祐さんの散歩路 Ⅱ

日々の目についたことを、気ままに書いています。散歩路に咲く木々や花などの写真もフォトチャンネルに載せました。

・ 日本が失うもの

2014-07-02 05:06:18 | 政治
戦争をしたがる自民党は、集団的自衛権の行使容認に踏み切りましたが、それに対して世論は反発しています。毎日新聞の記事を転載します。


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特集ワイド:集団的自衛権の行使容認で「日本が失うもの」
毎日新聞 2014年07月01日 東京夕刊


10年前の陸上自衛隊イラク派遣は復興支援が目的だったが、「歯止め」を失えば戦渦にまきこまれかねない=イラク南部サマワで2004年2月、岩下幸一郎撮影


他国の戦争に参加する大義名分−−集団的自衛権の行使などを認める1日の閣議決定で政府が手に入れるのは、まさにそれ、憲法9条の無力化だ。だとすれば、代わりに「日本が失うもの」とは何か。海外経験が豊富な識者とともに考えた。【吉井理記】

 70年かけて築いてきた平和的、非暴力イメージ

平和的、非暴力……。戦後日本が約70年かけて懸命に築いてきたイメージです。それが『あの戦争』で一部が壊れた。今度は全部が崩れてしまう。政治家は日本が失うものの大きさを本当に理解しているのでしょうか」。そううめくのは日本国際ボランティアセンター(JVC)顧問で日本映画大教授の熊岡路矢(みちや)さん(67)だ。アジアやアフリカ、中東などの紛争地で約30年間人道支援活動を続けてきた、日本のNGO(非政府組織)の草分け的存在だ。熊岡さんが「あの戦争」と言うのは2003年のイラク戦争だ。「大量破壊兵器が隠されている」との理由で米英が始めた戦争を日本も支持し、人道支援目的で自衛隊も派遣した。ところがイラク国内は一向に安定せず、これまでに17万人以上が死亡して混迷が続いている

そのイラクを熊岡さんは戦争を挟んで計3回訪れ、医薬品輸送などにあたった。「もともとイラク人は親日的だったのです。日本の建設会社が病院建設などをしていたから『オレも日本人と一緒に仕事したことがある』という人も多く、何より日本はイラク・中東で軍事行動をしたことがなく、好感を持たれていたんです。だから支援活動がすんなり受け入れられた、と感じました」

ところが、日本政府のイラク戦争支持や自衛隊派遣が現地新聞で報じられると空気が一変する。「気温で言えば30度から15度、10度くらいにすとん、と落ちる感じ。表立って攻撃されたりしませんが、彼らから『日本は好きだったのにどうして?』と問われました。これには私たちも、強いショックを受けたのですが……」

イラクではフセイン政権が崩壊した03年4月以降、国連ビルの爆破や日本人外交官の殺害事件などが相次いだ。JVCも日本人スタッフをイラクから引き揚げざるを得ない状況に陥った。「日本のNGOが世界各地で活動できるのは現地住民から信頼を得られたから。その信頼の根源は日本の憲法9条による平和主義や、私たちが武器を持たず、戦争当事国の軍や国益と無関係に行動するところにある。NGOの活動が住民の評価を受け、日本の平和に貢献した、との自負もあるんです」

安倍晋三首相は記者会見などで「NGOメンバーが武装集団に襲われても自衛隊は助けることができない」と強調し、国連平和維持活動(PKO)で自衛隊が幅広く動けるよう、武器使用基準の緩和を訴えた。集団的自衛権の行使容認と並ぶ今回の閣議決定のポイントだが、熊岡さんは「自衛隊に助けてほしいと思ったことは一度もありません。紛争地の現実とかけ離れています」と一蹴した。カンボジアでもイラクでも、安全の要は住民の情報や彼らの持つ人脈であり、軍隊ではない。仮に自衛隊と一緒に行動すれば目立つし、戦争当事国との関係を疑われて逆に襲われる危険が高まる−−と。自衛隊員にとっても危険この上ないのだ。

「僕は自衛隊の若者が殺されてほしくないし、人を殺してほしくない。安倍首相は『積極的平和主義』と言っていますが、世界の大国のように武器を輸出せず、他国の戦争にくみすることも禁じ、非軍事で国際協力活動をしてきたこれまでの日本こそが本当の積極的平和主義であり、欧米流に言えば非常に『クール』、日本にしかできないことですよ。なぜ、みすみすこんなかっこいいニッポンを捨ててしまうのかな」


 ◇「まともな外交・安保政策」という国家運営の根本

海外からの信頼や評価だけではない。「集団的自衛権行使は矛盾だらけ。日本は『まともな外交・安保政策』という国家運営の根本を失った」と語るのは、駐レバノン大使を務めた元外務官僚、天木直人さん(66)だ。大使当時、03年のイラク戦争が国際法に違反するとの意見を上層部に送った後、依願退職した。

外交の根幹には、外国との信頼関係が不可欠だ。「特に集団的自衛権で想定される他国とは米国です。安倍首相は行使容認への世論の反発が強いと見るや、とにかく閣議決定に持ち込みたいから『限定的』とか『日本人を守るため』と言っているが、米国や他国からは理解されません。集団的自衛権とは、イラク戦争に参戦した英国のように『同盟国としてともに戦う』ことを意味するのであって、『限定』などという概念が入る余地はありません。まして『事例研究』などと言っているのは日本だけ。米国から見たら『日本は口だけだ』と、逆に信頼を失うのではないか」。天木さんは疑問を投げかける。

加えて「安倍首相が集団的自衛権を使いたいのは、米国に従属せず、対等関係になりたいという思いがある。ならば在日米軍撤退や日米安保改正論議は避けて通れないはずです。自民党の政策綱領にも『(改憲して)自衛軍備を整え、駐留外国軍の撤退に備える』と明記していますから。そこをあいまいにしたツケはいつか回ってくる」。懸念の一つが米国以外の他国、特に米国と関係悪化している中東諸国からの「視線」だ。

「対等関係どころか、いよいよ対米従属を深めたとしか受け取られません。日本のエネルギーを支える湾岸産油国との関係など経済面でも悪影響が及ぶかもしれません」

 それでも集団的自衛権の行使容認で「日本はより平和になる」のならまだしものことだが……。

熊岡さんは「今のイラクを見れば答えは見えてきます。米軍がフセイン政権を倒した後、今も内戦状態が続いています。アフガニスタンでもアフリカでも欧州でも、テロの危険性は減るどころかどんどん高まっている。武力で平和は生みだせないんです」。天木さんも続ける。「日本では憲法9条の平和主義は空想的だと言われますが、世界は今、武力で物事は解決しないことに気付き始めた。米国ですらアフガンやイラク戦争の轍(てつ)はもう踏まない。そんな時代なのに、日本は逆行しています。中国が脅威だというなら、そうでない外交関係を築けばいい。これからの時代、9条の価値観がスタンダードになるかもしれないのに、日本はそれを捨ててしまった

 国際的な信頼だけではない。9条の持つ先進性をも日本は失うということか。

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