佼成出版社、2007年
副題 ー医者だから言えること、親にしかできないことー
著者は児童精神科医で、現在の肩書きは北海道大学教授。
内容は、系統立てて記述する教科書タイプではなく、事例を中心に解説していく読み物タイプ。
堅苦しさがなく、すいすい読み進めることができました。
合同家族面接の経緯などは現場からの実況中継を聞いている感覚で、自分もそこに参加しているかのような錯覚さえ覚えました。
親子関係の重要性を説き、著者自身の family affair についても触れ、専門家も一人の親としては決してその道の達人として振る舞えるわけではないことを告白しています。
全編を通して感じたのは、成長期・思春期の子どもの心のひたむきさと脆さ、それを支える親の大変さと切なさ、でした。
「子どもを見守ると云うことは、子どもに手をかけたいという気持ちを我慢し、失敗したらかわいそうだという親心を抑え、親に頼ってくれない寂しさをこらえつつ、同時にその成長と自立をかみしめながら、温かい眼で観察することなのです。」
という文言は身につまされました。
思春期の子どもを持つ、悩める親へのエールですね。
<メモ>
気になった部分を抜き出し書き出し。
■ うつ病と診断した患者家族への説明
①今の状態は怠けや逃避ではなく、うつという身体の病気であること。
②十分な休養と薬物療法が必要であること。
③今の状態は3ヶ月くらいで改善するが、薬はその後もしばらく飲み続ける必要があり、治療の全体としては1年くらいを考えること。
④うつの症状として、ふと「生きていてもしかたがない」などという考えが浮かぶかもしれないが、決して早まったことはしないこと。
⑤治療中、症状に一進一退があるが、あまり一喜一憂しないこと。
⑥重大な決断は、治療終了まで延期すること。
⑦今後どうしたらよいか一緒に考えていくこと。
■ うつを発症した子どもの家族に求められる変化
①子どものことを観察し、理解し、コミュニケーションをとる。
子どもは依存と自律のはざまにありながら、心理的親離れと独り立ちを課題にしている。
②子どもの危機は家族全体の危機である。
③お互いに自分の意見を伝え合う。
④新しい視点から問題を捉え直す。
■ 医者は自分の家族を治療できない
・人の話を上手く聞けるのは、結局他人事だから。
■ 「見守ること」の難しさ
・子どものためを思ってすることが、子どもにとってはお節介であり、勧奨であり、大きなお世話。
・親は、子どもを見守りながら、必要なときのみ手を貸すという、とても大変な作業を行わなければならない。
・子どもが思春期を迎えたら、相手を独立した一人の人間として尊重することが必要。
・子どもを見守ると云うことは、子どもに手をかけたいという気持ちを我慢し、失敗したらかわいそうだという親心を抑え、親に頼ってくれない寂しさをこらえつつ、同時にその成長と自立をかみしめながら、温かい眼で観察すること。
・親を責めてもよいことがないのは、責められて落ち込んでいる親を見て、子どもはなおいっそう申し訳ないと自分を責めてしまうから。
■ 「絶対受容」と「ほどよい母親」
子どもの問題をすべて母親の愛情不足が原因だと指摘し、スキンシップと絶対受容を実践するように指導されることがあるが、帰って逆効果となることもある。
親がこのような対応をすると子どもは「退行現象」を起こし、ワガママになったり、赤ちゃん返りをしたりするようになってしまう。
イギリスの小児科医&精神分析医であったウィニコットは、適切な母親の養育の姿を「グッドイナフ・マザー(ほどよい母親)」と呼んだ。要するに、少しおっちょこちょいで、さほど神経質ではなく、愛情のある母親のこと。
■ 父親の寂しさ
現代の父親は私も含めて、家でとても寂しい思いをしている。居場所がないのである。
父親の寂しさは社会全体の問題。
■ 子どもに問題が起きたときの十ヶ条
①両親で何度もじっくり話し合う
②適度な反省は必要だが、必要以上に自分たちを責めない。原因を追及しすぎない。
③これから何をすべきかを考える。これまでの自分たちの方法でうまくいかない場合は、別の方法を考えてみる。
④誰かに相談する。一人であるいは両親のみで問題を抱え込まない。
⑤相談機関の医師、カウンセラー、相談員などと信頼関係を築き、情報を交換し合って、協力していく。父親も相談機関に可能な限り行く。
⑥子どもの立場になって考える。子どもが病気の場合、病気について十分理解する。
⑦子どものよいところ、プラスの側面を見る。子どもが現在できている部分を評価する。
⑧子どもが思春期に達したら、これまでの対応を改め、一人の人格として尊重する。
⑨最終的には、自分たち両親が対応し、自分たちが支え、自分たちが状況を変え、自分たちが変わっていくしかないのだと腹をくくる。自分たちが解決のためのキーパーソンであると認識する。
誰かにすべてを頼りたいという過剰な依存はあきらめ、なおかつ何でも自分で背負い込むという意地も捨てるべし。
⑩全てを一気に変えることは考えない。小さな変化を大事にする。今、ここから、できることから始めていく。
逆転満塁ホームランを狙わずに、バントでコツコツと1点ずつ返していくという心構えが必要です。
■ 親子の合い言葉
・「あせらず」「あわてず」「あきらめず」
・今、ここから、できることから始めよう
・ジャマイカ療法:「じゃあ、まあ、いいか~」
■ 「うつ」と「単なる落ち込み」との違い
1.一定の骨格を有する
うつは決して一つの症状だけではなく、いくつかの特有な症状を骨格とした複合体験。本質的な症状は、身体と精神の両面に現れる7つの症状から也、全体のエネルギーが低下したような状態。
① 睡眠障害:途中で目が覚める、朝早く眼が覚める
② 食欲障害:食欲がない、体重減少
③ 日内変動:朝の調子が悪く、夕方から楽になる
④ 身体のだるさ:身体が重く、疲れやすい
⑤ 興味・感心の喪失:好きなことが楽しめない
⑥ 意欲・気力の減退:気力が出ず、何事もおっくう
⑦ 集中力の低下:集中できず、頭が働かない
2.一定の強さを有する
軽症であってもいくつかのまとまった症状がしぶとく持続する強さを有する。ただし子どもは大人と比較して「抑うつ気分」を訴えることが少ないことに注意。
3.一定期間持続する
最低2週間以上持続する。
※ うつと不登校を見分けるポイント:
・学校へ行かなければならないというプレッシャーがない状態においても、うつ症状が存在するかどうか。日曜日でも夏休みでも同様の状態が続くなら、うつを疑うべき。
・最もリラックスできる状況で自分の好きなことを本当に楽しめるかどうか。昼夜逆転した子どもが、深夜に好きなインターネットやゲームを楽しんでいるのであれば、うつ病ではないかもしれません。
・明らかな心因(例えばいじめ)があったとしても、うつ病の中核症状がそろっているのであれば、心因を契機にうつ病が発症したと考えるべき。
■ うつ病の診断基準(アメリカ精神医学会)
以下のうち5つ以上が2週間以上持続。少なくとも1つはA症状
A.
(1)抑うつ気分・・・子ども、青年はイライラ感でもよい
(2)興味・喜びの減退
B.
(3)食欲不振、体重減少(ときに過食)
(4)不眠(ときに過眠)
(5)精神運動性の焦燥、または制止
(6)易疲労感、気力減退
(7)無価値感、過剰な罪悪感
(8)思考力・集中力減退、決断困難
(9)自殺念慮、自殺企図
■ うつ病の分類
1.うつ病性障害(うつ病)
①大うつ病
②気分変調障害:軽症のうつ状態が長期間(児童・思春期では少なくとも1年間)持続
2.双極性障害(躁うつ病)
①双極型障害:うつ病と重症の躁状態を繰り返す
②双極型障害:うつ病と軽症の躁状態を繰り返す
■ うつ病治療の七原則
(1)軽いけれども治療の対象となる「不調」であって単なる「気のゆるみ」や「怠け」ではないことを告げる。
(2)できることなら、早い時期に心理的休息をとるほうが立ち直りやすいことを告げる。
(3)予想される治癒の時点を告げる。
(4)治療の間、自己破壊的な行動(例えば自殺企図など)をしないことを約束してもらう。
(5)治療中、症状に一進一退のあること(三寒四温的な起伏のあり得ること)を繰り返し告げる
(6)人生に関わる大決断は、治療終了まで延期するようアドバイスする。
(7)服薬の重要性、服薬で生じるかもしれない副作用をあらかじめ告げ、関心のある人にはその作用機序を説明する。
アプローチの基本;まず心身ともに疲れ果てている子どもに休息を勧め、干渉的にならないように傍らに寄り添うこと、そして症状を確認しながら、つらかったこれまでの状況を理解し、元気が出てきたら、あせらずに少しずつ、これからできることを共に考えていくことに尽きる。回復期は自分のできる力の60~70%程度にセーブする感覚で。
■ うつ病の薬物療法
抗うつ薬は単なる気休めではなく、風邪に対する解熱剤のような対症療法でもなく、うつの本質的なところに効くと考えられている。
いずれの抗うつ薬も有効な量を1~2週間飲み続けて初めて効果が現れ、副作用は最初の1週間に出現しやすいことをあらかじめ理解しておく必要がある。副作用が出現するのは服薬後3~4日がピークで、その後1週間程で次第に軽減していくのがふつう、効果はその後次第に現れる。
薬物療法のコツは「使うのであれば必要十分な量を使い、効かなければ薬を変更するか使用を止める。中途半端な量を漫然と使わない」こと。
子どものうつ病に対する第一選択薬はSSRIのフルボキサミン、第二選択薬はサートラリン(SSRI)かミルナシプラン(SNRI)、次にパロキセチン(警告有り)、効果なければ三環系・四環系抗うつ薬を使用する。
治療期間の目安;薬物療法によりうつ状態が治って本来の状態にまで回復するのに平均3ヶ月、その後も同量を6ヶ月維持し、その後2~3ヶ月かけて徐々に減量していき、約1年で服薬中止、治療終了。うつ病が治っても1年間は無理をしないで少しのんびり生活することが大切。
・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)・・・効果は他の抗うつ薬と同等、副作用が少ないことが特徴
① フルボキサミン:軽症から中等症が適応。抗うつ効果として不安や抑うつ気分に有効。他にもパニック障害、強迫性障害、社会恐怖、過食症などの不安障害に有効性が認められている。副作用として、消化器症状(吐き気、食欲減退、下痢、便秘など)、神経症状(不眠、手の震えなど)がある。副作用は服用初期に出現し、服用を続けると軽減していくのがふつう。
② パロキセチン:まれに情動不安定や自傷行為を増加させる可能性があるとして2003年に使用禁忌となり、検討の結果2006年に禁忌が解除され警告へ変更された。
③ サートラリン:効果・副作用はフルボキサミンと同等。
・SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
① ミルナシプラン:軽症から中等症が適応。大人のうつ病に対してはSSRIと同等かそれ以上の有効性を有し、副作用もSSRI同様に少ない。
・三環系抗うつ薬:古くから使われてきた薬。中等症から重症が適応で副作用も強い。
・四環系抗うつ薬:三環系抗うつ薬の副作用の軽減を目指して開発された薬。副作用は比較的少なく、軽症から中等症が適応。
<著者の考える薬物療法の流れ>
子どものうつ病に対してSSRIを用いるときには、特にはじめの1週間は最小限から始めて、慎重に経過を観察する。ごく希にイライラ感が増し、情緒不安定になる人(つまりSSRIが合わない人)や、くすりが効き過ぎて急激に躁状態になってしまい気分が不安定になる人がいるため。しかし、これはSSRIだけではなく他の抗うつ薬にも共通して見られる問題である。
副題 ー医者だから言えること、親にしかできないことー
著者は児童精神科医で、現在の肩書きは北海道大学教授。
内容は、系統立てて記述する教科書タイプではなく、事例を中心に解説していく読み物タイプ。
堅苦しさがなく、すいすい読み進めることができました。
合同家族面接の経緯などは現場からの実況中継を聞いている感覚で、自分もそこに参加しているかのような錯覚さえ覚えました。
親子関係の重要性を説き、著者自身の family affair についても触れ、専門家も一人の親としては決してその道の達人として振る舞えるわけではないことを告白しています。
全編を通して感じたのは、成長期・思春期の子どもの心のひたむきさと脆さ、それを支える親の大変さと切なさ、でした。
「子どもを見守ると云うことは、子どもに手をかけたいという気持ちを我慢し、失敗したらかわいそうだという親心を抑え、親に頼ってくれない寂しさをこらえつつ、同時にその成長と自立をかみしめながら、温かい眼で観察することなのです。」
という文言は身につまされました。
思春期の子どもを持つ、悩める親へのエールですね。
<メモ>
気になった部分を抜き出し書き出し。
■ うつ病と診断した患者家族への説明
①今の状態は怠けや逃避ではなく、うつという身体の病気であること。
②十分な休養と薬物療法が必要であること。
③今の状態は3ヶ月くらいで改善するが、薬はその後もしばらく飲み続ける必要があり、治療の全体としては1年くらいを考えること。
④うつの症状として、ふと「生きていてもしかたがない」などという考えが浮かぶかもしれないが、決して早まったことはしないこと。
⑤治療中、症状に一進一退があるが、あまり一喜一憂しないこと。
⑥重大な決断は、治療終了まで延期すること。
⑦今後どうしたらよいか一緒に考えていくこと。
■ うつを発症した子どもの家族に求められる変化
①子どものことを観察し、理解し、コミュニケーションをとる。
子どもは依存と自律のはざまにありながら、心理的親離れと独り立ちを課題にしている。
②子どもの危機は家族全体の危機である。
③お互いに自分の意見を伝え合う。
④新しい視点から問題を捉え直す。
■ 医者は自分の家族を治療できない
・人の話を上手く聞けるのは、結局他人事だから。
■ 「見守ること」の難しさ
・子どものためを思ってすることが、子どもにとってはお節介であり、勧奨であり、大きなお世話。
・親は、子どもを見守りながら、必要なときのみ手を貸すという、とても大変な作業を行わなければならない。
・子どもが思春期を迎えたら、相手を独立した一人の人間として尊重することが必要。
・子どもを見守ると云うことは、子どもに手をかけたいという気持ちを我慢し、失敗したらかわいそうだという親心を抑え、親に頼ってくれない寂しさをこらえつつ、同時にその成長と自立をかみしめながら、温かい眼で観察すること。
・親を責めてもよいことがないのは、責められて落ち込んでいる親を見て、子どもはなおいっそう申し訳ないと自分を責めてしまうから。
■ 「絶対受容」と「ほどよい母親」
子どもの問題をすべて母親の愛情不足が原因だと指摘し、スキンシップと絶対受容を実践するように指導されることがあるが、帰って逆効果となることもある。
親がこのような対応をすると子どもは「退行現象」を起こし、ワガママになったり、赤ちゃん返りをしたりするようになってしまう。
イギリスの小児科医&精神分析医であったウィニコットは、適切な母親の養育の姿を「グッドイナフ・マザー(ほどよい母親)」と呼んだ。要するに、少しおっちょこちょいで、さほど神経質ではなく、愛情のある母親のこと。
■ 父親の寂しさ
現代の父親は私も含めて、家でとても寂しい思いをしている。居場所がないのである。
父親の寂しさは社会全体の問題。
■ 子どもに問題が起きたときの十ヶ条
①両親で何度もじっくり話し合う
②適度な反省は必要だが、必要以上に自分たちを責めない。原因を追及しすぎない。
③これから何をすべきかを考える。これまでの自分たちの方法でうまくいかない場合は、別の方法を考えてみる。
④誰かに相談する。一人であるいは両親のみで問題を抱え込まない。
⑤相談機関の医師、カウンセラー、相談員などと信頼関係を築き、情報を交換し合って、協力していく。父親も相談機関に可能な限り行く。
⑥子どもの立場になって考える。子どもが病気の場合、病気について十分理解する。
⑦子どものよいところ、プラスの側面を見る。子どもが現在できている部分を評価する。
⑧子どもが思春期に達したら、これまでの対応を改め、一人の人格として尊重する。
⑨最終的には、自分たち両親が対応し、自分たちが支え、自分たちが状況を変え、自分たちが変わっていくしかないのだと腹をくくる。自分たちが解決のためのキーパーソンであると認識する。
誰かにすべてを頼りたいという過剰な依存はあきらめ、なおかつ何でも自分で背負い込むという意地も捨てるべし。
⑩全てを一気に変えることは考えない。小さな変化を大事にする。今、ここから、できることから始めていく。
逆転満塁ホームランを狙わずに、バントでコツコツと1点ずつ返していくという心構えが必要です。
■ 親子の合い言葉
・「あせらず」「あわてず」「あきらめず」
・今、ここから、できることから始めよう
・ジャマイカ療法:「じゃあ、まあ、いいか~」
■ 「うつ」と「単なる落ち込み」との違い
1.一定の骨格を有する
うつは決して一つの症状だけではなく、いくつかの特有な症状を骨格とした複合体験。本質的な症状は、身体と精神の両面に現れる7つの症状から也、全体のエネルギーが低下したような状態。
① 睡眠障害:途中で目が覚める、朝早く眼が覚める
② 食欲障害:食欲がない、体重減少
③ 日内変動:朝の調子が悪く、夕方から楽になる
④ 身体のだるさ:身体が重く、疲れやすい
⑤ 興味・感心の喪失:好きなことが楽しめない
⑥ 意欲・気力の減退:気力が出ず、何事もおっくう
⑦ 集中力の低下:集中できず、頭が働かない
2.一定の強さを有する
軽症であってもいくつかのまとまった症状がしぶとく持続する強さを有する。ただし子どもは大人と比較して「抑うつ気分」を訴えることが少ないことに注意。
3.一定期間持続する
最低2週間以上持続する。
※ うつと不登校を見分けるポイント:
・学校へ行かなければならないというプレッシャーがない状態においても、うつ症状が存在するかどうか。日曜日でも夏休みでも同様の状態が続くなら、うつを疑うべき。
・最もリラックスできる状況で自分の好きなことを本当に楽しめるかどうか。昼夜逆転した子どもが、深夜に好きなインターネットやゲームを楽しんでいるのであれば、うつ病ではないかもしれません。
・明らかな心因(例えばいじめ)があったとしても、うつ病の中核症状がそろっているのであれば、心因を契機にうつ病が発症したと考えるべき。
■ うつ病の診断基準(アメリカ精神医学会)
以下のうち5つ以上が2週間以上持続。少なくとも1つはA症状
A.
(1)抑うつ気分・・・子ども、青年はイライラ感でもよい
(2)興味・喜びの減退
B.
(3)食欲不振、体重減少(ときに過食)
(4)不眠(ときに過眠)
(5)精神運動性の焦燥、または制止
(6)易疲労感、気力減退
(7)無価値感、過剰な罪悪感
(8)思考力・集中力減退、決断困難
(9)自殺念慮、自殺企図
■ うつ病の分類
1.うつ病性障害(うつ病)
①大うつ病
②気分変調障害:軽症のうつ状態が長期間(児童・思春期では少なくとも1年間)持続
2.双極性障害(躁うつ病)
①双極型障害:うつ病と重症の躁状態を繰り返す
②双極型障害:うつ病と軽症の躁状態を繰り返す
■ うつ病治療の七原則
(1)軽いけれども治療の対象となる「不調」であって単なる「気のゆるみ」や「怠け」ではないことを告げる。
(2)できることなら、早い時期に心理的休息をとるほうが立ち直りやすいことを告げる。
(3)予想される治癒の時点を告げる。
(4)治療の間、自己破壊的な行動(例えば自殺企図など)をしないことを約束してもらう。
(5)治療中、症状に一進一退のあること(三寒四温的な起伏のあり得ること)を繰り返し告げる
(6)人生に関わる大決断は、治療終了まで延期するようアドバイスする。
(7)服薬の重要性、服薬で生じるかもしれない副作用をあらかじめ告げ、関心のある人にはその作用機序を説明する。
アプローチの基本;まず心身ともに疲れ果てている子どもに休息を勧め、干渉的にならないように傍らに寄り添うこと、そして症状を確認しながら、つらかったこれまでの状況を理解し、元気が出てきたら、あせらずに少しずつ、これからできることを共に考えていくことに尽きる。回復期は自分のできる力の60~70%程度にセーブする感覚で。
■ うつ病の薬物療法
抗うつ薬は単なる気休めではなく、風邪に対する解熱剤のような対症療法でもなく、うつの本質的なところに効くと考えられている。
いずれの抗うつ薬も有効な量を1~2週間飲み続けて初めて効果が現れ、副作用は最初の1週間に出現しやすいことをあらかじめ理解しておく必要がある。副作用が出現するのは服薬後3~4日がピークで、その後1週間程で次第に軽減していくのがふつう、効果はその後次第に現れる。
薬物療法のコツは「使うのであれば必要十分な量を使い、効かなければ薬を変更するか使用を止める。中途半端な量を漫然と使わない」こと。
子どものうつ病に対する第一選択薬はSSRIのフルボキサミン、第二選択薬はサートラリン(SSRI)かミルナシプラン(SNRI)、次にパロキセチン(警告有り)、効果なければ三環系・四環系抗うつ薬を使用する。
治療期間の目安;薬物療法によりうつ状態が治って本来の状態にまで回復するのに平均3ヶ月、その後も同量を6ヶ月維持し、その後2~3ヶ月かけて徐々に減量していき、約1年で服薬中止、治療終了。うつ病が治っても1年間は無理をしないで少しのんびり生活することが大切。
・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)・・・効果は他の抗うつ薬と同等、副作用が少ないことが特徴
① フルボキサミン:軽症から中等症が適応。抗うつ効果として不安や抑うつ気分に有効。他にもパニック障害、強迫性障害、社会恐怖、過食症などの不安障害に有効性が認められている。副作用として、消化器症状(吐き気、食欲減退、下痢、便秘など)、神経症状(不眠、手の震えなど)がある。副作用は服用初期に出現し、服用を続けると軽減していくのがふつう。
② パロキセチン:まれに情動不安定や自傷行為を増加させる可能性があるとして2003年に使用禁忌となり、検討の結果2006年に禁忌が解除され警告へ変更された。
③ サートラリン:効果・副作用はフルボキサミンと同等。
・SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
① ミルナシプラン:軽症から中等症が適応。大人のうつ病に対してはSSRIと同等かそれ以上の有効性を有し、副作用もSSRI同様に少ない。
・三環系抗うつ薬:古くから使われてきた薬。中等症から重症が適応で副作用も強い。
・四環系抗うつ薬:三環系抗うつ薬の副作用の軽減を目指して開発された薬。副作用は比較的少なく、軽症から中等症が適応。
<著者の考える薬物療法の流れ>
子どものうつ病に対してSSRIを用いるときには、特にはじめの1週間は最小限から始めて、慎重に経過を観察する。ごく希にイライラ感が増し、情緒不安定になる人(つまりSSRIが合わない人)や、くすりが効き過ぎて急激に躁状態になってしまい気分が不安定になる人がいるため。しかし、これはSSRIだけではなく他の抗うつ薬にも共通して見られる問題である。