車を走らせ、イチ子とクーパーズタウンへ遊びに行ってきた。
日本ではバッティングセンターは少なくなってしまったが、ここには1972年創業という古いバッティングセンターがあって、久し振りに百球ほど打ってヘトヘトになった。
バッティングセンターは、本場アメリカではBatting Range(バティング・レインジ/試し打ち場)と呼ばれ、今もなかなかの繁盛振り。国技の一翼を担うだけあって、日本とは違ってファン層がより厚く、その質も異なる。
アメリカの家庭では子供が生まれると物心がつく頃から父親が自分の得意なスポーツを子供に仕込むことも多く、言わば英才教育が為されるのがその違いの大きな理由になろう。
ところで、日本は自販機系の機械には現行硬貨を使うことが多いが、諸外国ではトーケンという代用硬貨 —— 日本語的には、なんのデザインもされていない五百円硬貨の親方みたいな大きさのメダルと言った方がイメージし易いかもしれない —— を一枚いくらかで購入して使う。これなら新しい硬貨が発行されたり、値上げするときにも機械の入替・調整など話が大がかりにならずに済んでなにかと好都合だ。
そのバッティングセンターにも代用硬貨の販売窓口があって、希望の枚数を買うこととなる。トーケン一枚で硬球10球3ドル。逆累進で安くなっていって五枚11ドル、十枚20ドルとなる。
贔屓のチームのキャップやユニフォームの上着を着たりしていれば解り易いが、そうでないとトーケン売場のオバサンに、
「どこのチームのファンなの?」とか話しかけられるたりするようだ。
ぼくが入口の壁に二十本ほどか掲げられたメジャーリーガーのサイン入りバットを眺めていると、トーケンを買っていたイチ子が案の定、贔屓チーム名を聞かれたようだ。
一呼吸おいて、イチ子が一際大きな声で、
「トウキョウ・ジャイアンツ!」と答えるのが聞こえた。