デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

バック・クレイトンを暮れに聴く

2007-12-30 08:06:17 | Weblog
 今年も最終日曜日を迎え、本稿が今年の最終アップになりました。毎週日曜日に欠かさず続けることができたのは、多くのアクセス数と、毎日お寄せ頂くコメントのおかげです。回を重ねる毎に賑わうコメント欄は、宛ら週刊ジャズ・バトル誌の様相を呈し、忌憚のない皆様のご意見は大変貴重なものであり学ぶものが多々ありました。多様な聴き方、捉え方はジャズの面白さと奥深さを教えてくれるものです。

 語呂がいいタイトルの暮れにクレイトンですが、心優しい読者の皆様は、高尚なジャズ・ギャグと理解していただけるものと思います。(笑)今ではあらゆる音源がCD化されておりますが、レコード時代はレーベルによっては全く再発されずオリジナル盤も入手困難でした。写真は Swingville の数枚の音源からピックアップし、日本で編集されたアルバムです。プレスティッジの傍系レーベルのスイングビルは、コールマン・ホーキンスを初めバック・クレイトン、バディ・テイト、ジョー・ニューマン等の中間派の作品がカタログを埋めていたこともあり、モダン・ジャズ期には完全な形の再発が見送られたのでしょう。

 このアルバムには、カウント・ベイシー楽団全盛時代の40年代に在籍したクレイトンとテイトの61年の選りすぐりのセッションが収められております。60年代、中間派のビッグネイムが往時の活力を失なうケースが多いなか、フロントの2人とチャールス・トンプソン等のリズム・セクションは凋落の翳りがなく音に伸びがあり生き生きとしております。溌溂としたプレイを聴くと来年のエネルギーが湧き出てきます。歳相応のスタイルは自然ですが、ことジャズは年甲斐もなく色気を放つほうが魅力ありますね。そんな魅力を失いたくはないものです。

 明けても暮れてもジャズ三昧の日々は来年も続くでしょう。クレイトンのように歳を重ねる毎に若く新鮮な記事を心がけますので来年も引き続きご覧頂ければ幸いです。コメントをお寄せ頂いた皆様、そして毎週ご覧頂いた皆様、ありがとうございました。

九拝
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デューク・ピアソンのクリスマス・プレゼント

2007-12-23 07:24:53 | Weblog
 競売大手クリスティーズが開いたオークションで、ノーマン・ロックウェルが描いた「サンタクロースの旅行計画」が2億数千万円で落札された。ロックウェルは、米サタデー・イブニング・ポスト紙の表紙を長きに亘って描いた画家で作品の価値は高い。落札された作品も39年の同紙を飾ったもので、サンタが世界地図を見ている場面が描かれている。サンタのプレゼントを楽しみにしてる世界中の子どもたちに夢を与える絵だ。

 こちらのデューク・ピアソンの「メリー・オール・ソウル」というサンタは、69年に録音されたジャズの楽しさを贈ってくれるアルバムである。「ジングル・ベル」を初めお馴染みのクリスマス・ソング集なのだが、おどけたジャケットとは違い1曲ごと丁寧に演奏されたものだ。曲こそこの時期よく耳にするポピュラーなものだが、アドリブラインの膨らみは知的センスに溢れ、時にユーモラスなフレーズも飛び出し、「きよしこの夜」はゴスペル・タッチで敬虔な祈りを表現している。派手なクリスマスパーティより、家族で過ごす聖夜に相応しい作品である。

 ピアソンのタッチは歯切れが良く、ブルージーで優れた資質の持ち主なのだが人気とは無縁のピアニストであった。そのスタイルがファンキー時代には知的過ぎたのかもしれないし、同じタイプのソニー・クラークの前で霞んでしまったとも思えるが、知的なセンスを買われブルーノートのA&Rマンに就任している。シーンが目まぐるしく変化する70年前後は名門ブルーノートですらレコードのセールは芳しくなかった。硬派なブルーノートが一般受けするクリスマス・アルバムを作った背景にはプロデューサーとしてのピアソンの思惑があったのかもしれない。

 競売にかけられた「サンタクロースの旅行計画」の所有者は俳優の津川雅彦氏で、氏が経営するおもちゃ店「グランパパ」の破産危機を免れるために出品したようだ。落札額は意に沿わぬものだったらしいが、共同経営に手を差し延べた企業があるという。おもちゃへの夢が途絶えないよう、これもサンタの旅行計画のひとつだったのだろう。
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あなたと夜とポール・スミスと

2007-12-16 08:43:09 | Weblog
 この時期、酒屋の店頭に煌びやかなパッケージに包まれたシャンパンが並ぶ。クリスマス用だという。華やいだシュチエーションに発泡ワインは欠かせないようで、映画の小道具としても効果的な演出をしている。アメリカ的なサクセス・ストーリー「ショーガール」、ジュリア・ロバーツが娼婦に扮した「プリティ・ウーマン」、そして永遠の名作「カサブランカ」でも愛を語る透明に近い黄金色が輝いていた。

 シャンパングラスを持つ紅いマニュキュアの指先が美しいジャケットは、ポール・スミスの「Cool & Sparkling」で、54年当時には珍しい室内楽風の落ち着いたアンサンブルが楽しめる。スミスというと馴染みの薄い名前だが、あのエラ・フィッツジェラルドの名盤「イン・ベルリン」で、舌を噛むスピードのスキャットに、それ以上の速さでバッキングするピアニストだ。地味ながらテクニックは抜群で、唄伴にも定評がありパット・ブーンやサミー・デイヴィスが来日したときに伴奏者として指名されたほどである。

 フルートやクラリネットの柔らかい音色を生かしたスミスの室内楽風のジャズは、リキッド・サウンドと呼ばれた。淀みなく流れるせゝらぎの透明感と、タイトルにも使われているスパークリングワインのような喉越しの爽やかさによるものだろう。54年というとバードバップ全盛期である。個々のインプロヴァイズを重視したホットなジャズが若者に受け入れられる一方、巧みな編曲を施したクールなジャズも人気があった。近年益々多様化するジャズだが、この当時からジャズに求めらるものは動と静なのかもしれない。

 このアルバムに収められている「あなたと夜と音楽と」は、タイトルのイメージを活かしたアレンジで一際気持ちが良い。クリスマスに「あなた」と過ごす夜は、音楽を欠かせないだろうし、シャンパンも必要だろう。ドン・ペリニヨンを開けて、ジャケットのような美しい「あなた」に注いでみよう。決め台詞はこれだろうか。「君の瞳に乾杯!」
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ジュリー・ロンドンのカレンダーを捲ってみよう

2007-12-09 07:16:38 | Weblog
 12月に入ると例年の如くあちこちから来年のカレンダーを頂く。大きく日付が並んだ実用的なものから、簡単なメモ書きができるもの、写真や絵をちりばめたもの様々だ。刷り立てのインクの匂いが残る新しいカレンダーは、一様に一足早い新年を感じさせる。一月の間、毎日のように見るものなので、やはり美しい絵や写真が付いているほうが壁を賑やかにする。それも魅力的な女性で肌の露出が大きいほど男性には好まれるようだ。

 そう、ここで登場するのはセクシーな水着姿で殿方を悩殺するジュリー・ロンドンのカレンダー・ガールである。写真が6枚しかないではないか、ご心配ありません、ジャケット裏にも妖艶なジュリーが微笑んでおります。(笑)1月から順番に各月にちなんだ曲を並べ、しかも曲名に月名が入る凝りようだ。月名の曲というと「4月の思い出」や「9月の雨」しか思い付かないが、大半はこのアルバムのために書かれたオリジナルという徹底ぶりだ。しかも13曲目に「13月」という書き下ろしまで加える手の込んだもので、1年間を長く楽しめるアルバムである。

 ジュリーはテレビドラマ「緊急指令レスキュー」の婦長デキシー・マッコール役でお馴染みの女優なのだが、歌手としても32枚のアルバムを残している。大胆なフェイクをするジャズ歌手ではないが、スモーキーなセクシーヴォイスはジャズフィーリング溢れるもので、豊かでない声量が逆にその端正で肉感的な容姿と重なりジャジーな雰囲気を醸し出す。紙に落としたインクがゆっくりと周辺に広がるようようにジュリーの品のあるフェロモンは、亡くなった今も尚ファンをじわじわと増やしている。

 冒頭で例年という言葉を使ったが、本田宗一郎氏はこの「例年」という言葉を嫌ったそうだ。例年というものはなく、毎年新しい年なのだから、毎年新しい生き方を考え、新しい工夫をしなくてはならない、という日本を代表する経営者らしい考えに基づくものだ。来年のカレンダーを捲り、新しい日付に新たな夢を描いてみたくなる。
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アート・ペッパーがオホーツク海の波に乗った日

2007-12-02 08:31:55 | Weblog
 当地から車で1時間ほどのオホーツク海に面する網走市は、高倉健主演の映画「網走番外地」で全国に名前が知れ渡った。番外地とは刑務所が所在する地区で、住居表示では無番地になっている。明治の脱獄王西川寅吉や、昭和の脱獄王白鳥由栄が収監されたこともあり、凶悪犯が多いというイメージから、映画の舞台になったのだろう。冬は流氷砕氷船「おーろら」が人気の観光地でもある。

 その網走のステージにアート・ペッパーが立ったのは26年前、81年の11月22日だった。オホーツク海から冷たい風が吹く寒い日だったが、会場はエアコンが必要なほどの熱気に包まれている。僅か数メートル前の舞台にペッパーが現れ、繰り返し聴いたレコードと同じ音を出しているのだ。興奮せずにはいられない。一音残らず聴き逃すまいと身を乗り出すが、美しいフレーズは心地よく身体を通り抜ける。一回性のライブとはそんなもので、内容が素晴らしいほど、そして憧れのプレイヤーなら尚更のこと、大きなオーラの中では記憶すら失ってしまうのだろう。

 今年、その日のライブが完全な形で陽の目をみた。レコードによる追体験は記憶を蘇らせ、冷静に鑑賞できるものだ。モード奏法を取り入れた「ランドスケープ」で幕を開け、お得意の「ベサメ・ムーチョ」に続く。そしてペッパーの波乱の人生そのものを語りかける「ストレイト・ライフ」、初リーダー作「サーフ・ライド」に収録されているお馴染みのメロディだ。かつての荒波に一気に乗るサーフボードのようなスピードはないが、美しいことこの上ない。質の高いライブを自身の歓声や拍手と共に何度でも味わえるアルバムに感慨一入である。

 浮き沈みを知らないジャズメンはいないが、麻薬による収監、ブランク、ペッパーの辿った人生の山坂はたとえようがない。ジャケットの背景は阿寒国立公園に聳え立つ休火山の雄阿寒岳である。休火山は休止期間にエネルギーを蓄えるという。麻薬患者治療センター「シナノン」での療養後の精力的な活動は瞠目するものがある。ペッパーもまた活動休止中にエネルギーを蓄えたのだろう。
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