デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

グッドマンのメモリーズ・オブ・ユー

2007-11-25 08:07:10 | Weblog
 五里霧中のまま始めたアドリブ帖も本稿が記念すべき100稿目に当たる。思い付くまま気の向くまま、正にアドリブ展開ゆえ、読み返すと赤面する内容で忸怩たる思いだが、幸い心優しい数多くの読者に支えられ回を重ねることができた。ありがたい限りだ。たかだか2年足らずで思い出というには烏滸がましいが、寄せられた数々のコメントは、一つ一つ心地良く思い出を刻んでいる。

 走馬灯のように駆け巡る思い出をピアニストのユービー・ブレイクは、「メモリーズ・オブ・ユー」という美しい旋律に変えた。ブレイク自身はストライド・スタイルで演奏しているが、ベニー・グッドマンが取り上げたことで広く知られた曲で、映画「ベニー・グッドマン物語」でも効果的に使われている。映画自体は先にヒットした「グレン・ミラー物語」とスタッフが同じこともあり、二番煎じを免れないが、グッドマンの名ナンバーを贅沢に鏤めたことで、音楽映画として十分に楽しめるものであった。

 ベルリン・フィルの第1クラリネット奏者を務めたカール・ライスターが、クラリネットは「秋の音色」だと言っている。「赤、オレンジ、黄色と移り変わる紅葉のような色彩感があり、そこからイメージをふくらます」のだと。柔らかいグッドマンの音色もまた色彩感豊かなもので、紅葉の中でも一際輝きを持つ紅の美しさがある。ビリー・ホリデイの初録音への参加、クラシックの殿堂、カーネギーホールで開いた初めてのジャズコンサートの成功等、スイング時代の王座に君臨したグッドマンの「メモリーズ・オブ・ユー」は、ジャズ全盛期の多くの思い出を語りかけているようだ。

 ここらでコーヒーブレイク、ユービー・ブレイクはジャズ界の最長寿として記録されている。享年100歳、この歳であればめでたいと言うべきだろう。毎週日曜日に欠かさず更新を続けためでたい100稿目をかみしめつつ、読者に感謝する日でもある。
コメント (72)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モーター・シティ・シーン

2007-11-18 08:23:09 | Weblog
 大ヒットした映画「大空港」の原作者で知られるアーサー・ヘイリーが、30年以上前に書いた小説に「自動車」がある。モーター・シティと呼ばれたデトロイトを舞台にした作品で、高度成長期の自動車産業の内幕を描いていた。業界のトップであり続けるための売れる車の研究開発、ライバル他社を出し抜く性能向上、それに伴うスパイの暗躍等、緻密な取材による内容はフィクションとは思えないほどリアルだった。

 ペッパー・アダムスとドナルド・バードが、ニューヨークでレギュラーを組んでいた頃、アダムスがバードに切り出す。「俺たちデトロイト出身者だけでアルバムを作ってみないか」、「いいねぇ、トミー・フラナガンとポール・チェンバースはデトロイトだぜ」、「ケニー・バレルも同郷だな、あとはドラムか」、「ルイ・ヘイズがいるけれど、レコード会社の契約が違うな」、「変名という手もあるぜ」、「電話してみようか・・・ヘイ、ルイス、一緒にやらないか」、「変名はヘイ・ルイスで決まりだな」 本当のような嘘の話である。

 こうしてデトロイト出身者だけで、「モーター・シティ・シーン」ができ上がった。オープニングはバードのワンホーンで「スターダスト」、次のアダムス作のブルースが素晴らしい内容だ。バリトンというと、どうしても都会的なジェリー・マリガンの名が浮かび、アダムスは後塵を拝した感があるが、ブルースナンバーの粘りつく音は土の温もりのような自然の優しさがある。デトロイトはR&Bのレーベル、モータウン発祥の地でもあった。ブルース感覚を体で感じ取っていたのかもしれない。

 先日発表されたトヨタ自動車の中間決算は13兆円で、2位のゼネラル・モーターズを大きく引き離している。品質への評価の高いトヨタ車は世界的に売れ、低燃費のハイブリッド車も好調のようだ。小説が書かれた30年前には日本車の台頭など予想だにしなかっただろう。
コメント (25)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジョニー・スミスのウォーク・ドント・ランを聴いてみよう

2007-11-11 07:13:46 | Weblog
 最近、エレキギターの売れ行きが好調だという。モズライトのベンチャーズ・モデルや、100万円を超えるヴィンテージ物が人気で、購入者は一億総エレキブームを迎えた60年代、中高生だった団塊世代のようだ。当時は手の届かなかった憧れの人気モデルを買う余裕と、自由な時間を持てる年齢になったのだろう。

 オリジナルよりカバー曲がヒットする例は多い。「ウォーク・ドント・ラン」もその一つで、ミスター・ギターの愛称で親しまれたカントリー・ギターの重鎮、チェット・アトキンスがカバーし、次いでベンチャーズがカバーしたことにより大ヒットしている。ほとんどの方は、ベンチャーズの曲と思われているようだが、オリジナルはジョニー・スミスである。エレキの洗礼を受けた小生も作者を知ったのは随分後のことであり、初めてスミスのオリジナルを聴いたときに、「あっ、ベンチャーズの曲だ」と言い、周りのジャズ猛者にゲラゲラ笑われた。「キャラヴァン」もベンチャーズの曲だと信じていた頃もあったのだから無理もない話である。

 ジョニー・スミスはスタン・ゲッツと共演した「ヴァーモントの月」でも知られるギタリストだ。ウェス・モンゴメリーのような派手さはなく、どちらかというと静のギターで、華やかさはないが、紡ぎだされる音は格別に美しい。楽器により音色は大きく変わると思われるが、ギターに詳しい方にお聞きしたところ、スミスの愛器はギブソンで、カントリー&ウェスタン出身の人が好むギターだという。名手なら誰でもが同じように当然、個人向けカスタム・モデルである。ギターを知り尽くした者が納得できる音を出すためには、最大限に手に合った楽器が必要であり、それが洗練されたギター・ハーモニーを生み出し、深みのある弦の魔術を聴かせてくれるのだろう。

 当地にもいわゆるオジサンバンドがあり、若い頃のように指は動かないけれど、テケテケテケテケ・・・と憧れのギターを手にし、満足そうな笑顔があふれる。青春からの道のりは時に回り道だったかも知れない。回り道でも余裕をもつ方が確実であり、時には好い運をつかむことがあるという。「急がば廻れ」である。
コメント (18)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ショーターが描いた「SUPER NOVA」という未来図

2007-11-04 07:39:58 | Weblog
 高校生の時、nova を辞書で引いたことがある。当時の英語の授業というと辞書が欠かせない読解力中心で、アメリカ人でさえ知らない単語を知っていても、英会話ができない学生が多い。外資企業が増えるにつれ語学力が要求され、英会話スクールが繁盛しているようだ。国際化社会に適応できる会話力の教育をおざなりにしてきた歪現象といえる。

 Nova は天文用語のようで「新星」とある。これに Super が付くと、超新星の意味なのだろう。雲の合間に女性の顔、奇妙なジャケットはウェイン・ショーターの「Super Nova」だ。69年の作品で、オープニングのタイトル曲を初めて聴いたときは、レコード・プレイヤーの回転数を間違えたかと思った。それほどにスピードがあり、ソプラノ・サックスという楽器をショーターが極めた凄まじい音洪水だ。それまでのオカルティズムに凝り固まった作品とは違い、マイルスのブラックホール的呪縛から完全に解き放され、ショーターが新星として輝いた瞬間である。

 官房長から防衛局長、そして官僚トップの事務次官に就任したエリートが、自衛隊員倫理規定に反して接待を受け、国会を賑わしていた。ショーターもまたジャズ界を賑わしたエリートの一人である。ジャズ・メッセンジャーからマイルス・グループ、そしてウェザー・リポート、常に最前線を支えた存在だ。「Super Nova」は、ウェザー・リポートの予兆的な作品であり、同じ69年のマイルス「Bitches Brew」と共に、その後のジャズの方向性を打ち出した70年代ジャズシーンの未来図ともいえるだろう。エリートとミライズの密接な関係がここにある。(笑)

 最近、nova を辞書で引いたら「National Organization for Victims Assistance.」とあり、「犠牲者援助のための全国組織」の略語としても使われているようだ。一方、経営破綻した「駅前留学」のキャッチコピーで知られる全国組織の英会話スクール「NOVA」は、講師の休みがないことから、「NO VAcation」と皮肉られるらしい。全国に広がった犠牲者の援助が待たれる。
コメント (23)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする