祐さんの散歩路 Ⅱ

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・ 見捨てられる命、不平等がテロをうむ

2015-02-11 01:44:08 | イスラム国


イスラム国で殺害されたジャーナリストの後藤さんの事件を受け、同じ職業のジャーナリストが緊急で集まり「中東の平和にどう貢献できるか」を話し合っています。主催者の井上さんがメモしたものを整理してネットへ流してくれています。多くの国民は、イスラム国の残虐性のみを報道していますが、そのような状況になってしまった背景を考えていないでしょう。一方、アメリカを主体とする有志連合の行動は正しいものと報道されていますが、その陰でどれだけ一般市民が殺され、生活を打ち砕かれているかは報道されません。現場を見ているジャーナリストは真実を知り、その意見は貴重なものでしょう。
以下転載します。



見捨てられる命、不平等がテロをうむ -後藤健二さんらのシリア人質事件を受けて私たちに何ができるのか?
井上伸 | 国家公務員一般労働組合執行委員、国公労連書記、雑誌編集者
2015年2月7日 20時9分



緊急集会「後藤健二さんらのシリア人質事件を受けて今考える

昨夜、「後藤健二さんらのシリア人質事件を受けて今考える~私たちは中東の平和にどう貢献できるのか~」をテーマに緊急集会が開催されました。

緊急集会で戦場ジャーナリストらが共通して強調されていたことなどを私の受け止め含め最初にまとめておくと次のようになります。

「テロには屈しない」などとしてアメリカなどが行っているイラク戦争や空爆などの犠牲になっているのは圧倒的に罪のない子どもら一般市民であるということ。じつはこの事実に対して、日本に住んでいる多くの人々が無関心であったり、対テロ戦争やテロに対する空爆などの報復はテロをなくすためにはしょうがないのではないかなどという感じの無関心や現状追認に流されてしまっていることがそもそも大きな問題であること。

テロの見方についても、突如うまれた残虐な極悪非道のモンスターとだけとらえ、アメリカによるイラク戦争をはじめとする武力行使や残虐な行為こそが残虐なイスラム国を育んで来たというテロを生み出す構造上の問題として把握できないこと。そして、とにかく報復の武力行使でそのモンスターを殺しさえすればテロがなくなるかのような単純な思考で空爆などへ流されてしまっていることが問題で、イスラム国の地域にも700万から800万人の一般市民が暮らしていることを見落とし、報復の空爆によって、罪のない多くの子どもら一般市民の命が奪われていることに思いを寄せることができないでいることが大きな問題であること。

イラク戦争はじめ、中東諸国で奪われている罪のない一般市民数十万人の命は国際的にも見捨てられていること。イラク戦争はじめ空爆は国際法から見ても明らかに違法であり犯罪であるにもかかわらずアメリカはじめ先進主要大国や関連国の罪は一切問われないという不平等な扱いが、中東諸国の一般市民の見捨てられた命として不平等感を日々増殖させ、それがテロをうむという悪循環になっている。日本も協力したイラク戦争をはじめ、アメリカなどによる中東諸国の罪なき一般市民の殺戮は許されて、それを背景とする中東諸国の側によるアメリカ人や日本人の殺戮は「テロ」と呼ばれ「極悪非道」「絶対悪」として「根絶」しなければいけないモンスターとされるこの不平等がテロをうむ大きなファクターになっているということ。

イスラム国が生まれる背景にあるイラクの一般市民十数万人の命を奪ったイラク戦争に協力した日本はこのイラク戦争を反省していないこと。もっと言えば、70年前の日本がイスラム国同様の残虐な侵略戦争を遂行したことについても反省するどころか肯定するかのような言動を繰り返している安倍政権を許してしまっている問題がある。これは日本の一般市民の中東諸国への無関心と現状追認にも連動して、問題を歴史的事実としてとらえ社会構造上の問題として把握できずにいるわけで、戦争する国づくりに前のめりになる安倍政権の暴走を許すことにつながっていること。

戦場を取材すると、「暴力は暴力で止められない」「戦争は戦争で止められない」「テロは対テロ戦争や空爆では止めれない」という結論に至る。そしてこのことを、後藤健二さんはじめ戦場ジャーナリストはできるだけ多くの人に伝えたいがために自分の命をもかけて戦場で取材活動をしている。後藤健二さんがとりわけ戦火の中の子どもらに心を寄せていたのは偶然ではなく、戦争で最も犠牲になるのが罪のない子どもたちであることが戦争のリアルな実態であるということ。

今回の事態を受けて私たち日本人にできることは、どこの国の誰であっても人を殺すことは犯罪であり許してはいけないということ。中東諸国の政治や社会を私たちは直接変えることはできないが、中東諸国への本当の人道支援とともに、日本という国が中東諸国はじめ世界のどの国に対しても空爆する側に回らない、報復する側に回らない、戦争する側に回らない日本政府を私たちの手でつくること。無関心で安倍政権の暴走を許すことになれば、日本が世界中で人を殺していくことになる。一方で殺しておいて一方で人道支援ということにはならない。日本が世界中で人を殺していくことになれば無関心は罪になる。

――以上のような受け止めを私はしました。あくまで私の受け止めですので御了承ください。それから、以下は緊急集会を聴きながら私が走り書きしたメモの一部です。逐条起こしでなく簡単なメモに過ぎませんので、入り組んでいたイラクやシリアの宗派や民族間の問題についてはメモできなかったので御了承ください。



▼安田純平氏フリージャーナリスト
日本を戦争へスタートさせないために憲法で戦争を止めること 

この間のマスコミ報道を見ていると、後藤健二さんが戦火の中の子どもたちや女性たちに寄り添っていたという映像を流すのだけど、後藤さんが最も訴えたかったアサド政権の空爆によって子どもらが殺されているという部分を全部切ってしまっていた。ただの一般論にしてしまっている。これは後藤さんに対する大変な侮辱だと私は思った。

アサド政権も酷いが反政府勢力にも酷いのがいる。それぞれに対し武器を提供する国々の代理戦争という側面もある。泥沼状態でどうやって平和を取り戻せばいいのかそう簡単ではないのでみんなフリーズして思考停止になり、空爆で子どもらを殺すアサド政権のような存在もしょうがないよねとなる。しかし、現場を取材すれば目の前で子どもらが殺され続けている。シリアを世界が放置し20万人が殺されていった。イスラム国が広がっていった背景には、私も含めて世界中があれほど殺されていった人たちを見捨ててきたことがあると思っている。多くの見捨てられた人たちがいる中で残虐なことをするイスラム国がつけいるすきができたといったことなどが背景にあると思う。泥沼状態のなかで生活ができないからイスラム国でも行くしかないという人たちも見てきた。積極的にあんな酷いことをやろうと思っているわけじゃないけど、どうしようもないじゃないかと。イスラム国が残虐だからつぶせばいいという話ではない。日本は、そもそも戦争をスタートさせないためにいまある憲法で止めることが何より大事だ。



▼佐藤真紀氏日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)事務局長
経済的利益のために戦争に協力する日本を変えよう

ODAの軍事目的利用の監視を

後藤さんとは11年前のイラク戦争で知り合った。NGOと戦場ジャーナリストは協力しあいながらやっていくところがあって、戦場ジャーナリストが現場の実態を知らせ、そして私たちNGOが人道支援を展開する。こういう狂った世の中を変えていく点で同じ。昨年からクルド地区で活動しているが難民がどんどん増えている。マスメディアが報道してくれないため、人々は無関心で資金集めも大変だ。人道支援は焼き石に水のようだが水を持っていけは市民は喜んでくれる。

日本はODAを軍事目的にも使えるように1月の終わりに閣議決定で変えて行こうとしていた段階にあった。エジプトでの演説は今の段階ではまだできないけれど、先のことを見越して安倍首相は発言したのではないか。日本は国益、経済的な利益を何より優先してそのためには積極的平和主義となっている。イラクの復興は日本の国益でそのために侵略戦争に協力するし、日本は石油のためなら軍隊を出そうということ。今後、ODAの軍事目的への活用について私たち市民の監視が必要だ。



▼綿井健陽氏ジャーナリスト・映画監督(アジアプレス所属)
ベトナム戦争のときは映像や写真が戦争のブレーキになった
ところが今回は映像がブレーキではなくアクセルになっている
私たちに何ができるのか? 何ができるのかではなく、何を日本政府にさせてはいけないのかが重要


99年、直接の同僚が取材中に惨殺された。この10年を見ても多くの日本人ジャーナリストが命を落としている。こういった事件が起こったときだけ、注目されその日本人ジャーナリストの物語がそのときだけ報道されるケースが多いが、ジャーナリストの死の前後で何が起こっているかという問題をみんなで考えるべきだ。CPJというアメリカの団体の調査結果によると、2003年のイラク戦争開戦以降、取材中に165人のジャーナリストが死亡している。そのうち85%がイラク人のジャーナリストだ。シリアも同様で、この4年ぐらいで79人のジャーナリストが死亡しているが、85%がシリア人のジャーナリストだ。普段の報道を支えているのは現地のジャーナリストであり、もちろんその背景には多くの一般市民の死があるわけで、ジャーナリストの死だけをクローズアップすることも違うと思う。後藤健二さんの場合は今までのジャーナリストの殺害とは違う。とりわけ映像がこういう形でつかわれることは残念だ。ベトナム戦争のときは映像や写真が戦争のブレーキになった。映像や写真が起点になってベトナムの子どもら市民を殺すな、戦争をやめろ、アメリカはベトナムから引き上げろと戦争をやめさせる方向にはたらいた。ところが今は残虐な映像が流れるとそれに対して報復をするという流れになってしまっている。2004年にイラクで米兵が引きずり回された映像がファルージャで流れ、そのあと大規模な報復空爆がなされた。残虐な映像が流れたときに、それに対しての報復、さらに残虐な行為をするという流れになってしまっている。今回も典型でヨルダンは空爆をし、残虐な映像にさらに残虐な報復という悪循環が生まれている。映像がブレーキではなくアクセルになっている。本来の映像は他者を理解したり他者とコミュニケーションを取ったりするものだと思っているのに、こういう形で使われているということに危惧している。

私たちに何ができるのか? 何ができるのかではなく、何を日本政府にさせてはいけないのかが重要だ。直接的には何もできなくてもイスラム国で暮らす市民との交流を地道に続けて行くしかない。少しずつしか信頼は得られない。逆に日本の軍事的なかかわりが増していくと、必然的に民間人の危険も増していくことになる。



▼志葉玲氏ジャーナリスト、「イラク戦争の検証を求めるネットワーク」事務局長
ISISは米軍の刑務所が育んだ
「不平等がテロをうむ」


ISISのそもそもの起源はイラク戦争だ。リーダーのバグダディはイラク南部バスラにある米軍の刑務所で逮捕拘束されている間に暴行虐待を受け過激思想を育んでいった。私は同じ刑務所にいた人に取材した。その人も何も悪いことはしていないのに米軍に逮捕拘束されその刑務所に入れられた。そこで酷い扱いを受けた。そうすると刑務所の中では米軍への怒りが充満していく。その中で米軍に対する武装勢力からリクルートされるということがあった。このことはイギリスのガーディアン紙も米軍の刑務所なしにはイスラム国はありえなかったと報道している。

よく「貧困がテロをうむ」という見方がある。もちろん貧困問題を解決する必要もあるが、正確に言うと「不平等がテロをうむ」ということだ。どこかの国は人を殺してもいいのに、どこかの国が人を殺すとテロと言われる。この不平等がテロをうむ大きなファクターになっている。どの国だろうと国際法違反の犯罪を許さないということが必要だ。ガザの命より日本人の命が大事という風潮ではダメだ。戦争だからといって何をやってもいいというわけではない。暴力をいつまで見逃すのかという問題を私たちは考える必要がある。



▼豊田直巳氏ジャーナリスト、日本ビジュアルジャーナリスト協会(JVJA)会員
イスラム国が残虐だと言うが70年前の日本兵は同様のことをいくらでもやっていた。私たちは何者なのだろうかと振り返る必要がある

後藤さんと湯川さんだけではなく毎日何十人も殺されているということを私たちがしっかり認識することが大事だ。戦場を取材すると暴力では戦争は止まらないということを実感する。非暴力でしか解決できないのだから知恵を出さなければいけない。この会場に来ない人に知ってもらわなければテロや戦争は止まらない。イスラム国の地域には700万人から800万人の庶民が住んでいる。私たちにはその地域を直接変えることはできないが、しかしそこに自衛隊を送り込むと言っている安倍政権を私たちは変えることができる。

私たちは何者なのだろうかと振り返る必要がある。イスラム国が残虐だと言うが、70年前の日本兵は同様のことをいくらでもやっていた上にそれを安倍政権は反省しないとも言っているような日本の状況を放置しておいて戦争は止められない。イスラム国を特殊だと言っているだけではご都合主義だ。人道支援は難民支援と難民が出ないようにすることが基本であって、安倍政権がやろうとしていることは逆だ

テロは不平等の蔓延がつくっていく。まず知ることがスタートで知らなければ考えようがない。今の安倍政権に対してどこかで歯止めをかけなければいけない。本当のことを知るためにはプロパガンダとは違うジャーナリズムが必要だ。そのために戦場ジャーナリストは取材に行く責任がある。事実を知らせること、事実を知ることが大事で、つらいことは忘れたい、と思うだろうが、ときどき思い出す必要がある。



▼高遠菜穂子氏※難民支援活動を行っているヨルダンからSkypeで参加
現地の反発が大きい安倍政権の「人道支援」

ヨルダンに滞在中。私たちができることを続けていくことが大事だと思っている。昨年、イラクはイラク戦争後最悪の事態に見舞われた。そうした事態をマスメディアが報道しないことが問題だ。今回の安倍政権による「人道支援」については現地の反発が大きかった。命からがら逃げて来た避難民にとってはイラク政府にお金を渡すのは、有志連合の空爆に使われてしまうのではないかという危惧と、イラク政府にお金を渡すこと自体が問題だと多くの市民が思っているということ。なぜなら今のイラク政府は世界でトップクラスと言われるほど腐敗汚職がひどく、イラク政府が市民から信頼されていないためだ。



▼伊藤和子氏弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長
一方で殺しておいて一方で人道支援ということにはならない。日本が世界中で人を殺していくことになれば無関心は罪になる

アメリカの残虐さを棚に上げてイスラム国を邪悪だと言う。どれだけイラク戦争で市民が殺されたか。イラク政府による人権侵害について誰も何も言わない。国際社会を構成している大国は見て見ぬふりだ。人権侵害が追及されない。イスラエルの責任は追及されない。イスラム国だけが邪悪なのか。構造的な暴力で弱者を殺してきた。弱者への人権侵害が追及されない。そして、報復にとらわれて日本も戦争への道を行くことに危惧している。

どれだけ虐殺されても誰も責任を取らない。そして憎悪が広がる。ここでイスラム国をつぶして本当に平和が訪れるのか。無関心ではすまされない。日本は空爆する側に向かっている。一方で殺しておいて一方で人道支援ということにはならない。日本が世界中で人を殺していくことになれば無関心は罪になる。

【文責=井上伸】



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井上伸
国家公務員一般労働組合執行委員、国公労連書記、雑誌編集者


月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)本部書記、国家公務員一般労働組合(国公一般)執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『国公労調査時報』編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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