DEEP ACIDなんでもかんでも日記・ヤプログ!より移行

ウクライナ情勢をユーロビジョンから考察する (ESC best male singers 6)

 春が近づき、そろそろユーロビジョンの季節、と言うのもあるが、やはりここへ来てユーラシアの激しい変化に、「ヨーロッパとは、アジアとは何か?」と言う根源的なことを自問してしまう。そんな時に、やはりユーロビジョン・ソング・コンテストと言うヨーロッパから西アジアにかけての文化的連帯を象徴する音楽イベントを再度考察してみたくなった。

 ユーロビジョン自体も確実にヨーロッパと西アジアの政治的変化を受けてきた。始まった当初はヨーロッパだけのイベントだったが、東西冷戦終了で東欧、西アジアも次々に参加した。しかしその間にもバルカン半島は激しい紛争で何度も国境線が書き換えられた。日本なら、高校野球で突然あの県がなくなったり増えたり、1つになったり2つに分裂したり、と言うことを繰り返し経験してきている。

 日本の音楽シーンとの違うのは、大雑把に言うと、「大人向け」であること、「聞く歌」であること。
 大人向けとは、例えば多様性は今やあちこちで唱えられているが、ヨーロッパには昔からアフリカ系もアジア系もいて、(性的マイノリティなども含めて)昔から多様だった。さらに、東欧や西アジアになると、他国から侵略を受けたりするのは歴史上の事実ではなく、みんなが実際に体験していることなのだ。そういう地域に住んでいれば、自ずと子どものうちから「大人になれ」と言う空気はあるだろう。親を戦地で失ったり、仲の良かった友だちが敵国出身で、開戦するなり夜逃げして二度と会えなくなってしまった、なんて経験をしていたら、ジャニーズやAKBのような音楽は作れないし楽しめない。平和を謳歌できるようになった国がJ-POPに憧れるのは、平和を心から感じたいからに他ならない。
 聞く歌とは、彼らにとって歌うとは、地域の連帯のためにみんなで歌うこと。多様性の中で「私とあなたは何かが違う」と常に感じていると、サッカーチームの応援歌をみんなで歌うような場面はあっても、パーソナルな局面で、自らと向き合って歌うとかはない(それはむしろ、歌よりも教会でのお祈りの役目だ)。あくまでも歌は人に聞いてもらうために歌う。歌うこと自体が気晴らしになることは、分かりやすい例えで言えば、食事中にナイフやフォークの音をたててはいけない、と言う倫理的にあまり好ましく思われない。

 そんな、日本のJ-POPでは味わえない「歌」を見つけることが、ユーロビジョンの最大の魅力。アメリカはアメリカで日本と違うが、アフリカ系アメリカ人音楽を除くと、歌の多様性はあまりない(カントリーチャート、ラテンチャートとか、完全にセグメント化されていて、それらにリーチすれば多様性の豊かさを感じられるが)。フラットに思えるラブソングが、時としてユニバーサルな感情を揺さぶる名曲となる。

1.Salvador Sobral / Amar Pelos Dois (Portugal, 2017)
https://youtu.be/ymFVfzu-2mw

 前にも紹介したが、個人的にESCの最高曲。ポルトガルも、1970年代まで東隣のスペインが軍事政権だったわけで、西側は大西洋の海しかない地勢。大変な苦労があったはずで(ファドと言う、演歌的な民謡文化がそれをよく表している)、自然と男女のラブソングにもそうした深みがある。そうした悲しみを美しいメロディとリリックで歌う名曲。

2.Michal Szpak / Color Of Your Love (Poland, 2016)
https://youtu.be/Kj95aWw1T0E
 ポーランドは今や現在進行形、ウクライナ難民の受入れで大変だろう。歴史的にも、ナチスが建てたアウシュヴィッツ収容所はポーランドだ(当時はドイツの占領下)。あと、ソ連崩壊のペレストロイカのきっかけを創ったのが、ポーランドの労働組合、「連帯だ」った。ロン毛の見た目から、元々はハードロックボーカリストだと思うが、ロック畑のシンガーが歌うバラードの名曲。シンプルなラブソングだが、恋人が二度と会えなくなるような社会情勢(戦争はなくても徴兵はある)では、日本のラブソングとは愛の言葉の重みが違う。

3.Conchita Wurst / Rise Like A Phoenix (Austria, 2014)
https://youtu.be/QRUIava4WRM
 オーストリアはかつてオーストリア・ハンガリー帝国と言う人種の違う民族が1つの国家を形成していた。ハプスブルク家による豪華絢爛な文化が花咲いた一方で、そうした貴族文化により社会的ステータスの維持として人種差別が残っていたりする。何より、インパクトの強いビジュアルを見ればわかる通り、トランスジェンダーシンガー。日本も実はトランスジェンダーシンガーが多くて、美川憲一や美輪明宏など大物が多いが、彼らはすでに悟りの境地。まだ若いコンチータ・ウルストは、手探りの生き方をして(男性の姿で歌うこともある、むしろこの女装はESCをきっかけにスタイルを変えたと思われる)、2014年のESC winnerになった。

4.TIX / Fallen Angel (Norway, 2021)
https://youtu.be/bp2kfhuv8ZU
 北欧は例外的にそうした悲しみとは距離を置けているようだ。ESCの伝説であるABBA(スウェーデン)は、人種も性別も世代も全て超える希望の歌を世界に届けた。このTIXと言うシャイな青年もまた、劣等感で苦しんだ青春時代を乗り越えて、ポップで前向きな歌で人気を博している。

5.Mans Zelmerlöw / Heroes (Sweden, 2015)
https://youtu.be/-msutN_OkU4
 そのABBAを輩出したスウェーデンの2015年winner。彼の歌も揺るぎない希望を与えてくれる。

6.Gjon's Tears / Tout l'Univers (Switzerland. 2021)
https://youtu.be/bpM6o6UiBIw
 スイスはかつて1988年にCeline Dionを輩出しているが、彼の刺さるようなハイトーンボイスに強く悲しみの感情を揺さぶられる。
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