「仮想儀礼」 〈上・下〉 (新潮文庫) 篠田 節子 (著) 2013.10.15読了 。
〈上〉ゲーム作家に憧れて職を失なった正彦は、桐生慧海と名乗って、同じく失業者の矢口と共に金儲け目当ての教団「聖泉真法会」を創設する。悩める女たちの避難場所に過ぎなかった集まりは、インターネットを背景に勢力を拡大するが、営利や売名目的の人間たちの介入によって、巨額の金銭授受、仏像や不動産をめぐる詐欺、信者の暴力事件、そして殺人など続発するトラブルに翻弄される。
〈下〉社会から糾弾され、マスコミと権力の攻撃のターゲットにされた「聖泉真法会」に、信者の家族が奪還のために押しかける。行き場を失い追い詰められた信者たちがとった極端な手段。教祖・慧海のコントロールも超えて暴走する教団の行方は―。人間の心に巣くう孤独感、閉塞感、虚無感、罪悪感、あらゆる負の感情を呑み込んで、極限まで膨れ上がる現代のモンスター、「宗教」の虚実。
金目当てに宗教団体を立ち上げるあたりは、「ほう、ほう」と面白おかしく読んでいく、途中からは、「もう、その辺でやめておけ」とか忠告したくなったり、後半の教団がエライ勢いで崩壊していくさまは、胸が苦しくて、苦しくて。でも、ページをたぐる手が止められない。まさに、物語の中にどっぷりとつからさせていただきました。
教祖におさまった、元ゲーム作家のなりそこないが、最後には、本当の宗教家になったのではなかろうか? まったく宗教を学んだことも、修行したこともないのに。教祖っていったい? 教団とは? 宗教とは? 祈る対象とは? いろんなことを考えさせられた。
笑いも、涙も、感動もてんこ盛り。この手にありがちの読後感の悪さもない。1200ページがまったく長さを感じない。こんな作品があるから、読書は止められない。…9.5点。