コタツ評論

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昔は、落ちぶれた外国人娼婦のようだった

2014-08-03 23:34:00 | 一服所
ひさしぶりに出かけた六本木で嬉しい「一服所」をみつけました。六本木の交差点から、ミッドタウン方向へ徒歩7分くらいですか。ミッドタウンのちょうど対面のタバコ店の2階です。国民の喫煙率が20%になったそうで、ますます肩身の狭いスモーカーが、クーラー風に吹かれながら、換気のよい清潔な室内で人目を気にせず、深々とタバコが吸えます。JTのアンテナショップなどではなく、まったくの個人経営だそうで、お店の人に尋ねてみると、今年4月の開店、「喫煙のついでに買っていただければ」と設置したそう。買わずに2階の喫煙所を利用してもちろんかまわない。夜10時まで開けているそうなので、どうせ一服するなら、炎天に晒される街角のスモーキング・スペースより断然お勧めです。

六本木については、以前に当ブログで書いたことがありました。あのどこか昏く閑散とした趣きは失われ、ずいぶん明るく変わりました。2階の喫煙所の窓からミッドタウンに出入りする人々を眺めながら、大学の先輩の「六本木ダニエル氏」のことを思いだしました。ダニエルという渾名が肯ける、イタリアの少年のように小柄ながら、黒目がちの大きな瞳と長い睫毛が印象的な、いわゆる濃い顔立ちで、「六本木のことなら隅から隅まで知り尽くしている」という評判の人でした。とても無口で後輩には声をかけにくい人でしたが、酒を飲んで喋り出すとこれが訥々とした青森弁。それがかえってフランス語のようにも聞こえ、我々後輩は、「きっとすごい遊び人なんだろうな」と尊敬していたものです。

あるとき、意を決して、「六本木のことを教えて下さいよ」と尋ねたら、「へっ?」と丸い目をさらに丸くしました。なんのことはない。先輩たちにからかわれていたのでした。「六本木ダニエル氏」が、「六本木を隅から隅まで知り尽くしている」のは当たり前のことで、2年ほど、アルバイトで六本木界隈の新聞配達をしていたのでした。真相を知ってみると、青森の田舎者のズーズー弁としか思えなくなったのですから、現金なものです。

あれから幾星霜、バブル景気が去り、六本木ヒルズが建ち、ミッドタウンがそびえる六本木には、もう朝夕の新聞の配達を待つような住宅やアパートはなくなったようです。その頃は、六本木交差点の誠志堂書店や喫茶アマンドが待ち合わせの目印でした。アマンドは生とカスタード両方のクリームを一緒に楽しめるドーナツ形のシュークリームが名物でした。ビジネス街としては二流三流の場末でしたが、いまでは再開発されて大規模ビルのランドマークだらけです。「六本木ダニエル氏」も故郷の青森で公務員になり、無事定年を迎えた後は、外郭団体の嘱託職員になっているそうです。

六本木純情派 荻野目洋子 2011


(敬称略)



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