美穂さん(仮名)、45歳です。
子どもの頃から手足の感覚が鈍く、痛みや熱さに気付くことができないといいます。

佐藤美穂さん(仮名・45)
「この親指のところにビール瓶の破片が刺さっていても何かあるなというくらいで、見たら血が、だーと出て、ああというときもあって。」
昭和45年に生まれた佐藤さんが水俣病と認定されるには、厳しい壁があります。
去年、示された国の通知にはあるただし書きが添えられていたからです。
「阿賀野川流域では昭和41年以降水俣病が発生する可能性のあるレベルの水銀汚染はなくなった」という趣旨の指針が書かれていたのです。
阿賀野川沿いの、多くの患者を出した集落で生まれ育った佐藤さん。
漁師の親戚からもらう魚を食べて育ちました。
当時、自治体は行政指導で魚を食べることを抑制していましたが、集落にその指導は十分に行き渡っていなかったといいます。
さらに、佐藤さんの母親の晴子さん(仮名)も、長年水俣病の症状を抱えてきました。
水俣病患者を長年見てきた佐藤さんの主治医は、母体を通じて水銀の影響を受けた可能性もあると指摘しています。

母 晴子さん(仮名)
「私にすれば、母乳飲ませて、(魚で)離乳食たべさせたからなったのかなと。
負い目がありますよ、悪かったかなっていう。」
新潟の新たな認定審査では、家族の症状も親戚に至るまで詳しく調査されます。
佐藤さんは壁を越えられるのではないかと、いちるの期待を寄せています。

佐藤美穂さん(仮名・45)
「期待はありますね。現に(魚を)食べてるから、食べて今回こういうことになってるから。
だから何年までとか言わないで、とにかく調べるだけ調べて、年齢言わないで調べてほしい。」

◇ 水俣病 見過ごされた“被害”
発生から半世紀以上たっても被害を訴える人が後を絶たない水俣病。
埋もれた被害がまだあるのではないかと指摘する研究者もいます。
岡山大学の頼藤貴志准教授です。
頼藤さんは、母親の胎内で水銀の被害を受けた胎児性水俣病の研究をしています。
水俣病の確認後、しばらくたってから明らかになった胎児性の被害。
成人と比べ、重症化するケースも少なくありませんでした。
頼藤さんが注目するのが、胎児期に比較的低い濃度の汚染を受けた人々の実態です。
高濃度汚染の基準とされる、へその緒の水銀値1ppm。
それを下回る人を中心に調査を行いました。
これまで水俣病の症状としてはあまり顧みられてこなかった、認知機能について調べることにしたのです。
その結果、多くの項目で、一般の人に比べ認知機能が2割ほど低下していることが明らかになりました。
胎児期に水銀の影響を受けることで、脳の機能が広範囲に傷ついたことが原因だと頼藤さんは考えています。

岡山大学 頼藤貴志准教授
「中低濃度の汚染を受けてきた人、生まれつきもしかしたらこれが自分の普通なのかなと思って生きてこられる人がいるんじゃないかと思うんです。
それは外見上わからないですし、そういう人は見過ごされてきたんじゃないかと思います。」

熊本県水俣市の緒方博文さんです。
82歳の母親も、水俣病の症状に苦しんでいます。
緒方さんはいつも欠かさずノートを持ち歩いています。
幼い頃から物を記憶することが苦手だったため、聞き取ったことをすぐ書き留めないと混乱してしまうからです。

緒方博文さん
「パーと書きますね、そんとき。そうせんと忘れるから。覚えとっても、あれどやったかねって自信なくなるから、必ずそれは書きます。」

手足のしびれや頭痛などの症状を抱え、10年前認定申請をした緒方さん。
しかし、これまで自分の認知機能と水俣病の症状を結び付けて考えたことはありませんでした。
緒方さんは、水俣病の新たな知見が見つかれば、補償や対策にそれを取り入れてほしいと考えています。

緒方博文さん
「本気で救済する気があったら、とことん水俣病を検査して調査して、どんな実態か明らかにするのが当たり前だと思う。
最新の医学的、科学的データに基づいて、患者さんをできるだけ救済するという方向に持っていかんと、これはいつまでも解決しない。」

◇ 水俣病 見過ごされたデータ
さらに、新潟水俣病に関してあるデータが埋もれていたことも近年の研究で分かってきました。
毛髪に含まれる水銀の値を示すデータです。
WHOはこの毛髪水銀値に関して、50ppmを成人で神経症状の出現が疑われる最小値としています。
新潟青陵大学の丸山公男教授は、新潟水俣病発生当初に神経症状を発した103人の毛髪水銀値を改めて調査しました。
すると、半数近くの人が50ppmに満たない値で発症していたことが明らかになったのです。
丸山教授は、被害を埋もれさせないためにも基準を見直すべきだと指摘します。

新潟青陵大学 丸山公男教授
「一番新しい知見に基づいて、科学的な根拠に基づいた基準を考えていくべきだろうと思います。」

◇ “病の姿”が見えない 新潟水俣病の50年

ゲスト尾崎寛直さん(東京経済大学准教授)

●新潟は独自の方法で臨もうとしているが、救済はこれで広がるか?
今回の新通知を受けて、より疫学的な資料を重視しようという流れの中で、参考人制度が入ったと。
今までの認定審査会自体が、行政が指定した医師によって構成されて、どういう審査が行われたのかということが非公開で、ある意味でブラックボックスだったわけですね。
そこに患者さんのことをよく知ってる、水俣病などのこともよく知っている弁護士や医者が入るということは、今までのそうした不透明な問題を1つ変える第一歩にはなるだろうとは思っています。

●なぜ50年たっても声を上げることができなかった人々がいるのか?
1つはやはり、今までの認定制度のハードルが高すぎたっていう部分があると思います。
認定されればいいけれども、もし却下されたら偽患者だという差別を恐れると。
そういうこと自体が患者さんの被害を訴える気持ちをなえさせて、ちゅうちょさせる、そういう側面はあったと思います。
(なぜ、そのハードルをかなり高く設定した?)
典型的なのは、昭和52年の判断基準なわけですけれども、やはり国としては、いつまでも被害者が出続けると、加害企業の財源が破綻するんじゃないかという心配があったんだろうと思います。
ですから、あるところで、その財源を前提に線引きをすると。
そのために認定基準を作って患者さんを振り分けると、そういうようなことを考えたんじゃないかというふうに思います。
(被害者の視点に立っていないアプローチだと思うが、今では加害企業の懐具合という視点では考えないのでは?)
そうですね。
加害企業の財源によって、救済される人とされない人が出てしまうというのは、これはあってはいけないことだと思います。
今の拡大生産者責任だとか、そういう流れの中では、やはり単純に直接の加害企業だけではなくて、その材料を使って製品を作った企業であるとか、それに融資をした金融機関であるとか、さまざまな関係主体というものが実際にはあるわけですから、そこまで幅広く網をかけて補償の責任を負ってもらうということは、あってもいいんじゃないかなというふうに思います。

●胎児期に低濃度の水銀に汚染された影響、どの程度分かっている?
やはり、今のVTRにもありましたように、長期微量汚染の健康影響ということは、実際にはまだ解明されてないところがたくさんあると思います。
やはり今までの水俣病ということ自体が、重度の方々を基準に考えられ、認定制度が作られてきたということがありますので、本当のところは、そうした長期微量汚染の影響はどこまであるのかというのは、もっとやはり最新の知見を取り入れて、被害者の実態を直視して考えなきゃいけないことだと思います。

●昭和41年という線引きも1つの基準として出ているようだが?
実際には、その昭和41年以降も決して汚染が終わったわけではなくて、濃度が低くはなっていくんですけれども、決してなくなったわけじゃないと。
そういう意味では、暴露も高濃度ではないけれども、中程度、軽度の暴露を受けてる方々が次々出ているのは事実ですから、そういう方々の実態に合わせた水俣病の考え方というものを、ちゃんと作っていかないといけないと思います。

●水俣病の50年とは?
もしひと言で言うならば、何が水俣病なのかということを巡って、その水俣病の病像を巡って争いが続いた50年だったと言っていいと思います。
そしてその何が水俣病なのかということを国が握ってきたわけですから、結局、実際に健康調査だとか、健康診断を地域全体に行ってないわけですから、どのくらいその広がりがあるのか、そして症状のバラエティーがどんな形であるのかということは、やはり正確に解明されていないと言っていいと思います。

●救済を急ぐ方策はある?
そうですね。
実際には認定制度で認定を勝ち取るまでに、10年、20年かかってる方がおられます。
やはりそこまでの時間と労力ということは、今の高齢の患者さんには非常に負担だと思います。
そういう意味ではもっと、ある程度の客観的な資料を前提に、迅速に救済を受けられるような仕組みを作っていくということも考えられていいと思います。
(誰が、どうやってスピーディーに認定する?)
そうですね、やはり今まで認定を行っていた判断権者が国だったわけですけれども、結局今までは、その加害者性を認定された国が続けるということで来たわけですが、それはもう今後はできないんじゃないかと、もっとそういうものを、例えば裁判所だとかですね、第三者に委ねる形で、客観的に公平に審査をしていくような仕組みを作らなきゃいけないと思います。

●水俣という名前は世界に広がっている 今、何をすべき?
やはり日本語名が付いた、人類初めての病ですから、これは日本人自身が解決をしなきゃいけない問題ですし、国もそういう方向で研究を進めていく責務があると思います。
(被害者へのきめ細かな救済というのも改めて問われる?)
そうですね、介護や医療以外のサポートもしていかなきゃいけないと思います。

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「食物アレルギーとアナフィラキシー」(海老澤元宏先生:ネット配信セミナー)

2018年02月16日 07時00分59秒 | 食物アレルギー
 近年多くなってきたネット配信セミナー。
 昨夜(2018.2.15)は食物アレルギーではご意見番の海老澤先生の講演がありました。

 一時期アレルギー系学会を席巻した「急速経口免疫療法」は影を潜め、現在は「より安全に、より少量から症状が出ない程度でゆっくり進める経口負荷試験」が主流になりつつあります。
 まあ、現場でずっと続けてきたスタンスにまた戻った、というのが私の印象です。

 海老沢先生の講演は何回も聞いているので、あまり目新しいことはありませんでしたが、知識を整理・確認するにはとても役立つ内容でした。

 ただ、栄養指導では「管理栄養士」、アナフィラキシーでは「マンパワーを集める」など、1人院長の開業医では無理なことが平気で出てくるのは相変わらず。
 重症以外の患者さんを多数診療している「開業医が出来る食物アレルギー診療ガイドライン」を作って欲しいものです。


***********<備忘録>************

・「食物アレルギー診療ガイドライン2016」の主旨は「“食べさせない”のではなく“食べさせる”にはどうしたらよいか?」である。

・食物アレルギーのリスク因子;
1.家族歴
2.秋冬生まれ(短い日光照射)
3.皮膚バリア機能の低下
4.環境中の食物アレルゲン
5.離乳食開始を遅らせること

・湿疹乳児に対する介入(PETIT研究);湿疹を治療してなくすことを前提条件とした場合、加熱卵を早期(生後6ヶ月)から少量開始し与えた方が卵アレルギーを予防できることが示された。
 生卵+より低年齢(生後6ヶ月未満)では、逆に感作を誘発するリスクがあるので注意すべし。

・今のところ早期接種開始で食物アレルギー発症予防の可能性のデータがあるのはピーナッツと卵だけである。

・食物経口負荷試験は、以前は「多数回&短い時間間隔」で行われてきたが、最近は「より少数回&60分間隔」が主流になりつつある。

・食物経口負荷試験の目的は、オールオアナッシング(食物アレルギーの克服)ではなく、微量摂取できるかどうかに焦点を当て、栄養食事指導をしてQOLを上げるべきである。

・経口免疫療法は副作用必発であり、一般診療として推奨できるレベルではなく、倫理委員会を通して研究レベルで行うべきである。

・「アナフィラキシーガイドライン」(日本アレルギー学会、2014)では重症度分類をグレード1-3に分類したが、5段階分類も存在する。


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子宮頸がんワクチン接種をめぐる議論なう(朝日新聞)

2018年02月15日 17時27分55秒 | 予防接種
 HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)に関する賛否の議論が続いています。
 一体どれが真実なのでしょう。
 すべて?

 日本における問題点は、その始め方が拙速だったという点。
 何の準備もなく、その必要性を問う議論・世論がない状態で、有名女優の涙で政治が動かされた印象が私には拭えません。

 本来はイギリスのように、接種を受ける子どもたちにHPV感染症と子宮頸がんについて啓蒙し、それを避ける方法としてワクチンがあることを教えるべきでした。
 子どもたちが自分の問題として理解し、自分の意志で接種する「英スコットランドの接種率は9割」です。
 日本では当事者そっちのけで「将来役に立つから」となだめすかしてワクチン接種を始めてしまいました。
 多感な思春期女子が「よくわからないけど注射される」「ありがた迷惑」「痛いことはイヤ」と反応してもおかしくありません。

 その辺が、問題の根源ような気がするのは私だけでしょうか。

※ 下線は私が引きました。

■ 子宮頸がん 接種めぐる議論なお
2018年02月15日:朝日新聞デジタル
 子宮頸(けい)がんの原因ウイルスの感染を防ぐ「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」の接種について、厚生労働省が積極的な勧奨を中止してから、6月で5年になる。接種の有効性を示す報告がある一方で、接種後に長引く痛みなど様々な症状を訴える例が相次いだ。どちらを重くみるべきか、意見は今も分かれている。

◇ ウイルス感染減少 示す研究報告
 日本産科婦人科学会(日産婦)が主催した公開講座が3日、東京都内で開かれた。産婦人科医や公衆衛生の研究者らが、HPVワクチンの有効性に関して相次いで発表した。
 公開講座では、英スコットランドの接種率が9割に及び、20代女性ではHPVへの感染率は4・5%と、接種していない集団の感染率30%に比べて大幅に低下した、との研究が示された。接種率が高くなると、集団で感染の広がりを抑える効果もある、と指摘された。国内の複数の研究でも、やはり感染などを減らせていると報告された。
 子宮頸がんは性交渉によってHPVに感染することで起きる。国内で年間約1万人がかかり、約2700人が死亡する。30代後半~40代で多く発症するが、最近は若い女性で増える傾向にある。検診で早期発見できれば切除できるが、その後の妊娠で早産のリスクが上がるとの指摘もある。
 子宮頸がん患者の9割からHPVが検出されることから、ワクチンは感染を防いで患者を減らすねらいがある。国内で使われている二つのワクチンは、100種類以上あるHPVのうち、がんの原因の5~7割を占める二つのタイプ(16型、18型)のウイルス感染を防ぐ。
 一方で、ウイルスは感染しても、多くは数年以内に自然に検出されなくなる。持続的に感染し、がんになる前段階の状態(前がん病変)になるのは数%ほどとされる。ワクチン接種が始まって間もないこともあり、がんそのものの発症を減らす効果は、まだ確かではない。だが、豪州などの研究ではワクチン接種で前がん病変を5割減らせた、との報告がある。
 日本大の川名敬主任教授(産婦人科学)は「前がん病変を減らせるなら、その先のがん発症も減らせると考えられる。HPVは成人女性のほとんどが感染する。誰でも子宮頸がんのリスクがある」とワクチンの意義を強調する。
 昨年12月、フィンランドの研究チームは14~19歳の約2万7千人を7年間追跡した速報結果を、専門誌で公表した。子宮頸がんを発症する頻度は、ワクチンを接種しなかった集団は10万人あたり1年間で6・4人だったのに対し、接種した集団は0人だった。
 日産婦は昨年12月、厚労省に対して改めて勧奨の再開を求めた。世界保健機関(WHO)もワクチン接種を推奨し、WHOの諮問委員会は日本の現状を「弱い証拠に基づいた政策決定」と批判している。

◇ 多様な副反応「明らかにリスク」
 HPVワクチンは2013年4月、小学6年~高校1年の女子を対象に原則無料の定期接種となり、厚労省は接種を勧奨し始めた。だが、接種後に健康被害を訴える人が相次ぎ、2カ月後に定期接種にしたまま、勧奨を中止。希望者は無料で接種できるが、接種する人は激減した。
 13年6月の厚労省部会で示された資料によると、HPVワクチンの副反応の頻度(発売後~13年3月末)は他のワクチンよりも高い。接種との因果関係の有無にかかわらず接種後に報告される重篤な副反応の発生数は、二つのHPVワクチンはそれぞれ100万回あたり43・4件と33・2件。これに対し、比較的近い時期に発売されたインフルエンザ菌b型(ヒブ)ワクチンは22・4件、小児用肺炎球菌ワクチン27・5件だった。
 薬害オンブズパースン会議副代表の別府宏圀医師は「HPVワクチンは異常に高い抗体価を長期間にわたり維持するように設計されており、このため複雑な自己免疫反応を引き起こしている可能性がある」と話す。痛みのほかにも、月経異常や記憶力、注意力の低下など多様な症状があるとし、「ほかのワクチンとは明らかに異なり、リスクが大きい。原因がはっきりしない以上、被害者の声に真剣に耳を傾け、勧奨の再開はすべきではない」と言う。
 一方、国立精神・神経医療研究センター病院の佐々木征行小児神経診療部長は「いまのところ副反応とワクチンの因果関係は否定も、証明もされていない」と話す。これまで、接種後に症状を訴えた50人近くを診察。筋肉の組織の検査や、様々な治療を試したが、ワクチンとの関連ははっきりしなかったという。
 厚労省研究班は16年12月、接種後に報告された副反応の症状は「ワクチン接種歴がない子どもにも一定数存在した」とする疫学調査結果を公表。一方で「接種と症状の因果関係には言及できない」と明確な結論は出せなかった。
 佐々木さんは「どのワクチンにも有効性と副反応がある。定期接種のワクチンは『小さいけれどもリスクはある』ということを承知のうえでうけてもらう形になっているが、HPVワクチンは現時点ではそのような共通認識は得られていない」と話す。

◇ 「知見突き詰めても不確実性ある」
 厚労省は今年1月、HPVワクチンのリーフレットを改訂した。その中で、HPVワクチンを10万人に接種すれば、595~859人の子宮頸がんの罹患(りかん)、144~209人の死亡の回避が期待できると推計した。一方、副反応の疑いがあったとの昨年8月末までの報告は、10万人あたり92・1人、重篤なケースは52・5人に上ったとした。
 厚労省はこの間、接種後に症状を訴えた人に対する診療体制を全国に整備。「治療の受け皿ができた」として、勧奨の再開を求める声もある一方、「HPVワクチンは個人のがん予防の色合いが強く、集団防衛的なワクチンと異なる」などとして「(原則有料で個人の希望でうける)任意接種でいいのではないか」との声も出ている。
 森臨太郎・国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部長は「どんなに科学的知見を突き詰めても、必ず不確実性が存在する。研究者や医療者はそれを丁寧に説明し、政策的な意思決定の際は、国民からより見えやすい場所で議論される必要がある。国会に調査委員会をつくって話し合う選択肢もあっていい」と話す。


 先日、NHKで新潟水俣病のドキュメンタリーを視聴しました。
 当初、日本政府は患者認定の3条件を提示して、複数の症状がないと認めないという方針を出しました。
 この条件が厳しすぎるとの批判を受け、それから数十年後に、一つでも満たせば認めるという方針に変わりました。

 この史実を知ると、HPVワクチンの副反応に煮え切らない態度を取る日本政府の考えがよくわかりません。

 HPVワクチンの副反応とされている諸症状には、定型的なものが存在しないのです。
 これとこれを満たせば可能性が高い、という性質が見いだせない。
 副反応を声高に叫ぶ医師は、「HPVワクチン接種後何年経って発症しても副反応である」という基準を設けています。

 効果のあるワクチンには、副反応も必ず存在します。
 しかし、HPVワクチンで提唱されている副反応のような病態は、私の知る限り存在しません。

 朝日新聞には識者4人の意見も掲載されていましたので引用させていただきます。

 私は最後の川名氏の意見に強く同意します(以下に抜粋)。

・HPVワクチンによる重篤と判断された有害事象の報告数は「10万人にあたり52人」、一方、生涯で子宮頸がんになるリスクは「76人に1人」。
・「この数字を比較したとき、どちらを選択しますか? あとはみなさんが決めてください」。うちたくないという人は、うたなくていいと思います。


 ポイントは「有効性と副反応の正しいデータを示し、接種するかどうかは国任せではなく各個人で考えて判断すべし」ということ。
 予防接種を受ける人達は事が起こってから反論するのではなく、“当事者”として自ら考え、判断する思考回路を持つべきです。

■ 「HPV政策、国民に見える議論を」森臨太郎氏に聞く
2018年02月15日:朝日新聞
 子宮頸(けい)がんの原因となるウイルスの感染を防ぐ「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」の有効性と安全性をめぐる評価や、接種の積極的勧奨を再開すべきかどうかは、専門家の間でも様々な意見があります。4人の専門家に聞きました。

◇ 森臨太郎・国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部長
 どんな薬、ワクチンにも効果がある一方で、副作用や副反応もあります。有効性と安全性をめぐって意見が対立するとき、どのように合意形成し、政策を決定していけばいいのでしょうか。世界の臨床試験の結果を再検証し、科学的根拠に基づく医療の普及につなげる「コクラン」の日本代表を務める、森臨太郎・国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部長に聞きました。

〈もり・りんたろう〉 1970年生まれ。岡山大卒業。日英両国の小児科専門医資格を持つ。大阪府立母子保健総合医療センター、世界保健機関(WHO)、東京大などを経て、2012年から国立成育医療研究センターで現職。14年、コクランジャパンを立ち上げた。著書に「持続可能な医療を創る」(岩波書店)など

◇ 意思決定されない状況、大きな問題
 ある薬品について、行政レベルで大きな問題があったとき、「まず止めましょう」というのは正しい判断だったと思います。ただし、その際、止めてどうするのか。止めたまま放っておくのではなく、では、どうやって意思決定をするのか。そのあたりの整理がちょっと弱かった、と感じています。
 このワクチンをどう考えたらいいのか。市民の皆さんが判断できるように助言する必要がありますが、それについて、適切な意思決定がくだされない状況が、こんなに長く続いていることは、とても大きな問題だと考えます。科学的根拠に基づく有効性と、安全に対する不確実性。ワクチンにはその両方が存在し、意見も対立している。この場合、多少は玉虫色になるかもしれないけれど、両方の立場からバランスのいいところで政策を決めなければならない。でも、現時点での政府の意思決定はそこから少し逃げているように感じます。「定期接種のままだが、勧奨していない」というのは矛盾しているし、一般市民に方向性を示していないという意味では少し不親切です。

◇ 任意で、接種を勧奨する選択肢
 ワクチンの有効性はあるだろう、と思っています。HPV感染を防ぎ、前がん病変(がんになる前の状態)を減らすのだから、その先のがんも減らすだろう。それが科学的根拠に対する素直なとらえ方だろうと思います。
 一方、副反応についての評価は、正直わからないと思っています。指摘されている副反応は、起きる可能性がそんなに高いものではないと思いますが、人間の体は分からない部分があるので、科学的にはありうると思っています。
 ただし、国全体として集団として考えたときには、がんを減らすメリットのほうが大きいだろうと考えます。そのうえで、社会全体の価値に基づく考え方と、個人の意思決定が異なることはありえるし、あっていいと思います。
 個人的には、定期接種を外して任意接種にし、国として勧奨はしたらいいと思います。「個人の意思決定に基づいて予防するもの」と位置づけたうえで、「科学的根拠に基づけば接種のメリットが上回る」とのメッセージを発する、という考え方です。
 感染症疫学というのは「集団を守るもの」です。たとえばある人口のなかの80%の人が抵抗力を持つようになれば、集団としてその感染症を防げるケースがあったとします。はしかなどはそうしたワクチンで、定期でやるべきものだと思います。
 一方、HPVについては、ワクチンの接種率が上がることで集団として感染の広がりを抑える効果も指摘されていますが、当面はそこまでの接種率をめざすのは難しいと思います。現時点では、HPVワクチンは有効性と安全性に様々な情報があるなかで、個人と医師の話し合いのなかで接種するかしないかを決めていくべきものではないか、と思います。こうしたワクチンは任意、というのが、ワクチンを接種してきた小児科医の1人としての私のイメージです。
 集団の意思決定か、個人の意思決定か。もし、HPVワクチンを「個人の意思決定」とするならば、公衆衛生というより、医療に位置づけるという選択肢もありえると思います。そうなると、税金の枠組みではなく、医療保険の枠組みでいく、という選択肢も、予防と治療が融合し、境界線があいまいな現在の医療では、ありえると思います。

◇ 勧奨再開の場合は、登録・追跡調査の仕組みを
 有効性は高いとみられる。一方で、安全性によくわからない部分もある。このワクチンにはこの両面の性格があります。
 今後、積極的な勧奨を再開する場合は、セーフティーネットをかけつつ、進めていく必要があると思います。ひとつには、かなり厳密に、接種された人を登録し、経過を追っていくような追跡調査の仕組みをつくる。
 二つ目は、過失の有無にかかわらず被害者に補償する「無過失補償」の仕組みです。現状をみると、副反応と指摘されている症状が、ワクチンによる過失であるかどうかの証明はほとんど不可能に近いと思います。安全性に関しても、ある程度担保されたうえで進めていく必要があると思います。

不透明だった導入時の議論
 HPVワクチンは2010年、政府が150億円の予算を確保し、導入を決めました。ただ、その意思決定の過程では、科学的な検証が十分にされたとは言いがたいところがありました。製薬企業のロビー活動をバックに政治主導で導入され、あまりに前のめりでした。
 科学的根拠は未熟な部分があるけれど、その効果は非常に有望なワクチンや薬があったとき、どのように意思決定するのか。「非常に優れている可能性があるから」と前のめりになってしまったのが、今回の反省点でもあると思います。
 そういう意味では、今後、新しいワクチンが登場したとき、あまりに保守的になってもいけないが、どういう政策オプションをつけて政策にできるのか、という知見にはなると思います。
 有効性は非常に高いけど、安全面で不確実性もあるならば、モニターをし、研究も同時に走らせながら導入する。無過失補償もつける。こうした政策オプションがあれば、市民の側も、そのワクチンの有効性と安全性を評価する材料、接種するかどうかの判断材料にもなると思います。

◇ 国会に調査委員会を設け、政策決定
 どんなに科学的知見を突きつめても、必ず不確実性が存在します。研究者や医療者は「いま、こういう現状の科学的根拠ですよ。それにはこれだけの不確実性が存在するし、一方で、この程度の確実性をもってこれぐらいのことが言えますよ」というのは情報として提供できるはずです。ただ、それだけで政策を決めるのは難しい。広く社会の状況をみたうえで、適切に判断される必要があります。国民一般の不安などが拾い上げられなければ、その意思決定は受け入れられないからです。
 こうした意見が大きく対立する案件については、厚労省の部会や委員会ではなく、たとえば国会に特別の調査委員会、第三者委員会をつくって、話し合う選択肢があっていいと思います。
 現在は厚労省の部会で議論されているわけですが、国民から見れば、自分たちの意思がそこに反映されるとは感じないのが現状だと思います。一般の人が部会を聴きに行くかといったら、行かないと思う。もっと国民の目から見える場所で議論してもいいのではないでしょうか。各地でタウンミーティングをしてもいいと思います。
 国会の権限で有効性や安全性を調査したり、海外の状況について情報収集したりし、「こういう経緯で決まったんだな」とわかるような、透明性の高いところでやることに意味があると考えます。
 また、こうした政策決定の枠組みは、もう少しグローバルに、各国政府が連携してもいいと思います。たとえば、有効性と安全性の調査は、グローバルレベルでしてもいい。そうすれば、数も集まります。製薬企業に必要な情報を求める際も、相手は外国に本拠地を置くグローバルな製薬企業なわけですから、日本だけでなく各国で連携したほうがいい。
 意思決定するときも、もう少し情報共有する。もちろん、最終的には、各国それぞれに意思決定すればいいと思うのですが、少なくともその手前の(追跡調査や無過失補償などの)政策オプションとか、「この国ではこうしている、あの国ではこうだ」という情報は持ち寄ってもいい。グローバルな連携が、もう少し効果的なものとしてとらえられていいのかなと考えています。



■ 「有害事象の多さ、見過ごせない」別府宏圀氏に聞く
2018年02月15日:朝日新聞
◇ 別府宏圀・薬害オンブズパースン会議副代表
 HPVワクチンの接種後に、様々な症状に苦しむ人たちがいます。ワクチンの有効性を評価する声がある一方、安全性を懸念する声もあります。長年、医薬品情報誌の国際連絡組織の活動に携わるなど、医師の立場から薬の安全性について問題提起を続ける、神経内科医で薬害オンブズパースン会議副代表の別府宏圀さんに、HPVワクチンの問題について聞きました。

〈べっぷ・ひろくに〉 1938年生まれ。神経内科医。東京都立府中病院、都立神経病院などを経て、現在は薬害オンブズパースン会議副代表。ネットを通して患者の体験や気持ちを動画などで伝える、NPO法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」理事長も務める。著書に「医者が薬を疑うとき」(亜紀書房)など

◇ ワクチンの安全性に懸念
 このワクチンは2010年11月から、定期接種されるのに先だって、公費負担で接種が始まりました。その後、重篤な有害事象の報告数が急増しました。長く使われてきたワクチンに比べると、新たに導入されるワクチンは有害事象の報告が多くなる傾向がありますが、それを考慮に入れたとしても、今回の報告数は格段に多い。これは見過ごすことはできません。
 さらに問題なのは、有害事象として報告されたその症状が多様で長期間にわたり、重層的にあらわれていることです。このワクチンの副反応として、まず注目されたのは全身の痛みや、失神でした。その後、不調を訴える少女たちの症状を詳しく診ていくと、運動障害(脱力、まひ、不随意運動、けいれんなど)、呼吸機能障害、消化器障害、月経異常などの内分泌障害、自律神経障害、睡眠障害、光過敏・音過敏、高次脳機能障害(記憶障害、判断力低下、集中力低下)など様々な症状があらわれることがわかりました。
 これらの特徴は、これまでのほかのワクチンとは明らかに異なります。ワクチンとの因果関係を疑問視する声もありますが、海外でHPVワクチン接種後の被害を訴えている少女たちの症状とも共通している点を考えれば、安易に「心因性」と片付けるべきではないでしょう

◇ 新タイプのワクチン、不十分な検証
 HPVは女性なら誰でも生涯に一度は以上は感染するような、ごくありふれたウイルスです。皮膚や粘膜のわずかな傷から侵入し、扁平上皮基底部(子宮頸部の粘膜の一番深い部分)の細胞に感染しますが、通常は70%が1年以内に、90%が2年以内に消失します。しかし、がんを誘発しやすいタイプのウイルスに持続感染すると、その一部が、がんの前段階の状態(前がん病変)、さらには浸潤がんに発展します。
 ウイルスは通常、子宮頸部の粘膜にとどまり、自然に感染しただけでは、体内に十分な免疫はできません。これに対抗するために、HPVワクチンは、高い抗体価を長期間にわたって持続させるように設計されています。ワクチン接種後、通常の自然感染では達することのない、非常に高い抗体価を実現させるのです。
 このように、従来とは異なった設計思想でつくられた、新しいタイプのワクチンを導入するのであれば、その安全性についても、より入念な検証が必要であったはずです。
 また、このワクチンは、ウイルス遺伝子(DNA)を持たない「ウイルス様粒子」(VLP)を抗原(目印となるたんぱく質)とし、抗体ができるようにつくられています。ウイルス遺伝子を含まないからと、安全性を過信したことも問題でした。実際には、VLPの外側にある「殻」のほうに、人の細胞と共通し、生理機能にも深くかかわる成分(ペプチド)が含まれています。これが免疫学的に様々な交差反応を引き起こす可能性は十分にあり、それだけ多様な副反応が生じる恐れがあります

◇ もっと患者の声に耳を傾けるべきだ
 それなのに、厚生労働省の部会は2014年、こうした症状を「心身の反応」とする意見をまとめました。この結論に科学的根拠があるとは思えません。実際に、私は症状を訴える少女たちの話も聞きましたが、みんな接種前は元気で健康な、明るい子たちばかりでした。
 いまの医学は科学的根拠を重視し、科学的に説明できないという理由ですぐに患者を切り捨てる傾向があると危惧しています。「何かが起きているのではないか」と様々な可能性を考え、もっと患者ひとりひとりの声に謙虚に耳を傾けるべきだと思います。
 私は薬害スモン裁判にもかかわり、医薬品の情報収集を30年間続けてきました。こうした活動を通し、私は製薬企業の情報がいかに偏っているか、を痛感してきました。有効性は強調されても、安全性は軽んじられる傾向があります。
 もちろん、私は医師なので、薬がないと困るし、薬の力もわかっています。しかし、常に視線はエンドユーザーである患者に向けられなければいけません。ワクチンの接種後に、説明のつかない症状が起きている人がこんなにたくさんいる事実は非常に重い。そして、その症状は誰に起きるかわからない。ワクチンは健康な人に接種するものであり、それによって得られる利益と危険性を見比べながら、慎重に判断される必要があります。

◇ がんの予防効果、不確実
 接種をすすめたい人たちは、子宮頸(けい)がんの重大性を強調します。でも、子宮頸がんの原因となるウイルス(HPV)は、感染してもほとんどは自然に排除され、子宮頸がんを発症するのは発がん性のあるHPV感染者の0.15%程度と考えられています。万一がんを発症しても、定期的な検診を受けていれば適切な治療を受けることで、多くの人は救命可能です。そもそも、がんを予防する効果も証明されていません。
 こうしたことを考えれば、安全性が不確実なHPVワクチンを定期接種にするよりも、その費用と労力をがん検診に向けるほうがはるかに大きな意味があるのではないでしょうか。検診受診率は諸外国に比べて低いと指摘されていますが、検診する医療者を女性にするなどして、検診を受ける女性の心理的なストレスを減らすなど、できることはまだあるはずです。
 そもそも、HPVワクチンは、がんを予防する「個人防衛」の性格をもったワクチンであり、接種するかどうかは個人が決めるべきであり、任意接種に分類されるべきだと考えます。
 HPVの勧奨再開に反対すると、すぐに「反ワクチン」と非難する声があがりますが、非常に一面的な考え方だと思います。私はすべてのワクチンに反対しているわけでなく、はしかなど、公衆衛生の観点から定期接種にすべきワクチンはあると考えています。
 ただ、最近は、ワクチンの種類が急激に増えました。なかには、製薬企業のロビー活動を背景に、有効性と安全性が十分に議論されないまま拙速に導入されたものが含まれている。HPVワクチンはその最たるものだと思います。私はもう一度、すべてのワクチンについて、定期接種にすべきものと、任意接種にすべきものについて再考すべきではないかと思います。そしてその議論の過程には、市民が参加できる仕組みをつくるべきだと思います。
 科学は本来、患者や公衆の衛生を守るためにあったはずですが、最近は製薬産業の利益を守るために使われ、薬と有害事象の因果関係を否定するために使われている、と感じます。医師と製薬企業の利益相反の問題も深刻です。医師はもっと謙虚で誠実であるべきです。HPVワクチンの問題でいえば、接種後に症状を訴える患者の診察もきちんとしないまま、心因反応と簡単に退けることは、非常に無責任なことだと思います。


 
■ 「因果関係、否定も証明もされず」佐々木征行氏に聞く
2018年02月15日:朝日新聞
 子宮頸(けい)がんの原因となるウイルスの感染を防ぐ「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」の有効性と安全性をめぐる評価や、接種の積極的勧奨を再開すべきかどうかは、専門家の間でも様々な意見があります。4人の専門家に聞きました。

◇ 佐々木征行・国立精神・神経医療研究センター病院小児神経診療部長
 HPVワクチンをめぐっては、持続する痛みや、手足の動かしにくさ、記憶力や注意力の低下など、接種後に多様な症状が報告されたことが、一つの特徴です。ワクチンとの関連をどう考えたらいいのでしょうか。接種後に症状を訴える患者を診療した経験をもつ、国立精神・神経医療研究センター病院の佐々木征行・小児神経診療部長に聞きました。

〈ささき・まさゆき〉 1957年生まれ。日本小児神経学会専門医。新潟大卒業。新潟大学病院小児科などで研修後、2002年から現職

◇ 副反応との関連、証明も否定もされていない
 これまで50人近く、HPVワクチンの接種後に症状を訴える患者さんを診察しました。接種後、激しい痛みが起き、腕が上にあがらないほどになる人や、頭痛や倦怠(けんたい)感などを伴う人もいました。痛みが注射した部位だけでなく全身に広がるケースや、震え、記憶力や集中力が低下するケースもありました。こうした多様な症状が、様々な組み合わせで、長い期間継続している人もいて、症状の経過の長さ、症状が移り変わることも、従来のワクチンではあまり見られなかったものだと思います。
 私たちは数人の患者さんに入院していただき、頭部MRIや筋肉の検査(MRIや筋生検)をしました。筋肉注射をした部位や体内に過剰な免疫反応が現れていないかを確認するためです。また、鎮痛剤による治療のほかに、過剰な免疫反応が起きている可能性を想定し、それを抑えるために、免疫グロブリンを静脈注射する「免疫グロブリン静注療法」、あるいは、大量のステロイドを投与する「ステロイドパルス療法」も試しました
 しかし、筋生検などの検査では特別な異常を見いだせず、薬物療法でもはっきりした効果はありませんでした。ほかの病院から特別な検査所見が確認されたとか、目覚ましい治療があったとかの話も聞いていません。
 ワクチンを接種されたときに感じた強い痛みが、その後の体調不良を引き起こしている可能性はあると思います。全身に痛みが広がる「線維筋痛症」や、頭痛や疲労感が前面に出る「慢性疲労症候群」などと病態が似ているケースもあります。二つとも原因不明の病気ですが、何らかのウイルスに感染した後に発症が多いことも知られていて、共通するメカニズムが発症に関わっている可能性も否定はできません。
 しかし、いまのところ、こうした多様な症状を説明できる客観的な検査上の所見は乏しいのが実態だと思います。ワクチンの接種で強い免疫反応が起き、こうした症状につながっているのではないか、という説もありますが、いまのところ、免疫学的な異常を示す明確な証拠はないと思います。
 こうした実情を踏まえると、報告されている副反応とワクチンとの因果関係については、いまの時点では「証明されてもいないし、否定されてもいない」としか言いようがありません。

◇ 認知行動療法でよくなる場合も
 ただ、こうした症状を訴えて受診してくる人は、このワクチンが導入される前からいました。また、ワクチンの積極的勧奨が差し控えられ、ほとんど接種されなくなった後でも、います。やはり明確な原因がわからないケースがほとんどです。
 こうした患者さんに対しては、じっくりと話を聴いたうえで、原因を追及することをいったん脇に置き、「改善するためにはどうしたらいいか」を一緒に話し合います。原因がはっきりしないので、薬を使ってもなかなか治りづらい。最近は、考え方のくせや偏りに着目し、医師らとの面談を通して改善をめざす「認知行動療法」につなげることが多いです。この治療を通じ、改善していくケースは珍しくありません。
 結局、ワクチンが原因でもそうでなくても、こうした症状に苦しむ患者さんは常に存在する。原因にこだわるよりも、本人や家族を支えるような治療が何よりも大切だと、私は思います。

◇ 希望する人が接種、「任意」でも
 このワクチンは、子宮頸がんの原因となる特定のウイルスへの感染を防ぐとされています。がんになる前の状態(前がん病変)が減ったという報告が複数あるということなので、有効性はきっとあるのだろう、と考えています。理論的には、その先にあるがんの発症も減ると期待されると考えます。一方、接種後に報告されている多様な症状との因果関係は、証明もされていないけど、否定もされていない。
 この場合、ワクチンを接種すべきかどうかは、なかなか言いづらいと思います。接種したほうがいい、とも、しないほうがいい、とも私自身は言えません。
 どのワクチンにも有効性とともに、副反応はあります。それでも、いま定期接種されているほかのワクチンは、非常に高い効果が期待できる一方、「小さいけれどもリスクはある」ということを承知のうえで、受けてもらっている形になっています。これに対し、HPVワクチンはいまの時点では、それが承知された状況にはなっているとは言えません。
 そういう意味では、基本的に希望する人が接種するワクチン、つまり、「任意接種」の扱いでもいいのでは、とも思います。とはいえ、任意接種になれば、原則無料の定期接種と異なり、自己負担になってしまう、という問題も残るのが難しいところです。

◇ 誰にでも起きうる 治療体制の整備を
 HPVワクチンの接種後の症状で苦しんでいる人がいる以上、きちんと向きあっていくべきだと思います。米国や英国では、こうした訴えをする患者さんに対する治療体制など、医療的な配慮が行き届いていると言われています。日本でも、これまで以上に、こうした患者さんにどんな医療が提供できるのか、を考えていかないといけないでしょう。個々の医師の活動だけでは治療は難しく、専門的な治療チームで、体制の充実を図っていく必要があります。
 接種後に症状を訴え、私のところを受診した患者さんは、ワクチンの接種前は学校をほとんど休むこともなく、部活動にも積極的に参加し、元気な子が多かったと聞いています。頻度が非常に低いとはいえ、誰にでも起きうるものだと思います。
 治療体制の充実に加え、今後、新たに同様の症状に苦しむ人をなるべく出ないようにするためには、ワクチンを受けない選択が尊重されることも必要だと思います。接種後の痛みが軽減されるようなワクチンの改良にも期待しています。また、子宮頸がんの予防には、検診も重要です。若い女性の検診受診率を上げるためには、検診をする側の医療者を、可能ならば女性にする。それだけでも、少しは変わるのではないかと思います。



■ 「予防はワクチンと検診の両輪で」川名敬氏に聞く
2018年02月15日: 朝日新聞

◇ 川名敬・日本大主任教授(産婦人科学)
 日本産科婦人科学会は、HPVワクチンの有効性を高く評価し、厚生労働省に対して積極的勧奨を再開するよう求めています。子宮頸(けい)がんの患者を日常的に診察する立場から、この問題をどうとらえているのか。ウイルス学にも詳しい、川名敬・日本大主任教授(産婦人科学)に聞きました。

〈かわな・けい〉 1967年生まれ。東北大卒業。産婦人科専門医、性感染症認定医。米ハーバード大産婦人科リサーチフェロー、東京大産婦人科学講座准教授などを経て、2016年9月より現職

◇ 立ち止まる。大事なステップだった
 このワクチンの安全性に問題があるかもしれない、との指摘が2013年に出てきたとき、それに対して国としていったん立ち止まって検証するという作業は、結果的に必要だったと考えています。その作業がなされなければ、国民は納得しないでしょう。
 ワクチンは2007年に初めて人に接種され、日本ではそこから2年ほどで承認されました。従来のワクチンに比べ、非常に早かった。つまり、長く広く使われるという歴史を経たワクチンではありませんでした。ですから「安全性をもう一度チェックしよう」となったことは、大事なステップだったと思います。
 問題は、そのまま積極的勧奨が止まり続けていることです。厚生労働省研究班で調査もし、接種後に問題とされた症状が、接種しない人にも起きる、という結果も出ました。もうさすがに、ワクチンの必要性を認めてほしいというのが、産婦人科医としての率直な意見です。

◇ 安全性評価には、データが不完全
 接種後に起きている有害事象の報告は、確かにほかのワクチンよりも多いです。ただ、そのなかには因果関係のはっきりしない、「紛れ込み」も含まれています。また、その記録をみると、接種日が「不明」とされているものが数多く含まれています。正確に安全性を評価するには、あまりにも不完全なデータです。可能なら、厚労省はこの「不明」を調べて、明らかにしてほしい。そのうえで、議論されるべきだと思います。
 接種後の長引く痛みなど、厚労省が「機能性身体症状」(何らかの身体症状があり、その身体症状に合致する検査上の異常や身体所見が見つからず、原因が特定できない状態)と呼んでいる症状は、HPVワクチンに限らず、ワクチンには一般的に起きるものと、考えられています。そして、それは思春期には顕在化しやすい
 「ワクチンを接種して何も起きないか?」と尋ねられれば、ほかのどのワクチンも同様ですが、「絶対に安全」と断言することはできません。しかし、「副反応の疑い」として報告された人たちのその後を追跡調査した結果では、9割の人は回復したことが判明しています。でも、その事実はきちんと伝わっていないのではないかと思います。この5年近くで、接種後の症状の診療にかかわる医療機関も全国に設置されました。

◇ 積み重ねられているワクチンの有効性
 一方、ワクチンの有効性は国際的にも科学的根拠(エビデンス)が積み重ねられています。
 HPVは100種類以上あり、性交渉を通じて感染します。このうち、子宮頸がんも含む複数のがんの原因となる「ハイリスクHPV」と呼ばれるものは13種類。HPVワクチンは、このなかの「16型」「18型」の2種類の感染を予防するものです。海外の研究では、ワクチンによってこの2種類の感染を約9割防ぐことが明らかになっています。
 「ワクチンが、がんそのものを防ぐ効果は確認されていない」と指摘されます。しかし、オーストラリアなどの研究では、ワクチン接種した人では、していない人に比べ、がんの前段階の状態(前がん病変)を5割減らす効果が確認されています。まだ導入されて間もないワクチンでもあり、がんそのものへの予防効果は、もう少し時間をかけてみないとわかりませんが、そもそもがんに進行するようならば治療されてしまうため、がんの予防効果を立証することは難しいのが実情です。でも、前がん病変を減らすのですから、その先のがんになることもない、と考えられます。そして、ごく最近、海外の専門誌「International Journal of Cancer」に掲載された速報として、フィンランドからがんそのものが減少した、との報告も出ました。14~19歳の女性(計約2万7千人)を7年間追跡した結果、子宮頸がんを発症する頻度は、ワクチン非接種群は10万人あたり年間6・4人であったのに対し、ワクチン接種群では同0人でした。
 成人女性の大部分がHPVに感染します。女性の誰もが子宮頸がんになるリスクがありますが、ワクチンでこのリスクを減らせるのです。

◇ ワクチンと検診、子宮頸がん予防の両輪
 「がん検診を受け、進行するようならば手術すれば治る。だからワクチンは必要ない」という人もいますが、私はそうは思いません。検診はもちろん重要です。でも、手術は子宮にメスを入れることを意味します。しかも発症年齢のピークは30代です。ちょうど、妊娠・出産の時期にあたります。子宮の一部がなくなり、その結果、早産のリスクが2・6倍高まることがわかっています
 子宮頸がん予防は、ワクチンと検診の両輪が必要で、どちらか一方でいい、ということはないのです。
 1月に、東京都内の女子高の3年生(約200人)に対し、子宮頸がんについて授業をしました。厚労省の資料によれば、「10万人にあたり52人」が重篤と判断された有害事象の報告数です。これをこの高校にあてはめると、「2千人に1人ほど」。1学年200人なので、10学年に1人ぐらいにしか健康被害は出ません。
 一方、生涯で子宮頸がんになるリスクは「76人に1人」とされています。1学年200人の女子がいれば、うち3人ぐらいが生涯のうちに子宮頸がんになる計算です。「この数字を比較したとき、どちらを選択しますか? あとはみなさんが決めてください」。私はそう問いかけました。最終的にはそれぞれの判断ですが、おのずと答えは出るのではないかと、思います。
 もちろん、怖いし、うちたくないという人は、うたなくていいと思います。定期接種は接種する「努力義務」はありますが、強制ではありません。
 今後、積極的勧奨を再開すると判断することがあれば、厚労省に対して注文があります。この間、接種を見送り、定期接種の対象を過ぎてしまった人への接種は、無料でできるようにサポートする必要があります。このワクチンは3回接種で5万円ほどかかります。それが出せない家庭はいくらでもある。希望したのにお金がなかったからうてなかった、ということはないようにしてほしい。ぜひ、国の責任で不平等が生じないようにしてほしいと考えています。
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褥瘡対策のポイントは「Zn」

2018年02月15日 06時42分13秒 | 医療問題
 皮膚疾患に使用する外用剤にはZn(亜鉛)を含んだものが多く存在します。

・亜鉛華軟膏:サトウザルベ®、ボチシート®
・フェノール・亜鉛華リニメント:カチリ®
・酸化亜鉛:カラミンローション®
 
 それから、亜鉛欠乏は「腸性肢端皮膚炎」という皮膚が荒れる病気を引き起こします。

□ 「亜鉛欠乏によって生じる開口部・四肢末端の皮膚炎」川村龍吉 山梨大学医学部皮膚科学講座(山梨医科学誌 30(1),15 ~ 19,2015

 ということで、皮膚症状には亜鉛が深く関わっているのです。
 さて、介護の現場で悩まされる「褥瘡」。
 “褥瘡にも亜鉛欠乏が関わっていた”という記事を紹介します。

 皮膚の局所療法だけより、効果が高い!

 一方、後半の「コラーゲンペプチド」は怪しいと感じます。
 タンパク質はアミノ酸として吸収されるので、それが人体内で再度もとのコラーゲンに構成されることは期待できません。おそらく、タンパク質摂取+付属の亜鉛による副次的効果ではないかと思われます。

褥瘡治癒の決め手は「亜鉛」にあった
2018/2/15 日経メディカル
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「小児抗菌薬適正使用支援加算」80点が新設

2018年02月13日 07時19分17秒 | 小児医療
 「小児科は儲からない」で有名です。
 知り合いのお子さんが医学部を卒業して小児科医になりました。
 その親は「形成外科のような儲かる科を勧めたのに、よりによって小児科を選ぶなんて・・・」と小児科医の私を前にして宣う・・・。

 小児科は子どもの風邪診療が中心で、検査もあまり必要なく、さらに近年の少子化がそれに拍車をかけて収入が減り続けているのは事実。
 おそらく今後は小児科単科の開業は難しくなるのではないか、と懸念する声さえあります。

 さて、2018年春に行われる診療報酬改定の概要が見えてきました。
 小児科に縁があるのは「小児抗菌薬適正使用加算」くらいでしょうか。

■ シリーズ◎2018診療・介護報酬同時改定【感染症】抗菌薬の適正使用への取り組みを新たに評価
「小児抗菌薬適正使用支援加算」80点が新設

2018/2/9 :日経メディカル

 う〜ん、この記事を読んでも、当院で算定できるのかどうか、よくわかりません。
 私はもう20年も前から、
「風邪の9割はウイルス感染症だから抗生物質は効かない、だから処方しません」
「風邪症状の患者さんに抗生物質が必要な場合は溶連菌感染症と中耳炎くらい」
 と説明してきました。
 だから、かかりつけ患者さんにたまに抗生物質を処方すると、
「先生、抗生物質がホントに必要なんでしょうか?」
 なんて逆に聞かれたりします。

 もう一つ、この件を扱った記事を見つけました。


■ 「小児抗菌薬適正使用支援加算」、80点の高評価 〜「抗微生物薬適正使用の手引き」に則した治療が原則
2018年2月7日:m3.com

 「感染症の研修会等に定期的に参加していること」ってアバウトな基準ですねえ。
 この時代、ネット配信の「e-ラーニング」で研修するシステムを作って欲しいものです。
 歳を取って持病を抱えると、なかなか遠くの研究会・研修会に参加できなくなりますので。

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糖尿病治療の現況2018

2018年02月12日 09時58分18秒 | 医療問題
 小児のI型糖尿病患者さんを勤務医時代に数人担当したことがあります。
 インスリン注射が必要なタイプ。

 一方、成人では経口血糖降下剤が中心の2型糖尿病が多勢です。
 食事療法は「カロリー制限&バランス食」から「糖質制限食」へ緩やかに移行しつつあります。
 薬物治療はどうなっているのでしょう。
 新規経口糖尿病薬の名前を最近よく聞くようになりました。
 概説した記事を読んでみました;


■ 2017年に飛躍的発展遂げた糖尿病治療-米専門家の見解は?
HealthDay News:2018/01/22:ケアネット
 2017年は糖尿病の研究と治療が飛躍的発展を遂げた一年であった。特に進歩がみられた分野には、

(1)人工膵臓技術
(2)糖尿病治療薬による心血管疾患リスクの低減
(3)持続血糖測定(CGM)の進歩
(4)1型糖尿病の妊婦における血糖コントロールの改善
(5)超速効型インスリンの承認
(6)医療コストへの関心の高まり


-の6つが挙げられる。これらの進歩の意義について、米国の専門家に見解を聞いた。
 2017年に最も注目を集めたのは「人工膵臓の実用化」であろう。メドトロニック社による携帯型の人工膵臓デバイスには、インスリンポンプとCGMが装備され、コンピューターのアルゴリズムによってモニターした血糖値に応じてインスリン投与量を自動的に調整し、インスリン注入を行う。血糖値が下がり過ぎるとインスリンの注入を一時的に中断する機能も備えている。
 操作はまだ完全に自動化されておらず、デバイスを装着した患者は食事中に含まれる炭水化物の摂取量や1日数回測定した血糖値を入力する必要があるが、若年性糖尿病研究財団(JDRF)のAaron Kowalski氏は「人工膵臓デバイスの実用化はわれわれの悲願であった。その機能は完璧ではないとしても、患者に大きな利益をもたらすものだ」と高く評価している。現在では、数十社が独自の人工膵臓システムの開発に着手しており、同氏は「競争でより革新的なデバイスが生まれる可能性がある。今後数年間の成果に期待したい」と話している。
 また、2017年には糖尿病患者で懸念される心血管疾患リスクについても新しい研究結果が発表された。約400人の成人1型糖尿病患者を対象としたプラセボ対照二重盲検のランダム化比較試験(REMOVAL試験)の結果、メトホルミンの長期投与は1型糖尿病患者の心血管疾患リスクを低減することが第77回米国糖尿病学会(ADA)で発表された。ADAのChief Scientific & medical officerを務めるWilliam Cefalu氏は「心血管疾患は糖尿病合併症の中でも死に至るリスクが高く、治療コストもかかる。既にSGLT-2阻害薬やGLP-1受容体作動薬については2型糖尿病患者の心血管疾患リスクを低減したとの報告がある」と述べている。
 糖尿病治療の技術革新は人工膵臓にとどまらず、米食品医薬品局(FDA)がアボット社のフラッシュグルコースモニタリングシステム「FreeStyle Libre」を承認したことも注目を集めた。このシステムでは皮膚の下に小さなセンサーワイヤーを挿入して血糖値を測定するが、患者は装置をセンサーにかざすと測定した血糖値の情報を読み取ることができる。また、このシステムでは採血のための指先の穿刺を必要としない。Kowalski氏は「CGMから常に送られる血糖測定値に精神的な負担を感じる患者もいる。FreeStyle Libreはこうした負担を軽減するほか、他のCGMよりデバイスが薄く、価格も安いといったメリットもある」と説明している。
 また、CGMに関しては、1型糖尿病の妊婦を対象とした非盲検の国際的なランダム化比較試験(CONCEPTT試験)により、CGMを使用することで非使用よりも血糖目標を達成する期間が延長し、新生児アウトカムも改善することが報告されている(Lancet 2017; 390: 2347-2359)。
 その他、2017年9月にFDAが承認した新しい超速効型インスリンアスパルト製剤(Fiasp®)にも期待が寄せられている。従来の超速効型インスリン製剤は吸収速度が遅く、血中に移行するまで約5~10分を要するため、食事の約10分前にインスリンを注射する必要があった。しかし、この新しい製剤は約2.5分で血中に移行し始めるため、食事開始後20分までに注射をすれば食後血糖値の上昇を抑えられる。
 さらに、インスリンに関しては過去10年間で急上昇したコストが課題とされている。ADAは“Make Insulin Affordable(インスリンを手ごろな価格に)”と題したキャンペーンを開始しており、この問題への関心を高める活動を行っている。
 Cefalu氏は「2017年の研究の進展で糖尿病とその合併症への理解が深まったほか、糖尿病患者が直面している経済的課題や治療へのアクセスといった面への配慮もなされるようになった」と話している。



 なるほど、なるほど。
 次は山田悟先生の解説・概説をメディカル・トリビューンの記事から。


■ 大きく変わった糖尿病薬物療法アルゴリズム 〜ADA2018年版勧告
2017年12月22日:メディカル・トリビューン
 米国糖尿病学会(ADA)は、毎年1月にStandards of Medical Care in Diabetesという勧告集を機関誌であるDiabetes Careの付録(supplementation)として発表している(2014年以前はclinical practice recommendationという名前であった)。このたび、2018年版の勧告が発表され、2型糖尿病患者の薬物療法のアルゴリズムが大きく変更されたのでご紹介したい(Diabetes Care 2018;41:S73-S85)。

◇ 勧告のポイント1(1型糖尿病):2017年版と変わらず
 最初に記載されているのは1型糖尿病患者の薬物療法であり、この部分の勧告は2017年版と全く変わっていない。

・1型糖尿病患者のほとんどは追加インスリンと基礎インスリンから成るインスリン頻回注射療法か、持続皮下インスリン注入(CSII)で治療すべきである。
・低血糖リスクを下げるため、1型糖尿病患者のほとんどは超速効型インスリンアナログを使用すべきである。
・1型糖尿病患者には、糖質摂取、食前血糖値、予想される身体活動量の三者に対してインスリン注射量を適合するという応用カーボカウント指導の教育を考慮する。
・CSIIを上手に使っていた1型糖尿病患者は65歳を超えてもCSII治療の機会が与えられるべきである。

◇ 勧告のポイント2(2型糖尿病):第二選択薬を横並びにせず
 ここが今回、変更されたところである。

・メトホルミンは、禁忌でなく、忍容性がある限りにおいて、2型糖尿病薬物療法の望ましい開始治療薬である。
・メトホルミンの長期使用はビタミンB(VB)12欠乏と関連するかもしれず、定期的な血中VB12測定を検討すべきである。特に、貧血や末梢神経障害のある患者ではそうすべきである。
・新規に診断された2型糖尿病患者のうち、症候性であったり、HbA1c10%以上であったり、随時血糖値が300mg/dL以上の患者には、開始治療薬としてインスリン療法を考慮すべきである。
・HbA1c 9%以上の新規診断2型糖尿病患者には、2剤併用での経口治療薬の開始を考慮すべきである
・動脈硬化性心血管疾患の既往のない患者で、3か月間目標HbA1cが達成できない場合、薬剤特異的な要素と患者ごとの要素を加味して追加薬剤を選択する。
・薬物療法の選択においては患者中心アプローチを用いるべきである。すなわち、有効性、低血糖リスク、動脈硬化性心血管疾患の既往、体重への影響、潜在的な副作用、腎臓への効果、投与法、費用、患者の嗜好を踏まえて考慮する。
・動脈硬化性心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者では、生活習慣管理、メトホルミンで開始し、続いて、薬剤特異的な要素と患者ごとの要素に基づいた考慮の上で、主要有害心血管イベント(MACE)や心血管死への有効性を証明している薬物(現時点ではエンパグリフロジンとリラグルチド)を追加する。
・動脈硬化性心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者では、生活習慣管理、メトホルミンの後で、薬剤特異的な要素と患者ごとの要素に基づきつつ、MACEを減らすためにカナグリフロジンの追加を考慮してもよい。
・継続した薬物レジメンの再評価や患者要素とレジメンの複雑さを考慮した調整を推奨する。
・血糖目標を達成できない2型糖尿病患者に対する治療強化は遅らせるべきでなく、それにはインスリン療法の考慮も含まれる。
・メトホルミンは、禁忌でなく、忍容性がある限りにおいて、他の治療薬との併用において継続されるべきである。

 2017年版勧告(Diabetes Care 2017;40:S64-S74)でも「長期にわたって血糖管理が十分でなく、動脈硬化性心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者では心血管死や総死亡を減少させることを示したエンパグリフロジンとリラグルチドが考慮されるべきである」との記載はあったが、2018年版では「長期にわたって血糖管理が十分でなく」といった条件がなくなった。何よりも大きく変更されたのが「一般的な薬物療法勧告の図」と「糖尿病治療薬の一覧表」である。
 2017年版までの勧告では、2012年のADA・欧州糖尿病学会(EASD)の合同アルゴリズム(Diabetes Care 2012;35:1364-1379)を踏襲し、開始薬としてメトホルミンを挙げ、第二選択薬としてさまざまな薬剤(SU薬, チアゾリジン薬, DPP-4阻害薬, SGLT2阻害薬, GLP-1受容体作動薬, 基礎インスリン)を横一線に挙げていた(図1)。

図1. 2017年版勧告における薬物療法アルゴリズム



(Diabetes Care 2017;40:S64-S74)

 このタイプの図を目にしたことのある先生も多いであろう。それが今回は、第二選択薬を横並びにはせず、まずは患者を心血管疾患の有無で分けることを求めたのである(図2)。

図2. 2018年版勧告における薬物療法アルゴリズム



 その上で、心血管疾患の既往のある患者に対しては心血管疾患保護の科学的根拠のある治療薬を推奨するというスタンスを取り、そのために薬物一覧表の記載を大きく変更した。

 2017年版までは表の1行目(項目名)は、

① クラス(例;ビグアナイド)
② 薬剤名(例;メトホルミン)
③ 基礎的作用機序(例;AMPキナーゼ活性化)
④ 臨床的作用機序(例;肝糖産生低下)
⑤ 有益性(例;豊富な使用経験、低血糖がまれ、心血管イベント抑制、比較的HbA1c低下作用が強い)
⑥ 不利益〔例;消化器症状、VB12欠乏、推算糸球体濾過量(eGFR)

―の7項目であった。
 これに対し2018年版では、

① クラス(例;ビグアナイド)
② 薬剤名(例;メトホルミン)
③ 基礎的作用機序(例;AMPキナーゼ活性化)
④ 臨床的作用機序(例;肝糖産生低下)
⑤ 腎機能に対する用量調整の勧告

―というほぼ従来通りの表に加えて、

① クラス
② 血糖低下効果
③ 低血糖の発生頻度
④ 体重変化
⑤ 心血管イベント(動脈硬化症・心不全)
⑥ 費用
⑦ 経口/皮下注射
⑧ 腎臓(糖尿病性腎臓病の進行・腎不全時用量調整)
⑨追記

―の9項目(⑤と⑧を分けると11項目)が並んだ薬剤特異的要素の表が新設された(表)。

表. 治療薬選択において考慮すべき薬剤特異的および患者側の要素



(図2、表ともDiabetes Care 2018;41:S73-S85)

◇ 私の考察:薬剤の序列付けが進むか
 元来、脂質異常症の治療の中では、心血管疾患の一次(初発)予防と二次(再発)予防とを分けて考えるという概念が一般的であった。今回のADAの勧告では、糖尿病の薬物療法においても、心血管疾患の初発予防と再発予防を分けて考えるという概念が明確に示された。心血管疾患は脂質異常症だけでなく、糖尿病の合併症としても重要なものであり、こうした概念が定着していく可能性は高い。
 また、今回動脈硬化性心血管疾患に対して有益あるいは潜在的に有益とされた薬剤の一部(カナグリフロジン、エンパグリフロジン、リラグルチド)は、糖尿病性腎臓病の進行予防に対しても有益であったと表に示されている。そうした点も第二選択薬を横並びにできない理由になろう。
 わが国のガイドラインでは糖尿病治療薬は経口か皮下注射かで大別され、経口薬に関しては作用機序で患者ごとに適応を考えることになっている。しかし、臓器保護効果についての科学的根拠は考慮されていない。
 また、実臨床の現場では、例えばインスリン分泌が低下している患者への処方として、インスリン分泌促進系薬剤を考えたとしても、同じインスリン分泌促進系薬剤の中での(SU薬かグリニド薬かDPP-4阻害薬かの)選択が求められる。作用機序だけでは患者ごとの適応を考えることは不可能といえる。そうした意味では、わが国の実臨床の現場でも、今回のADAの勧告のような、あるいは米国臨床内分泌学会/米国内分泌医会(AACE/ACE)の勧告(Endocr Pract 2016, 22, 84-113)のような、薬剤を序列付したものの方が使い勝手が良いのではないかと感じる(上記文献の107ページ参照)。
 AACE/ACEの勧告では、単独療法の場合には、メトホルミン、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬...という序列付けが2016年の段階でなされている。今回のADAの勧告の改訂は、これを追認したような印象である。これらはいずれも海外の指針ではあるが、今後のわが国における糖尿病治療薬の処方動向も、今回の勧告の改訂によりなんらかの影響を受けていく可能性があるように感じる。


 経口血糖降下剤がたくさん開発・発売され、メカニズムや作用、特徴を考慮して選択する時代になってきたのですね。
 日本のガイドラインはその視点ではまだ不十分なようです。
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腸チフス/パラチフスとワクチンの現況

2018年02月12日 07時49分21秒 | 予防接種
 現在の日本で「腸チフス」と聞いても、一定年齢以上の方でないとピンとこないと思われます。
 私も病気としての腸チフスには縁がありませんが、予防接種に関して少し記憶があります。

 私が子どもの頃は予防接種は学校での集団接種が当たり前でした。
 親に書いてもらった予診票を学校へ持参するのですが、そこにはいつも「腸パラの予防接種で具合が悪くなったことがある」と書いてあるのが気になっていました。
 「腸パラ」とは「腸パラチフス」の略だということは、自分が小児科医になってから知りました。

 それから、「チフスタイプのサルモネラ菌感染症」は医師として経験しました。
 原因不明の発熱が続く患者さんが立て続けに入院してきて、その患者さん達の一部から血液培養でサルモネラ菌の仲間が検出されました。
 サルモネラ菌といえば、食中毒を起こす菌として有名です。
 しかし当の患者さん達に胃腸症状はないか、あっても軽度だったのでピンときませんでした。
 調べてみると、検出菌はチフスタイプ、つまり全身症状としての発熱が主症状だったのです。
 そして多発した理由は、子ども用の駄菓子(イカ菓子)が感染源であることがあとで判明しました。

 さて、国立感染症研究所のHPに腸チフス・パラチフス混合ワクチンの解説を見つけました。

□ 「腸チフスワクチンについて」より抜粋;
 腸チフス・パラチフス混合ワクチンは、1970年代前半までは日本でも接種されていたが、日本国内での腸チフス患者の減少、ワクチン接種後の強い副作用のため中止された。
 ・・・全菌体不活化ワクチン(加熱フェノール不活化)は、日本でも使用されていたものである。効果は2~3年持続するが、発熱、頭痛、全身倦怠感、局所の腫脹、接種部位の疼痛・硬結などの副作用が非常に強い。


 なるほど、なるほど。
 さて、近年でも腸チフス/パラチフスという感染症がなくなったわけではありません。
 腸チフスのワクチン接種は、現在日本では行われていませんが、世界的な多発地域あるいは海外旅行者のためにワクチン開発が続けられています。現在、世界では3種類のワクチン(弱毒生菌ワクチン、Vi多糖体ワクチン、全菌体不活化ワクチン)が使用されていますが、わが国では未承認です。

 さて、腸チフスワクチンに関するイギリスの報告を見つけました。
 日本で使用していた副反応の多い「全菌体不活化ワクチン」ではなく、「Vi多糖体ワクチン」を使用した検討です。
 が、驚いたのは血中抗体価の評価だけではなく、実際にチフス菌を経口投与して感染症状が出るかどうかを観察した、日本では考えにくいラジカルな手法。

※ 下線は私が引きました。

■ 腸チフス予防、ワクチンは有効か/Lancet
2017/10/12:ケアネット
 Vi-破傷風トキソイド結合型(Vi-TT)ワクチン接種は、18~60歳の腸チフスの疾病負荷を軽減し健康格差を減らす可能性が示された。英国・オックスフォード大学のCelina Jin氏らが、健康なボランティア成人を対象に行った初となるヒト対象の第IIb相単一施設無作為化試験の結果で、Lancet誌オンライン版2017年9月28日号で発表した。世界の貧困地域では毎年、チフス菌亜型(S Typhi)に約2,000万人が感染し、20万人が死亡している。莢膜Vi多糖体蛋白結合型ワクチン(Vi結合型ワクチン)は免疫原性があり乳児期から使用できるが、接種普及のための主要ワクチン候補とするには有効性に関するデータが乏しく、そのギャップを埋めるため、研究グループは、S Typhiの感染確立モデルを使ってVi-TTワクチンの有効性を評価した。

◇ ワクチン接種1ヵ月後にチフス菌を経口投与
 研究グループは2015年8月18日~2016年11月4日の間に、腸チフスのワクチン接種歴および感染症歴なし、または腸チフス流行地域の長期滞在歴がない18~60歳の健康なボランティアを集めて、試験を行った。
 被験者を無作為に3群に分け、Vi-TTワクチン、Vi多糖体蛋白結合型(Vi-PS)ワクチン、髄膜炎ワクチン(対照群)をそれぞれ単回投与した。被験者と試験担当医は接種割り付けについてマスキングされたが、ワクチン接種を担当した看護師は認識していた。
 被験者は、ワクチン接種の約1ヵ月後にチフス菌の経口投与(チャレンジ試験)を受け、その後2週間にわたり毎日血液検査を受け、腸チフス感染症罹患(38℃以上、12時間以上の持続的発熱またはチフス菌血症)の診断を受けた。
 主要エンドポイントは、腸チフス感染症者の割合(罹患率)であった。

◇ 腸チフス罹患率、対照群77%、Vi-TT群とVi-PS群は35%
 被験者は112例(Vi-TT群41例、Vi-PS群37例、対照群34例)で、そのうち、チャレンジ試験を完了した103例を対象に分析を行った。
 腸チフス感染基準を満たし罹患したと診断された割合は、対照群77%(24/31例)だったのに対し、Vi-TT群(13/37例)、Vi-PS群(13/35例)はいずれも35%で、ワクチン有効率は、Vi-TT群54.6%(95%信頼区間:26.8~71.8)とVi-PS群52.0%(同:23.2~70.0)だった。
 セロコンバージョンは、Vi-TT群が100%、Vi-PS群が88.6%で達成が認められ、ワクチン投与後1ヵ月の幾何平均抗体価はVi-TT群で有意に高率だった。
 試験期間中、重篤な有害事象が4件(Vi-TT群1件、Vi-PS群3件)報告されたが、いずれもワクチンとの関連は認められなかった。

<原著論文>
・Jin C, et al. Lancet. 2017 Sep 28. [Epub ahead of print]



 この論文に対する専門家のコメントもありました。
 腸チフスおよびそのワクチンの現況も解説されていて、役に立ちます。

<問題点>
・日本で承認されている腸チフスワクチンは現時点で存在しない。輸入ワクチンに頼っている。
・2歳未満の小児に対して使用可能なワクチンがこれまで存在しなかった(報告ワクチンに期待)。


■ 腸チフスにおける蛋白結合型ワクチンの有効性-細菌摂取による感染モデルでの検討(解説:板倉 泰朋 氏)
臨床研究適正評価教育機構:2017/11/09:ケアネット
コメンテーター:板倉 泰朋 氏(東京女子医科大学感染症科助教)

 腸チフスは南アジアやサハラ以南アフリカなど、上下水道の設備が不十分な途上国を中心に流行を認めている疾患である。世界では小児を中心に年間2,000万人以上が罹患し、死亡者は20万人に及んでいる。日本においてここ数年は年間40~60例ほどの届け出がなされ、輸入例が多くを占めている。
 現在、米国などで承認されている腸チフスワクチンとしては、経口弱毒生ワクチンであるTy21aVi抗原に対する莢膜多糖体ワクチンの2つがある。ただし、いずれのワクチンも疾患感受性の高い2歳未満の小児への利用ができないことが問題だった。その理由は、生ワクチンはカプセル状で5歳未満の小児は内服が難しいためであり、莢膜多糖体ワクチンは2歳以下の小児での免疫原性が十分でなく、推奨できないためである。
 2歳未満の小児への免疫原性を高めた蛋白結合型ワクチンとして、2001年にVi-rEPA(Vi-recombinant Pseudomonas aeruginosa exotoxin)の報告がなされ、2~5歳の小児に89%の有効性を示した。その後、蛋白結合型ワクチンの大規模試験がWHOの承認を得るべく計画されたものの、報告がない状況であった。
 本研究は、英国在住の健常成人において、腸チフスに対する蛋白結合型ワクチンの安全性と有効性を調査した第IIb相のランダム化比較試験である。T細胞依存性の蛋白結合型ワクチン(Vi-tetanus toxoid:Vi-TT)群、莢膜多糖体ワクチン(Vi-polysaccharide:Vi-PS)群、コントロール群の3群に分け、ワクチン接種後、腸チフス菌の経口摂取を行い、ワクチンの予防効果を発症群と非発症群で比較した。
 結果として、腸チフスの発症を菌血症または12時間以上の遷延する発熱と定義した場合、コントロール群での発症率は77%であった。Vi-TT群、Vi-PS群の発症率はともに35%であり、効果はVi-TT群54.6%(95%CI:26.8~71.8)、Vi-PS群52.0%(95%CI:23.2~70.0)とほぼ同等であった。SeroconversionはVi-TT群で100%、Vi-PS群で88.6%であり、抗体価もVi-TT群で高く、臨床的にもVi-TT群でより軽症となる傾向がみられた。重大な有害事象とワクチン接種との関連はなく、Vi-TTは今までのワクチンと同程度で安全に使用できると考えられた。
 薬剤耐性への取り組みは世界的な課題となっているが、市販で抗菌薬を入手できる国々での過剰使用が、耐性菌発生の重要な要因となっている。実際、腸チフスでも、フルオロキノロン系抗菌薬への耐性が進んでいる。ワクチンによる予防で抗菌薬使用量を削減することは、薬剤耐性への取り組みの一環としても期待が大きい。
 国内では、腸チフスワクチンの接種は流行地への渡航に際し推奨されているが、認可されたワクチン製剤はないため、輸入ワクチンを用いている。国内での使用機会は限られているが、世界的な普及に伴い流行地での罹患率の減少、ひいては薬剤耐性菌減少につながる。回りまわってその恩恵は国境を越えて全世界で享受されるだろう。さらなる蛋白結合型ワクチンに関する大規模試験での報告と今後の実地での利用拡大に期待したい。


■参考(記事が古い!)
・海外渡航と腸チフスワクチン(IASR、Vol. 30 p. 95-96: 2009年4月号
・本邦における腸チフスワクチンの安全性と有効性(Vol. 30 p. 96-97: 2009年4月号
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吸入ステロイドは小児の骨折を増やさない。

2018年02月12日 07時24分51秒 | 気管支喘息
 私が専門とするアレルギー分野では、ステロイド薬は治療の中心となる薬です。
 しかし一般の方にとって「ステロイド薬」は「副作用」が気になる薬の代表格。
 確かに、全身投与(内服や注射)では作用させたいターゲットを絞れないので、全身臓器の副作用が問題になります。
 アレルギー分野では、ターゲットを絞った局所製剤が開発されています。
 例えば喘息では吸入剤、アトピー性皮膚炎では軟膏、アレルギー性鼻炎では点鼻薬、等々。
 これらの局所ステロイド剤では、全身臓器の副作用が起きないよう工夫されているのです(ゼロではありませんが)。

 メディア報道も含めて、この点(全身投与と局所投与)が区別できていないことが、今でも混乱の根源です。

 さて、最近目にとまった論文を紹介します。
 ステロイド剤の副作用としての「骨折」は全身投与による「骨粗鬆症」由来です。
 吸入ステロイド剤を小児に使用した場合でもそれが問題になるのか否か、を検討したもので、結論から申し上げると「問題なかった」という想定内の内容です。
 カナダからの報告;

■ 吸入ステロイドは小児の骨折を増やさない 〜カナダのネステッドケースコントロール研究
2017/12/8:日経メディカル

 しかし小児喘息における吸入ステロイド剤の副作用問題は絶えず話題になります。
 その都度検証され、2014年には小児アレルギー学会が見解を発表しています。

■ 小児の吸入ステロイド療法に関して学会が見解 〜「漫然と高用量ICSで継続治療しない」
2014/2/27:日経メディカル

 当院では慢性化した小児喘息患者には吸入ステロイド剤を導入し、標準量でコントロールができない場合は多剤併用とし、それでもコントロール不良であれば総合病院へ紹介しています。
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