発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

アリピプラゾール vs. リスペリドン、三本勝負

2017-10-31 06:27:25 | 精神科医療
 精神科疾患に用いられる二つの薬を比較した記事を3つ。
 内容は、

・統合失調症患者の脳活性
・統合失調症患者の短期治療
・統合失調症患者の認知機能

 専門用語が並ぶのでイメージが湧きにくいのですが、一部アリピプラゾールが優れているという結果が散見される一方で、全体的には大きな差がないという報告もあります。

■ 統合失調症患者の脳活性、リスペリドン vs.アリピプラゾール
ケアネット:2017/10/31
 前頭前野ネットワークの機能障害は、精神病性障害における陰性症状および神経認知の問題両方の原因となりうる。ほとんどの抗精神病薬は前頭前野の活性を低下させる可能性があるが、ドパミンD2パーシャルアゴニストであるアリピプラゾールは、前頭前野の機能を改善するといわれている。オランダ・フローニンゲン大学のEdith J. Liemburg氏らは、精神病性障害の患者を対象に、アリピプラゾールがリスペリドンと比較して、治療後の前頭前野および関連領域の活性を高めるかについて検討を行った。Progress in neuro-psychopharmacology & biological psychiatry誌2017年10月3日号の報告。
 この探索的かつ薬理学的な神経イメージング研究では、対象である精神病性障害の患者24例を、アリピプラゾールまたはリスペリドンのいずれかに無作為に割り付けた。ベースライン時および治療9週間後に、面接およびMRIセッションを行った。
 主な結果は以下のとおり。

・今回は、Tower of London(ToL)およびWall of Faces(WoF)の2つのタスク実行中の脳活性化(ASL[arterial spin labeling]で測定)について報告を行った。
アリピプラゾール治療は、中前頭回、上前頭回、後頭葉回(ToL)、内側側頭葉回、下前頭回、被殻、楔部(WoF)の活性を減少させ、リスペリドン治療は活性を増加させた
アリピプラゾール治療は、腹側前帯状、後部島(ToL)、上前頭回、上側頭回、中心前回(WoF)の活性を増加させ、リスペリドン治療は減少させた
・両治療群ともに、腹側島活性(ToL)、中側頭回(WoF)を増加させ、後頭皮質、楔前部、尾状頭葉(ToL)の活性を減少させた。

 著者らは「アリピプラゾール治療は、遂行計画に必要な頭部リソースが少なくて済む可能性があり、感情刺激に対する前頭側頭および前頭前野の反応性を増加しうる。これらの予備的知見を裏付けるためには、より多くの研究が必要である」としている。
(鷹野 敦夫)

<原著論文>
Liemburg EJ, et al. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2017;79:112-119.


■ 統合失調症に対する短期治療、アリピプラゾール vs.リスペリドン
ケアネット:2017/02/03
 統合失調症に対するアリピプラゾールとリスペリドンの短期治療効果および副作用プロファイルについて、インド・カヌール・メディカル大学のP B Sajeev Kumar氏らが、比較検討を行った。Current neuropharmacology誌オンライン版2017年1月12日号の報告。
 本研究は、統合失調症に対するアリピプラゾールとリスペリドンによる8~12週間の治療を比較した非無作為化自然主義的盲検化プロスペクティブ研究。対象は、すでにアリピプラゾール(10~30mg/日)またはリスペリドン(3~8mg/日)で治療中の患者。MINI(Mini International Neuropsychiatric Interview:精神疾患簡易構造化面接法)Plus、PANSS、AIMS(Abnormal Involuntary Movement Scale:異常不随意運動評価尺度)、SAS(Simpson Angus Scale)、UKU(Udvalg for Klinske Undersogelser)スケール、CGI-Sを、試験開始時に収集した。1日目およびフォローアップ時に、身体測定(身長、体重、BMIなど)、血圧、脈拍数を調べた。8~12週間後に、MINI Plusを除く検査を再度実施した。
 主な結果は以下のとおり。

・アリピプラゾール群およびリスペリドン群の両方で、陽性症状、陰性症状の有意な改善が示された。しかし、両群間に統計学的有意差はなかった。
・患者によるCGI改善スケールスコアの平均改善度は、アリピプラゾール群で有意な傾向が示された。
・UKUスケールにより評価される一般的な(患者の5%以上で認められる)有害事象は、アリピプラゾール群よりもリスペリドン群で高頻度に認められた。
・薬物誘発性錐体外路症状は、リスペリドン群でより多かった。
・アリピプラゾール群は、体重増加に対する治療がより少なかった。

 著者らは「アリピプラゾールは、統合失調症に対する8週間の短期治療において、リスペリドンと同等の有効性を示し、より良好な忍容性が認められた。また、患者満足度および副作用プロファイルも良好であった」としている。
(鷹野 敦夫)

<原著論文>
Sajeev Kumar PB, et al. Curr Neuropharmacol. 2017 Jan 12.


■ 統合失調症患者の認知機能に対するアリピプラゾール vs.リスペリドン
ケアネット:2014/04/21
 現在、抗精神病薬の社会的認知に及ぼす影響に関する研究は少なく、また社会的認知機能に対するアリピプラゾールの影響に関してもよくわかっていない。オランダ・ユトレヒト大学のArija Maat氏らは、アリピプラゾールおよびリスペリドンが統合失調症患者の社会認知、神経認知に及ぼす影響を検討した。European neuropsychopharmacology誌2014年4月号の報告。
 DSM-IV-TRで統合失調症と診断された80例(年齢:16~50歳)を対象に、8週間の無作為化、非盲検、多施設共同研究を行った。対象患者のベースラインおよび8週時点で複数のコンピュータ・テストを行い、反応時間を含む社会認知および神経認知を測定した。社会的機能は、Social Functioning scale と Quality of Life scaleにより評価した。本研究は、2005年6月~2011年3月に実施された。
 主な結果は以下のとおり。

・社会認知および神経認知テストのスコアは両群ともに改善した。また、反応時間も同様であった。
・社会的認知テストのスコアは両群間でほとんど違いがみられなかった。
・アリピプラゾール群は「symbol substitution」の項目でより良い(より正確な)結果であった(p=0.003)。
・アリピプラゾール群はリスペリドン群と比較し、「emotional working memory」、「working memory」の反応時間が優れていた(各々、p=0.006、p=0.023)。
・これらのテストでの改善は社会的機能と相関していた。
・アリピプラゾール、リスペリドンはどちらも社会認知テストのスコアを改善させた。とくに、アリピプラゾール群はリスペリドン群と比較し、処理速度に好影響をもたらし、これが社会的機能の改善と関連していると考えられる。
・アリピプラゾールの認知に及ぼす長期的な影響について、さらなる検討が必要である。
(ケアネット 鷹野 敦夫)

<原著論文>
Maat A, et al. Eur Neuropsychopharmacol. 2014 Apr;24(4):575-84.


 最後にアリピプラゾールとその他の非定型抗精神病薬を比較した論文を;

■ アリピプラゾール vs.その他の非定型抗精神病薬:システマティックレビュー
ケアネット:2013/03/14
 英国・East Midlands Workforce DeaneryのPriya Khanna氏らは、統合失調症に対するアリピプラゾールの有効性および忍容性について、他の非定型抗精神病薬と比較した試験結果を評価するシステマティックレビューを行った。Cochrane Database of Systematic Reviewsオンライン版2013年2月28日号の掲載報告。
 レビューは、Cochrane Schizophrenia Group Trials Registerによる文献検索(2011年11月時点)とともに、製薬会社や医薬品承認省庁、論文執筆者から追加の情報などを得て行われた。統合失調症または統合失調症様精神障害を有する患者を対象とした、アリピプラゾール(経口薬)とその他の抗精神病薬(経口・非経口含む:アミスルプリド、クロザピン、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、セルチンドール、ジプラシドン、ゾテピン)を比較したすべての無作為化試験(RCT)を適格試験とした。ランダムエフェクトモデルに基づきintention-to-treat分析法にてリスク比(RR)と95%信頼区間(CI)を算出し、可能な限り主要アウトカムの比較リスクを算出した。また平均差(MD)の算出や、バイアスリスクについての評価も行われた。
 主な結果は以下のとおり。

・レビューには、12試験、被験者6,389例のデータが組み込まれた。
・アリピプラゾールとの比較試験は、オランザピン、リスペリドン、ジプラシドンについて行われており、すべての試験が利害関係のある製薬会社がスポンサーとなり行われていた。
・全被験者のうち30~40%が試験を早期に中止しており、妥当性(群間差なし)は限定的なものであった。

[対オランザピン試験]
・全体的な状態(global state)には差がみられなかった(703例・1試験、短期RR:1.00、95%CI:0.81~1.22/317例・1試験、中期RR:1.08、95%CI:0.95~1.22)。
・精神状態についてはオランザピンでやや良い傾向がみられた[1,360例・3試験、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)総合スコアのMD:4.68、95%CI:2.21~7.16]。
・錐体外路症状には有意な差はみられなかったが(529例・2試験、RR:0.99、9%CI:0.62~1.59)、コレステロール値の上昇(223例・1試験、RR:0.32、95%CI:0.19~0.54)、全重量の7%以上の体重増加(1,095例・3試験、RR:0.39、95%CI:0.28~0.54)はアリピプラゾール群のほうが少なかった。

[対リスペリドン試験]
・全体的な状態(384例・2試験、重大改善なしに関するRR:1.14、95%CI:0.81~1.60)、精神状態(372例・2試験、PANSS総合スコアのMD:1.50、95%CI:-2.96~5.96)に関して、アリピプラゾールの優位性は示されなかった。

[対ジプラシドン試験]
・アリピプラゾールとの比較は1試験(247例)であり、全体的な状態[臨床全般印象・重症度尺度CGI-S)スコアのMDの平均変化:-0.03、95%CI:-0.28~0.22]、精神状態[PANSS総合スコアのMD:-3.00、95%CI:-7.29~1.29]の変化はともに同程度であった。

・いずれか1つの非定型抗精神病薬と比較した際、アリピプラゾールは、活力(523例・1試験、RR:0.69、95%CI:0.56~0.84)、気分(523例・1試験、RR:0.77、95%CI:0.65~0.92)、陰性症状(523例・1試験、RR:0.82、95%CI:0.68~0.99)、傾眠(523例・1試験、RR:0.80、95%CI:0.69~0.93)、体重増加(523例・1試験、RR:0.84、95%CI:0.76~0.94)にて全体的な状態の改善を示した。
・アリピプラゾール群の被験者では、嘔気(2,881例・3試験、RR:3.13、95%CI:2.12~4.61)の報告が有意に多かったが、体重増加(全重量の7%以上の増加)は有意に少なかった(330例・1試験、RR:0.35、95%CI:0.19~0.64)。
・アリピプラゾールは、攻撃性への有望な作用がある見込みがあたが、データが限定的であった。これは別の機会のレビューの焦点となるであろう。
・著者は「すべての比較に関する情報には限界があり、必ずしも臨床に適用するとは限らない」とした上で、「アリピプラゾールは明らかな副作用プロファイルのない抗精神病薬である」と結論した。また、長期データが十分でないことを考慮すべきであり、今後は中国で行われている複数の試験や、進行中の大規模な独立したプラグマティックな試験のデータなどを組み込み、レビューのアップデートを行うことで新たなデータが得られると述べている。
<原著論文>
Khanna P et al. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Feb 28;2:CD006569.

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。