ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

地震

2021年02月13日 23時24分10秒 | 日記・エッセイ・コラム

 今日(2021年2月13日)の23時8分に東北地方(福島県沖)を震源とする地震がありました。マグニチュードは7.1と推定される、ということです。

 川崎市高津区もかなり揺れました。震度4だったようです(地域によって違いはあるでしょう)。少し長く揺れたこともあり、すぐに玄関の鍵を開け、窓も開けました。

 東日本大震災から10年近くが経過していますが、余震なのかもしれません。たしか、当時、10年くらいは余震があると聞きました。

 東北地方では震度6強の箇所が多くなっています。原子力発電所など、どうなのかと心配です。

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第27回    情報公開法制度

2021年02月13日 00時25分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 以下、法律については次のように略記する。

 行政機関の保有する情報の公開に関する法律⇒行政機関情報公開法

 独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律⇒独立行政法人情報公開法

 

 1.情報公開制度総論

 〔1〕情報公開の意義

 情報公開は、行政による情報管理の一態様であり、次の二つの意味を併せ持つ。

 (1)行政機関が管理する情報を、私人の請求により開示すること。一般的に情報公開という場合は、この意味である。

 (2)行政機関が管理する情報を、行政機関の側で積極的に提供すること。これは、情報提供とも言われている。広報もその一種であろう。

 情報公開の出発点は、国民主権・民主主義の理念である(行政機関情報公開法第1条を参照)。この理念において、行政機関が収集し、管理する情報は、本来、国民の共有財産である。民主主義においては公開政治が原則であるから「国民主権から出発すれば、情報公開は当然である」〈山崎正『住民自治と行政改革』(2000年、勁草書房)56頁注(4)。拙稿「大分県における情報公開(1)―大分地方裁判所平成12年4月3日判決の評釈を中心に―」大分大学教育学部研究紀要第22巻第2号427頁も参照〉。また、行政運営の公開性、および国民に対する政府の説明責任も、国民主権・民主主権の理念から説明しうるものである。

 〔2〕行政手続との関係、行政手続との違い

 情報公開は、行政手続の整備と並び、適正な行政運営(国家運営)を担保するために欠かせないものである。恣意的な行政運営(国家運営)は、近現代史の教訓が示すように、行政ないし国家の堕落、さらには滅亡、破滅をもたらす。社会が複雑化し、行政に認められる裁量権が拡大する中において、情報公開と行政手続の整備は、いずれも必要不可欠なものであると考えてよいであろう。

 但し、情報公開と行政手続は、考え方などに違いがある。

 行政手続(法)の整備は、「第23回 行政手続法〜事前手続に対する統制から その1:行政手続法の基礎」において述べたところから明らかであると思われるが、元々、私人の権利や利益を国家権力から保護するという考え方に由来する。これは自由主義的な発想に基づいているのである。

 それに対し、情報公開は、国民主権の原理に由来する。これは、行政への適切な参加、あるいは行政に対する監視という考え方である。

 さらに言うならば、行政手続には事件性の観念が必要であるのに対し、情報公開に事件性の観念は不要である。従って、情報公開の場合、自己の権利や利益などと関係のない情報(文書)であっても請求の対象となる(横浜地判昭和59年7月25日行裁例集35巻12号2292頁および東京高判昭和59年12月20日行裁例集35巻12号2288頁を参照)。言い換えれば、情報公開の場合、開示請求権が広く国民・住民などに認められている。

 また、歴史的な面での違いもある。行政手続法制の整備は国が先行したが、情報公開法制の整備は地方が先行した。情報公開条例の第1号は、1982年に制定された山形県金山町の条例である。都道府県における情報公開条例の第1号は、やはり1982年に制定された神奈川県の条例である。ちなみに、国の情報公開法は1999年に制定され、2001年に施行された。

 〔3〕情報公開制度の憲法上の根拠

 情報公開制度も、それが国や地方公共団体の制度である以上、憲法の理念に即したものでなければならない。それでは、情報公開法制度の憲法上の根拠は何処に求められるのであろうか。これについては、いくつかの説が存在する。

 (1)憲法第21条説

 国民の「知る権利」(表現の自由から導かれる)に求め、情報公開請求権が「知る権利」を具体化したものとする説である。

 憲法学においては、「知る権利」の根拠を憲法第21条以外の条文に求める説も存在するが、ここでは通説に従っておく。

 (2)国民主権説

 特定の条文に求めるのではなく、国民主権原理から行政側のアカウンタビリティ(説明責任と仮に訳しておく)があるものと考える説である。

 なお、「知る権利」は、憲法学説において一般化しているようであるが、意味や内容が広汎にわたり、とくに、情報開示請求権としての意味については、最高裁判決が出ていないこともあって、行政機関情報公開法には示されていない(若干の条例で示されているが)。

  

 2.行政機関情報公開法の構造

 〔1〕行政機関情報公開法の目的

 昨今の実定法規と同様に、行政機関情報公開法第1条は法律の目的を示すものとなっている。この規定は、次のことを示している。

 (1)前述のように、国民主権の理念を明示する。

 (2)政府(対象は行政機関に限定される)が保有する情報に対する国民の開示請求権を認める。

 通説は、この法律によって初めて具体的な情報開示請求権が認められると理解する。 もっとも、このような見解を採るとするならば、情報開示請求権の人権としての意味は薄まることも否定できない。

 (3)「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにする」

 (4)「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する」

 これは、国民参加、そして国民による行政への監視と同義である。なお、「知る権利」が明示されていないことについては根強い批判が存在するが、表面的な事柄ではないかとする見解もある。

 〔2〕対象となる機関(同第2条第1項)

 国の行政機関である。従って、会計検査院は対象となる機関であり〈但し、不服審査の機関は、行政機関情報公開法第18条および会計検査院法第19条の2により、会計検査院の中に置かれる会計検査院情報公開・個人情報保護審査会である〉、外交、防衛、警察関係の行政機関も対象とされる。

 他方、国会や裁判所は行政機関でないことから除外される。また、地方公共団体も除外される。但し、国会や裁判所が作成した文書、地方公共団体が作成した文書であっても、その文書または写しが国の行政機関にあれば、開示の対象となる。

 なお、独立行政法人、特殊法人、認可法人などは、独立行政法人等情報公開法の対象である〈特殊法人については、様々な定義が存在するが、ここでは、法律によって直接設立される法人(公社)、または特別の法律によって特別の設立行為をもって設立される法人(公団、事業団など)、と定義しておく。また、認可法人は、特別な法律によるが、私人の自主的な行為によって設立されるものをいう〉。同法別表第一および第二を参照されたい。

 〔3〕対象となる文書=「行政文書」

 行政機関情報公開法第3条は「行政文書」の開示を規定している。ここにいう「行政文書」は、同第2条第2項において 「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政組織の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの」と定義されている(但し、第1号および第2号に規定されているものを除く)。

 この定義から、「行政文書」には、文書は当然として、写真、フィルム、磁気テープ、パソコンで作成した文書データなども含まれることとなる。

 そして、先行した地方公共団体の情報公開条例では「公文書」として決裁供覧という手続を経た文書のみが公開の対象とされていたが、行政機関情報公開法ではこのような手続を経ていない文書でも開示の対象となる。従って、職員個人の私的なメモは開示の対象にならないが、組織的に使われているメモ(薬害エイズ事件で問題とされたノートなど)は、保管されているだけであっても開示の対象となる。

 〔4〕開示に関する諸事項

 (1)開示請求者

 行政機関情報公開法第3条は、「何人も」情報開示請求権を有する旨を規定する。ここにいう「何人も」は文字通りのものであって、日本国民に限定されていないし、居住も要件になっていない。

 情報開示請求権は、個人の権利であり、裁判上の救済を受ける。従って、開示請求に対して不開示決定がなされた場合、対象となる文書の内容を問わず、裁判や不服審査で争いうる。このことから、行政機関の長による開示決定・部分開示決定・不開示決定は、行政行為(処分)であり、行政手続法第2章にいう「申請に対する処分」に該当するとくに同第8条が重要であり、不開示決定および部分開示決定(=一部不開示決定)については、不開示としたことについて行政機関の長が理由を示さなければならない。

 また、開示請求は、行政手続法第2条第3号にいう「申請」に該当する。

 行政機関は、開示情報・不開示情報について審査基準を設定し、公表しなければならない(同第5条)。また、不開示決定および部分開示決定(=一部不開示決定)については、不開示としたことについて行政機関の長が理由を示さなければならない(同第8条)。

 一方、義務についての一般的な規定はないが、手続として同第4条に規定がある(行政手続法よりも申請人の保護に厚い)。情報開示請求権者は、開示請求書という書面によって請求をするのであるが、その際、氏名、住所などの記載、行政文書の名称など、開示を請求しようとする行政文書を特定しうる事項の記載が求められる。法律上はこれらの記載のみで十分であり、その範囲を超える記載を行政機関から求められたとしても拒否できると理解すべきである。逆に言えば、行政機関は、行政機関情報公開法第4条に定められていない事項を要件として記載することを情報開示請求権者に強要することは、情報開示請求権者に萎縮効果などを生じさせかねず、情報公開法の趣旨からして許されないと理解すべきである。

 ただ、実際には同第4条の範囲を超える記載などを求める省庁が存在する。これは、法律の趣旨を完全に逸脱しており、許されないものと解すべきである。

 (2)行政機関の開示義務

 同第3条が私人に情報開示請求権を認めていることとの関係で、同第5条は行政機関の開示義務を規定する。すなわち、行政文書については開示することが原則とされているのである。

 もっとも、行政文書に含まれている情報であればいかなるものであっても開示しなければならないというものではないし、むしろ、開示してはならない情報(不開示情報)もある。不開示情報が含まれている場合には、情報の開示はできない。不開示情報を開示しないこと自体については、行政機関に裁量が認められない(但し、同第7条により、公益上特に必要であるとして開示することが認められる場合があることに注意を要する)。ただ、現実的には、一つの行政文書の中に開示情報と不開示情報とが混在することが多いため、部分開示が認められている。

 (3)不開示情報とされるもの

 行政機関情報公開法第5条各号は、不開示情報を定めている。各号ごとにみていくこととする。

 ①第1号:個人情報。個人が識別されうるものであれば、原則として不開示である。

 個人情報については、個人情報であれば定型的に不開示とするタイプ(個人識別型)と、プライバシーとして保護に値するならば不開示とするタイプ(プライバシー型)とが存在するが、情報公開法は個人識別型を採用する。

 なお、個人情報であるから全てが不開示情報とされる訳ではない。第1号のイ~ハは、個人情報でありながら不開示情報とされないものを列挙する。

 かねてから、個人情報として開示(公開)か不開示(非公開)かが争われたのが、公務員の職および職務遂行に係る情報である。判例の蓄積などによって、地方公共団体の条例においては、職務遂行に関する情報である場合については、公務員の職のみならず、氏名を開示情報とする場合が多くなっている(最三小判平成15年11月11日民集57巻10号1387頁(Ⅰ−35)、最三小判平成19年4月17日判時1971号109頁(Ⅰ−37)を参照)。これに対し、情報公開法は、公務員の職および職務遂行の内容に係る情報を開示情報としており、氏名は含まれないとされている。但し、人事異動などの際に課長以上の職であれば開示されるのが慣行である。

 〔念のために記しておくが、職務遂行に関係のない情報であれば、いかに公務員に関する情報であるといえども通常の個人情報と同じく不開示(非公開)とすべきである。例えば、公務員個人が保有する銀行預金の口座番号、運転免許証の番号などは不開示とされることになる。これらは公務員の個人的な生活に関わるからである。〕

 ②同第1号の2:行政機関非識別加工情報等(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律第2条第9項も参照)。行政機関が保有する個人情報から個人識別部分や個人識別符号を取り除いて作成された情報を、行政機関非識別加工情報という。これは不開示情報である。また、削除された個人識別部分や個人識別符号も不開示情報である。

 ③第2号:法人の情報および個人の事業に関する情報。個人情報と異なり、イおよびロに掲げられた事由に限定されている。

 イは「正答な利益を害するおそれのあるもの」となっていて、ノウハウや信用などを広く含むとされる。この場合、「おそれがあるもの」と規定されているので、「おそれ」が実際に存在したか否かについては裁判所の審査に服する。

 ロはいわゆる任意提供情報で公にしないという条件が付されたものとなっている。但し、「行政機関の要請を受け」たものである、などの条件が付されている。

 ④第3号:国の安全等に関する情報。これについては、「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」となっており、実際に「おそれ」があるか否かについての判断は行政機関の長の要件裁量が認められる。従って、裁判所は、行政機関の長が「おそれがある」と判断したことに「相当の理由」があるか否かについてのみ審査する(要件を全面的に審査するのではない)。

 ⑤第4号:公共の安全と秩序の維持に関する情報。司法警察活動に関する情報である。これについても、「おそれがある」か否かについての判断は行政機関の長の要件裁量が認められるので、裁判所は、行政機関の長が「おそれがある」と判断したことに「相当の理由」があるか否かについてのみ審査する。

 ⑥第5号:行政機関などの内部または相互間での審議、検討または協議に関する情報(意思形成過程情報)。この場合は「おそれ」があるか否かについて裁判所の全面的な審査が及ぶ。例えば、審議会における審議の内容が逐一公開されるならば、場合によっては外部からの不当な圧力や干渉を招くことになる。また、場合によっては不要な憶測を招き、地域の混乱などを招くこともありうる。そのため、このような情報は不開示とされるのである。しかし、逆に、審議や検討などの最中にある案件について、最終的な意思決定がなされるまでに不開示(非公開)としておくと問題が生じることもありうる(後掲最二小判平成6年3月25日を参照〕。

 ⑦第6号:事務事業情報。この場合も「おそれ」があるか否かについて裁判所の全面的な審査が及ぶ。不開示とされる情報はイないしホに分類されているが、これは例示であるとされている。なお、不開示情報については、審査基準を設定し、公表しなければならない(行政手続法第5条)。

 (4)開示・不開示の判断

 行政機関情報公開法に基づく開示請求がなされた場合、行政機関の長は開示または不開示の決定をなさなければならないが、既に述べたように、同第5条本文により、原則として開示決定をなさなければならないことになる。

 しかし、例外として、行政機関の長は不開示決定をなすこともできる。一つは全部不開示で、これは申請に対する拒否処分としての性格を有する。次に部分開示であり、これは申請に対する一部拒否処分としての性格を有する。そして、同第6条第2項による、氏名など、個人識別情報を除外しての開示処分である。

 同第7条は、前述のように、例外の例外を認めている。裁量的開示決定である。これは行政機関の長に効果裁量を認めるものである。

 なお、同第8条は、特殊な判断として存否応答拒否処分を認めている(グローマー条項ともいう)存否応答拒否処分は、アメリカの判例法で形成されたものである。CIAと国防総省が、当時のソ連の潜水艦グローマー・イクスプローラ号を合同で引き揚げようとした計画があった。これについて開示請求がなされた際に、記録の存否に関する応答が拒否されたという事件があった。これについて、1981年、連邦最高裁判所判決は拒否を妥当と解した。この事件がきっかけとなり、存否応答許否処分を定める規定をグローマー条項というようになった。開示請求の対象となっている文書の存否そのものを回答するだけで、開示請求の目的が達成される場合がある。その場合に、行政機関の長は、文書の存否を明らかにすることなく、開示請求を拒否することができるのである。北海道情報公開条例第12条は、存否応答拒否処分ができる場合を限定的に定めているが、行政機関情報公開法第8条は特別な限定を加えていないため、濫用されないことが望まれる。

 開示決定または不開示決定をなす際に、手続的に考慮しなければならない事項が存在する。同第13条は、第三者に対する意見書提出の機会の付与等を規定する。開示請求の対象となった行政文書に第三者の情報が記録されている場合がありうる。このときに、その第三者の情報が開示された場合に不測の権利侵害などが生じる可能性も否定できない。そのため、その第三者に意見書の提出などの機会を与えることができる。なお、同条のうちの第1項は裁量事項であり、第2項は義務的事項を定めるものである。

 開示決定・部分開示決定・不開示決定のいずれも要式行為である(同第9条)。また、前述のように、部分開示決定・不開示決定については理由付記が求められる(同第8条)。

 期間は、開示請求があった日から原則として30日以内とされている(同第10条第1項)。

 〔5〕部分開示決定・不開示決定に対する救済措置

 (1)救済措置を申し立てることができる者

 まず、開示請求者は開示請求権を有するので、不服申立適格(行政不服審査制度)、原告適格(行政事件訴訟制度)を有する。

 その他の個人や法人は、情報公開法によって保護される利益がある限り、行政機関情報公開法第13条・第19条・第20条にいう「第三者」として、不服申立適格(行政不服審査制度)、原告適格(行政事件訴訟制度)を有する。

 (2)救済制度その1 行政事件訴訟

 行政機関情報公開法に特別の規定が存在しないので、行政不服審査制度を利用することなく、直ちに、行政事件訴訟法に定められる抗告訴訟を提起することができる。

 a.取消訴訟 従来から認められている。これは、開示請求者にも「第三者」にも認められる。

 b.義務付け訴訟 行政事件訴訟法の改正によって明文で認められた(同第3条第6項第2号)。

 c.差止訴訟 「第三者」が開示決定について提起することができる(同第3条第7項、第37条の4)。

 (3)救済制度その2

 直ちに抗告訴訟を提起するのではなく、行政不服審査制度を利用することができる。基本的には行政不服審査法の規定によるが、行政機関情報公開法には特別な手続が規定されている。

 a.不服申立てがなされた場合、同第19条に規定されている場合を除き、行政機関の長は「情報公開・個人情報保護審査会」に諮問する。

 b.諮問した旨を、不服申立人などに通知する(同条)。

 c.諮問を受けた審査会は、審査の結果を答申として示すことになるが、答申の写しは不服申立人などに交付され、一般に公表される(情報公開・個人情報保護審査会設置法第16条)。

 d.答申を受けた行政機関の長が、最終的に不服申立に対して裁決または決定を行う。行政機関の長は、審査会の答申に法的に拘束されないが、尊重される必要がある。

 

 4.情報公開に関する判例

 ●最一小判平成6年1月27日民集48巻1号53頁(大阪府知事交際費公開請求訴訟、Ⅰ―34)

 事案:大阪府の住民等であるXらは、大阪府公文書公開条例に基づいて、昭和60年1月から3月までの大阪府知事の交際費に関係する文書の公開を請求した。これに対し、知事Yは一部を公開したが、債権者の請求書および領収書、歳出額現金出納簿、支出証明書について、同条例第8条第1号・第4号・第5号、第9条第1号に該当するとして非公開とした。大阪地判平成元年2月14日判時1309号3頁はXの請求を認めたのでYは控訴したが、大阪高判平成2年10月31日行集41巻10号1765頁は控訴を棄却したので、Yが上告した。最高裁判所第一小法廷は破棄差戻判決を下した。

 判旨:⑴「知事の交際費は、都道府県における行政の円滑な運営を図るため、関係者との懇談や慶弔等の対外的な交際事務を行うのに要する経費である。このような知事の交際は、懇談については本件条例8条4号の企画調整等事務又は同条5号の交渉等事務に、その余の慶弔等については同号の交渉等事務にそれぞれ該当すると解されるから、これらの事務に関する情報を記録した文書を公開しないことができるか否かは、これらの情報を公にすることにより、当該若しくは同種の交渉等事務としての交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるか否か、又は当該若しくは同種の企画調整等事務や交渉等事務としての交際事務を公正かつ適正に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるか否かによって決定されることになる。」

 ⑵「知事の交際事務には、懇談、慶弔、見舞い、賛助、協賛、餞別などのように様々なものがあると考えられるが、いずれにしても、これらは、相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的して行われるものである。そして、相手方の氏名等の公表、披露が当然予定されているような場合等は別として、相手方を識別し得るような前記文書の公開によって相手方の氏名等が明らかにされることになれば、懇談については、相手方に不快、不信の感情を抱かせ、今後府の行うこの種の会合への出席を避けるなどの事態が生ずることも考えられ、また、一般に、交際費の支出の要否、内容等は、府の相手方とのかかわり等をしん酌して個別に決定されるという性質を有するものであることから、不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想される。そのような事態は、交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり、交際それ自体の目的に反し、ひいては交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるというべきである。さらに、これらの交際費の支出の要否やその内容等は、支出権者である知事自身が、個別、具体的な事例ごとに、裁量によって決定すべきものであるところ、交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には、知事においても前記のような事態が生ずることを懸念して、必要な交際費の支出を差し控え、あるいはその支出を画一的にすることを余儀なくされることも考えられ、知事の交際事務を適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるといわなければならない。したがって、本件文書のうち交際の相手方が識別され得るものは、相手方の氏名等が外部に公表、披露されることがもともと予定されているものなど、相手方の氏名等を公表することによって前記のようなおそれがあるとは認められないようなものを除き、懇談に係る文書については本件条例8条4号又は5号により、その余の慶弔等に係る文書については同条5号により、公開しないことができる文書に該当するというべきである。」

 ⑶「本件における知事の交際は、それが知事の職務としてされるものであっても、私人である相手方にとっては、私的な出来事といわなければならない。本件条例9条1号は、私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている文書を公開してはならないとしているものと解されるが、知事の交際の相手方となった私人としては、懇談の場合であると、慶弔等の場合であるとを問わず、その具体的な費用、金額等までは一般に他人に知られたくないと望むものであり、そのことは正当であると認められる。そうすると、このような交際に関する情報は、その交際の性質、内容等からして交際内容等が一般に公表、披露されることがもともと予定されているものを除いては、同号に該当するというべきである」。

 ●最三小判平成6年2月8日民集48巻2号255頁(大阪府水道部文書公開請求訴訟または大阪府食糧費情報公開訴訟)

 事案:大阪府の住民であるXは、大阪府公文書公開条例に基づいて、昭和59年12月に行われた大阪府水道部の会議接待費および懇談会費についての公文書の公開を請求した。これに対し、Yは、この請求に対応する文書を支出伝票、債権者の請求書および経費支出伺と特定した上で、同条例第8条第1号・第4号・第5号に該当するとして非公開とした。Xは異議申立てを行ったがYは棄却の決定を行った。このため、Xが出訴した。一審判決(大阪地裁平成元年4月11日判タ705号129頁)はXの請求を認めたのでYは控訴したが、二審判決(大阪高判平成2年5月17日判時1355号8頁)は控訴を棄却した。Yは上告したが、最高裁判所第三小法廷は上告を棄却した。

 判旨:⑴「本件文書には飲食店を経営する業者の営業上の秘密、ノウハウなど同業者との対抗関係上特に秘匿を要する情報が記録されているわけではなく、また、府水道部による利用の事実が公開されたとしても、特に右業者の社会的評価が低下するなどの不利益を被るとは認め難いので、本件文書の公開により当該業者の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない」。

 ⑵「本件文書に記録されている情報は、府水道部の懇談会等に関するものであるが、このような懇談会等の形式による事務は、前記のとおり、単なる儀礼的なものではなく、すべて府水道部の事務ないし事業の遂行のためにされたものであって、その内容いかんにより、4号の企画調整等事務ないし5号の交渉等事務に該当する可能性があることは十分考えられる。しかし、右情報は、前記のとおり、懇談会等の開催場所、開催日、人数等のいわば外形的事実に関するものであり、しかも、そこには懇談の相手方の氏名は含まれていないのがほとんどである。このような会合の外形的事実に関する情報からは、通常、当該懇談会等の個別、具体的な開催目的や、そこで話し合われた事項等の内容が明らかになるものではなく、この情報が公開されることにより、直ちに、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは断じ難い」。本件懇談会等に関する文書を公開することにより、大阪府公文書公開等条例8条4号・5号にいう事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるというためには、「上告人の側で、当該懇談会等が企画調整等事務又は交渉等事務に当たり、しかも、それが事業の施行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行われたものであり、かつ、本件文書に記録された情報について、その記録内容自体から、あるいは他の関連情報と照合することにより、懇談会等の相手方等が了知される可能性があることを主張、立証する必要があるのであって、上告人において、右に示した各点についての判断を可能とする程度に具体的な事実を主張、立証しない限り、本件文書の公開による前記のようなおそれがあると断ずることはできない」。

 ●最二小判平成23年10月14日判時2159号50頁

 事案:Xは、平成16年8月9日、行政機関情報公開法第3条に基づき、A(近畿経済産業局長)に対し、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」第11条に基づいて同日までに各事業者から提出された定期報告書の開示請求をした。Aは、開示請求に係る行政文書として、最新年度の定期報告書のうち熱管理に関する定期報告書および電気管理に関する定期報告書を特定したが、これらの第1表には各工場の燃料等または電気の使用量等に関する情報が記録されており、行政機関情報公開法第13条第1項に定められる第三者情報に該当するものであったことから、定期報告書を提出した第一種特定事業者に対して意見書の提出を求めた。同年9月24日までに意見書の提出を受けたことから、Aは同年10月8日に246通、同年12月10日に664通の定期報告書のうち、提出者等に関する事項のうち個人情報等に該当する部分については行政機関情報公開法第5条第1号の不開示情報に、法人等の印影については同第2号の利益侵害情報に該当するとして不開示とし、第1表については全て開示するという部分開示決定を行った。また、Aは、平成17年1月6日、52通については上記と同様の部分開示、214通については第1表についても全部または一部を不開示とする決定を行った。なお、第1表の一部を不開示とすることにつき、「法人に関する情報であって、通常一般には入手できない当該法人の事業活動に関する内部情報であり、当該情報を競業他社が入手し、パンフレット等により生産量の情報を知り得た場合、製品当たりのエネルギーコスト等が推測され、製品当たりの製造コストが類推可能となり、競業他社との競争上の不利益や、販売先事業者との価格交渉上の不利益が生じること等が想定される。従って、これらの情報を公にすることにより、当該法人の権利、競争上の地位、ノウハウ等正当な利益を害するおそれがあることから、法第5条2号イに該当するため、これらの情報が記載されている部分を不開示とした」とする理由が付されていた。

 Xは、同年2月23日、B(経済産業大臣)に対し、214通の定期報告書の第1表も不開示とした部分開示決定処分について審査請求を行った。Xは、同年7月29日にこの部分開示決定処分の取消を求め、Y(国)を被告として訴訟を提起した。なお、Aは平成18年5月19日付で部分開示決定処分の一部を変更する旨の処分を行っている。

 一審判決(大阪地判平成19年1月30日判例集未登載)はXの請求を一部認容したが、Yが控訴し、二審判決(大阪高判平成19年10月19日判例集未登載)はY敗訴部分を取り消し、Xの請求の一部を棄却、一部を却下した。最高裁判所第二小法廷は、Xの上告を棄却した。

 判旨:⑴部分開示決定処分に係る非開示情報のうち数値情報(以下、本件数値情報)は、訴外各会社(以下、本件各事業者)の各工場において「特定の年度に使用された各種エネルギーの種別及び使用量並びに前年度比等の各数値を示す情報であり、本件各事業者の内部において管理される情報としての性質を有するものであって、製造業者としての事業活動に係る技術上又は営業上の事項等と密接に関係する」。また、「温室効果ガス算定排出量の公表及び開示に係る制度においては、事業所単位のエネルギー起源二酸化炭素の温室効果ガス算定排出量を算定する基となる本件数値情報に相当する情報が報告及び開示の対象から除外されており、かつ、この情報が情報公開法5条2号イと同様の要件を満たす場合には、各事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益(以下「権利利益」という。)に配慮して、事業所単位各物質排出量に代えてこれを一定の方法で合計した量をもって環境大臣及び経済産業大臣に通知し、公表及び開示の対象とする制度が併せて定められている。すなわち、(中略)本件数値情報に相当する情報よりも抽象度の高い事業所単位のエネルギー起源二酸化炭素の温室効果ガス算定排出量についてさえ、事業者の権利利益に配慮して開示の範囲を制限することが特に定められているのであって、このことからも、本件数値情報が事業者の権利利益と密接に関係する情報であることがうかがわれるところである」。

 ⑵「本件数値情報は、事業者単位ではなく工場単位の情報であるという点で個別性が高く、その内容も法令で定められた事項及び細目について個々の数値に何らの加工も施されない詳細な基礎データを示すものであり、本件各工場における省エネルギーの技術の実績としての性質も有するものである。しかも、定期報告書は毎年定期的に提出されるもので、前年度比の数値もその記載事項に含まれているから、これを総合的に分析することによって、本件各工場におけるエネルギーコスト、製造原価及び省エネルギーの技術水準並びにこれらの経年的推移等についてより精度の高い推計を行うことが可能となるものというべきである」。

 ⑶「これらによれば、競業者にとっては、本件数値情報が開示された場合、上記のような総合的な分析に自らの同種の数値に関する情報等との比較検討を加味することによって、上記の点についての更に精度の高い推計を行うことができるものというべきであり、本件各工場におけるエネルギーコスト、製造原価及び省エネルギーの技術水準並びにこれらの経年的推移等についての各種の分析に資する情報として、これを自社の設備や技術の改善計画等に用いることが可能となるものということができる。また、需要者にとっても、本件数値情報が開示された場合、上記のような総合的な分析によってエネルギーコスト及び製造原価並びにこれらの経年的推移等の推計を行うことにより、本件各工場におけるエネルギーコストの減少の度合い等を把握することができるものというべきであり、本件各事業者との製品の価格交渉等において、この点についての客観的な裏付けのある情報としてこれを交渉の材料等に用いることが可能となるものということができる」。

 ⑷「本件数値情報の内容、性質及びその法制度上の位置付け、本件数値情報をめぐる競業者、需要者及び供給者と本件各事業者との利害の状況等の諸事情を総合勘案すれば、本件数値情報は、競業者にとって本件各事業者の工場単位のエネルギーに係るコストや技術水準等に関する各種の分析及びこれに基づく設備や技術の改善計画等に資する有益な情報であり、また、需要者や供給者にとっても本件各事業者との製品や燃料等の価格交渉等において有意な事項に関する客観的な裏付けのある交渉の材料等となる有益な情報であるということができ、本件数値情報が開示された場合には、これが開示されない場合と比べて、これらの者は事業上の競争や価格交渉等においてより有利な地位に立つことができる反面、本件各事業者はより不利な条件の下での事業上の競争や価格交渉等を強いられ、このような不利な状況に置かれることによって本件各事業者の競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性が客観的に認められるものということができる」。したがって、「本件数値情報は、これが公にされることにより本件各事業者の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして、情報公開法5条2号イ所定の不開示情報に当たるというべきであ」り、「その内容、性質に鑑み、人の生命、健康、生活又は財産を保護するために公にすることが必要であるとは認められず、情報公開法5条2号ただし書所定の開示すべき情報に当たるものでないことは明らかである」。

 ●最二小判平成6年3月25日判時1512号22頁(京都府鴨川ダムサイト情報公開訴訟、Ⅰ―36)

 事案:京都府知事Yは、鴨川の河川管理者であり、鴨川の改修計画について幅広く意見を聴くために鴨川河川協議会を設置した。この協議会においてダムサイト候補地点選定位置図が提出された。そして、協議会が終了した後、ダム構想の存在と先の位置図が提出されたことが記者会見で発表された。これを知ったXは、京都府情報公開条例に基づいてダムサイト候補地点選定位置図の公開を請求したが、Yは、これが条例第5条第6号に規定される意思形成過程情報に該当するとして非公開の決定をした。なお、ダムサイト候補地点選定位置図は初期の段階の資料であり、地質などの自然要件や用地確保の可能性などといった社会的条件については全く考慮されていなかった。

 京都地方裁判所は、Yの処分を違法とした。これに対し、大阪高等裁判所は、Yの処分が相当であるとしてXの請求を棄却した。理由として、先の記者会見によって委員や担当課に対して交渉の申し入れや強要があったなどという事実の下では、本件文書が意思形成過程における未成熟な情報であり、これを公開すれば無用の誤解や混乱を招き、さらに協議会の意思形成を公正かつ適切に行うことに著しい支障が生ずるおそれがあると述べている。

 判旨:最高裁判所第二小法廷は、大阪高等裁判所の判断を正当として是認し、京都府情報公開条例第5条第6号が憲法第21条などに違反するというXの主張を退けた。

 

 ▲第7版における履歴:2021年2月13日掲載。

 ▲第6版における履歴:2017年10月25日掲載(「第17回 情報公開法制度」として)。

              2017年12月20日修正。

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チック・コリア氏が死去

2021年02月12日 08時39分00秒 | 音楽

 今朝(2021年2月12日)知ったのですが、ジャズ・ピアノ奏者のチック・コリア氏が今月9日に亡くなりました。79歳だったとのことです。時事通信社が報じています。

 彼の名で思い浮かぶのは、あのアランフェス協奏曲を取り入れている名曲「スペイン」であり、ベースのスタンリー・クラーク氏などと組んだバンドの「リターン・トゥ・フォーエヴァー」です。私は、彼のアルバムを2枚しか持っていません。1970年代のジャズ・フュージョンの流れを決定づけた「リターン・トゥ・フォーエヴァー」と「ライト・アズ・ア・フェザー」です(「スペイン」は「ライト・アズ・ア・フェザー」に収録されています)。最近ではYouTubeで「ノー・ミステリー」や「浪漫の騎士」などをよく聴いていました。また、期間は短かったのですがマイルス・デイヴィス・バンドに入っていた時期もあり、何枚かのアルバムで聴けます。私が高校生の頃であったか、NHKテレビでチック・コリア氏とキース・ジャレット氏のデュオでモーツァルトの協奏曲などが演奏されたコンサートの様子を見ていました。

 ピアノはもちろんシンセサイザーなども演奏し、幅広く活躍したチック・コリア氏ですが、死因は明確にされていないものの、珍しい型の癌に冒されていたとのことです。

 

 

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阪急8000系を夙川駅にて

2021年02月12日 07時00分00秒 | 写真

 コロナ渦ではどうしようもないのですが、京阪神地区へ行きたくなることがあります。大阪大学、神戸大学など、沿線に大学が多いということもあって、京阪神地区へ行くと阪急電車に乗ることが多いのですが、西宮北口など、行ってみたいところもあるのです。

今回は2016年3月18日に撮影した阪急8000系の写真を載せておきます。場所は夙川駅です。

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第26回 行政手続法〜事前手続に対する統制〜 その4:行政指導、「処分等の求め」、届出、意見公募手続等

2021年02月11日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 7.「行政手続法」の構造その4  行政指導

 行政指導については、既に「第17回 行政指導において扱ったので参照していただきたいが、2014年に「行政手続法」に追加された第36条の2については、ここで取り上げる。

 同条は「行政指導の中止等の求め」を定める。これは、行政指導の相手方が、その行政指導が違法であると思料するときに行政機関へその旨を申し出て、その行政指導の中止などの措置を求めることができる、というものである。

 但し、全ての行政指導について措置を求めることができる訳ではない。対象となるのは「法令に違反する行為の是正を求める行政指導」であって、「その根拠となる規定が法律に置かれているもの」に限定されている(同第1項)。より具体的には、次のような行政指導である。

 ・法令に違反する行為そのものの中止を求める行政指導

 ・法令に定められる基準に適合するように必要な措置を講ずることを求める行政指導

 ・法令に違反する行為により生じた違法な状態を適法な状態へ回復する措置を求める行政指導、など。

 相手からの求めを受けて、行政機関は調査を行い、その結果により中止など必要な措置をとらなければならない(同第3項)。しかし、「求め」を申し出たものに対する行政機関の通知義務は定められていない。従って、申し出た者は、行政機関に対して結果に関する通知を求める権利を有しない。

 

 8.「行政手続法」の構造その5  「処分等の求め」 

  やはり2014年の改正により、「行政手続法」に「処分等の求め」に関する第4章の2が追加された。この章の規定は第36条の3のみであるが、これまで事実上の手続として行われた嘆願〈森稔樹「租税法における行政裁量」『日税研論集65 税務行政におけるネゴシエーション』(2014年、日本税務研究センター)237頁も参照〉などを、多少なりとも法的な意味のある行為とするものとして、注目しておく必要はある。

 「行政手続法」第36条の3第1項は、「何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることができる」と定める。

 「求めることができる」ものは、「法令に違反する事実」を是正するためになされるべき処分または行政指導であるが、行政指導については、同第36条の2第1項と同様に法律に根拠規定があるものに限定される。

 上記の「求め」を受けた行政庁・行政機関は、必要な調査を行い、必要があると認めるときには「処分」または行政指導を行う義務を負う(同第36条の3第3項)。但し、同第36条の2と同様に、「求め」を申し出た者に対する通知義務は定められていない。従って、申し出た者は、行政機関に対して結果に関する通知を求める権利を有しない。

 

 9.「行政手続法」の構造その6  届出

 「行政手続法」制定以前の法令においては、届出制と許可制との区別が曖昧であり、法令により意味が異なるなど、多くの問題を引き起こしていた。行政手続法は、申請と届出との区別を截然と示し、交通整理を図った。

 届出は、「行政手続法」第2条第7号により、「行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く。)であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているもの(自己の期待する一定の法律上の効果を発生させるためには当該通知をすべきこととされているものを含む。)」と定義される。ここから、届出の場合、行政庁は内容に関する要件審査権限を持たないことがわかる戸籍法などの場合は、「届出」という文言が用いられていても、内容に関する要件審査権限が行政庁に認められるので、行政手続法第2条第7号にいう届出に該当しない

 念のため、届出と申請とを比較し、相違点をみよう。

 まず、届出は、私人から行政機関へ、何らかの事柄を知らせることである。私人は、行政機関に対して何らかの行為を求めていない。従って、届出に対して行政機関の意思や判断がなされることはないし、なされてはならない。

 これに対し、申請は、私人から行政庁へ、何らかの行為(例.許可、認可)を求めることである。従って、ただの通知ではない。申請を受けた行政庁は、要件などを審査する権限を有し、応諾または拒否の意思や判断を示す義務を負うこととなる

 同第37条は、私人による届出の形式的な要件が充足されているならば、行政機関の事務所に到達したときに、届出の効果が生じることになる旨を定める。すなわち、私人が行った届出が行政機関の事務所に到達した段階で、私人の手続上の義務が履行されたことになる。このことから、行政機関は、届出が形式上の要件を充足しているならば、不受理(受理の拒否)や返戻などという扱いを行ってはならない(第37条にも規定される)。

 それでは、届出の形式上の要件が充足されていない場合は、どのように扱われるべきであろうか。この点について「行政手続法」には規定が存在しない。そのため、個別法の解釈に委ねられることとなる行政管理研究センター編『逐条解説行政手続法』〔27年改訂版〕(2015年、ぎょうせい)286頁。塩野宏『行政法』〔第六版〕(2015年、有斐閣)341頁も参照。 

 

 10.「行政手続法」の構造その7  意見公募手続等

 〔1〕行政立法手続としての意見公募手続等

 前述のように、「行政手続法」第6章は2005年の改正により追加された。これにより、「行政手続法」に行政立法手続の規定が加わったこととなる。同章に定められる意見公募手続等の前提を示すのは、第38条が示す「命令等を定める場合の一般原則」であるが、中心となるのは意見公募手続を定める第39条である。

 〔2〕「命令等」の意味

 意見公募手続等は、「命令等」の制定に際して行われるべき手続である。そこで、「命令等」の意味をみておくこととする。

 「行政手続法」第2条第8号は「命令等」を、内閣または行政機関が定める、法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む)または規則、審査基準、処分基準および行政指導指針と定義する。ここで、「法律に基づく命令」は政令、省令および告示(処分の要件を定めるもの)を意味するが、同第39条に定められる意見公募手続の対象は、「命令等」から、地方公共団体の機関が定める行政立法を除外したものである(同第3条第3項、同第46条も参照)。

 〔3〕「命令等を定める場合の一般原則」

 同38条は「行政手続法」において数少ない実体法的な規定である。同第1項は「命令等を定める機関(閣議の決定により命令等が定められる場合にあっては、当該命令等の立案をする各大臣。以下「命令等制定機関」という。)は、命令等を定めるに当たっては、当該命令等がこれを定める根拠となる法令の趣旨に適合するものとなるようにしなければならない」と定め、行政立法を制定する際の一般原則を示す。また、同第2項は「命令等制定機関は、命令等を定めた後においても、当該命令等の規定の実施状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、必要に応じ、当該命令等の内容について検討を加え、その適正を確保するよう努めなければならない」と定めている。

  いずれも当然の事柄を規定しており、まさに確認的規定である塩野・前掲書343。しかし、同第2項に定められた努力義務が重要視されている。

 〔4〕意見公募手続

 「行政手続法」第6章に規定される意見公募手続の大まかな流れを示すと、次のとおりである。

 「命令等」の案および関連資料の公示(同第39条第1項)→一般の意見・情報の公募(同項)→提出された意見・情報の考慮(同第42条)→結果の公示(同第43条)

 「命令等」の案は、命令等制定機関が作成することとなるが、その内容は、具体的かつ明確でなければならない。また、当該命令等の題名、当該命令等を定める根拠となる法令の条項を明示しなければならない(同第39条第2項)。

 案の公示は、勿論、広く国民(等)からの意見・情報の公募のためであるが、そのための期間、すなわち意見提出期間が設けられなければならない。この期間は、原則として、公示の日から起算して30日以上でなければならない(同第39条第3項。但し、同第40条第1項を参照)。

 但し、委員会等の議を経て命令等を定めようとする場合で、委員会等が意見公募手続に準じた手続を実施したときには、命令等制定機関が自ら意見公募手続を行う必要がない(同第40条第2項。準用については同第44条も参照)。

 一方、意見公募手続の実施の周知や、当該手続の実施に関連する情報の提供は、命令等制定機関の努力義務とされている(同第41条)。

 意見公募手続は、「命令等」の案に対する意見・情報を募り、案に国民(等)の意見などを反映させるための手続であるから、意見提出期間中に提出された意見・情報を命令等制定機関は十分に考慮しなければならない(同第42条。行為義務である)。ここで考慮しなければならないのは、意見・情報の内容を考慮する義務であり、意見の多数・少数は無関係である。また、考慮することが義務づけられているのであって、提出された意見や情報を命令等に反映させるか否か、どの程度まで反映させるかは、命令等制定機関の判断に委ねられる。すなわち、命令等制定機関は、国民(等)から提出された意見・情報を必ず、命令等の内容に反映させなければならないという訳ではない行政管理研究センター編・前掲書317

 意見公募手続の最後として、結果の公示(等)がある。これは第43条に定められており、原則として、同第1項各号に掲げられた事項を、当該命令等の公布(または公にする行為)と同時期に公示しなければならない。

 ・「命令等の題名」(同第1号)

 ・「命令等の案の公示の日」(同第2号)

 ・「提出意見(提出意見がなかった場合にあっては、その旨)」(同第3号)

 ・「提出意見を考慮した結果(意見公募手続を実施した命令等の案と定めた命令等との差異を含む。)及びその理由」(同第4号)

 結果の公示(等)が求められる理由は、次の点に求められると考えられる。

 ・命令等制定機関による判断の合理性を担保すること。

 ・命令等制定機関の判断の合理性、同機関が意見・情報を十分に考慮するという義務を果たしたか否かについて、国民が検証する機会や材料を得ること。

 ・命令等制定手続の公正性の確保と透明性の向上。

 ・命令等制定手続に対する国民の信頼を確保すること。

 審査基準・処分基準を「公にすること」の方法が行政庁の裁量に委ねられているのに対し、意見公募手続等の結果としての公示については「行政手続法」に明文で定められている。すなわち、同第45条第1項は、公示を「電子情報処理組織その他の情報通信の技術を利用する方法」により行うものと定める。ここにいう「電子情報処理組織」は行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律第3条に定義されている言葉であり、インターネットを意味する。従って、意見公募手続の公示については、インターネット上のウェブサイトを利用することが義務づけられるのである。

 

 ▲第7版における履歴:2021年2月11日掲載。

 ▲第6版における履歴:2015年11月30日掲載(「第16回 行政手続法−事前手続に対する統制−」として)。

              2017年10月26日修正。

            2017年12月20日修正。

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第25回 行政手続法〜事前手続に対する統制〜 その3:不利益処分

2021年02月10日 00時12分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 6.「行政手続法」の構造その3  不利益処分

 〔1〕不利益処分の意味

 「不利益処分」は「行政手続法」第2条第4号により、「行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう」と定義される。従って、基本的には行政法学にいう賦課的行政行為(侵害的行政行為)と同義である。但し、次のものは不利益処分とされない。

 a.特定の者を名宛人としない処分(同号本文)=対物処分(名宛人を想定していない)、一般処分(相手方が不特定多数の者であるという処分)

 b-1.事実上の行為(同号イ)=行政上の強制執行、即時強制など

 b-2.事実上の行為をなすに際して範囲や時期を明らかにするため、法令によって必要とされている手続としての処分(同号イ )=行政代執行の戒告など

 c-1.申請拒否処分(同号ロ)

 c-2.「その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分」(同号ロ)=申請に基づいて行われる取消(撤回)処分など

 d.名宛人の同意の下になされる処分(同号ハ)

 e.「許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるもの」(同号ニ)=行政行為の撤回のうち、事業の廃止の届出があった場合や、要件事実が事後的に消滅したという趣旨の届出があった場合のこと

 〔2〕処分基準の設定および公表

 「行政手続法」第2条第8号ハは、処分基準を「不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準」と定義する。やはり裁量基準と解釈基準とに分けることができるであろう。また、審査基準と同様に、処分基準の存在形式には様々な形態が考えられるが、やはり、主に行政規則の形態をとることとなろう。

 同第12条第1項は、処分基準の設定および公表について、審査基準と異なり、行政庁の努力義務としている。一応の理由として、画一的に定めることの技術的な困難性、公表することによる脱法的行為の助長のおそれがあげられる。申請に対する処分と比較して、定型性などが少ないと考えられるからであろう。

 なお、処分基準を設定する場合には「不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない」(同第2項)。

 〔3〕理由の提示

 同第14条により、行政庁の行為義務とされる。理由の提示が処分と同時に行われなければならない点は「申請に対する処分」の場合と同様であり、理由を提示すべき程度についても「申請に対する処分」の場合と同様である。次の判決を参照されたい。

 ●最三小判平成23年6月7日民集65巻4号2081頁(Ⅰ−120

 事案:原告X1は一級建築士としてX2社に勤務していたが、建築基準法に定められた基準に適合しない建築物が設計され、建築されたなどとして、国土交通省北海道開発局長による聴聞手続(建築士法第10条第1項による懲戒処分のための)を受けた。その結果、X1は、国土交通大臣より建築士法第10条第1項第2号・第3号に該当するとして一級建築士免許取消処分を行った。本件の争点はいくつか存在するが、その一つが理由不備の違法であり、X1は、国土交通大臣が該当する懲戒事由および処分ランクを理由として付記すべき義務があるのに、本件においては処分ランクが告知されなかったことが理由不備の違法であると主張した。札幌地判平成20年2月29日民集65巻4号2119頁はX1の請求を棄却し、札幌高判平成201113日民集65巻4号2138頁もX1の控訴を棄却した。最高裁判所第三小法廷は、札幌高裁判決を破棄し、X1に対してなされた一級建築士免許取消処分を取り消した〔一裁判官の反対意見(一裁判官が同意)、一裁判官の補足意見がある〕。

 判旨:①「行政手続法14条1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである」。

 ②「建築士に対する上記懲戒処分に際して同時に示されるべき理由としては、処分の原因となる事実及び処分の根拠法条に加えて、本件処分基準の適用関係が示されなければ、処分の名宛人において、上記事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当性に係る理由は知り得るとしても、いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることは困難であるのが通例であると考えられる。(中略)本件免許取消処分は上告人X1の一級建築士としての資格を直接にはく奪する重大な不利益処分であるところ、その処分の理由として、上告人X1が、札幌市内の複数の土地を敷地とする建築物の設計者として、建築基準法令に定める構造基準に適合しない設計を行い、それにより耐震性等の不足する構造上危険な建築物を現出させ、又は構造計算書に偽装が見られる不適切な設計を行ったという処分の原因となる事実と、建築士法10条1項2号及び3号という処分の根拠法条とが示されているのみで、本件処分基準の適用関係が全く示されておらず、その複雑な基準の下では、上告人X1において、上記事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当性に係る理由は相応に知り得るとしても、いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって免許取消処分が選択されたのかを知ることはできないものといわざるを得ない。このような本件の事情の下においては、行政手続法14条1項本文の趣旨に照らし、同項本文の要求する理由提示としては十分でないといわなければならず、本件免許取消処分は、同項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分であるというべきであって、取消しを免れないものというべきである」。

 〔4〕告知・聴聞

 既に述べたように、告知・聴聞は適正な行政手続の基本的な内容の一つである。日本の「行政手続法」において、告知・聴聞の規定は不利益処分に関する手続を定める第3章に置かれている。

 従って、不利益処分をなす際には、原則として告知・聴聞を行わなければならないこととなるが、「行政手続法」第13条第1項は、聴聞手続が行われる場合を限定的に定め、不利益処分の際に行われる手続として、聴聞、弁明の機会の付与の二種類を定めている。

 このうち、聴聞は正式の手続と位置づけられており、同第1号により、次のような不利益処分をなそうとする際に行われなければならないこととされている。

 ・「許認可等を取り消す不利益処分」(同号イ)=これは、行政法学にいう取消はもとより、撤回も含む。

 ・「(許認可等を取り消す不利益処分以外で)名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分」(同号ロ)

 ・「名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分」(同号ハ)

 ・「(名あて人が法人である場合に)名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分」(同号ハ)

 ・「(名あて人が法人である場合に)名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分」(同号ハ)

 ・その他「行政庁が相当と認めるとき」(同号ニ)

 以上のいずれにも該当しない不利益処分については、第2号により、略式の手続である弁明の機会の付与が行われる。

 〔5〕聴聞手続

 行政手続法が聴聞手続を正式なものと位置づけていることは、第15条以下において手続に関する詳細な規定を置いていることからも明らかである。ここでは概略のみを示しておくこととしよう。

 聴聞を実施する際には、まず、不利益処分の名宛人(相手方)となるべき者に告知をしなければならない。「行政手続法」第15条第1項は「通知」として、書面により、以下の点を告知しなければならない旨を定める。

 ・「予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項」(同第1号)

 ・「不利益処分の原因となる事実 」(同第2号)

 ・「聴聞の期日及び場所」(同第3号)

 ・「聴聞に関する事務を所掌する組織の名称及び所在地」(同第4号)

 この際、聴聞期日までに「相当な期間」を置かなければならない(同第1項柱書)。

 しかし、以上を通知しただけでは聴聞の実をあげることはできないであろう。そこで、同第2項は、行政庁に対し、「通知」の書面において次の事項を名宛人に教示する義務を課している。

 ・「聴聞の期日に出頭して意見を述べ、及び証拠書類又は証拠物(以下「証拠書類等」という。)を提出し、又は聴聞の期日への出頭に代えて陳述書及び証拠書類等を提出することができること」(同第1号。同第20条および同第21条も参照)

 ・「聴聞が終結する時までの間、当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができること」(同第15条第2項第2号。同第18条も参照)

 聴聞主宰者は「行政庁が指名する職員その他政令で定める者」である(同第19条第1項。同第2項に除斥事由が定められている)。「行政庁が指名する職員その他政令で定める者」であるが、「行政庁の事実認識に判断の誤りがないかどうかを聴聞の審理を通じて自己の責任において評価(意見)する必要がある」ことから「聴聞において処分庁たる行政庁から相対的に独立した人格として法律上これを位置付けて」いる行政管理研究センター編『逐条解説行政手続法』〔27年改訂版〕(2015年、ぎょうせい)210頁。櫻井敬子・橋本博之『行政法』〔第6版〕(2019年、弘文堂)203頁も参照

 また、聴聞主宰者は、単に口頭審理を主宰するに留まらず、審理終了後に聴聞調書および報告書を作成しなければならない(同第24条)。報告書においては聴聞主宰者の意見も記載されなければならず(同第3項)、行政庁はその意見を十分に参酌する義務を負う(同第26条)。

 聴聞手続における審理は、同第20条に定められるところによる。すなわち、「最初の聴聞の期日の冒頭」に、聴聞主宰者が行政庁の職員に、予定されている不利益処分の内容、およびその根拠となる法令の条項、さらにその不利益処分の原因となる事実を「聴聞の期日に出頭した者に対して説明させ」ることから始まる(同第1項)。これを受けて、当事者または参加人は、意見を陳述し、証拠書類を提出することができ、主宰者の許可を得ることを要件とはするが行政庁の職員に対して質問を行うことができる(同第20条第2項)。他方、聴聞主宰者は、必要姓を認めたときには当事者または参加人に質問をすることができ、当事者または参加人に意見陳述または証拠書類等の提出を促すことができる。また、行政庁の職員に対して説明を求めることもできる(以上、同第4項)。

 「行政手続法」に定められる「参加人」や「関係人」の用語法は、ややわかりにくい。同第17条第1項は「第19条の規定により聴聞を主宰する者(以下「主宰者」という。)は、必要があると認めるときは、当事者以外の者であって当該不利益処分の根拠となる法令に照らし当該不利益処分につき利害関係を有するものと認められる者(同条第2項第6号において「関係人」という。)に対し、当該聴聞に関する手続に参加することを求め、又は当該聴聞に関する手続に参加することを許可することができる」と定める。これを受ける形で、同第2項は「前項の規定により当該聴聞に関する手続に参加する者(以下「参加人」という。)は、代理人を選任することができる」と定める。他方、第19条第2項第6号は、聴聞主宰者の除斥事由として「参加人以外の関係人」をあげる。要するに、利害関係人のうち、聴聞主宰者が聴聞手続への参加を求めた者、または聴聞主宰者が聴聞手続への参加を許可した者が「参加人」であり、それ以外の者が「関係人」である、ということになる。

 聴聞は非公開が原則であるが、行政庁の判断によって公開されることもありうる(同第20条第6項)。

 なお、聴聞手続を準司法的手続や行政審判などとして位置づけることはできない。そのため、聴聞手続を経てなされた行政庁の処分について、実質的証拠法則など特別の効果を認めることはできない〈塩野宏『行政法』〔第六版〕(2015年、有斐閣)331頁〉

 〔6〕文書閲覧(同第18条第1項)

 「不利益処分」について、しかも聴聞手続についてのみ認められているが、当事者および参加人の権利として規定される。なお、この閲覧は公開ではない。

 〔7〕行政不服申立ての制限

 「行政手続法」第27条は、2014(平成26)年に新行政不服審査法が成立したこと(従来の行政不服審査法の全部改正)に伴って改正されたが、新行政不服審査法がまだ施行されていないため、現在は改正前の規定が施行されている。

 まず、改正前の同第1項によると、行政手続法第3章第2節の規定に基づく処分聴聞参加手続規定(同第17条第1項。行政庁)、利害関係人の参加の許可(同項。聴聞主宰者)、文書閲覧許可等(同第18条第1項。行政庁)、補佐人の出頭の許可(同第20条第3項。聴聞主宰者)、当事者等による行政庁の関係職員への質問の許可(同第2項。聴聞主宰者など)については、行政不服申立てをなすことができない。付随的な処分であることが理由とされる。

 また、同第27条第2項によると、聴聞を経てなされた不利益処分については、行政不服審査法による異議申立てをすることができない。理由として、処分庁に対する不服申立てであることがあげられる。但し、公示送達によって行政手続の当事者の地位を得た者については例外が規定される。

 次に、改正後の「行政手続法」第27条によると、行政手続法第三章第二節の規定に基づく処分またはその不作為は、審査請求の対象とならない。新行政不服審査法が、行政不服申立てを基本的に審査請求に一本化したことによるものである。

 

 ▲第7版における履歴:2021年2月10日掲載。

 ▲第6版における履歴:2015年11月30日掲載(「第16回 行政手続法−事前手続に対する統制−」として)。

              2017年10月26日修正。

            2017年12月20日修正。

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第24回 行政手続法〜事前手続に対する統制〜 その2:「行政手続法」の構造、「申請に対する処分」

2021年02月09日 10時30分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

  4.「行政手続法」の構造その1

 1993(平成5)年に公布され、翌年に施行された「行政手続法」は、当初から「申請に対する処分」、「不利益処分」、行政指導および届出に関する規定を設けていた。そのほとんどは実体法的規定ではなく、手続法的規定であるが、行政指導に関しては実体法的規定を含めた一般的規定を置く点に特徴がある。

 他方、当初は行政立法や計画策定などに関する規定が存在しなかった。しかし、2005(平成17)年6月29日に公布された「行政手続法の一部を改正する法律」により、第6章「意見公募手続等」として第38条ないし第45条が追加された。これらは主に命令等(政令、政令、省令の他、地方公共団体の執行機関が制定する規則、審査基準、行政指導指針をいうとされる)を定める手続の規定を置いている。なお、計画策定手続に関する規定は現在も存在していない。

 また、行政上の強制執行、即時強制、行政調査などは、「行政手続法」の対象ではない。

 「行政手続法」は行政手続(事前手続)に関する一般法であるが、同第3条第1項において適用除外の範囲が定められており(この範囲は決して狭いと言えず、批判の対象となっている)、「行政手続法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律」においても適用除外の範囲が規定されている。この他、個別法において「行政手続法」の適用を除外するものも多い。

 「行政手続法」に努力義務規定が多いことも注目される。例えば、「申請に対する処分」について、同第6条(標準処理期間の設定)、同第9条(情報の提供)、同第10条(公聴会の開催)が努力義務規定である。

 以下、「行政手続法」の構造を概観する。

 〔1〕規定の対象

 既に述べたように、「行政手続法」は、考えられうる全ての行政手続について規律をなす訳ではなく、次のものを対象とする。

 (1)「申請に対する処分」主に授益的行政行為を指す。

 (2)「不利益処分」:賦課的行政行為を指す。但し、同第2条第4号イ~ニに該当するものを除く。

 (3)行政指導

 (4)届出

 (5)行政立法:政令、省令(同第2条第8号においては「法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む。次条第2項において単に「命令」という。)または規則」とされている)、行政規則のうちの審査基準、処分基準、行政指導指針が対象とされている。

 逆に、次のものは対象とならない。

 (6)行政立法のうちの上記以外のもの、行政契約、行政計画など:将来の課題?

 (7)行政上の強制執行、即時強制、行政調査など:これらについては固有のしくみが求められるため、とされる。

 そして、次のいずれかに該当する場合には「行政手続法」の適用が除外される。

 (8)同第3条第3項により、地方公共団体の行為のうち、次のもの。

 ・「地方公共団体がする処分」のうち、根拠規定が条例又は規則に置かれているもの

 ・行政指導

 ・「地方公共団体の機関に対する届出」のうち、第2条第7号にいう「通知」の根拠規定が条例または規則に置かれているもの

 ・「地方公共団体の機関が命令等を定める行為」

 〔これらについては、地方公共団体が「措置を講ずるように努めなければならない」(同第46条)。現在、多くの地方公共団体において行政手続条例が制定され、施行されている。なお、「地方公共団体がする処分」であっても、根拠規定が法律に置かれているものについては、行政手続法の適用がある。また、「地方公共団体の機関に対する届出」であっても、同第2条第7号にいう「通知」の根拠規定が法律に置かれているものについても、同法の適用がある。〕

 (9)同第3条第1項各号において適用除外とされているもの

 (10)「行政手続法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律」において適用除外とされているもの

 (11)個別法において「行政手続法」の適用を除外するとされているもの

 〔2〕「行政手続法」第1条の目的規定について

 同第1条は、同法の目的を示している。それによると、同法の目的は「行政運営における公正の担保と透明性」を向上させ、それによって「国民の権利利益の保護」を実現することにある、とされる。このことから、同第1条の目的規定は、次のような性質を有することになる。

 (1)第1条は、最終的に個人的な権利・利益の保護を主眼としている。このため、国民参加・住民参加の理念は盛り込まれていないと評価してよいであろう。仮にそれらの理念があるとしても稀薄であることは否めない。

 (2)第1条は、行政手続における公正の担保と透明性の向上を中間目的としている。ここにいう透明性とは、処分の相手方(名宛人)、行政指導の相手方など、利害関係者にとっての透明性である。

 〔3〕手続の基本原則

 塩野宏『行政法』〔第六版〕(2015年、有斐閣)316頁は、「処分手続の基本原則」として次のものをあげる。

 (1)職権主義の原則

 (2)書面審理主義と口頭審理主義:一般的には書面審理主義であるが、不利益処分に関する聴聞手続は口頭審理主義を採ると解される。

 (3)文書主義と口頭主義:個別の作用法次第ではあるが、文書主義が優先すると考えられる。

 

 5.「行政手続法」の構造その2  申請に対する処分

 「行政手続法」は、基準の設定・公表、標準処理期間の設定などについて、「処分」の性質に応じて行為義務と努力義務とを分けている。また、私人が権利を有する場合とそうでない場合などがある。

 

申請に対する処分

不利益処分

基準の設定・公表 

行為義務(第5条、審査基準) 

努力義務(第12条、処分基準)

標準処理期間の設定・公表

設定は努力義務(第6条)
設定した場合の公表は行為義務

申請に対する審査応答

行為義務(第7条)

理由の提示(理由付記) 

行為義務(第8条) 

行為義務(第14条)

情報の提供 

努力義務(第9条) 

公聴会 

努力義務(第10条) 

複数の行政庁が関与する処分の迅速な処理

遅延の禁止は行為義務(第11条第1項)
審査の促進は努力義務(第11条第2項)

聴聞手続(正式) 

行為義務(第13条第1項第1号)、但し、不利益度による。
第15条以下に詳細な規定がある。

文書・資料等閲覧請求権

行為義務(第18条。聴聞手続についてのみ認められる。拒否事由も定められている。)

行政不服申立ての制限

聴聞手続を経てなされた処分については、行政不服申立てをなすことができない(第27条)

弁明の機会の付与(略式)

 

行為義務(第13条第1項第2号)、但し、不利益度による。
第29条以下に詳細な規定。なお、準用規定に注意!

 〔1〕「申請」および「処分」の意味

 まず、申請」とは、私人が、法令に基づいて行政庁の許可、認可など自己に対して何らかの利益を付与する処分求める行為」であって、これに対して「行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう」(「行政手続法」第2条第3号)。私人がただの通知を行うのでなく、何らかの行為を求めるのであり、行政庁は応答義務を負い、申請の内容に関して要件審査権限を有する。

 「申請」と「届出」との違いに注意されたい。「届出」の意味については後述する。

 次に、「処分」とは「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう」(同第2号)。「第11回 行政行為論その1:行政行為の概念において述べたように、「処分」についての満足な定義とはなっていないが、第3号に例示されているように、中核となるのが行政行為である。

 従って、「申請に対する処分」には、行政法学にいう授益的行政行為の多くが該当することとなる。

 〔2〕審査基準の設定・公表

 (1)審査基準の意味

 「行政手続法」第2条第8号ロは、審査基準を「申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準」と定義する。従って、審査基準は裁量基準と解釈基準の両方を指すこととなる。

 ここで、裁量基準とは、裁量行使の基準を意味する。同第5条により、基準の定立そのものは行政庁の行為義務であるが、いかなる基準を設定するかは行政庁の裁量に委ねられると考えられる。従って、裁判所は、裁量基準の適法性などを全面的に審査しうる訳ではない。すなわち、裁判所が、行政庁の判断を自らの判断に置き換えることはできない。

 これに対し、解釈基準とは、処分の根拠となる法令(の規定)の解釈を内容とするものである。従って、裁判所は、解釈基準の適法性を全面的に審査しうる、と解すべきである。

 同第2条第8号ロは、同イと異なり、存在形式(政令、省令、告示、訓令・通達など)を示していないので、審査基準の存在形式には、閣議決定、告示、通達など、様々な形態が考えられるが、主に行政規則の形態をとることとなろう。 

 (2)審査基準の設定

 最一小判昭和46年10月28日民集25巻7号1037頁は、個別法の解釈を通じて、手続が行政庁の独断を疑わせるような不公正なものであってはならず、法律の趣旨を具体化した審査基準の設定および公正かつ合理的な適用が必要であり、そして申請人に主張と証拠の提出の機会を与えなければならないと述べた。また、申請人には公正な手続を受ける法的利益があるとした。

 同判決の趣旨を拡張し、一般的に審査基準の設定義務を定めたのが「行政手続法」第5条第1項である。この義務は努力義務ではなく、行為義務である。なお、形式については行政庁の裁量に委ねられると理解される。

 (3)審査基準の設定手続

 2005年の「行政手続法」改正により、第6章(第38条以下)が追加された。これにより、審査基準は意見公募手続の対象とされた。但し、それ以前からパブリック・コメントの対象とされていた。

 (4)設定された審査基準の公表

 前掲最一小判昭和461028は、審査基準の公表について述べていなかったが、審査基準を設定しても公表しなければ、申請(を行おうとする)者にとっては行政庁の諾否について予測がつかないこととなりかねない。また、審査基準の不公正な運用などに対するチェック機能が働かず、設定そのものの意味を失いかねない。そこで、「行政手続法」第5条第3項は、「行政上特別の支障があるときを除き」設定された審査基準の公表を義務づけることとした。

 公表と記したが、正確には「申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない」とされているのであって、公にする方法は行政庁の裁量に委ねられている。従って、たとえばインターネットのウェブサイトにおいて広く公開しなければならないという訳ではない。要は申請(を行おうとする)者が実際に審査基準を目にすることができるようにしておかなければならない、ということである。

 ここで、「行政上特別の支障があるとき」とは「定められた審査基準について、これを公にしておくと当該個別法の適正な運用に著しい支障を来すおそれがあって、申請者又は申請をしようとする者の不利益を考慮してもなお公益上の観点から公にしておかないほうがよいと判断される場合」をいう行政管理研究センター編『逐条解説行政手続法』〔27年改訂版〕(2015年、ぎょうせい)137。結局、この判断は行政庁の裁量に委ねられるということであろうが、この裁量の幅が広いと解されてはならないことは言うまでもない。

 (5)審査基準の具体性の要請

 同第5条第2項は「行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない」と定める。勿論、要請される具体性は許認可等の性質により異なるので、具体性の程度は「許認可等」の根拠規定にされるところが大きいであろう。見方を変えれば、根拠規定がどの程度まで行政庁の裁量に委ねているかということでもある。また、「許認可等の性質」によっては審査基準を設定する必要がない場合もありうる

 行政管理研究センター編・前掲書136頁は、「個々の申請について個別具体的な判断をせざるを得ないものであって、法令の定め以上に具体的な基準を定めることが困難であると認められる場合」をあげている。また、仙台高判平成20年5月28日判タ128374頁を参照。

 ともあれ、具体性が要請されているため、審査基準が示さなければならないものとしては、例えば次のようなものが考えられる。

  ・技術上の基準

  ・許認可等が根拠規定の要件に適合している場合の優先順位

  ・許認可等を行政庁が行う際に考慮すべき事項

 〔3〕標準処理期間の設定・公表

 標準処理期間は、「行政手続法」第6条により、「申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間」と定義される。また、「法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合」には「当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間」を含むものとされる。

 同条の視点は、行政運営の適正化の観点に置かれており、行政庁による申請の迅速な処理の確保が目的である。但し、申請を放置した場合の法的効果については範囲外であることに注意しなければならない。

 標準処理期間の設定そのものは、行為義務でなく、努力義務に留められている。その理由として、行政庁の責任に帰さない事由により処理に要する期間が変わることがあり、その場合には設定が困難であることがあげられる。

 もっとも、標準処理期間が設定されるならば、公表まで努力義務に留める必要性はない。そこで、行政庁には、標準処理期間を設定した場合の公表について行為義務が課せられる

 注意しなければならないのは、標準処理期間が定められている場合で、その期間を経過してもなお処分がなされないときに、そのことから直ちに不作為の違法が問われる訳ではない、ということである。標準処理期間があくまでも目安であることからすれば、仕方のないところではあろう。なお、この点については、旧行政不服審査法第3条・第49条以下、新行政不服審査法第3条・第4条、行政事件訴訟法第3条第5項および第6項・第37条・第37条の2以下も参照すること。

 〔4〕審査応答

 「行政手続法」第7条は「行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない」と定める。この規定は、「行政手続法」において私人の申請権が保障されることを最もよく示す規定である〈芝池義一『行政法読本』〔第4版〕(2016年、有斐閣)103頁〉

 引用した条文から明らかであるように、同条は、行政庁に対し、次のことを行為義務として課する。

 ・申請が到達したら、遅滞なく審査を開始しなければならない。

 ・申請が形式上の要件に適合しない場合には、申請社に対し、補正を求めるか、申請の拒否をしなければならない。すなわち、応答義務が課せられる。

 ・従って、私人の申請を行政庁(行政機関)が窓口で受理を拒否する、あるいは受け付けない、というようなことをしてはならない

 ・また、申請が行政機関に到達した後に「留保する」、すなわち審査を開始しないままでいることも許されない

 なお、学説においては、一般的に、第7条が準行政行為的行政行為としての受理の概念を排除したものと考えられている塩野・前掲書320頁、芝池・前掲書102頁、賀克也『行政法概論Ⅰ行政法総論』〔第7版〕(2020年、有斐閣)458頁、大浜啓吉『行政法総論第三版行政法講義Ⅰ』(2012年、岩波書店)247頁。櫻井敬子・橋本博之『行政法』〔第6版〕(2019年、弘文堂)199頁、中原茂樹『基本行政法』〔第2版〕(2015年、日本評論社)107頁も参照

 〔5〕理由の提示

 行政庁に対し、処分と同時に理由の提示(理由付記などが該当する)を行うことを行為義務として課する規定は「行政手続法」第8条および第14条に置かれている。申請に対する処分については同第8条が定めている。

 同第1項本文にいう「申請により求められた許認可等を拒否する処分」は、申請の全部を拒否する処分はもとより、申請が形式上の要件に適合しないとして申請を拒否する処分も含まれる(同第7条も参照すること)。また、申請の一部を拒否する処分についても同第8条が適用される。

 また、これらの処分を行う際には、同時に、理由の提示を行わなければならない。提示が処分と同時に行われなかった場合、さらに全く理由が提示されない場合には、手続上の瑕疵を帯びる行為となるので、違法な処分となりうる(最三小判昭和47年12月5日民集26巻10号1795頁、最三小判昭和60年1月22日民集39巻1号1頁、最一小判平成4年12月10日判時1453頁116頁を参照。また、最三小判平成23年6月7日民集65巻4号2081頁も参照)。但し、「法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる」(同第8条第1項ただし書き)。

 同第8条(および同第14条)には、理由を提示すべき程度に関して何ら言及していないが、これまでの判例にならい、単に根拠条文を示すだけでは足りず、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して(法的理由によって)申請を拒否したかが、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならない。この際に、相手方が理由を知っているか否かは問わない。従って、行政手続法が施行されている現在においては、該当する事実、処分の根拠条例に示された要件、さらに、適用すべき審査基準・処分基準を、理由として提示しなければならないこととなる(前掲最三小判平成23年6月7日を参照)。

 (6)情報の提供

 「行政手続法」第9条は、行政庁が審査の進行状況や処分の時期の見通しを示すこと(同第1項)、ならびに「申請書の記載及び添付書類に関する事項その他の申請に必要な情報の提供」を行うこと(同第2項)を、努力義務としている。なお、情報の提供は行政指導にあたらない。

 〔7〕公聴会

 「行政手続法」において、第三者の意見を聴取する機会についての規定は、公聴会の開催等を定める第10条以外にない。しかし、同条が「申請者以外の者の意見を聴く機会を設ける」ことを努力義務としていることから明らかであるように、広く国民参加や住民参加を正面から認める規定とはなっていない。

 〔8〕複数の行政庁が関与する処分の迅速処理

 「行政手続法」第11条第1項は「行政庁は、申請の処理をするに当たり、他の行政庁において同一の申請者からされた関連する申請が審査中であることをもって自らすべき許認可等をするかどうかについての審査又は判断を殊更に遅延させるようなことをしてはならない」と定めている。これは明らかに行為義務である。一方、同第2項は「一の申請又は同一の申請者からされた相互に関連する複数の申請に対する処分について複数の行政庁が関与する場合」について「当該複数の行政庁」が「必要に応じ、相互に連絡をとり、当該申請者からの説明の聴取を共同して行う」ことなどによって審査を促進させることを努力義務としている。

 

 ▲第7版における履歴:2021年2月9日掲載。

 ▲第6版における履歴:2015年11月30日掲載(「第16回 行政手続法−事前手続に対する統制−」として)。

              2017年10月26日修正。

            2017年12月20日修正。

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耳が痛くなる

2021年02月07日 23時54分40秒 | 日記・エッセイ・コラム

 1月および2月、多くの大学教員は入試の監督業務にあたることとなります。

 具体的なことは記しませんが、私も数回担当しました。これだけであれば例年と変わりませんが、2021年には今まで経験しなかったことに苦しめられました。

 両耳が痛くなるのです。

 但し、耳鼻咽喉科に通院しなければならないような痛みではありません。耳の奥のほうが痛む訳ではないのです。

 原因は明確です。

 試験監督業務中はマスクをしなければなりませんから、食事中を除いてマスクを着けています。これが原因なのです。長時間付けているので、耳が痛くなるのです。うちから大学へ行き、仕事をして、帰宅するまで、外すことができないのですから、痛くなるのも当然でしょう。

 初めて眼鏡をかけた時にやはり耳が痛くなることがありますが、眼鏡であれば調整もできるし慣れるものです。しかし、マスクはそうもいかないようです。不織布マスクでなければ楽な場合もありますが、その分だけ防御力は落ちます。

 元々マスクをする習慣がなく、不織布マスクをするようになったのが第1回の緊急事態宣言の間のことであった私には(理由は単純で、当時、近所に不織布マスクが売られている店がなかったからです)、何時間もマスクをすることがほとんどなかったのでした。

 花粉症にかかったことがなく、インフルエンザに感染したこともなく、マスクといえば小学校の給食当番の時くらいでしょうか。ちなみに、不織布マスクを初めて使ったのは2016年の1月か2月で、溝口三丁目にあった帝京大学医学部附属溝口病院に母が入院していたために、面会の際には着用するようにということでナースステーションでもらっていました。これだけ書けばどのような状況であったかがおわかりになる方もおられるでしょう。

 2021年度に入ると、感染状況次第ではありますが教室での講義を行うこととなるでしょう。そうなると長時間マスクを着けなければならないかもしれません。耳が痛くなることが多くなるのか、慣れるものであるのか、不安にさいなまれます。 

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いつまで走るか 東急8500系8616F

2021年02月05日 23時55分00秒 | 写真

いまや、東急に所属する車両の中で最古参のものを含む8500系8616Fを、二子玉川駅で撮影しました。

 東急に限らず、またこの系列に限らず、廃車となるのは製造の順番と無関係です。東急では、1980年代に登場した8090系および8590系が既に引退しており、現在は大井町線で運用されている9000系や9020系(かつての2000系)も5両編成化されたことで一部が廃車となっています。この8500系8616Fは、少なくともデハ8516やデハ8616は1970年代に製造されており、現在の東急では最古参となっています。

 

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この期に及んで東京五輪開催?

2021年02月04日 09時49分05秒 | 国際・政治

 ここでオリンピックそのものの是非については議論をしません。あくまでも、当初は2020年に開催される予定であり、今年に延期された東京オリンピックのことです。

 COVID-19の感染状況などを考えると、また、日本における対策を考えると、今年の開催は不可能でしょう。仮に可能であるとしても、相当に難しいと言わざるをえません。

 オリンピックのスポンサー関係もあって、日本国内のメディアについてはYahoo! Japan Newsなどでニュースを探すしかないのですが、最近の東京五輪組織委員会長の発言には首を傾げざるをえません。いや、この表現では足りないと言えます。国内世論を敵視あるいは愚弄するような発言が繰り返されており、海外メディアからも非難される始末です。今や東京オリンピックVS.日本国民(の過半数?)という構図も見えています。少なくとも、多くの日本国民が東京オリンピックに興味なり関心なりを向ける余裕はないと言えます。

 最近よく見ている「一月万冊」というYouTubeのチャンネルでも指摘されていましたが、今回の東京オリンピックには復興五輪という位置づけ(というより名目)が与えられていたのであり、欺瞞に満ちているとしか言いようのないものでしたが、いつの間にか「コロナに打ち勝った証」にもされています。少なくとも現段階では悪い冗談にしか聞こえないでしょう。

 

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