ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

憲法ノート:人身の自由―刑事訴訟入門の入門として―

2014年10月30日 00時31分12秒 | 法律学

 今回も、「日本国憲法ノート」〔第5版〕からの復活掲載です。第18回の「人身の自由―刑事訴訟入門の入門として―」で、やはり基本的な内容は2007(平成19)年10月14日のものであることをお断りしておきます。

★★★★★★

 憲法第22条により保障される居住・移転の自由も、実質的には人身の自由の一種として捉えるべきものである。しかし、この講義においては、経済的自由との関連において説明した。

 1.奴隷的拘束および苦役からの自由(憲法第18条)

 これは、アメリカ合衆国憲法修正第13条に由来するものである(ちなみに、制定当時のアメリカ合衆国憲法には、人権に関する条項は含まれていない)。大日本帝国憲法において、人身の自由を直接的に規定する条文はなく、奴隷制度が公的に存在しなかったとは言え、実際には、監獄部屋・タコ部屋、娼妓契約などが存在していた〔憲法第18条にいう「奴隷的拘束」(人格の尊厳が奪われるに至る身体的・精神的拘束のこと)の具体的事例である〕。国家がこのような行為を行うことは勿論のこと、私人間において行われた場合であっても、憲法第18条に直接違反するので無効となる(すなわち、本条の場合、間接効力説を採るにせよ直接効力説を採るにせよ、私人間効力が妥当する)。

 「その意に反する苦役」:懲役刑、労役場留置などの場合を除き、強制労働のように、苦痛を伴う肉体的労役などの拘束は禁じられる(精神的苦痛を与えるものも含めるべきであろう)。法律においては、人身保護法第2条や労働基本法第69条第1項などが、憲法第18条の趣旨を受けたものである。なお、消防法第29条や水防法第17条などに規定されている、一定地区の住民に対する応急措置の作業への義務づけは、緊急目的のために必要であるから、憲法第18条に違反しない。

 ちなみに、 多数説は、徴兵制度が憲法第9条の他、第18条によっても許されないと理解する。政府見解も、徴兵制度が違憲であるとする点において結論的には同じであるが、具体的に憲法のいかなる条文に違反するおそれがあるかを示していない。

 私も、かつては多数説と同様に理解していたが、この見解は妥当ではないため、説を改めることとする。徴兵制度が許されないのは第9条が存在するからであって、第18条によって許されない訳ではない。多数説は、何故に徴兵制度が「奴隷的拘束」に該当するのかをまともに説明していない。また、徴兵制度が「その意に反する苦役」に該当するとも言い切れない(もし、該当するのであるとすれば、志願兵制度の存在理由を説明できなくなる)。また、多くの国においては、徴兵制度が「奴隷的拘束」にも「その意に反する苦役」にも該当せず、むしろ、納税などと並ぶ国民の義務と理解されている。国民主権原理からも、徴兵制度の存在理由を説明しうるであろう。

 2.法定手続(適正手続)の保障(憲法第31条など)

 日本国憲法は、第31条ないし第40条において、刑事手続に関する基本的原則を規定する。このうち、第32条および第40条は、自由権というよりも、受益権としての性格を有する。このように、刑事手続に関して多くの条文が置かれているのは、刑事手続こそが個人の権利・利益に対する重大な侵害であるとともに、その侵害が不当にかつ広範になされやすかったという事情を踏まえたものである、と理解しうる。但し、第32条は、刑事手続(とくに刑事訴訟)のみならず、民事訴訟および行政事件訴訟にも関係する。とくに、行政事件訴訟に関して意味が大きい。

 憲法第32条によって保障される「裁判を受ける権利」は、民事事件および行政事件に関しては、何人も裁判所に自ら訴訟を提起することができ、その裏返しとして、裁判所は、適法な訴訟の提起に対して裁判を拒絶できない、という意味を有する(とくに行政事件に関して意義がある)。これに対し、刑事事件に関しては、裁判所以外の機関によって刑罰を科せられない(より精確に言うならば、裁判所以外の機関によって刑罰を科す旨の決定がなされない)という意味を有する。そのため、刑事事件に関しては、第37条第1項と重複する部分が存在する。

 憲法第31条は、刑事手続に関する最も重要な、出発点的な原則を定める。

 第一に、刑事手続法定の原則である。従って、恣意的な刑罰権行使は許されない。

 第二に、適正手続の原則である(アメリカ法で言うdue process of law)。刑事手続は、単に法律で定められればよいというものではなく、内容が適正でなければならない。

 第三に、憲法第31条には明文で示されていないが、刑法などの実体法が適正であること(実体的適正)の原則が読み取られるべきである。実体法が適正でなければ、手続法が適正であっても意味がないからである(日本国憲法において規定されなかったのは、これが当然の前提であるからである、と考えられる)。実体的適正の内容としては、罪刑法定主義があげられる。いかなる行為が犯罪であり、それに対してどの程度の刑罰が科されるかということが、刑法などの実体法において規定されていなければならない(Nullum crimen sine lege, nulla poena sine lege.)。

 罪刑法定主義についてはラテン語を示しているが、実は、1801年に刊行された、ドイツの刑法学者アンゼルム・フォイエルバッハ(Paul Johann Anselm von Feuerbach, 1775-1833)の教科書において初めて登場したものである。なお、彼は、有名な哲学者であるルートヴィヒ・フォイエルバッハ(Ludwig Andreas Feuerbach, 1804-1872)の父親であり、『カスパー・ハウザー』や『バイエルン犯科帳』の著者としても知られている。

 ここで、罪刑法定主義の内容をあげておく。

 (1)予め発布された法律がなければ刑罰はない(Nulla poena sine lege praevia.)。

 (2)成文の法律がなければ刑罰はない(Nulla poena sine lege scripta.)

 (3)法律の明文の規定がなければ刑罰はない(Nulla poena sine lege stricta.)。

 (1)からの派生原則として刑罰不遡及の原則(第39条)、(2)からの派生原則として慣習刑法排除の原則が、(3)からの派生原則として刑罰法規の類推解釈の禁止が導かれる。また、絶対的不定期刑の禁止も説かれている。さらに、実体的適正の原則は、犯罪と刑罰とが均衡を保っていること(比例原則)などをも要求する。

 また、罪刑法定主義の派生原則としては、刑罰法規明確の原則もあげなければならない。しかし、刑罰法規には不明確な文言を使用するものも多く、度々問題となっている。

 ちなみに、憲法第73条第6号は、法律の委任がない場合の政令による刑罰の禁止を規定する。

 ●福岡県青少年保護条例事件判決(最大判昭和60年10月23日刑集39巻6号413頁)

 この条例は、満18歳未満の者(小学校就学時から)を青少年と定義し(第3条第1項)、その上で「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない」と定めた(第10条第1項)。被告人は、少女が当時16歳であることを知りながらホテルなどにおいて性行為を繰り返したため、この条例 の第10条第1項に違反するとして有罪判決を受けた。これに対し、被告人は、「淫行」の意味が不明確であるとして上告した。最高裁判所は、被告人の上告を棄却した。

 次に、適正手続の内容について述べる。この原則は、公訴権濫用の禁止、上訴権の保障、告知・聴聞の法理などの原則からなる。とくに重要のものが告知・聴聞の法理であり、公権力が国民に不利益を課す時には、予めその内容を告知し、当事者に弁解ないし防御の機会を与えなければならない、という内容である。

 ●第三者所有物没収事件(最大判昭和37年11月28日刑集16巻11号1593頁)

 適正手続の原則について問題となったものである。当時の関税法第118条第1項は、密輸犯罪行為の用に供した船舶や犯罪にかかる貨物を没収する旨を定めていた。この規定に基づき、犯人以外の第三者が所有する物をその第三者に告知・弁解の機会を与えることなく没収することが憲法第31条に違反するとして争われた(但し、被告人による主張であり、第三者が主張したのではない)。

 判決は、「第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であって、憲法の容認しないところである」、関税法第118条第1項は没収に際して「第三者に対し、告知、弁解、防禦の機会を与えるべきことを定めておらず」、この規定に基づいて第三者の所有物を没収することは憲法第31条および第29条に違反する、と述べた。

 これまでは、刑事手続に関して述べてきた。それでは、行政手続についても適正手続の原則が妥当するのであろうか。行政手続の中には、個人の権利・利益を制約し、その程度が刑事手続と大差ないものもある。また、刑事手続と目的などを異にするとは言え、外形的には類似するものもある。その意味において、憲法第31条は行政手続に関しても適用があると解されるようになっている(但し、第13条説などもある)。行政手続においても、告知・聴聞の法理は重要である。

 ●成田新法事件最高裁判所判決(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)

 成田新法とは、新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(現在は「成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法」)のことである。運輸大臣は、この法律の第3条第1項に基づいて、規制区域内にある原告(控訴人・上告人)所有の工作物について、毎年「暴力主義的破壊活動者の集合の用」または「暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用」に供することを禁止する旨の処分を繰り返していた。これに対し、原告はこの処分の取消を求めて出訴した。

 最高裁判所は、憲法第31条に定められる法定手続の保障(直接的には刑事手続に関する規定)が行政手続にも適用される可能性を認めつつも、行政処分の内容などによって決まるものであるとした上で、「暴力主義的破壊活動者」の定義(同第2条第2項)などの規定は「過度に広範な規制を行うものとはいえず、その規定する要件も不明確なものであるはいえない」と判断し、原告の請求を棄却した。

 なお、憲法第31条と行政手続との関連に関する判例としては、他に、個人タクシー営業免許事件(最一小判昭和46年10月28日民集25巻7号1037頁)、群馬中央バス事件(最一小判昭和50年5月29日民集29巻5号662頁)がある。

 最後に、刑事補償請求権について述べておく。

 憲法第40条は、刑事補償請求権を規定する。この場合は、例えば逮捕・拘留などが適法であったとしても、結果として無罪判決が出されたならば、結果として、本来ならば刑事責任を追及されるべきでない者が犯罪の嫌疑をかけられたことに対する被害を経済的に補填することを請求する、という権利である。従って、原因たる行為が違法であることを必要としない点において国家賠償(第17条)とは異なり、原因行為がなされた当時において適法であっても、それが結果的に違法であることから損失補償(第29条第3項)とも異なる。なお、第40条を受けて刑事補償法が定められているが、補償の額が低額であること、および、無罪判決を得られた場合には補償請求権が発生するが、例えば捜査などの段階において証拠が得られなかったなどの理由によって裁判に至らなかった場合には補償がなされないなど、問題も多い。

 3.令状主義(憲法第33条・第35条)

 或る犯罪の被疑者を逮捕するには、彼が現行犯である場合を除き、司法官憲(事件発生地を管轄する地方裁判所の裁判官)によって発せられる、逮捕の理由とされる犯罪事実の内容が明示される令状を必要とする。また、被疑者などの住居などに立ち入って取り調べを行ったり証拠物件の押収をなしたりするにも、司法官憲によって発せられる個別の令状(捜索令状、押収令状)が必要とされる。

 ここで「彼」という言葉を使っているが、「彼女」を含む(古語の用法)。

 逮捕令状に関しては、現行犯の場合が例外として定められているが、その他、準現行犯(刑事訴訟法第212条第2項)、緊急逮捕(同第210条)、別件逮捕(令状に記載される事実以外の事実の取り調べを目的とする逮捕)については問題がある。

 まず、現行犯については、逮捕に着手した時期と現実の逮捕の時期という問題がある。判例は、逮捕に着手した後に犯人の追跡が継続していれば、数時間経過した後においても適法な現行犯逮捕であるとしている(最一小判昭和50年4月3日刑集29巻4号132頁)。

 田宮裕『刑事訴訟法』〔新版〕(1996年、有斐閣)77頁、白鳥祐司 『刑事訴訟法』〔第2版〕(2001年、日本評論社)147頁も参照。

 準現行犯については、通説・判例は合憲としている。

 緊急逮捕についても、判例・通説は合憲とするが(最大判昭和30年12月14日刑集9巻13号2760頁)、違憲説も有力である。

 田宮・前掲書78頁によれば、緊急逮捕も令状逮捕と考えてよいとする説(令状逮捕説)、現行犯に準じて合理的と称しうるとする説(合理的逮捕説)、治安維持上の緊急行為であるとする説(必要説)がある。刑事訴訟法第210条は、第2文において裁判官が発する令状を要求していること、第3文において「逮捕状が発せられない時は、直ちに被疑者を釈放しなければならない」と規定することで、かろうじて違憲性を免れている、と言えようか。

 また、別件逮捕は、通常、本件について逮捕の要件がまだ備わらないうちに、その取り調べのために別件(軽微な事件など)で逮捕することである(従って、余罪の取り調べとは意味が違う)。形式上は適法な逮捕であるが、実質的には脱法行為であるとも言いうる。

 これについて、警察実務などは合憲(合法)説(別件基準説)を採る。別件逮捕が違法となるのは、その別件について逮捕の要件を欠く場合に限る、とする説である。しかし、この説に対しては、別件逮捕に見られる逮捕権の濫用という脱法的本質を無視する考え方であるという批判が妥当する(田宮・前掲書97頁)。

 一方、狭山事件決定(最二小決昭和52年8月9日刑集31巻5号821頁)は、別件が名目上利用されるだけで実質的には本件の逮捕という場合を違法としている〔同旨として、帝銀事件(最大判昭和30年4月6日刑集9巻4号663頁)がある〕。学説の多くも、別件による逮捕について本件を基準にしてその適否を判断する本件基準説を採る。この説の場合、別件については名目上利用されるだけであるならば、逮捕を自白獲得の手段とみなし、別件による拘束の後に本件の拘束が見込まれるという点において法定の拘束期間を逸脱し、令状主義に反する、ということになる。本件基準説は、別件逮捕が憲法違反であると明言している訳ではないが、その趣旨を徹底するならば、別件逮捕は憲法違反であろう。

 捜索令状・押収令状に関しては、まず、例外として規定される「第三十三条の場合」が現行犯逮捕の場合のみを指すのか、令状による逮捕の場合も指すのかが問題となる。刑事訴訟法第220条は、同第199条を受け、逮捕令状による逮捕の際には、捜索令状・押収令状がなくとも捜索および押収をなしうると規定している。次に、「正当な理由」のある場所や物件についての明示が問題となる。都教組勤評反対闘争事件(最大決昭和33年7月29日刑集12巻12号2776頁)は、押収令状になされた「その他本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」という記載について、令状に記載された被疑事件に関係があり、かつ例示の物件に準じられるような文書・物件を含むことは明らかであるとした。

 また、学説の多数は、憲法第35条に違反して押収された押収物の証拠能力を否定する。

 4.拷問・残虐な刑罰の禁止(憲法第36条)

 拷問は、自白を得る目的でなされることが多く、これによって数々の冤罪事件を引き起こしたこともあり、禁止されている。また、憲法第38条第2項により、拷問などによって得られた自白には、証拠能力が認められない。

 残虐な刑罰の禁止について問題となるのは、死刑である。これについて、最大判昭和23年3月12日刑集2巻3号191頁は、「火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆでの刑のごとき残虐な執行方法」によらなければ憲法第36条に違反しない、とも読める趣旨を説いている。このことから、刑法第11条第1項に規定される「絞首」は残虐な刑罰にあたらない、ということになるのであろうか。なお、日本は、死刑廃止条約に加入していない。

 5.不当に監禁されない権利(憲法第34条)

 憲法においては、抑留および拘禁の際、理由を直ちに告げられること、および、直ちに弁護人に依頼する権利を与えることが規定されている。しかし、弁護人に依頼する権利については、刑事訴訟法第39条第1項において規定されているものの、同第2項・第3項などにより制約を受けており、必ずしも十分に保障されていない状況にある。また、拘禁に際しては、「要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない」とされ、刑事訴訟法第82条以下にも「勾留理由開示」に関する規定がある。

 この場合の抑留は、比較的短い期間における身体の自由の拘束をいう。例として、逮捕に引き続いての留置などである。また、この場合の拘禁は、比較的長期にわたる身体の自由の拘束をいう。勾留(刑事訴訟法第60条以下)、鑑定留置(同第167条など)が該当する。

 6.刑事被告人の権利(憲法第37条ないし第39条)

 (1)公正な裁判を受ける権利 「公正な裁判所」は、その組織と構成において不公正な裁判のおそれのない裁判所である、とされる(最大判昭和23年5月5日刑集2巻5号447頁)。刑事訴訟法第20条以下には、裁判所職員(裁判官)の除斥・忌避に関する規定が置かれている。

 裁判の遅延は、実質的に裁判の拒否につながる。従って、不当に遅延しないように要請されている(尤も、日本の裁判は、刑事訴訟などの別を問わず、長い時間がかかっており、問題も多い)。最大判昭和47年12月20日刑集26巻10号631頁は、15年以上にわたって審理が中断していた高田事件(愛知県瑞穂警察署高田巡査派出所が襲撃破壊された事件)について、憲法第37条第1項を直接的に援用して、免訴判決を下し、被告人を救済した。

 このような判断は、迅速な裁判を求める被告人の権利を正面から認めることを意味する。最大判昭和23年12月22日刑集2巻14号1853頁は、迅速な裁判に関する権利性を認めていなかった。

 「公開裁判」は、憲法第82条からも要請される。略式手続(簡易裁判所において、公判手続を経ないで財産刑を科する制度)は、事後に正式の裁判を請求する権利を奪っていなければ合憲である。

 証人審問権と証人喚問請求権は、刑事訴訟における当事者主義の原則を明示するものであるとともに、被告人自身に不利な証言を行う証人への反対審問を行う権利などを保障するものである。

 弁護士選任権:刑事訴訟において、一種の原告たる検察官と被告人とが対等の立場で相互に攻撃防禦しうるように、被告人に認められる権利である。また、その実質を担保するために、国選弁護人の制度が設けられている。

 (2)不利益供述強要の禁止

 刑事被告人自身の刑事責任に関する不利益な事実の供述は、自発的になされるならば別として、多くの場合、強要されることが多い。そのため、憲法第38条第1項は、黙秘権を保障している。この黙秘権は、証人や被疑者についても認められる(証人について刑事訴訟法第146条、被疑者について同第198条第2項を参照)。なお、黙秘権は、行政手続において問題となることが多い。

 (3)自白

 憲法第38条第1項は、任意性のない自白このような自白の証拠能力を否定する。これにより、不利益供述強要の禁止および拷問の禁止の趣旨が補強されることになる。

 また、自白のみが刑事被告人にとって不利な唯一の証拠である場合(任意性があるものであっても同じ)、刑事被告人は有罪とされない(従って、刑罰も科されない)。自白を補強する証拠が必要とされるのである。

 (4)事後法の禁止、一事不再理の原則、二重処罰の禁止

 事後法の禁止は、刑罰不遡及の原則である。また、実行の際には適法であった行為は勿論、事後的な刑罰の加重や責任の強化をも禁止するものと解されている(逆に、事後的に刑罰が軽くなる場合には、この原則は妥当しないであろう)。

 一事不再理の原則(憲法第39条)とは、既に無罪判決が確定している行為について、これを覆して処罰することは許されない、とすることをいう(逆に、有罪とされた行為について、再審によって無罪判決を得ることは禁止されていない)。なお、少年法に基づき、家庭裁判所が「審判を開始しない旨の決定」を下しても、これによって「既に無罪とされた行為」とはならない。

 二重処罰とは、前の確定判決をそのままにして、さらに新たな別の判断を加えることである。これも禁止されている。この場合、例えば法人税を脱税した者に対して、刑罰と追徴税とを併科することは違憲ではない、とされる(最大判昭和33年4月30日民集12巻6号938頁)。


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