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人の懐を勘定してみる

2013-11-23 04:07:00 | 経済
「なんと1億4千万円!」と巨額に驚く声もあるが、そうだろうかと首を捻りながら、ちょっと計算してみました。

テレ朝プロデューサー、1億4千万着服・解雇
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20131120-OYT1T00961.htm?from=main5

1億4千万円÷10年間÷12か月=約116万円

平均すると、月116万円の着服です。下請け会社5社程度を使っていたとして、一社あたり23万円くらい。それも一度の請求ではなく、数回に分散して請求させるのが普通ですから、一回当たりの着服金額は10万円を切るかもしれません。

「高額な服飾品」「旅行」など使途を供述しているようですが、それはつまり、家を建てたり、車を買うことはできなかったことを物語っているわけです。とはいえ、高級ブランドファッションを買い込み、海外へ家族旅行でもすれば、100万円などすぐに消えるでしょう。

TV局社員の高給は有名ですから、45歳のプロデューサーなら年収1000万円超のはず、その恵まれた待遇を棒に振るようなことをどうして? 誰しも抱くそんな疑問に答えて、着服横領なしの場合も計算してみましょう。

給与額面1200万円として、なんだかんだ天引かれて手取りは多めに見積もって900万円強くらいですか。その手取りから、住宅ローンや車の維持費、子どもの教育費など毎月の支払いのあれこれを引くと、手元に残るのは700、800万円ほどではないでしょうか。

月に使える金はおよそ60~70万円くらいです。奥さんが多少派手好きで、すき焼きなら牛肉に7、8千円、ワインがどうの、お友だちの誕生会にお呼ばれしているのと、2か月に1度くらい高めの衣服や宝石でもねだられたら、そうそう貯金できるような月収ではありません。

また、TV局のプロデューサーなら、「仕事のつきあい」で飲み食いの機会は当然あります。銀座・赤坂・六本木、一人で入っても万札で釣りが来る店などありません。5度はたかっても、1度くらいは払わなくちゃならない。部下に奢るときもあるでしょう。

ほかにも、こういう御仁なら、たいてい女と博打が得意な人が多いので、そっちも万や十万円単位で金が出ていくでしょう。もう金は出ていく一方、まわりは手を出すばかり。給料だけでは赤字です。どこかで何かで金をつくるほかありません。

月100万円程度の着服では、じつは「資金繰り」は苦しかったのではないか。露見して、これで「自転車操業」から抜けられると、案外、ほっとしているかもしれません。いったん上げた生活レベルは、じたんだ踏んでも下げられない。その過半が見栄消費によって構成されているからです。

TV朝日のアナウンサーが、「視聴者の信頼を裏切る結果となりお詫び申し上げます」と頭を下げていたが、会社の金を着服横領したのが、視聴者の信頼とどう関係するのか、よくわかりませんでした。

TV業界について多少知っていますが、昔からこの手の話はよく聞きました。というか、どの業界のどんな会社でもそれなりの地位の人には、大なり小なりこの手の話はつきまとうものです。また、多少なりともそれに手を染める人が多いのも事実です。

私利私欲だけでなく、会社のため、派閥のため、仕事のためという名分の下に、「裏金づくり」という公然たる着服も珍しくありません。「氷山の一角」とよくいわれますが、じつは金平糖のように角だらけ、たいてい見て見ぬ振りではないかと思えます。

「ならば俺も」となるのは人情ですが、このプロデューサー氏はやり方がまずかった。もっと構造的に着服している場合が、一般的ではないでしょうか。たとえば、パクッた金を上司や同僚にも回すのです。これなら、共犯なので露見しにくいものです。

その場合は、1億4千万円なんて端金では済まないが、上司への付け届けが効いて役員にでもなれば、もっとド~ンと抜ける機会はいくらでもあるわけです。間違って社長にでもなれば、新社屋建築の際には建設会社からのリベートなどが期待できます。



とまあ、ここまでが前置き。ここからが本論です。

このプロデューサー氏はたぶんやり手です。強気な態度と弱気な照れ笑いが同居する、ちょっととらえどころのない感じがあります。人の心の機微がわかり、何気ないひと言を漏らし、それが周囲の胸を打ったりします。

露見に怯えて会社にへばりつきますから、仕事は大車輪です。破滅の際を歩いていますから、多少の仕事の責任やリスクを負うのはさほど気にしません。そのくせ、気づかれてやしないかと他人の表情ばかり盗み見ていますから、当然、何を考えているのか観察には長けけいます。

快活を装って懊悩を秘し、全知全能を傾けて日々を過ごしていますが、それに満足感を覚えたり、誇ったりは爪の先ほどもありません。善悪や正邪を越えていますから、日常の思索は人生の意味や良心の有無にまで及ばざるを得ません。

小さな嘘と言い訳探しから、宗教的探求に近いところまで、その思考の幅は広いのですから、人には謙虚になり、ときに深く重い言葉が自然に口をついて出ます。はじめからそうなのではなく、悪事を働き続けることで、彼はそうなったのです。正気を失って悪事に走り、悪事を通してぎりぎりの正気を保っているのです。

そういう人物は、一種の妖気に包まれていて、けっこう魅力的に見えるものです。惜しむらくは、香川照之の大和田常務には、陽気で人情味のある悪人の魅力と妖気が不足していました。

じつは半沢直樹より、大和田常務の方が魅力的だし、たいていの男は密かに憧れているものです。また、会社や社会に貢献しているのも、じつは半沢直樹より大和田常務であることを知っています。大和田常務のような、「決断と実行」の人が上司だったら、どれほど業績も上向くかと思わぬ人はいないでしょう。

そしてプロデューサー氏のような、どこにもいる小和田たちは、溜め込んでいる莫大な会社の内部留保を、悪事を通じてとはいえ、せっせと社会に還元・還流させているのです。資本主義は金が滞留することを許しません。

年間1000万円×100万人=10兆円!

あるいはこの数倍以上の金額が着服横領されているかもしれません。こうした無税の巨額資金がどれほど日本経済を潤し、日本資本主義を活性化させているか、それを思えば、口惜しくて夜も寝られません。あっ、もう朝だ。



フライ級からからはじめてスーパー・ウェルター級まで6階級を制覇した、フィリピンの英雄マニー・パッキャオです。ボクシング興行史上、最高額のギャラーを稼ぎますが、フィリッピンにジムと自宅を持ち、寄付も盛んに行ってマネーを還元していますから、マネー・パッキャオと皮肉られたことはありません。

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