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雨粒ほどの関心さえあればーアニメ『虐殺器官』を観て

2018年02月24日 | 映画


『虐殺器官』
原作:伊藤計劃
監督・脚本・キャラクターデザイン・絵コンテ:村瀬修功
音楽:池頼広
アニメーション制作:manglobe→ジェノスタジオ
公開:2017年



伊藤計劃の同名SF小説を原作としたアニメ『虐殺器官』を観た。

私も、膨大な知識量とその処理能力、またそれを唯一無二の小説として見事にアウトプットした彼の底知れない才能に魅了された一人だ。

表面的にわかったつもりでいるが、小説を語るにはまだ理解が浅い。

今は彼の綴る刃物のように冴えた言葉にいちいち反応し、メモをとるに留まる。

以下多少のネタバレがあるので今後読む人、観る人はご注意を。



アニメを観た率直な感想は「よくできている」。

小説のファンが観ていて邪魔に感じる要素が少なかったというのは、映像化という観点からみると一つの成功を意味している。

「一つ」とあえていうのは世界観を忠実に守るという意味での限定された成功だからだ。

『虐殺器官』の場合はProject Itohの一環ということもあって、原作を非常に大事に扱っているといえる。

映像もオープニングを観て気合が入っていることが伝わるし、そのクオリティは最後まで保たれている。

伊藤計劃の世界をここまで映像で表現したのは素直にすごいと思う。

しかし裏返すとそれはあくまで小説の世界を逸脱していないという部分においての評価だ。

小説の内容を映像で全て表現するのは不可能であり、この作品も例外ではない。

結果的に、なんとなく全体像は把握できるが物語の芯を明確に捉えるには部品が足りていない。

ただでさえ小説の映像化は難しいというのに、『虐殺器官』の本質は映像で語るにはちと複雑すぎる。

反対に、その不足をあえて語らず間をつくることで補っている点に監督のこだわりと原作への敬意を感じる。

説明しすぎないことで視聴者に行間を読ませ2時間という限りある時間に膨らみをもたせたといえるかもしれない。



しかしそれでもやっぱり足りない。

闇の深さが全然足りていない。

信じ込まれた過保護で完璧な管理社会、ピザとアメフト観戦、戦場、

繰り返し繰り返し語られるクラヴィスの夢、母、アレックスの語る地獄、戦闘前のカウンセリング、

痛覚のマスキング、ヴィクトリア湖のクジラとシーウィード、眼球に張り付いたオルタナ、

テロ、セキュリティー、プライバシー、ジョン・ポール、言語。

全ての要素が重要項目であり、それぞれが濃密な物語を有している。

もしこのアニメを観て面白いと思ったなら、ぜひ小説も読んでみてほしい。

自分の足元にある闇がじわじわと本性を露わにしていく様は小説でしか感じ得ない。

小説を読めば、アニメで観た景色の地続きに10倍以上広い世界を観ることができる。



キャラクターのビジュアルはほとんどが自分の中のそれとは違ったけれど特に嫌という程のものでもなかった。

アニメだからかみんな美しすぎるが許容範囲内だ。

しかし一人だけ譲れない人物がいる。

それは物語の要中の要、ジョン・ポールのビジュアルだ。

若すぎるしイケメンすぎるし声も2トーンくらい高い!

もっとダンディーで謎めいていて背が高くて肌が白くて鼻が高く、

髪の毛はピシッと撫でつけられたロマンスグレーで、声はもっと低くお腹に響く声だ。

まぁこれに関してはかなり個人的ないちゃもんだけど。

ここまではよかった。


月明かりで顔が見えた途端、ちがーう!!と心の中でつっこんでしまった。




一つのアニメとして観る分には非常によくできた質の高いアニメだ。

小説を読んでいなければ、少し難しいぶん衝撃を受けるストーリーでもあると思う。

最後に劇中印象に残った台詞を載せておく。

この台詞が小説のものかどうかまでは覚えていない。



ー雨粒ほどの関心さえあればトレースできる社会にいるはずなのに、
自分らの生活を支えるものがどんな悲惨な状況で生産されているかなんて知りたくもないというわけだ。
(中略)人は見たいものだけしか見えないようにできているんだ。ー ルーシャス
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