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第9図の△5三歩に再び羽生九段の手が止まり、21分考慮後の指し手は▲5五香だった。
昨日の記事「その6」でも述べたように、△5三歩は▲5五香以下、手順に打ったばかりの5三の歩を取ることができる。
順当に指すなら、▲5五香△6三玉▲5三角成△7三玉▲7四金△同飛▲同歩△8四玉(H図)が想定されるが、(▲5三角成では先に▲7四金と打つ工夫もあるが、以下△同飛▲5三角成△7三玉▲7四歩△8四玉と結局H図に帰着する)
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図より▲7三歩成や▲6四馬など手段はいくつかあるが、後手に余されている(変化手順は省略させてください)。21分の考慮はH図以降を掘り下げたものだと思われるが、“苦慮”と言って良いだろう。
そこで羽生九段は▲5五香△6三玉に▲8五桂を放つ。
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「△8五同飛とこの桂を取ると、▲5三角成△7三玉に▲6四馬(的中図)があります。△6四同玉なら▲7四金で詰むので、△8三玉に▲7四馬から飛車を取ることができ、これは先手有望。しかし、▲8五桂には△5二金(I図)が冷静で先手の後続手がなさそう」(ABEMAの解説)
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解説の前半部分で「おお!」となったが、後半部分(I図)で消沈。……ところが!
ところが、飯島七段は△8五同飛!(約14分の考慮)
以下、▲5三角成△7三玉に▲6四馬の的中図を経て、△8三玉(5分の考慮、見落としか?)▲7四馬と希望通りの展開。
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ここで、△8二玉と引いたのが読みの入った一着。△8二玉は▲8五馬と飛車を取られた手が詰めろになるので、△9三玉と逃げたくなる(飛車を取られても詰めろにならない)が、▲8五馬に△7三歩と手を入れた第13図は、後手玉がすぐには寄らない。(“的中図”と表現を弱くしたのは、逆転には至らなかったため。本当は“炸裂図”と名付けたかった)
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先の△8五同飛おそらく見落としと思われるが、△8二玉(考慮5分)から△7三歩と踏みとどまり、第13図はまだ後手の飯島七段に分がある形勢。
とは言え、一気に差が縮まり、午後九時を過ぎ疲労と飯島七段の残り時間も14分と切迫しており、勝負の行方は分からなくなった。
しかし、しかし…第13図での羽生九段の残り時間は50秒。王座戦はチェスクロック方式で1分未満の考慮もきっちり差し引かれる。羽生九段はあと50秒消費すると、1分将棋となってしまう。せめて、10分ぐらい残していれば、将棋の流れから逆転の可能性は高いが……
ここで、「その5」の私のボヤキに戻る。
《ここ数年の羽生九段の夕食休憩を挟んでの長考はロクなことがない》
考慮時間が63分(40分の夕食休憩を挟み、実時間では103分)とエネルギーと考慮時間を消費したにもかかわらず、▲4四同飛~▲4二角(悪手・この手はほぼノータイム)で形勢を悪化させ、勝負手(▲5五香~▲8五桂)を探索して更に21分の考慮(▲8五桂はノータイム)。この数手の消耗が痛かった。
(続きます)
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