芽ばえ社、2005年発行。
「食養生」をテーマに探してたどり着いた本の一つです。
育児も食生活も迷ったら動物に聞け、というのが私のポリシーの一つであります。
著者は言わずと知れた元上野動物園園長で、著作もたくさんあります。
この本は動物と長年付き合ってきた立場から人間の食生活を考える内容です。
啓蒙書と云うよりエッセイで、読みやすく興味深いエピソードがたくさん並んでいてあっという間に読み終わりました。
中でも「動物のおっぱい成分は育児方法により濃度が異なる」という項は興味深い。ヒトの母乳は薄い方に属し、お母さんが抱っこしていつでも哺乳できるように育てるタイプ、と分析されています。
また、「動物の睡眠はいかに寝ないかに主眼が置かれている」という逆説的な説明に目から鱗が落ちました。確かに自然界で熟睡なんかしていると天敵に襲われて命を落としかねませんね。私は不眠症気味で丑三つ時を過ぎる頃から何度も目が覚めてしまうのですが、動物の本能に戻ったと捉えることも可能かもしれません(笑)。
ただ、専門的なことは途中で端折る傾向があり、私としては少々不満が残る箇所もありました。
まあ、楽しく流し読みするには格好の本ではあります。
<メモ>
■ フラミンゴのおっぱい
哺乳類はおっぱいで赤ちゃんを育てますが、鳥の仲間にもおっぱいを出すものがいます。フラミンゴとハトです。
ハトはピジョンミルク(鳩乳)を出します。食道の一部が乳腺になっていて、そこからチーズのようなものを分泌するのです。
フラミンゴはフラミンゴジュースというものを出してヒナに与えます。これはお母さんが自分の消化器の中で作る特殊な液体で、これを口移しでヒナに与えます。食道の末端にある嗉脳(ソノウ)という膨らみから乳に近い成分を分泌するのです。これはプロラクチンというホルモンの刺激によるものですが、雌ばかりか雄でも同じようにジュースを分泌できます。フラミンゴジュースはまるで血液のように真っ赤な液体です。
フラミンゴジュースの成分は哺乳類の乳の成分とよく似ています。脂肪15%、蛋白質8-9%、炭水化物0.1-0.2%で、血のような赤さはカンタキサンチンという色素によるものです。このジュースの中には、本物の血液が1%含まれています。
■ おっぱいの成分からみる多様な食生活
動物のおっぱいの乳成分の濃さは、種類によって大きく違います。赤ちゃんをいつも抱いているような種類の動物は薄いのです。人間、ゴリラ、チンパンジー、ニホンザルなどのように常に赤ちゃんを抱きしめていて、いつでもおっぱいが飲める動物の母乳には、大体2.8-3.2%の脂肪しかありません。
しかしアザラシやアシカなどのように、一日魚を追いかけて子どものそばにいつ戻れるかわからないという動物は、おっぱいは腹持ちがよくなる必要があり、脂肪は30%以上にもなります。
お母さんのおっぱいは、赤ちゃんの空腹の度合いによって濃さが変わります。飲み始めと飲み終わる時では、濃さ、特に乳糖の量が変わるのです。飲み始めのおっぱいは甘いのですが、3分後になると乳糖がほとんど出なくなりますから美味しくなくなります。それで赤ちゃんはおっぱいを飲むのを止めるのです。
ところが人工のミルクの場合は、最初から最後まで乳糖の量は変わらず3%ですから、赤ちゃんは太るわけです。
■ 小犬が口をペロペロ舐めるわけ
野生のオオカミの場合、お父さんは狩りで捕まえた獲物を胃袋の中にしまい込んで穴に戻ってきます。そして、子どもたちがお父さんの口の周りを舐めると、お父さんは胃袋の中の食べ物を全部吐き出すのです。これは半分消化された状態にある離乳食と云えます。
イヌを飼っている方はご存じかもしれませんが、小犬は抱き上げると口の周り、特に唇の辺りをペロペロなめるような仕草をします。これは吐き戻し給餌を求めているのです。イヌはオオカミの子孫ですから大昔の名残です。
■ Sweet is good, Bitter is bad.
木の実や果実を食べるサルなどを見ていると、あるものをやたら食べるのではなく、青い実は敬遠し、完熟して赤や黄色になったものを選んで食べていることがわかります。未熟な果実や木の実は青酸など有毒物質を含んでいることがあり、中毒のおそれがあることを知っているのです。甘くなったものは安全で、苦味のあるもの、酸っぱいものは危険であることが食性として根づいています。
■ 動物における育児分業
動物の世界でも育児のスタイルは種類によって千差万別、その種類にとって最も都合のよい形に収まっており、原則などと云うものは存在しません。
例えば、育児をする魚の60%はオスが役割を担っており、鳥類では実に90%以上がオスとメスの共同作業、哺乳動物では70%がメスによって為されています。
■ 動物の睡眠
動物たちの世界では、よりよく眠る、というよりも、いかに眠らずに(熟睡せずに)すますか、ということに主眼があるように思われます。
キリンやシマウマのような大型動物でさえ、熟睡している時間は1日のうちわずか20分前後と言われ、あとの眠りは、緊急の場合に備えてのうたたねの時間を過ごしているのです。狐のような肉食動物でも、連続睡眠時間は18分に過ぎないといいます。
一瞬油断が生命に関わる野生の世界では、感覚という情報のルートを閉ざしてしまう熟睡は、そのまま死につながるからです。眠っていても、情報ルートとしての感覚は働いており、すぐに行動に移れるように筋肉にも常時エンジンがかかっているのです。
最近不眠症が人間の精神医学では大きな問題となっているようですが、眠りの本質というものを突き詰めて考えていくと、意外な展開があるのかもしれません。熟睡だけが眠りだ、と言うことで悩むのは、どうやらお門違いのようだからです。
「食養生」をテーマに探してたどり着いた本の一つです。
育児も食生活も迷ったら動物に聞け、というのが私のポリシーの一つであります。
著者は言わずと知れた元上野動物園園長で、著作もたくさんあります。
この本は動物と長年付き合ってきた立場から人間の食生活を考える内容です。
啓蒙書と云うよりエッセイで、読みやすく興味深いエピソードがたくさん並んでいてあっという間に読み終わりました。
中でも「動物のおっぱい成分は育児方法により濃度が異なる」という項は興味深い。ヒトの母乳は薄い方に属し、お母さんが抱っこしていつでも哺乳できるように育てるタイプ、と分析されています。
また、「動物の睡眠はいかに寝ないかに主眼が置かれている」という逆説的な説明に目から鱗が落ちました。確かに自然界で熟睡なんかしていると天敵に襲われて命を落としかねませんね。私は不眠症気味で丑三つ時を過ぎる頃から何度も目が覚めてしまうのですが、動物の本能に戻ったと捉えることも可能かもしれません(笑)。
ただ、専門的なことは途中で端折る傾向があり、私としては少々不満が残る箇所もありました。
まあ、楽しく流し読みするには格好の本ではあります。
<メモ>
■ フラミンゴのおっぱい
哺乳類はおっぱいで赤ちゃんを育てますが、鳥の仲間にもおっぱいを出すものがいます。フラミンゴとハトです。
ハトはピジョンミルク(鳩乳)を出します。食道の一部が乳腺になっていて、そこからチーズのようなものを分泌するのです。
フラミンゴはフラミンゴジュースというものを出してヒナに与えます。これはお母さんが自分の消化器の中で作る特殊な液体で、これを口移しでヒナに与えます。食道の末端にある嗉脳(ソノウ)という膨らみから乳に近い成分を分泌するのです。これはプロラクチンというホルモンの刺激によるものですが、雌ばかりか雄でも同じようにジュースを分泌できます。フラミンゴジュースはまるで血液のように真っ赤な液体です。
フラミンゴジュースの成分は哺乳類の乳の成分とよく似ています。脂肪15%、蛋白質8-9%、炭水化物0.1-0.2%で、血のような赤さはカンタキサンチンという色素によるものです。このジュースの中には、本物の血液が1%含まれています。
■ おっぱいの成分からみる多様な食生活
動物のおっぱいの乳成分の濃さは、種類によって大きく違います。赤ちゃんをいつも抱いているような種類の動物は薄いのです。人間、ゴリラ、チンパンジー、ニホンザルなどのように常に赤ちゃんを抱きしめていて、いつでもおっぱいが飲める動物の母乳には、大体2.8-3.2%の脂肪しかありません。
しかしアザラシやアシカなどのように、一日魚を追いかけて子どものそばにいつ戻れるかわからないという動物は、おっぱいは腹持ちがよくなる必要があり、脂肪は30%以上にもなります。
お母さんのおっぱいは、赤ちゃんの空腹の度合いによって濃さが変わります。飲み始めと飲み終わる時では、濃さ、特に乳糖の量が変わるのです。飲み始めのおっぱいは甘いのですが、3分後になると乳糖がほとんど出なくなりますから美味しくなくなります。それで赤ちゃんはおっぱいを飲むのを止めるのです。
ところが人工のミルクの場合は、最初から最後まで乳糖の量は変わらず3%ですから、赤ちゃんは太るわけです。
■ 小犬が口をペロペロ舐めるわけ
野生のオオカミの場合、お父さんは狩りで捕まえた獲物を胃袋の中にしまい込んで穴に戻ってきます。そして、子どもたちがお父さんの口の周りを舐めると、お父さんは胃袋の中の食べ物を全部吐き出すのです。これは半分消化された状態にある離乳食と云えます。
イヌを飼っている方はご存じかもしれませんが、小犬は抱き上げると口の周り、特に唇の辺りをペロペロなめるような仕草をします。これは吐き戻し給餌を求めているのです。イヌはオオカミの子孫ですから大昔の名残です。
■ Sweet is good, Bitter is bad.
木の実や果実を食べるサルなどを見ていると、あるものをやたら食べるのではなく、青い実は敬遠し、完熟して赤や黄色になったものを選んで食べていることがわかります。未熟な果実や木の実は青酸など有毒物質を含んでいることがあり、中毒のおそれがあることを知っているのです。甘くなったものは安全で、苦味のあるもの、酸っぱいものは危険であることが食性として根づいています。
■ 動物における育児分業
動物の世界でも育児のスタイルは種類によって千差万別、その種類にとって最も都合のよい形に収まっており、原則などと云うものは存在しません。
例えば、育児をする魚の60%はオスが役割を担っており、鳥類では実に90%以上がオスとメスの共同作業、哺乳動物では70%がメスによって為されています。
■ 動物の睡眠
動物たちの世界では、よりよく眠る、というよりも、いかに眠らずに(熟睡せずに)すますか、ということに主眼があるように思われます。
キリンやシマウマのような大型動物でさえ、熟睡している時間は1日のうちわずか20分前後と言われ、あとの眠りは、緊急の場合に備えてのうたたねの時間を過ごしているのです。狐のような肉食動物でも、連続睡眠時間は18分に過ぎないといいます。
一瞬油断が生命に関わる野生の世界では、感覚という情報のルートを閉ざしてしまう熟睡は、そのまま死につながるからです。眠っていても、情報ルートとしての感覚は働いており、すぐに行動に移れるように筋肉にも常時エンジンがかかっているのです。
最近不眠症が人間の精神医学では大きな問題となっているようですが、眠りの本質というものを突き詰めて考えていくと、意外な展開があるのかもしれません。熟睡だけが眠りだ、と言うことで悩むのは、どうやらお門違いのようだからです。