睡眠障害には「朝日を浴びる」ことが推奨されて久しいですが、双極性障害にも効果があるという報告を紹介します;
単純に、
・うつ状態の時は明るい光を浴びる
・躁状態の時には光を遮る
と効果が期待できるというもの。
■ 双極性障害の治療に「光の調整」〜うつ状態には「照射」、躁状態には「遮断」
(2017年09月05日:メディカル・トリビューン)
光と気分には関係があることが科学的に解明されつつある。うつ状態の改善には光の照射が、躁状態の改善には光の遮断が効果的だという。大分大学精神神経医学講座の平川博文氏らは、双極性障害の治療に日常生活における光の調整を取り入れ、患者の気分安定化を図っている。うつ症状の強い患者には朝に太陽光を浴びることを指導、あるいは光線療法を導入。躁状態の強い患者には夕方から夜間にかけてオレンジ色のサングラス着用を指導している。難治性の患者には両者を併用することもあるという。
朝に太陽光を浴びるよう指導
晴れた日にはすっきりした気分になり、曇りや雨の日にはうっとうしい気分になるのは多くの人が自覚するところだろう。平川氏らは健常者を対象にした検討で、普段から光を多く浴びる人ほど抑うつの程度が低いこと〔Psychopharmacology(Berl)2011; 213: 831〕、環境光が増えると小脳虫部の機能が抑制されることを明らかにしている。小脳虫部の血流が増加すると抑うつ気分が出現するという報告もあることから(Neuroimage 1998; 7: S901)、同氏は光を浴びるとすっきりした気分になる機序として、「環境光により小脳虫部の機能が抑制されることで抑うつが予防される可能性がある」と指摘する。
この他にも、年間の総日照時間が長い都道府県ほど自殺率が低い(Lancet 2002; 360: 1892)、午前中あるいは勤務時間内に光を多く浴びている会社員の方が抑うつの程度が低い(Sleep Health 2017; 3: 204-215)などの研究がある。
そこで、同氏は双極性障害患者に対し、外出時間を記入させたりアクチウォッチを装着させることで、その患者が浴びている環境光を推測あるいは実測し、生活指導に役立てている。抑うつ症状が出現した際は、意識して光を多く浴びるよう指導。症状に応じて光を浴びる時間を調整することで、気分安定化を図る。妊婦や高齢者といった薬剤調整が困難な場合でも、朝に太陽光を浴びるように指導することで、抑うつ症状が改善した症例を経験しているという。
朝の時間帯に高照度または"夜明け"の人工光を照射
光の抗うつ効果をより積極的に活用する試みが光線療法だ。その1つ、高照度光療法は2,500~1万ルクス程度の人工光を朝の時間帯に30分~2時間程度照射する治療法である。
季節性感情障害の治療法として普及したが、最近は非季節性うつ病、双極性障害の抑うつ状態の治療にも用いられている。また、dawn stimulationという治療法もある。これは起床時に1~2時間をかけて、夜明けの薄暗い光に相当する2~300ルクスの人工光(wake up light)を徐々に照度を上げながら照射するものだ。
これまでに発表されたメタ解析では、高照度光療法は季節性感情障害患者および非季節性うつ病患者のうつ症状を、dawn stimulationは季節性感情障害患者のうつ症状を有意に改善(Am J Psychiatry 2005; 162: 656-662)、さらに高照度光療法は双極性障害患者のうつ症状を有意に改善している(Eur Neuropsychopharmacol 2016; 26: 1037-1047)。
大分大学病院では、抑うつ状態にある双極性障害患者にこれらの光線療法を試みており、症状が改善した症例を経験している。
夕方から夜間にかけて オレンジ色のサングラスを着用
一方、躁状態の強い患者には、夕方から夜間にかけて室内光を遮断することの有用性が指摘されている。最初に行われたのは患者を暗室に隔離するdark therapyだ。躁状態の双極性障害患者16例を午後6~8時に3日連続で暗室に隔離したところ、対照群に比べ躁状態が改善した(Bipolar Disord 2005; 7: 98-101)。
汎用性が低いdark therapyに代わって考案されたのが、夕方から夜間にかけてオレンジ色のサングラスを着用させるvirtual darkness conditionという方法である。
睡眠障害を有する双極性障害患者21例に午後8時から就寝時までオレンジ色のサングラスを着用させたところ、半数の患者が睡眠障害の改善を自覚。そのうちの多くがサングラスの着用を中止したところ効果が消失し、再着用により効果を再確認したという(Med Hypotheses 2008; 70: 224-229)。また、双極性障害患者23例を対象に、1週間にわたり午後6時から翌日の午前8時までオレンジ色または透明のサングラスを着用させたランダム化比較試験では、オレンジ色サングラス群で躁症状の有意な改善が確認された(Bipolar Disord 2016; 18: 221-232)。
平川氏によると、患者を隔離することなく540nmより短い波長の光(青色光を含む)を遮断することができるのがvirtual darkness conditionの特徴。青色光が網膜に届くとメラトニンの分泌が抑制されるが、オレンジ色のサングラスで青色光を遮断することでメラトニンが安定して分泌されるためよく眠れると考えられる。
さらに同氏らは難治性双極性障害患者に対しては、高照度光療法とvirtual darkness conditionの併用を試みている。薬物療法のみでは精神症状が安定しない双極性障害患者に対して、この2つの方法を併用して光の調整を行うことで、症状が安定する症例を経験。同氏らは、このような併用療法をlight modulation therapyとして提唱している。
(本記事は、第113回日本精神神経学会の発表を基に構成)
単純に、
・うつ状態の時は明るい光を浴びる
・躁状態の時には光を遮る
と効果が期待できるというもの。
■ 双極性障害の治療に「光の調整」〜うつ状態には「照射」、躁状態には「遮断」
(2017年09月05日:メディカル・トリビューン)
光と気分には関係があることが科学的に解明されつつある。うつ状態の改善には光の照射が、躁状態の改善には光の遮断が効果的だという。大分大学精神神経医学講座の平川博文氏らは、双極性障害の治療に日常生活における光の調整を取り入れ、患者の気分安定化を図っている。うつ症状の強い患者には朝に太陽光を浴びることを指導、あるいは光線療法を導入。躁状態の強い患者には夕方から夜間にかけてオレンジ色のサングラス着用を指導している。難治性の患者には両者を併用することもあるという。
朝に太陽光を浴びるよう指導
晴れた日にはすっきりした気分になり、曇りや雨の日にはうっとうしい気分になるのは多くの人が自覚するところだろう。平川氏らは健常者を対象にした検討で、普段から光を多く浴びる人ほど抑うつの程度が低いこと〔Psychopharmacology(Berl)2011; 213: 831〕、
この他にも、年間の総日照時間が長い都道府県ほど自殺率が低い(Lancet 2002; 360: 1892)、午前中あるいは勤務時間内に光を多く浴びている会社員の方が抑うつの程度が低い(Sleep Health 2017; 3: 204-215)などの研究がある。
そこで、同氏は双極性障害患者に対し、外出時間を記入させたりアクチウォッチを装着させることで、その患者が浴びている環境光を推測あるいは実測し、生活指導に役立てている。抑うつ症状が出現した際は、意識して光を多く浴びるよう指導。症状に応じて光を浴びる時間を調整することで、気分安定化を図る。妊婦や高齢者といった薬剤調整が困難な場合でも、朝に太陽光を浴びるように指導することで、抑うつ症状が改善した症例を経験しているという。
朝の時間帯に高照度または"夜明け"の人工光を照射
光の抗うつ効果をより積極的に活用する試みが光線療法だ。その1つ、高照度光療法は2,500~1万ルクス程度の人工光を朝の時間帯に30分~2時間程度照射する治療法である。
季節性感情障害の治療法として普及したが、最近は非季節性うつ病、双極性障害の抑うつ状態の治療にも用いられている。また、dawn stimulationという治療法もある。これは起床時に1~2時間をかけて、夜明けの薄暗い光に相当する2~300ルクスの人工光(wake up light)を徐々に照度を上げながら照射するものだ。
これまでに発表されたメタ解析では、高照度光療法は季節性感情障害患者および非季節性うつ病患者のうつ症状を、dawn stimulationは季節性感情障害患者のうつ症状を有意に改善(Am J Psychiatry 2005; 162: 656-662)、さらに高照度光療法は双極性障害患者のうつ症状を有意に改善している(Eur Neuropsychopharmacol 2016; 26: 1037-1047)。
大分大学病院では、抑うつ状態にある双極性障害患者にこれらの光線療法を試みており、症状が改善した症例を経験している。
夕方から夜間にかけて オレンジ色のサングラスを着用
一方、躁状態の強い患者には、夕方から夜間にかけて室内光を遮断することの有用性が指摘されている。最初に行われたのは患者を暗室に隔離するdark therapyだ。躁状態の双極性障害患者16例を午後6~8時に3日連続で暗室に隔離したところ、対照群に比べ躁状態が改善した(Bipolar Disord 2005; 7: 98-101)。
汎用性が低いdark therapyに代わって考案されたのが、夕方から夜間にかけてオレンジ色のサングラスを着用させるvirtual darkness conditionという方法である。
睡眠障害を有する双極性障害患者21例に午後8時から就寝時までオレンジ色のサングラスを着用させたところ、半数の患者が睡眠障害の改善を自覚。そのうちの多くがサングラスの着用を中止したところ効果が消失し、再着用により効果を再確認したという(Med Hypotheses 2008; 70: 224-229)。また、双極性障害患者23例を対象に、1週間にわたり午後6時から翌日の午前8時までオレンジ色または透明のサングラスを着用させたランダム化比較試験では、オレンジ色サングラス群で躁症状の有意な改善が確認された(Bipolar Disord 2016; 18: 221-232)。
平川氏によると、患者を隔離することなく540nmより短い波長の光(青色光を含む)を遮断することができるのがvirtual darkness conditionの特徴。青色光が網膜に届くとメラトニンの分泌が抑制されるが、オレンジ色のサングラスで青色光を遮断することでメラトニンが安定して分泌されるためよく眠れると考えられる。
さらに同氏らは難治性双極性障害患者に対しては、高照度光療法とvirtual darkness conditionの併用を試みている。薬物療法のみでは精神症状が安定しない双極性障害患者に対して、この2つの方法を併用して光の調整を行うことで、症状が安定する症例を経験。同氏らは、このような併用療法をlight modulation therapyとして提唱している。
(本記事は、第113回日本精神神経学会の発表を基に構成)