めちゃくちゃ、あたたかい。
だからこそ、この家族の行く末が沁みるんです。
「家族を想うとき」78点★★★★
*********************************
イギリスの地方都市。
妻と16歳の息子、12歳の娘を持つリッキー(クリス・ヒッチェン)は
フランチャイズの宅配ドライバーとして働きはじめる。
マジメに働いてきたものの
10年前の金融破綻で
仕事もマイホームの夢も失ったリッキーにとって
「自分のがんばり次第で、いくらでも稼げる」
この仕事は最後のチャレンジだった。
ギリギリの生活費のなか
介護ヘルパーとして働く妻の車を売って配達用のバンを買い、
なんとか仕事をスタートさせたリッキー。
想像を超えるハードな仕事にも耐えていた彼だが
次第に家族にひずみが生まれていき――?!
*********************************
引退を撤回した83歳のケン・ローチ監督が
大ヒットした「わたしは、ダニエル・ブレイク」(17年)に続き
「いま、撮らねばならない物語」とした作品です。
序盤から後半まであたたかいのに
後半の最後でいきなり暗雲から、グッと暗転に転じる。
珍しい構成にハッとしつつ
その重い警告を、受け止めずにいられない。
そんな物語です。
警告、とは
もちろんこんな状態を引き起こしている社会に対してだけど
しかしそれ以上に
働きすぎの人や父親に対して、ダイレクトに響くと思いました。
まず
なんといっても、冒頭からすぐに
一市民の普通の暮らしに自然に入っていける、その紡ぎ方がさすが。
今回の主役となる一市民は、
つましくも愛おしい4人家族。
父リッキーはフランチャイズの宅配ドライバーとして再起を図り
様々な家を訪ね、様々な人に出会う。
妻はとても穏やかな人で
介護ヘルパーとして、やはり様々な家を訪ねる。
彼らの仕事を通して、様々な市民の横顔を見せる
うまい方法だなあと感服。
そんな夫婦の子どもたちは
思春期まっただ中ながら
なかなかカッコいい16歳の息子(声がアダム・ドライバー似でよい!)と
利発な12歳の娘。
父と母には「もっと、生活水準を上げたい!」という望みはあれど
彼らはごく普通に、幸せでもあるんです。
この一家の風景が、とてもあたたかいのが
本当に映画としてのキモ。
でも、父親リッキーがバカみたいに忙しくなり、
だんだん家族に歪みが生まれ出すんですね。
リッキーは宅配ドライバー業を
「自分のがんばりでいくらでも稼げる独立型起業」みたいに、謳われて始めるんですが
実際は「個人事業主」として、大企業に都合よく使われる身。
トイレに行く間もないほどの激務で
しかも、不満を訴えれば「いくらでも代わりがいる」とクビ。
当然、雇用保険や保障も何もなく
何かトラブルが起きても、自己責任。
これは昨今ニュースになっている「ウーバーイーツ」配達人をはじめ
ワシみたいなフリーランスすべてに共通する状況なわけで。
そんな状況のなかで働く父は、次第に疲弊してゆく。
すると家族の団欒が減り、会話が減り、
子どもたちは孤独になり、息子はより反抗的になり
トラブルも起こし始める。
でも、それでもまだ
家族の風景は、あたたかさを保っているんです。
リッキーが娘と配達に行ってチップをはずんでもらったり、
家族4人でテイクアウトのインド料理を食べたり。
さまざまなエピソードが「家族のぬくもり」を保っている。
このフツーの家族のあたたかさがあるからこそ
一つのひびから、
転がるように事態が暗転し、
いよいよ家族をつなぐ糸がほころびはじめたときの衝撃は大きい。
しかもその暗転は
決して「他人事」ではないんです。
誰の胸にも迫ると思うので
必見です。
★12/13(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
「ルート・アイリッシュ」
https://blog.goo.ne.jp/eigaban/e/c63aea3fecf1b43f060a92a39009f19c
でも非常に印象を残してました。
息子が一番に出てきましたね。3人で必死に車を止めようとするシーン、体が震えました。
ワンコまで見てたんですか?私は人間たちだけで精いっぱいでした。ワンコ好きなのに、全然覚えてません。ブレイクに出てきたときは、あ!この犬?!って感じで気が付いたんですが。そうですか。家族にも出てたんですか。もう一回見なきゃ。
観終わった時、息子が一番に出てきたことが救いになったと思ったが、どうでしょう。
とにかく痛い映画でした。
余談ですが、あの足が一本欠けている犬は「わたしはダニエル・ブレイク」にも出てたような気がするのですが勘違いでしょうか?
ポン・ジュノ監督の
「パラサイト 半地下の家族」のラストもまた
考えさせられるもので
「あれは、どうなったと思いますか?」と
監督に聞かれました(笑)
ラストを超えても物語が続き、
観る人にゆだねられるのって
すごーく好きですw
夜遅かったけど、あまりの衝撃に即、別れることはできず、カフェで90余り、終電ぎりぎりまで語り合いました。ラストをどう見るかで議論。家族を信じて希望を見た私と、希望はない!という2人と、過去のローチ作品を検証しながら、あーでもないこーでもないと超盛り上がりました。
あの後、彼は・・・ 大丈夫!大丈夫だよ!
ケンローチさん、本当にあなたは凄い!
ブレグジットのイギリスよ!こんな現実を許してよいのか! イギリスだけじゃないが。 番長さんの感想、やっとじっくり読めました。
映画初めにケン・ローチ!
素晴らしいセレクトと思います。
どうぞよいお年をお迎えください。
2020年も遊びにきてくださいませ。