今回の18冊も内容は雑多です。
その後文庫化されたものもあれば、大型書店の棚にもない本も・・・。15年経てば当然ではありますが。
☆印はとくに推奨。×印は品切れまたは絶版中の本(多すぎる!) △は絶版・品切れでも単行本なら出ている本。
314 | 昭和萬葉集第六巻 | 講談社 | 314=戦時中の短歌。前線の生死の境で詠まれた無名兵士の作品には言葉を失う。一方、<内地>の有名歌人の作品のなさけなさ。高崎隆治「無名戦士の詩集」(太平出版社)等も心をうつ。 315=どうみても罪のない人が今も死刑囚として牢獄にいる! 江川紹子「六人目の犠牲者 名張毒ブドウ酒殺人事件」(文藝春秋)も同様。 316=大森貝塚の発見者モースは失われゆく日本の風俗を細部にわたり記録し、大量の文物を今に遺してくれた。わが先人の文化に感心するとともに、懐かしい気持ちに充たされる。 317=戦争の時代を反省し、「過去に眼を閉ざす者は未来にも盲目となる」とドイツ大統領は述べる。それにひきかえ、過去を覆い隠そうとする某国の政治屋たちのなさけないこと・・・・。 318=話題の推理・歴史・哲学小説。汲めども尽きない深さ。世界史と倫理(とくにスコラ哲学)の事前勉強が必要かも。 319=舞台美術化が戦争中の自らの子供時代の生活と感覚を鮮明に綴る。当時の世相・社会を知るのに好適。 320~322=健全(!)な女子高生を主人公にした青春小説。 320は高知が舞台。今でもこんなかな? 321は松山の高校。女子ボート部を復活させて奮闘する、作者自身の高校時代を下敷きにした健康的小説。とくに部活少女にお薦め。 322は体育祭の後、女子高生が眠り込んで目覚めたら女子高生の娘をもつ高校教師になっていたというタイムトラベル物のSF。諸君はお母さんの青春時代を知っていますか? 323=浩子サン、歌はけっこう聴いていたけど、書く物は少女趣味的で敬遠していました。でもこのファンタジー(ミステリーでもある)は良いっ!! 意表を突く発想の連続、結末も意外。長野まゆみの作品(「少年アリス」等)も共通する点が多い。 324=ハンセン病者につい「お元気ですか」と声をかけ、ハッとしたら、すぐ「はい、元気ですよ」と声が返ってきたという。さまざまに極限的な状況に対する、詩人の透徹した洞察の深さ。 325=1919年三一独立運動で囚われ獄死した<韓国のジャンヌ・ダルク>柳寛順(ユ・グァンスン)を焦点に日本の植民地統治を検証する。 326=第2次世界大戦で被害者や加害者となった特定の<個>の行為や心理を告発する詩集。H氏賞詩人の作者は社会科の先生。「無名戦没者たちの声」(岩波ブックレット)も読んで。 327=彼の詩は平易な表現に深い感情が込められている。これも<子供向き>の体裁だが、内容的には<大人向き>だと思う。 328=ふうん、こんな散文詩もあるのか。たとえばコップ、たとえば自宅への道順、たとえばオブツの緻密な描写・・・・。 329=「なんとなく塀の向こうのアパートの ベランダに向くわが眼(まなこ)かな」。獄窓からかいま見える日常。彼は死刑囚。 330=61歳の時ダム建設で村が水没する話が出たのを契機に、ピッカリコニカを手に猛然と村の写真を撮り始めたおばあさん。短い説明文にも人間性がうかがわれる。 331=幼い時から伊那の山村で鳥や獣とともに育った著者が曲折を経て動物カメラマンになるまで。プロはすごいよ! | |
315 | 山本徹美 | 袴田事件 | 悠思社 | |
☆ 316 | モースが見た日本 | 小学館 | ||
317 | ヴァイツゼッカー | 荒野の四十年 | 岩波ブックレット | |
318 | エーコ | 薔薇の名前 | 東京創元社 | |
319 | 妹尾河童 | 少年H | 講談社 | |
320 | 氷室冴子 | 海がきこえる | 徳間書店 | |
321 | 敷村良子 | がんばっていきまっしょい | マガジンハウス | |
322 | 北村薫 | スキップ | 新潮社 | |
323 | 谷川浩子 | 悲しみの時計少女 | サンリオ | |
× 324 | 石原吉郎 | 海を流れる河 | 花神社 | |
325 | 早乙女勝元 | 柳寛順の青い空 | 草の根出版会 | |
326 | 石川逸子 | 千鳥ヶ淵へ行きましたか | 花神社 | |
☆ 327 | 谷川俊太郎 | みみをすます | 福音館書店 | |
328 | 谷川俊太郎 | 定義 | 思潮社 | |
329 | 坂口弘 | 坂口弘歌稿 | 朝日新聞社 | |
330 | 増山たづ子 | 徳山村写真全記録 | 影書房 | |
331 | 宮崎学 | 動物カメラマン | どうぶつ社 |
今回は、雑多なりになかなかいい選択をしたじゃないか、と自画自讃(笑!)。
しかし323や331等はあらかた忘れてしまいました。
「がんばっていきまっしょい」は映画も良かったです。「少年H」は観てませんが・・・。
15年経っても、袴田事件も名張毒ぶどう酒事件も再審の壁は依然として厚い。(袴田事件は来春?) 袴田事件なんか、素人目にも無実は明らかなのに・・・。ひどいもんだ!(怒)
次は一応ラストの29冊を一挙にアップ。文庫や新書にはないジャンルで10冊以上、ってどういうジャンルかわかりますか?
「薔薇の名前」はいつまでたっても文庫化されない珍しい本です。単行本でも充分売れているということなのか、文庫化するに際しては改訳しないといけないのに(当初から翻訳に関してはあれこれ議論がありましたので)、訳者が「神曲」の翻訳に忙しくてそれどころではないのか、真相は不明です。
ヴァイツゼッカーの演説は余りに頻繁に引用されたために陳腐化してしまったような気もしますが、その基本的な主張は今も充分に傾聴に値するものですね。
ヌルボさんの言われる「某国の政治家」はいまだにちっとも変っていません(あるいはさらにひどくなっています)が、一方ですぐに日本とナチス・ドイツを同列に置いて一方的に断罪して得々としている別の「某国」の独善的な視点もまたどうかとは思いますけれども…。
むしろ我々が過去の歴史に学ぶべきことは、自分たちを優位においた過去の一方的な糾弾や断罪ではなく、「我々自身もいつか同じことをしてするかも知れない」という視点に立った上で、二度と同じような愚行は繰り返すまいとすることだと思いますが、えてして人間は自分(たち)のことは美化したがるもので、過去のこともすぐに忘れてしまいます。
写真集(写真関連)は単行本だと枚挙に遑がありませんが、文庫で簡単に手に入るキャパや沢田教一、一ノ瀬 泰造、石川文洋などの写真集や自伝、ルポや、土門拳の「古寺をたずねて」シリーズや「風貌」、木村伊兵衛の写真集、篠山紀信の「シルクロード」などは、今の高校生にも読んで(見て)もらいたいですね。
最終回も期待しておりますが、果してどんなジャンルなのか…。韓国マニアのヌルボさんですので、最後の締めはやはり韓国関連の総集編かとも思ったのですが、15年前、そして「高校生にすすめる」、そして文庫でも新書でもない、となると分らなくなります。絵本はもう取り上げられましたっけ?