ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

楽園からの旅人

2013-08-14 20:06:05 | ら行

「ポー川のひかり」のエルマンノ・オルミ監督の新作です!


「楽園からの旅人」67点★★★☆


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イタリアのある街で、
年老いた司祭(マイケル・ロンズデール)の懇願むなしく
古くからある教会堂が取り壊されようとしていた。

涙に暮れる司祭のもとに
その夜、
さまよえる人々が次々にやってくる。

彼らはアフリカから長い旅を経て、
たどり着いた不法移民たちだった――。

司祭は彼らに扉を開くのだが……。

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「ポー川のひかり」以降、
「もう劇映画は撮らない」と言ってたオルミ監督が
新作を撮ってると聞いたときの、あの心踊り感といったらもう!(笑)

で、期待値特大で観ました。

そして、うーむ……。
さすがといえばさすがだし、
ちょっと物足りなくもあった。

メッセージは明確なんだけど、
逆にストレートすぎる感じもあり。

なんといっても背景となるテーマが
「海と大陸」と同じなんですよね。

冒頭、司祭の静かな抵抗と涙もむなしく、
教会が無惨に壊される。

「ポー川」は「聖書の死」からはじまったけど、
今回はズバリ「宗教の死」からはじまっている。

そしてその夜、
沈黙した教会のもとに、
アフリカ系の黒人たちがわらわらとやってくる。

「海と大陸」を観ていると、
彼らが海を渡ってきた不法移民たちだと、すぐにピンとくる。
で、彼らをかくまう司祭と、
通報する司祭の攻防があるという。


「神なき世界で、もっとも尊いものは“心ある人間”だ」というテーマは
崇高にして大賛成であり、素晴らしい。

舞台は教会内部のみで、
演劇を観ているような緊迫感もあります。

無音のテレビ画面も、人物の配置も、
すべてが暗示的で
「行くべき方向」に向いて整っている。

しかし本当に直球で説明は最小限という
複雑さなんで、

どう受け止めるかを
じっくり考えるタイプの作品ですね。

「海と大陸」を例に出しましたが、
もっと言うと
アキ・カウリスマキ監督の
「ル・アーブルの靴みがき」

2010年の「君を想って海をゆく」

みんな、同じテーマを扱ってるんですよね。

つまり
「その状況に耳を貸さねばならない」という
啓発だと思います。


★8/17(土)岩波ホールほか全国順次公開。

「楽園からの旅人」公式サイト

コメント
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