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飯島七段の△7三歩で後手玉の安全度が高まった第13図。ここでの先手の指し手が難しい。しかも1分将棋。
後手陣に飛車を打っても響きが弱い(▲4二飛に至っては△2四角があり危険)。▲5二香成や▲6四桂も急所を突いているとは思えない。一番有効そうな▲7四歩も、後手からの△5七歩や△9八飛に比べて速さ厳しさで劣り、先に攻めたのに追い抜かれてしまう。となると、一旦受けに回るのが常道だが、先の△7三歩のような効果的な受けはない。そういう場合は玉を危険地帯から遠ざける早逃げ(▲4九玉)が、“8手の得”程ではないが効果を発揮するのだが、△2六桂と玉が近づいた3八の金に働きかけられると、1手の価値があるかも怪しくなる。
羽生九段の指し手は▲6四桂。最善手ではないようだが、遠巻きに後手玉を攻めて、相手に攻めてもらうというテクニックで、秒読みの中では妥当な選択だろう。
以下△5七歩▲同玉△5九飛▲5八歩△7九飛成に▲6三銀と後手玉に迫る。
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▲6三銀は詰めろだが、直感的には勝てなさそう。
実際、△6八角▲6六玉△7六と▲6五玉(▲7六同馬だと6三に打った銀がタダ)△7五とと追撃されて、▲7五同馬だとやはり6三の銀がタダとなり、▲5四玉と逃げるのは8五の馬を取られて望みがない……ように思えた。
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実戦も同様に進んだが、実はABEMAの解説では△6八角と打った辺りだっただろうか、
「▲5四玉(第15図)で馬を取ると(△8五と)、▲7二銀成△同玉に▲6二飛と打って後手玉が詰んでしまう。飛車を6二に近づけて打つのがミソで、以下△8三玉▲8二金△8四玉▲6四飛成(▲8三金打でも詰み)△7四合い駒▲8三金打で詰み」
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と、嬉しい解説。
なので、考慮10秒で△7五とが指され、▲5四玉にドキドキしてABEMAの画面を凝視。
しかし、と言うか、やはりと言うか、1分54秒で指された手は△6二桂。
以下、▲5三玉△5二歩▲同玉△5一歩▲4一玉と飛車を打たれないようにして△8五とと馬を取り、盤石の態勢を築いた。
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この後、羽生九段は辛いながらも最善の頑張りを見せる。先に入玉された時の難易度の高さ、時間切迫(第13図では14分あったが、小考を重ね8五との直後に1分将棋になった)と疲労もあり、一縷の望みを抱いて画面を見ていたが、飯島七段はあまり間違えない。
逆に△9七角と打たれた第17図で、
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▲3一金と銀を取ってしまったため、△6三龍と金を取られて受けなしになってしまった。
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▲6三同成香なら△3一角成までの1手詰。
ところで、中継やYouTubeを観ていて気になったことがある。
17図で▲3一金とせず、▲5一玉や▲8六歩△同角成▲5一玉(J図)という変化の評価値が互角かそれ以上を示したこと。(▲8六歩と突き捨てたのは、あとで8筋に歩が利いた方が便利)
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私も一瞬、《おっ、まだ逆転の目があるのか》と期待した。
実戦は上記の通り、▲3一金△6三龍で一気に投了となってしまったが、▲3一金とせず、▲8六歩△同角成▲5一玉(J図)としていたら、逆転の目があったのか……
しかし、J図で普通に△4二銀と取られると、▲同香成に△6三龍(K図)で先手の敗勢。
K図以下を掘り下げてみる。
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△6三龍(K図)に▲同成香と取ると△4二馬右▲6一玉△5一馬▲7一玉△6一金▲8一玉△7一金打(L図)で詰んでしまう。
そこで、先手も▲9二銀△7四玉と玉を遠ざけてから▲6三成香と龍を取るが
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平凡に△6三同玉と取る手が詰めろになり、▲4三飛と王手を掛けて8六の馬の利きを何とかしようとしても、普通に△5三馬で詰めろ。
▲5三同飛に△同玉がやはり詰めろで、角一枚では適当な受けの手がないので、4二の成香を見捨てて、9筋の龍と銀に助けを求めようと▲6一玉と遁走を図るが、△2一飛がぴったりの手となる。
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図で、▲7二玉と逃げるのは手数は掛かるが即詰み。詰みを逃れるには▲5一角と合駒をするしかないが、△4二馬と成香を取られて受けなしとなるので、角を打つ気にはなれない。
この将棋の一番の敗因は73手目からの▲4四同飛~▲4二角の長考であろう。
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▲4二角は結果的に敗着であるのだが、それよりも▲4四同飛に費やした時間とエネルギーの消耗が大きい。
おそらく、ものすごく深く膨大な量を読んだのだろうが、読みが堂々巡りしてしまったのか、選んだ手も良くなかった。
あそこで熟考に熟考を重ねるのは羽生将棋の素晴らしさである。惚れこんでしまう。
しかし、図で▲4四同飛はおそらく第一感であろう。
そこで、ある程度(30分ほど)読みを入れて着手しても良かったのでは?
もしかしたら、▲6六桂も有力とみて(実際、有力だった)、比較検討したのかもしれないが。
う~ん,あそこで考えるのが羽生将棋なのだが……
……でも、夕食休憩を挟んでの長考はロクなことがないんだよなあ……
【終】
結局、最終盤のAIの評価値は間違っていて
先手に勝ちはなかった、ということですね。
羽生さん、今日も負けてしまいました。
竜王戦に期待します。
藤井七段は、いよいよタイトルを取りそうです。
まず、記事の文章の繋がりが、がおかしかったので、訂正しました
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私も一瞬、《おっ、まだ逆転の目があるのか》と期待した。
実戦は上記の通り、▲3一金△6三龍で一気に投了となってしまったが、▲3一金とせず、▲8六歩△同角成▲5一玉(J図)としていたら、逆転の目があったのか……
しかし、J図で普通に△4二銀と取られると、▲同香成に△6三龍(K図)で先手の敗勢。
K図以下を掘り下げてみる。
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zoranさんが評価値に関して疑問に思った局面はJ図で良いのですね。
入玉模様になると、将棋ソフトの形勢判断や指し手の方針がおかしくなるのは以前は頻繁にみられました。本局も先手が入玉したので、評価値が狂ったのだと思います。
ただ、入玉将棋においてもはるかに進歩してきているようで、J図の評価値も、もっと読み込ませると正しい数値が出たのではと思います。
>羽生さん、今日も負けてしまいました。
将棋日本シリーズは、良いところがなかったですね。
>竜王戦に期待します。
ええ、そうですね。
準決勝からなのと、準決勝の対戦相手もそれほど苦手な棋士はいないので、期待が持てます。
ただし、向こうの山から藤井七段が勝ち上がってしまうと……
決勝時点で“藤井二冠”になっているかも。