2016年5月3日午前5時。
長い旅が終わった。
読んでいた本を枕の横にゆっくり置いて目を閉じた。
瞼の裏によみがえる様々なシチュエーション。
銃撃音が響き渡るコンゴの森。
実験道具が敷き詰められた町田のぼろアパート。
ホワイトハウス内、楕円形の執務室に集まる大統領日例報告のメンバー。
2011年に角川書店から出版されたベストセラー小説『ジェノサイド』を読んだ。
友人のきっての勧めで読むことになった。
実を言うと3年前くらいに借りていたのだがなかなか読む気になれず今になってしまったのだ。
第65回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門受賞をはじめ、たくさんの賞を受賞してかなり話題になった本のようだ。
これ以下はネタバレになるので読む予定の人は注意してほしい。
ホワイトハウスの大統領日報で持ち上がった謎の議題、
それは『人類絶滅の可能性 アフリカに新種の生物出現』というものだった。
新種の致死性ウイルスかはたまた別の生き物か、見えない脅威が超大国に立ちはだかる。
民間軍事会社で傭兵として働く一人のアメリカ人。
彼には不治の病に侵された一人息子がいた。
治療費はいくらあっても足りなかった。
そんな彼の下に舞い込んできた破格の仕事、それはアフリカの原住民族の村を強襲するという任務だった。
大学教授の父を亡くした薬学を学ぶ冴えない大学院生。
父の死後、嫌っていた父から届いた一通のメール。
生前、自身の身の危険を察していた父から課せられた一つの大役、
それはある不治の病を治す薬を1ヶ月でつくるという途方ないものだった。
戦争心理学への強い探究心を持ったアメリカの若き研究者。
人並みはずれた知能を有するその青年は、ワシントンD.C.に本拠を置く「シュナイダー研究所」に入所することになった。
様々なシンクタンクがある中で、シュナイダー研究所は情報戦略を受け持っていた。
表向きは民間経営のPR会社だったが、最大の顧客はCIAと国防総省だった。
一見無関係に思えるいくつもの物語が大きな謎をはらんだまま平行線上を進んでいく。
そしてそれぞれの行動の意味がある一点に結びつくとき、一気に物語が加速していく。
もし各主体の行動が全て一つの大きな力によって導かれたものであったとしたら。
もしその存在が人智を超えた未知の何かであったとしたら。
大きなテーマとして作中に横たわっている「ジェノサイド(大量虐殺)」。
唯一同種殺しをする生物としての人類の獣性。
繰り返してきた歴史、個がもつ人間としての自覚をもとに語られる人類の抗えない性。
作品に登場するアメリカ大統領は名前こそ違うがイラク戦争を主導したブッシュを模していることは疑いようがない。
登場人物の目線を通し読者も一緒になって権力者の暴力性・残虐性を観察することができる。
しかしその観察は権力者が凡庸だということを暴くと同時にあなたも一緒だという痛烈なメッセージを投げかけてくる。
もう一つのテーマは人類の進化である。
人類が進化する可能性はあるのか、進化した人類とはどのような存在なのか。
SF小説は今まで避けてきたが、この本が面白いのは作者の提示する進化の可能性が現実味を帯びているからだ。
進化論を学んだことがないので、現実的なところは分からないが少なくとも読者の知的好奇心を揺さぶる程の説得力がある。
このような小説は今まで読んだことがない。
理解出来ないほどの高度な言葉の応酬が、読む者にたまらない刺激を与えてくれる。
徹底した調査と途方ない作者の勉強の下に成り立っていることが容易に想像でき、まさに感服だ。
個人的には、超大国への最大の脅威が暗号を解読できる知力という点に脱帽。
軍事的な物理的対戦よりも、知的攻防の方が断然面白い。
さらには人間の知力の限界の説明に素数の謎とリーマン予想を持ってきたところは最高だった。
膨大な情報量がありながら、ひとつひとつを飛散させることなく確実に物語の終焉につなげてくる作者がすごい。
はじめは少し入りにくいかもしれないが、ある程度進むと止まらなくなる。
全体的に面白く満足の行く作品だった。
その上で少しだけ不満を言うと、現実の合衆国より少し甘い部分が合ったような気がするということ。
本当のところは知らないけれど。
人類に対する厳しすぎる程の作者の考察が一部で批判を生んでいるようだけど、
今まで見てみぬふりをしてきた問題に向き合わされるというのは大事な機会だと思う。
どんなに見繕っても正当化だけはできないからね。
そういう視点をガキ臭いと罵る先には、自己防衛があるとしか思えない。
長くなってしまったけど、はっきり言ってこの小説おすすめです。
長い旅が終わった。
読んでいた本を枕の横にゆっくり置いて目を閉じた。
瞼の裏によみがえる様々なシチュエーション。
銃撃音が響き渡るコンゴの森。
実験道具が敷き詰められた町田のぼろアパート。
ホワイトハウス内、楕円形の執務室に集まる大統領日例報告のメンバー。
2011年に角川書店から出版されたベストセラー小説『ジェノサイド』を読んだ。
友人のきっての勧めで読むことになった。
実を言うと3年前くらいに借りていたのだがなかなか読む気になれず今になってしまったのだ。
第65回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門受賞をはじめ、たくさんの賞を受賞してかなり話題になった本のようだ。
これ以下はネタバレになるので読む予定の人は注意してほしい。
ホワイトハウスの大統領日報で持ち上がった謎の議題、
それは『人類絶滅の可能性 アフリカに新種の生物出現』というものだった。
新種の致死性ウイルスかはたまた別の生き物か、見えない脅威が超大国に立ちはだかる。
民間軍事会社で傭兵として働く一人のアメリカ人。
彼には不治の病に侵された一人息子がいた。
治療費はいくらあっても足りなかった。
そんな彼の下に舞い込んできた破格の仕事、それはアフリカの原住民族の村を強襲するという任務だった。
大学教授の父を亡くした薬学を学ぶ冴えない大学院生。
父の死後、嫌っていた父から届いた一通のメール。
生前、自身の身の危険を察していた父から課せられた一つの大役、
それはある不治の病を治す薬を1ヶ月でつくるという途方ないものだった。
戦争心理学への強い探究心を持ったアメリカの若き研究者。
人並みはずれた知能を有するその青年は、ワシントンD.C.に本拠を置く「シュナイダー研究所」に入所することになった。
様々なシンクタンクがある中で、シュナイダー研究所は情報戦略を受け持っていた。
表向きは民間経営のPR会社だったが、最大の顧客はCIAと国防総省だった。
一見無関係に思えるいくつもの物語が大きな謎をはらんだまま平行線上を進んでいく。
そしてそれぞれの行動の意味がある一点に結びつくとき、一気に物語が加速していく。
もし各主体の行動が全て一つの大きな力によって導かれたものであったとしたら。
もしその存在が人智を超えた未知の何かであったとしたら。
大きなテーマとして作中に横たわっている「ジェノサイド(大量虐殺)」。
唯一同種殺しをする生物としての人類の獣性。
繰り返してきた歴史、個がもつ人間としての自覚をもとに語られる人類の抗えない性。
作品に登場するアメリカ大統領は名前こそ違うがイラク戦争を主導したブッシュを模していることは疑いようがない。
登場人物の目線を通し読者も一緒になって権力者の暴力性・残虐性を観察することができる。
しかしその観察は権力者が凡庸だということを暴くと同時にあなたも一緒だという痛烈なメッセージを投げかけてくる。
もう一つのテーマは人類の進化である。
人類が進化する可能性はあるのか、進化した人類とはどのような存在なのか。
SF小説は今まで避けてきたが、この本が面白いのは作者の提示する進化の可能性が現実味を帯びているからだ。
進化論を学んだことがないので、現実的なところは分からないが少なくとも読者の知的好奇心を揺さぶる程の説得力がある。
このような小説は今まで読んだことがない。
理解出来ないほどの高度な言葉の応酬が、読む者にたまらない刺激を与えてくれる。
徹底した調査と途方ない作者の勉強の下に成り立っていることが容易に想像でき、まさに感服だ。
個人的には、超大国への最大の脅威が暗号を解読できる知力という点に脱帽。
軍事的な物理的対戦よりも、知的攻防の方が断然面白い。
さらには人間の知力の限界の説明に素数の謎とリーマン予想を持ってきたところは最高だった。
膨大な情報量がありながら、ひとつひとつを飛散させることなく確実に物語の終焉につなげてくる作者がすごい。
はじめは少し入りにくいかもしれないが、ある程度進むと止まらなくなる。
全体的に面白く満足の行く作品だった。
その上で少しだけ不満を言うと、現実の合衆国より少し甘い部分が合ったような気がするということ。
本当のところは知らないけれど。
人類に対する厳しすぎる程の作者の考察が一部で批判を生んでいるようだけど、
今まで見てみぬふりをしてきた問題に向き合わされるというのは大事な機会だと思う。
どんなに見繕っても正当化だけはできないからね。
そういう視点をガキ臭いと罵る先には、自己防衛があるとしか思えない。
長くなってしまったけど、はっきり言ってこの小説おすすめです。
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