・「歴史は繰り返す」とよく言われる。同時に、機械の失敗の例からも分かるように「失敗も繰り返す」と言える。
・筆者の経験から言うと、もともと失敗を活かせない人は何度やっても活かせない。なぜなら、失敗を活かせない人というのは、月曜日のカギをかけ忘れた失敗と、水曜日のガス栓を閉め忘れた失敗が似ているとは決して思わないからである。
・失敗学のの奥義は、「人のふり見て我がふり直せ」である。
・この二つの事故(パロマの湯沸かし器&JR東日本中央線の大月駅で置いた列車衝突)に共通なシナリオは「安全装置の解除」である。いくら効率的な対策があっても、オペレーターによって簡単に無効にされては元も子もない。
・若人は実験では死なない。バイクか酒かウツで身を亡ぼす。この分析の結果、学生の失敗は大別すると三種類であることが分かる。これらは個人の問題であると教員は注意喚起するだけであるが、大事故に至る前に回避できないだろうか。
・三つのシナリオ(失敗データベースから)
1)人間的な原因(いわゆるヒューマンエラー)467件(41%)
1 不注意 376件(33%)
2 手順の不遵守 91件(8%)
2)エンジニア個人の設計能力不良 1,064件(94%)
3 無知 301件(26%)
4 誤判断 182件(16%)
5 調査・検討の不足 443件(39%)
6 環境変化の対応不良 91件(8%)
7 未知 47件(4%)
3)エンジニア個人が所属する組織の問題 825件(73%)
8 企画不良 58件(5%)
9 価値観不良 421件(37%)
10 組織運営不良 346件(30件)
・未知の事故はほんど起きない
・「組織の失敗シナリオ」
① コミュニケーション不足
② 安全装置の解除
③ 企画変更の不作為 橋やダム、工場、製品などがそもそも不要だったのに、責任者がそのときの雰囲気に流されて建設や製造を中止できなかったというもの
④ 倫理問題 マンションやビジネスホテルの構造計算書の偽造問題
⑤ 企画不良
・上司に同意を求めてから動くことに慣れてくると、何でも上にあげないと不安になる。自分の意志で能動的に動くのではなく、他人の意志を受動的に同意するのに慣れている人は、例えば誰が考えても今すぐ消火器で火を消すべきなのに、それができなくなってしまうのである。ちなみに、現在の雪印は、事件の反省を踏まえて顧客から同じようなクレームが2件報告されたら、自動的に回収作業を始めるそうである(現場がもっと早くに製品回収のアクションを起こしていれば雪印製品全体のパッシングはなかったであろう。
・失敗事例を整理
① 「誰かがやると思っていた」(他人依存)(同意体質)
② 「自分はその道のプロと過信していた」(自信過剰)(ワンマン)
③ 「現状がわからずに遠隔操作した」(情報遅延)(誤判断)
④ 「伝えなければならない人が多かった」(齟齬多発)
⑤ 「効率的に仕事したつもりが干渉していた」(干渉発生)
・責任者処罰は悪循環
失敗を回避しようとするとき、こうした「注意喚起」だけでなく「責任者処罰」にエネルギーを使うのも好ましくない。
・内閣府の委員会では、石綿(アスベスト)の対策を延々と聞かされたが、筆者はそれに対して疑問を感じていた。なぜなら、石綿が危険な物質であることは100年前から分かっており、何をいまさらと思ったからである。
・第三構成要素としての自動失敗回避装置
1)「安全弁」
2)「フェーズ」(過剰電流防止)
3)「セーフティ・ネット」
(サーカスの空中ブランコの下に張ってある網のことを想像してもらえればよい)
4)「インターロック」
5)「フールプルーフ」
6)「ポカヨケ」
(キーとキーホールのように、工具にあった穴を板にあけておいて、使い終わったらそこに入れさせて、すげての工具が揃っていることを確認させる)
・失敗には対策が必要であり、それも失敗が起きる前に作動する第三構成要素をあらかじめ構造の中に埋め込んでおくことがより大切になる。
・大事故が発生してしまった場合、“失敗の責任者”と“その失敗を立て直す人”を別にするように組織をセットしておいた方がよい。
・『組織行動の「まずい!」学』樋口晴彦著
・(三河島駅で起きた列車衝突事故後)新しい第三構成要素として、運転手が運転台から発信すると半径3km以内の列車をすべて止める防護無線や、信号を無視した場合、自動的に急停止させるATSなどの失敗自動回避装置が常磐線から完備されていった。
・二重事故を防いだということに関していえば、2005年に起きたJR宝塚線(福知山線)の脱線事故は成功例である。
たまた脱線車両が線路を短絡させて対応列車の信号を赤に変え、さらに踏切で待っていた近所の人が、踏切の非常用ボタンを押してパトライトを回した。もしこれらの信号に気づかず、対抗列車の特急列車が脱線現場に突撃したら、さらに100名以上の人が亡くなっていたかもしれない。
・二重事故を防ぐには、最初の事故が起きたら、まずは周りの機械をすべて停止させ、再始動は最初の事故の復旧作業者だけがすべきであろう。
・トヨタ自動車の工場では、作業員は鍵と錠前の入ったポシェットをズボンのベルトにかけている。停止した生産装置の中に入って復旧作業をするときは、再起動のスイッチのカバーに第三構成要素である自分の錠前をかけるのである。復旧作業が終わったら、自分のカギで錠前を外す。そうすれば、自分以外の他人が勝手に再起動することを防げる。
・今の日本でも、とにかく全員を正社員として雇用して、まずは一体感を持って作業ずることが重要であろう。
・2006年度の産業総論の話
立花隆さんに新聞社の将来について講演してもらった。
筆者は、理系の学生は大手新聞社にもっと多く就職すべきとずっと言っていた。給料がよいのもひとつの理由だが、もうひとつ、理系出身者があまりにも少なく、科学部でさえ工学部出身者は視野が狭いというステレオタイプな先入観で記事を書いていて、新聞を読むと頭に来ていたからである。
しかし、立花隆さんは、これから新聞社に就職するのは問題だと言われた。筆者の発案である設計解の否定である。学生に「新聞を取っている人は?」と聞いて手をあげさせたらその理由が分かった。なぜなら、それが10%にも満たなかったからである。今や30歳以下の若者はインターネットでニュースを知る。情報を入手してそれを分析して知識を得るという要求機能は同じでも設計解は変化したのである。
感想;
失敗を過去から学ぶ。
そして同じ過ちを防ぐ。
とても大切ですが、日本の軍部や政治はそれを行わずに、同じ過ちを繰り返しているように思います。
失敗から学ぶ(本の紹介&感想)
・筆者の経験から言うと、もともと失敗を活かせない人は何度やっても活かせない。なぜなら、失敗を活かせない人というのは、月曜日のカギをかけ忘れた失敗と、水曜日のガス栓を閉め忘れた失敗が似ているとは決して思わないからである。
・失敗学のの奥義は、「人のふり見て我がふり直せ」である。
・この二つの事故(パロマの湯沸かし器&JR東日本中央線の大月駅で置いた列車衝突)に共通なシナリオは「安全装置の解除」である。いくら効率的な対策があっても、オペレーターによって簡単に無効にされては元も子もない。
・若人は実験では死なない。バイクか酒かウツで身を亡ぼす。この分析の結果、学生の失敗は大別すると三種類であることが分かる。これらは個人の問題であると教員は注意喚起するだけであるが、大事故に至る前に回避できないだろうか。
・三つのシナリオ(失敗データベースから)
1)人間的な原因(いわゆるヒューマンエラー)467件(41%)
1 不注意 376件(33%)
2 手順の不遵守 91件(8%)
2)エンジニア個人の設計能力不良 1,064件(94%)
3 無知 301件(26%)
4 誤判断 182件(16%)
5 調査・検討の不足 443件(39%)
6 環境変化の対応不良 91件(8%)
7 未知 47件(4%)
3)エンジニア個人が所属する組織の問題 825件(73%)
8 企画不良 58件(5%)
9 価値観不良 421件(37%)
10 組織運営不良 346件(30件)
・未知の事故はほんど起きない
・「組織の失敗シナリオ」
① コミュニケーション不足
② 安全装置の解除
③ 企画変更の不作為 橋やダム、工場、製品などがそもそも不要だったのに、責任者がそのときの雰囲気に流されて建設や製造を中止できなかったというもの
④ 倫理問題 マンションやビジネスホテルの構造計算書の偽造問題
⑤ 企画不良
・上司に同意を求めてから動くことに慣れてくると、何でも上にあげないと不安になる。自分の意志で能動的に動くのではなく、他人の意志を受動的に同意するのに慣れている人は、例えば誰が考えても今すぐ消火器で火を消すべきなのに、それができなくなってしまうのである。ちなみに、現在の雪印は、事件の反省を踏まえて顧客から同じようなクレームが2件報告されたら、自動的に回収作業を始めるそうである(現場がもっと早くに製品回収のアクションを起こしていれば雪印製品全体のパッシングはなかったであろう。
・失敗事例を整理
① 「誰かがやると思っていた」(他人依存)(同意体質)
② 「自分はその道のプロと過信していた」(自信過剰)(ワンマン)
③ 「現状がわからずに遠隔操作した」(情報遅延)(誤判断)
④ 「伝えなければならない人が多かった」(齟齬多発)
⑤ 「効率的に仕事したつもりが干渉していた」(干渉発生)
・責任者処罰は悪循環
失敗を回避しようとするとき、こうした「注意喚起」だけでなく「責任者処罰」にエネルギーを使うのも好ましくない。
・内閣府の委員会では、石綿(アスベスト)の対策を延々と聞かされたが、筆者はそれに対して疑問を感じていた。なぜなら、石綿が危険な物質であることは100年前から分かっており、何をいまさらと思ったからである。
・第三構成要素としての自動失敗回避装置
1)「安全弁」
2)「フェーズ」(過剰電流防止)
3)「セーフティ・ネット」
(サーカスの空中ブランコの下に張ってある網のことを想像してもらえればよい)
4)「インターロック」
5)「フールプルーフ」
6)「ポカヨケ」
(キーとキーホールのように、工具にあった穴を板にあけておいて、使い終わったらそこに入れさせて、すげての工具が揃っていることを確認させる)
・失敗には対策が必要であり、それも失敗が起きる前に作動する第三構成要素をあらかじめ構造の中に埋め込んでおくことがより大切になる。
・大事故が発生してしまった場合、“失敗の責任者”と“その失敗を立て直す人”を別にするように組織をセットしておいた方がよい。
・『組織行動の「まずい!」学』樋口晴彦著
・(三河島駅で起きた列車衝突事故後)新しい第三構成要素として、運転手が運転台から発信すると半径3km以内の列車をすべて止める防護無線や、信号を無視した場合、自動的に急停止させるATSなどの失敗自動回避装置が常磐線から完備されていった。
・二重事故を防いだということに関していえば、2005年に起きたJR宝塚線(福知山線)の脱線事故は成功例である。
たまた脱線車両が線路を短絡させて対応列車の信号を赤に変え、さらに踏切で待っていた近所の人が、踏切の非常用ボタンを押してパトライトを回した。もしこれらの信号に気づかず、対抗列車の特急列車が脱線現場に突撃したら、さらに100名以上の人が亡くなっていたかもしれない。
・二重事故を防ぐには、最初の事故が起きたら、まずは周りの機械をすべて停止させ、再始動は最初の事故の復旧作業者だけがすべきであろう。
・トヨタ自動車の工場では、作業員は鍵と錠前の入ったポシェットをズボンのベルトにかけている。停止した生産装置の中に入って復旧作業をするときは、再起動のスイッチのカバーに第三構成要素である自分の錠前をかけるのである。復旧作業が終わったら、自分のカギで錠前を外す。そうすれば、自分以外の他人が勝手に再起動することを防げる。
・今の日本でも、とにかく全員を正社員として雇用して、まずは一体感を持って作業ずることが重要であろう。
・2006年度の産業総論の話
立花隆さんに新聞社の将来について講演してもらった。
筆者は、理系の学生は大手新聞社にもっと多く就職すべきとずっと言っていた。給料がよいのもひとつの理由だが、もうひとつ、理系出身者があまりにも少なく、科学部でさえ工学部出身者は視野が狭いというステレオタイプな先入観で記事を書いていて、新聞を読むと頭に来ていたからである。
しかし、立花隆さんは、これから新聞社に就職するのは問題だと言われた。筆者の発案である設計解の否定である。学生に「新聞を取っている人は?」と聞いて手をあげさせたらその理由が分かった。なぜなら、それが10%にも満たなかったからである。今や30歳以下の若者はインターネットでニュースを知る。情報を入手してそれを分析して知識を得るという要求機能は同じでも設計解は変化したのである。
感想;
失敗を過去から学ぶ。
そして同じ過ちを防ぐ。
とても大切ですが、日本の軍部や政治はそれを行わずに、同じ過ちを繰り返しているように思います。
失敗から学ぶ(本の紹介&感想)