となり町戦争 三崎亜紀集英社このアイテムの詳細を見る |
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ある日届いた「となり町」との戦争の知らせ。僕は町役場から敵地偵察を任ぜられた。だが音も光も気配も感じられず、戦時下の実感を持てないまま。それでも戦争は着実に進んでいた―。シュールかつ繊細に、「私たち」が本当に戦争を否定できるかを問う衝撃作。第17回小説すばる新人賞受賞作。
---------- キリトリ -----------
初出のときから興味があったんだが
このたび文庫本化ということで早速購入。
一応ネタバレあり。
主人公の住む自治体と「となり町」は
それぞれ町の事業として戦争を行う。
ご丁寧にだいぶ前から長期計画でうたわれていて
予算も議会の承認を得ていた。
つまり、開戦のずっと以前から
戦争を行うことを意思表明していた計画的戦争事業。
テーマとしては非常にシュールというか、面白い。
「戦争」を、他の単語、
たとえばお役所が好みそうな、
「ふれあい推進事業」とか「ふるさと交流事業」とか
そんな言葉に置き換えて考えると、
どこの自治体でもありそうな「地域振興」イベントだ。
随所随所に出てくる、役場の「お役所仕事」性が面白い。
少々ステレオタイプながら、
作者は「地方公務員」の生態をよく知っている。
結局あらかた外部委託しちゃってるとこも。
役場の書式(任命書・業務分担表…)も、それらしくよく出来てる。
まぁ、アマゾンのレビューにも書いてた人がいたが、
決裁欄は左が上席では?とか、
任命書じゃなく辞令だろ、という突込みどころは確かにあるけども。
あと、この戦争は、奇襲攻撃というものが出来ない。
あくまで役場の業務だから、決裁にも時間がかかる。
臨機応変な攻撃など有り得ない戦争。
当然年末年始は戦闘お休みだ。
ただし偵察業務は継続で、特勤手当が出る(笑)
---------- キリトリ -----------
読み終えると、妙な感覚である。
恐らくテクニック的なことかも知れないが、
意外な話の展開で興味が引かれた序盤に較べて、
物語の後半はちょっともたついている感じだ。
偵察業務のパートナーとのデートやセックス描写に
重心が置かれすぎた嫌いがあるし、
その女性が最終的にとなり町の町長の息子と結婚するという話に至っては、
正直余計だったなという気はする。
後半部分における主人公の心理的描写も、
戦争について自問自答したり思索したりしてるけど、
すこし上滑りの感がなくない。
---------- キリトリ -----------
ただ、作者の言いたい事(の一部か)はよくわかる。
戦争というのは、テレビのニュースで切り取られたものだけではない。
我々の普段の生活の延長にだって、それは確かに存在している。
少し直接的なことを言えば、
どこかの国同士が世界のどこかで行なった戦争の結果、
勝者が獲得した資源や経済的果実が、
巡り巡って我々の生活を潤すなんてことも普通にあることだ。
---------- キリトリ -----------
夜勤明け、牛丼を食べながら考えた。
たとえばこのタマネギを加工するために、
いわゆる「日雇い派遣」の人が
全身をタマネギ臭くしながら
いわゆる「格差社会」のいわゆる「底辺」の方で労働している。
(朝日しんぶんの先日のレポより)
この話は戦争と直接関係無いが、でも同じことだ。
自分の「リアル」(主人公はよく使う言葉)な生活は、
実は社会のもう一方の「リアル」と確かに繋がっている。
主人公のセックスは「繋がる」と表現される。
現実なのか非現実なのか不明瞭な空間での繋がる行為、
それは我々の生活そのものなのかも知れない。
そういう意味ではあの性描写も結構意味あるのか?
---------- キリトリ -----------
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現実と非現実の境界を見失わせてくれる不思議な小説でした。
ありがとうございます。
作者のほかの作品も、タイトル見る限りでは似たような方向性なんでしょうか。少し読んでみたい気もします。