きみの靴の中の砂

秋のいち日にふたりですること

 

 

 祖父のそのまた父の時代からあるという庭の柿が実りつつある。

「もうすぐ沢山収穫できるね」と嬉しそうにイチ子さんがぼくの腕に手を回し、喜ぶ。
 彼女は、実が多く穫れれば豊作だと考えているようだが、それは正しくない。
 実は今年、ぼくはうっかりして、梅雨明けに実を間引くのを忘れてしまった。枝に実を沢山実らせてしまうと、甘く、おいしくはならないことを子供の頃からの経験で知っていたのだったが...。そう説明すると、
「へぇ、そうなんだぁ」と彼女は残念そうに言ってぼくを見る。続けて、
「でももし、甘くなかったらジャムとかジェリーにすればいいよ。それに、チョコレートと一緒に食べてもおいしいし...」とも言う。
「ふーん、したことないなぁ。でも、すりおろしてカレーに入れたことはあるよ」
「へぇ、それっておいしくなるの?」
「そりゃあ使う量にもよるだろうけれど、林檎やマンゴーもそうやって入れるくらいだから『有り』なんじゃないの?」 ぼくもイチ子さんの顔を見た。

                    

 収穫 —— 秋のいち日にふたりですること。

 

 

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