副題:先進医療「うつ症状の光トポグラフィー検査」ガイドブック
編集:心の健康に光トポグラフィー検査を応用する会
昨今話題の「光トポグラフィー」。
一言で表現すると「自然な状態の被験者の大脳皮質の賦活反応性の時間経過を、非侵襲的で簡便に全体として捉えることができる検査」となります(本文より)。
それは、代表的な精神疾患である「統合失調症」「うつ病」「双極性障害」を画像診断で鑑別しようという画期的なもの。
研究の結果、与えられた簡単な発語性課題をこなす際の前頭部・側頭部の活性化パターンが各疾患により異なることが判明しました。
それを元に、症状と問診が中心だった従来の診断法に、客観的な指標がようやく適用される時代になり得たのです。
この本では、光トポグラフィーの検査結果をどう読み取るかをわかりやすく解説されています。
検査をする医師向けという設定ですが、検査を受けた患者さんも自分の検査結果と見比べて参考になるレベルだと思います。
専門外ながら一通り読んだ後、診断名を隠して波形だけ見るブラインドテストにトライしましたが、なかなか当たりません(苦笑)。微妙というかオーバーラップする例もたくさんあるんだろうな、と感じました。
まあ、病気の本質を捉えた検査ではなく、「脳血流の変化」という一つのパラメーターで判断・鑑別する方法ですから、自ずと限界がありそうです。
「診断の感度は約70%」と記されています。
この数字は高いのか低いのか?
私にとって「70%」のイメージは・・・例えて云うなら「発熱当日のインフルエンザ迅速検査の感度」ですね。
熱が出てすぐ検査しても感度が低いので、インフルエンザに罹っていても30%は見逃してしまう。
希望が強ければ検査しますが、陰性という結果であっても「明日再検査が必要です」と説明してお帰りいただいています。
そのくらいの感覚です。過信は禁物。
実際の診療現場では、うつ病と双極性障害の型は躁状態が目立たないので鑑別が初期は困難とされています。この二つの疾患は治療法が異なるのでやっかいです。
うつ病と診断されて治療を長年受けているものの思うように改善しないという患者さんは、光トポグラフィー検査を受けてうつ病パターンなのか、双極性障害が疑わしいのか、一度確認する価値が十分あると思いました。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
■ 診断精度
・うつ病と統合失調症・・・感度69%、特異度69%
・うつ病と双極性障害・・・感度69%、特異度81%
■ 基本知識
一般に、脳の神経細胞が活動すると、その活動に比例して脳局所の血液量が増加する。PETを用いた研究により、神経活動時には局所脳血流量は50%程度上昇するが、脳酸素代謝の上昇は5%程度にとどまることが明らかにされており、脳が必要とする以上の酸素が神経活動部位に送り込まれるため、ふつう、課題遂行中の酸化ヘモグロビンは増加する。
この検査は、脳血液中の酸化ヘモグロビン量の変化を近赤外光で捉えて評価するもの。
■ 長所と短所
【長所】
①光を用いるため、完全に非侵襲で幼児を含めて繰り返し測定しても声帯への有害な影響がない。
②市販の装置でも0.1秒毎に測定でき、時間分解能が高い。
③装置が小型で移動可能である。
④坐位や立位などの自然な姿勢で、発声野運動を行いながら検査可能である。
【短所】
①空間分解能が1-3cm程度と低く、脳構造との対応は脳回程度。
②主に大脳皮質を測定対象とし、深部の脳構造は測定できない。
③ヘモグロビン濃度のベースラインからの相対的な変化である。
④頭皮や筋肉、頭蓋骨の関与も含まれるため、タスクデザインには必ず統制条件を作ってタスクによって引き起こされた変化を抽出する工夫が必要。
■ 波形の解釈
① 初期賦活:課題開始5秒間の反応の速さ
・速やか・・・ ≧0.0009
・緩やか・・・ 0.0009> ≧0.0002
・なし・・・ 0.0002>
② 積分値:課題中の反応の大きさ
・大きい・・・ ≧114
・中程度・・・ 114> ≧54
・小さい・・・ 54> ≧-13
・陰転・・・ -13>
③ 重心値:検査全体を通してみた場合の反応タイミング
・中盤・・・ ≦54
・終盤・・・ >54
・なし・・・ 小さいor陰転
※ 側頭部の積分値:前頭部より側頭部の反応の方が大きいことが多い。
・大きい・・・ ≧111
・中程度・・・ 111> ≧55
・小さい・・・ 55> ≧3
・陰転・・・ 3>
■ 健常者と疾患別波形パターン
【健常者】
・前頭部の課題中の積分値は大きく、重心値は課題前半~中盤。初期賦活は速やか。
・左右側頭部の積分値は大きい。
【大うつ病】
・前頭部の課題中の積分値は小さく、重心値は課題前半~中盤。初期賦活は速やか。
・左右側頭部の積分値は小さい。
【双極性障害】
・前頭部の課題中の積分値は中程度で、重心値は課題終盤。初期賦活は緩やか。
・左右側頭部の積分値は小さい~中程度。
【統合失調症】
・前頭部の課題中の積分値は小さく、重心値は課題終盤。課題中に不規則な変化を伴うと共に、課題終了後に反応が増加することがある(再上昇)。
・左右側頭部の積分値は小さい。
■ 多施設共同研究データによる鑑別アルゴリズム
<前頭部チャンネル平均波形>
・大うつ病障害においては前頭葉皮質の賦活の量が減少
・双極性障害においては賦活の潜時が遅延
・統合失調症においては賦活のタイミング不良
<側頭部チャンネル平均波形>
・健常者と精神疾患患者を全体として捉えると健常者との間に大きさの差異を認めたが、それぞれの疾患ごとには特異的な変化パターンの差異は認めなかった。
編集:心の健康に光トポグラフィー検査を応用する会
昨今話題の「光トポグラフィー」。
一言で表現すると「自然な状態の被験者の大脳皮質の賦活反応性の時間経過を、非侵襲的で簡便に全体として捉えることができる検査」となります(本文より)。
それは、代表的な精神疾患である「統合失調症」「うつ病」「双極性障害」を画像診断で鑑別しようという画期的なもの。
研究の結果、与えられた簡単な発語性課題をこなす際の前頭部・側頭部の活性化パターンが各疾患により異なることが判明しました。
それを元に、症状と問診が中心だった従来の診断法に、客観的な指標がようやく適用される時代になり得たのです。
この本では、光トポグラフィーの検査結果をどう読み取るかをわかりやすく解説されています。
検査をする医師向けという設定ですが、検査を受けた患者さんも自分の検査結果と見比べて参考になるレベルだと思います。
専門外ながら一通り読んだ後、診断名を隠して波形だけ見るブラインドテストにトライしましたが、なかなか当たりません(苦笑)。微妙というかオーバーラップする例もたくさんあるんだろうな、と感じました。
まあ、病気の本質を捉えた検査ではなく、「脳血流の変化」という一つのパラメーターで判断・鑑別する方法ですから、自ずと限界がありそうです。
「診断の感度は約70%」と記されています。
この数字は高いのか低いのか?
私にとって「70%」のイメージは・・・例えて云うなら「発熱当日のインフルエンザ迅速検査の感度」ですね。
熱が出てすぐ検査しても感度が低いので、インフルエンザに罹っていても30%は見逃してしまう。
希望が強ければ検査しますが、陰性という結果であっても「明日再検査が必要です」と説明してお帰りいただいています。
そのくらいの感覚です。過信は禁物。
実際の診療現場では、うつ病と双極性障害の型は躁状態が目立たないので鑑別が初期は困難とされています。この二つの疾患は治療法が異なるのでやっかいです。
うつ病と診断されて治療を長年受けているものの思うように改善しないという患者さんは、光トポグラフィー検査を受けてうつ病パターンなのか、双極性障害が疑わしいのか、一度確認する価値が十分あると思いました。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
■ 診断精度
・うつ病と統合失調症・・・感度69%、特異度69%
・うつ病と双極性障害・・・感度69%、特異度81%
■ 基本知識
一般に、脳の神経細胞が活動すると、その活動に比例して脳局所の血液量が増加する。PETを用いた研究により、神経活動時には局所脳血流量は50%程度上昇するが、脳酸素代謝の上昇は5%程度にとどまることが明らかにされており、脳が必要とする以上の酸素が神経活動部位に送り込まれるため、ふつう、課題遂行中の酸化ヘモグロビンは増加する。
この検査は、脳血液中の酸化ヘモグロビン量の変化を近赤外光で捉えて評価するもの。
■ 長所と短所
【長所】
①光を用いるため、完全に非侵襲で幼児を含めて繰り返し測定しても声帯への有害な影響がない。
②市販の装置でも0.1秒毎に測定でき、時間分解能が高い。
③装置が小型で移動可能である。
④坐位や立位などの自然な姿勢で、発声野運動を行いながら検査可能である。
【短所】
①空間分解能が1-3cm程度と低く、脳構造との対応は脳回程度。
②主に大脳皮質を測定対象とし、深部の脳構造は測定できない。
③ヘモグロビン濃度のベースラインからの相対的な変化である。
④頭皮や筋肉、頭蓋骨の関与も含まれるため、タスクデザインには必ず統制条件を作ってタスクによって引き起こされた変化を抽出する工夫が必要。
■ 波形の解釈
① 初期賦活:課題開始5秒間の反応の速さ
・速やか・・・ ≧0.0009
・緩やか・・・ 0.0009> ≧0.0002
・なし・・・ 0.0002>
② 積分値:課題中の反応の大きさ
・大きい・・・ ≧114
・中程度・・・ 114> ≧54
・小さい・・・ 54> ≧-13
・陰転・・・ -13>
③ 重心値:検査全体を通してみた場合の反応タイミング
・中盤・・・ ≦54
・終盤・・・ >54
・なし・・・ 小さいor陰転
※ 側頭部の積分値:前頭部より側頭部の反応の方が大きいことが多い。
・大きい・・・ ≧111
・中程度・・・ 111> ≧55
・小さい・・・ 55> ≧3
・陰転・・・ 3>
■ 健常者と疾患別波形パターン
【健常者】
・前頭部の課題中の積分値は大きく、重心値は課題前半~中盤。初期賦活は速やか。
・左右側頭部の積分値は大きい。
【大うつ病】
・前頭部の課題中の積分値は小さく、重心値は課題前半~中盤。初期賦活は速やか。
・左右側頭部の積分値は小さい。
【双極性障害】
・前頭部の課題中の積分値は中程度で、重心値は課題終盤。初期賦活は緩やか。
・左右側頭部の積分値は小さい~中程度。
【統合失調症】
・前頭部の課題中の積分値は小さく、重心値は課題終盤。課題中に不規則な変化を伴うと共に、課題終了後に反応が増加することがある(再上昇)。
・左右側頭部の積分値は小さい。
■ 多施設共同研究データによる鑑別アルゴリズム
<前頭部チャンネル平均波形>
・大うつ病障害においては前頭葉皮質の賦活の量が減少
・双極性障害においては賦活の潜時が遅延
・統合失調症においては賦活のタイミング不良
<側頭部チャンネル平均波形>
・健常者と精神疾患患者を全体として捉えると健常者との間に大きさの差異を認めたが、それぞれの疾患ごとには特異的な変化パターンの差異は認めなかった。