ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

埼玉高速鉄道線の延伸は

2025年02月27日 12時00分00秒 | 社会・経済

 インターネットでは今日(2025年2月27日)の8時0分付で「埼玉高速鉄道延伸が現実味 さいたま市、国の補助適用向け素案策定へ」(https://digital.asahi.com/articles/AST2V1401T2VUTNB001M.html)として朝日新聞社のサイトに掲載されていますが、紙面では昨日(2025年2月26日)付で朝日新聞朝刊23面埼玉13版に「SR延伸 一転、現実味 国の補助適用高まる さいたま市素案作成へ コスト縮減・工期短縮」として掲載されていました。内容はほぼ同一です。

 時折東急目黒線を利用する私としても、埼玉高速鉄道線(赤羽岩淵駅から浦和美園駅まで。14.6km)の状況は気になっていました。もう20年程前のことですが、一度だけ、浦和美園駅から赤羽岩淵駅まで通して乗ってみました。当時、浦和美園駅の周辺は民家が非常に少なく、目立つ建物と言えば浦和美園駅そのものと埼玉スタジアムだけという状況でした。位置がいかにも中途半端であり、延伸が予定されているであろうことはすぐにわかります。

 実際に、2000(平成12)年の運輸政策審議会答申第18号において「<11>東京7号線の建設及び延伸」があげられており、そこには目黒駅⇆白金高輪駅⇆溜池山王駅⇆赤羽岩淵駅⇆浦和美園駅⇆岩槻駅⇆蓮田駅という計画(?)があげられています。当時、目黒駅から溜池山王駅までの区間および赤羽岩淵駅から浦和美園駅までの区間は工事中でしたが、同年に目黒駅から溜池山王駅までの区間が開通したことにより、帝都高速度交通営団(当時)南北線が全通し、同時に東急目黒線との相互直通運転が始まりました(相互直通運転については答申第18号においても「目黒駅において東京急行電鉄目蒲線と相互直通運転を行う」と明記されています)。2001年に埼玉高速鉄道線の赤羽岩淵駅から浦和美園駅までの区間が開業しました。埼玉高速鉄道線が東京メトロ南北線の延長線のようになっているのは、この答申第18号、さらに遡ると1972(昭和47)年の都市運輸審議会答申第15号に由来するようです〔当時は目黒駅⇆飯倉片町⇆永田町駅⇆市ヶ谷駅⇆駒込駅⇆王子駅⇆岩淵町(赤羽岩淵駅のこと)⇆川口市中央部⇆浦和市東部となっていたようです。もっと遡ることもできるでしょうが、ここで止めておきます〕。

 さて、埼玉高速鉄道線の開通直前とも言える時期に浦和美園駅から岩槻駅を経て蓮田駅まで延伸する計画(というよりは案)が答申として出されてから25年、まずは浦和美園駅から岩槻駅までのおよそ7.2kmを延伸する動きがようやく出そうです。上記記事によると「さいたま市は、埼玉高速鉄道(SR)の延伸について国から建設費の補助を得られる可能性が高まったとして、2025年度にその前提の計画素案をまとめる方針を開会中の市議会に示した」とのことです。

 2024年1月には埼玉高速鉄道線の延伸に関する事業化要請が見送られていました。理由は建設費の増大です。概算で860億円ほどと見積もられていたものが、昨今の材料費などの高騰によって1300億円ほどまで増えてしまったのでした。新幹線であれその他の鉄道であれ、新線開業なり路線延伸なりは費用便益比が1.0を超える見込みが立たなければ、建設する意味がなくなります。北陸新幹線の敦賀駅から新大阪駅までの延伸が暗礁に乗り上げたのも、費用便益比の問題でした。一般的な話として、基準を適当に変えた上で費用便益比を無視するならば、将来に禍根を残すことは明らかです。いわんや、人口増加の期待が非常に薄い日本においておや。

 ただ、さいたま市が市議会に示した方針に、問題が全くないとは言えません。建設費が、概算で1390億円ほどになっているのです。これでも「建設内容のコスト縮減は図れた」というのですが、大丈夫なのでしょうか。

 さいたま市は、工期を18年から14年に短縮すること、埼玉高速鉄道線沿線における「最新の人口推計で鉄道利用率の高い若い世代が1割以上伸びていることを加味すると、費用便益比が1・0~1・2程度に改善する見通しになった」という趣旨を述べたようです。たしかに、最近、土曜日・休日でも首都圏の鉄道利用者は多いように見受けられますし、岩槻駅まで延伸すれば東武野田線への乗り換え客も増えるでしょうから、費用便益比が上昇することは考えられます。2019年度までは乗車人員が順調に増えてきたことも、さいたま市の姿勢の背景にあるのでしょう(2020年度はCOVID-19のために落ち込みましたが、2013年度より多かったようです)。しかし、これが甘い見通しに終わっていないのかを検討する必要があるでしょう。

 私がこのように記したのは、埼玉高速鉄道線の運行本数の変化を見ているからです。埼玉高速鉄道線の場合、線内完結の運用はなく、全ての列車が東京メトロ南北線に直通運転していますが、南北線の列車の全てが埼玉高速鉄道線に直通する訳ではありません。朝夕ラッシュ時などを含めると面倒な話になるので平日日中に限定しておくと、2018年のダイヤ改正で赤羽岩淵駅から鳩ヶ谷駅までの区間で減便が行われており、2019年のダイヤ改正でやはり同じ区間で減便が行われ、南北線からの鳩ヶ谷行きの列車がなくなりました。これでも輸送人員が増えているので、朝夕ラッシュ時に増便するなど、メリハリの利いたダイヤ改正がなされたと言えるのかもしれません。

 今後、さいたま市は「速達性向上事業に関する計画」の素案を作成することとしています。この素案を埼玉高速鉄道に示して事業化を要請する方針のようです。また、副市長や埼玉県副知事をメンバーとする会議の場も作る旨が、市議会において市長から述べられています。

 地図を見る限り、埼玉高速鉄道線が岩槻駅まで延長されるならば、利便性は向上すると思われます。JR東北本線、東武野田線、東武伊勢崎線およびJR武蔵野線で囲まれた地域は鉄道空白地帯であり、岩槻区はさいたま市で最大の面積の区であるにも関わらず、鉄道は東武野田線しかありません(駅も岩槻駅と東岩槻駅しかありません)。さいたま市の利便性の向上という観点からすれば、埼玉高速鉄道線の延伸は必要かもしれません。ただ、延伸部分の開業はだいぶ先のこととなります。工期を14年として、2025年中に着工とはならないので、早くとも工事が始まるのは2026年中でしょう。そうすると2040年の開業となります。実際にはもう少し先のこととなるでしょう。その時までに、埼玉高速鉄道線の輸送人員数がどのような変化をたどるのか、など、不確定な要素は少なくありません。

 また、岩槻駅から蓮田駅までの区間については、今回の延伸要請の対象になっていません。蓮田駅は名前の通り蓮田市にありますから、さいたま市だけでどうにかなる話ではないのです。埼玉県、さらには国土交通省も関わらざるをえません。今後の人口動態予想などを念頭に置くと、実現不可能とまでは言わないまでも、かなり困難ではないでしょうか。もとより、地元では延伸を期待する声もあることでしょう。何せ、1924(大正13)年から1938(昭和13)年まで、蓮田駅を起点として岩槻駅(現在の東武野田線岩槻駅とは異なります)を経て神根駅(現在は川口市の領域)まで武州鉄道の路線が通っていたのですから。


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