昨日(2025年2月27日)、最高裁判所第一小法廷が、大阪高等裁判所令和5年5月10日判決(判例時報2576号57頁)を破棄し、事件を大阪高等裁判所に差し戻す旨の判決を出しました。朝日新聞社のサイトに、昨日の18時3分付で「特別交付税を9割減額、国と市の争い『裁判の対象』 最高裁が初判断」(https://www.asahi.com/articles/AST2W2TZHT2WUTIL01BM.html)という記事が掲載されています。
これだけを記しても訳がわからないかもしれませんので、事件の概要を示しておきましょう。以下、元号表記と西暦表記が混ざることを御了承ください。
大阪府泉佐野市(原告、被控訴人、上告人)は、令和元年12月に、総務大臣より、地方交付税法第15条第2項に基づき、令和元年度の第一回目の特別交付税の額を710万2千円とする旨の決定(以下、12月決定とします)を受けました。泉佐野市は、同月25日に本件12月決定について地方交付税法第18条第1項に基づく審査申立を行ったのですが、総務大臣は令和2年1月23日に申立却下の決定を行いました。また、泉佐野市は、同年3月に、総務大臣より令和元年度の第2回目の特別交付税を4616万7千円とする旨の決定(以下、3月決定と記します)を受けました。
泉佐野市は、国を被告として、令和2年6月8日に12月決定および3月決定の取消を求めて出訴しました。これが本件訴訟です。同市は、次のように主張していました。
令和元年度における市町村に係る特別交付税の額の算定方法の特例を定めた「特別交付税に関する省令」附則第5条第21項(令和2年総務省令第111号による改正前のもの)および同附則第7条第15項(令和2年総務省令第12号による改正前のもの)は、地方税法第37条の2及び同法第314条の7によって個人住民税の特例控除の対象となる寄附金に係る収入が多額であることを理由として特別交付税の額を減ずるものである。これは、地方交付税法第15条第1項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であるから、同省令附則第5条第21項および附則第7条第15項に基づき泉佐野市に対して交付する令和元年度の特別交付税の額を算定した本件各決定は違法である。
大阪地方裁判所令和3年4月22日中間判決(判例時報2495号14頁)は、本件訴訟が裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」にあたると判示しました。続いて、大阪地方裁判所令和4年3月10日判決(判例時報2532号12頁)は、改めて本件訴訟が裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」にあたる旨を述べるとともに、地方交付税法第15条第2項に基づき総務大臣が行う特別交付税の額の決定が抗告訴訟の対象となる行政処分にあたる、ならびに特別交付税に関する省令(令和2年総務省令第111号による改正前のもの)附則第5条第21項および同附則第7条第15項が地方交付税法第15条第1項の委任の範囲を逸脱して無効である旨を述べて、泉佐野市の請求を認容しました。
国が控訴し、大阪高等裁判所令和5年5月10日判決は「地方交付税法の仕組みや目的等に照らすと、地方団体が国から法律の定めに従い地方交付税の分配を受けることができるか否かに関する紛争は、国と地方団体が、それぞれ行政主体としての立場に立ち、地方団体全体が適正に行政事務を遂行し得るように、法規(地方交付税法)の適用の適正をめぐって一般公益(地方団体全体の利益)の保護を目的として係争するものというべきである」から、「本件訴えは、行政主体としての被控訴人泉佐野市が、法規の適用の適正をめぐる一般公益の保護を目的として提起したものであって、自己の財産上の権利利益の保護救済を目的として提起したものと見ることはできないから、裁判所法3条1項にいう『法律上の争訟』には当たらないというべきである」として、大阪地方裁判所判決を破棄し、泉佐野市の訴えを却下しました。そこで泉佐野市が上告していました。
令和6年12月5日、最高裁判所第一小法廷は「泉佐野市と国の双方の意見を聞く弁論を来年1月30日に開くと決め」ました〔朝日新聞社2024年12月5日18時59分付「『ふるさと納税で多額収入→交付税減』国と市の訴訟、最高裁が弁論へ」(https://digital.asahi.com/articles/ASSD532NVSD5UTIL022M.html)によります〕。実際に令和7年1月30日に弁論が行われたようです。そして、およそ1か月が経過した令和7年2月27日、つまり昨日に、最高裁判所第一小法廷の判決が出た訳です。
判決文を見られないので詳しいことはわかりませんが、最高裁判所第一小法廷は、特別交付税の減額処分の取消を裁判で請求することができる、と判断した訳です。特別交付税の交付については、総務大臣が金額を決定する一方で、地方公共団体が受け取る権利を有する旨を述べたとのことです。
正直なところ、地方交付税法に定められる特別交付税および普通交付税の算定の仕組みを念頭に置くと、最高裁判所第一小法廷の判決に対して疑問がないとも言えないのですが、大阪高等裁判所の判決はやや単純な筋を取っていたので、妥当なところでしょう。
ただ、私は総務大臣による特別交付税の減額処分が妥当であると考えています。差戻後の大阪高等裁判所が、泉佐野市の請求を棄却する判決を出すのではないかと期待しています。泉佐野市は、「ふるさと納税」によって多額の寄附金収入を得ています。その上で満額の交付税を受け取るのでは、他の普通地方公共団体、とりわけ不交付団体との比較において不公平です。収入があるならばその分だけ交付金を減らすのが筋ですから、「ふるさと納税」は地方交付税の趣旨も歪めている訳です。
また、泉佐野市は、「ふるさと納税」の返礼品などでも問題を起こしています。今回とは全く別の訴訟で国は敗訴していますが、法律や総務省令などの規定に稚拙な点があったことも否定できません。
「ふるさと納税」は、地方自治法第10条第2項に定められる負担分任の原則に反しますし、住民税の仕組みなどにも反します。「他の市町村に寄附したりするなら移住しろ! それが筋だろう」と言ってよいでしょう。また、「ふるさと納税」は、結局のところ高額納税者に有利なだけで、納税者間に不公平をもたらします。つくづく、「馬鹿な制度を作ってしまった」と思わざるをえません。