ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

チャッピー

2015-05-19 23:17:52 | た行

これを観ながら、まさに
ダルデンヌ兄弟の「少年と自転車」を思い出したという(笑)


「チャッピー」70点★★★★


********************************


2016年、南アフリカ・ヨハネスブルグ。

悪化する治安に対抗するため
警察はロボットの警官を動員していた。

その開発者であるディオン(デーヴ・パテル)は
さらなる研究を重ね、
自分で考え、成長する人工知能(AI)ロボットの開発に成功する。

が、その矢先に彼は
ストリートギャングに誘拐され
ギャングのもとでAIロボットを起動させることになる。

生まれたての赤ん坊のようなロボットに
ギャングの女性は「チャッピー」と名付け、教育しようとするのだが――?!


********************************


「第9地区」「エリジウム」そして
新作「エイリアン」の監督就任が決まった
ヨハネスブルグ出身、
ニール・ブロムカンプ監督の新作です。


まずこの映画、
監督に無断で残酷描写をカットしたとか、いや断ったとかで
問題になっており

たしかに無許可修正ならば問題ですが

でも
もともとこの映画に興味を持っていたなら
それで「観ない」のはもったいないと思う。


オリジナルと見比べてないから
ホントのところはわからないけど
正直
「え?あの部分?」くらいなんじゃないかなと思うし
(実はよく考えると「いやな感じ」「残酷」につながりそうなフラグは多々あったりするんですけどね~

なによりも監督が意図したものは
十分に伝わってると思う。


逆にワシ、
「かわいそうな人工知能ロボットの運命」なんて、
苦手題材だし

「人工知能ロボットが暴走するのか?」
「愛されることを願って、でも叶わずに
人間の両親を殺すことになっちゃったりとかするの?」とか
浅~いレベルの想像が、そのへんだったんですが(マジ浅っ!苦笑)

観てみたら
これが意外と思わぬところに、落ちた。


「エリジウム」より全然いいじゃん!という(笑)
「第9地区」のテイストに近く
苦くても、苦いには意味がある、という作品でした。


たしかに
無垢な赤ん坊同然のチャッピーが
人間の子どもたちにいじめられるシーンとか

ひとりぼっちのチャッピーに犬が寄ってきて
愛おしそうになでるシーンとか

中盤までは
「ああ……きたよ……」という方向に行ってる感じだし
そういう話が苦手だという人に
あえて「絶対におすすめ!」とは言わないけど

ただ
観れば絶対に、想像している
「かわいそうっぽい」のイメージを超えてくると思います。


この話が伝えることって
つまるところ
「子どもには、よき大人と、環境と、教育が必要」ってことだと思うんですよねえ。


子どもは大人の言うことに
怖ろしいほどにすぐ影響され素直に吸収してしまう。

犯罪を教え込まれれば、それを悪だと思わずに
犯罪者に育ってしまう。


「シティ・オブ・ゴット」のような
ブラジルの少年犯罪しかり、

ダルデンヌ兄弟監督の「少年と自転車」で
主人公の少年がいい大人に出会って、ちょっといい方向に行きかけるのに
不良先輩の家に居場所を見つけると
今度はあっさりワルい方向へ行ってしまう・・・・・・っていうのを
思い出したわけです。

そんなの
すごく当たり前のことだし
日本でだって起こってることなんですが


無垢なロボットとして擬人化することで
マンガみたいなわかりやすさのなかで
ハッとする本質に気づかされる、という。

ラストも、意外な方向に行って
いい感じでした。


★5/23(土)から全国で公開。

「チャッピー」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サンドラの週末

2015-05-18 23:56:27 | さ行

ダルデンヌ兄弟監督、最新作。


「サンドラの週末」70点★★★★


****************************

夫と二人の幼い子どもと暮らす
サンドラ(マリオン・コティヤール)は

体調不良でしばらく仕事を休業していた。

ようやく復帰できるとなった矢先
サンドラは会社からクビを言い渡される。

社員にボーナスを払うためには
一人を解雇する必要があるというのだ。

困ったサンドラは
ある手段に出ることに――?!

****************************


「息子のまなざし」「ある子供」
「ロルナの祈り」「少年と自転車」――
傑作ぞろいの
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督の新作。


おそらくうつ病で休職していた主人公サンドラが、
復職できずクビになりそうになる。

でも同僚たちがボーナスを諦めれば
サンドラは会社に残れる。

ボーナスを取るか、サンドラを取るかで
16人の同僚が週明けに投票をすることになる。

そのためにサンドラが週末に
同僚たちを説得にまわることになるんだけど

しかし、というか当然というか
同僚たちそれぞれの事情もあるわけで……というところが
ドラマになっていくんですね。


実際、心の病気で休職した人は
「契約更新なし」など失業することも多く
まさに社会を映す題材。

そして
弱者を助けるとか、正義を声高に叫ぶのではなく
弱者の背中にそっと手を添える程度の
淡々とした距離感が現実的であり、リアルでした。


さすがダルデンヌ兄弟。


ただ最近の映画で
もっと最下層の貧困やら、深刻度の高い話を
見慣れてしまったせいだろうか。

想像よりも鑑賞後感がフラットだった、という気もしました。



「金か情か」「利己か善意か」を従業員たちに問うような
会社のやり口は許せるものではないけれど
でも生活が苦しいのは、誰も同じ。

だからこそ
「あなたが従業員だったら、どうする?」
「あなたがサンドラだったらどうする?」

そして
「何が一番の解決法なのだろう?」と
考えさせられます。


サンドラにとっては
勇気を出して同僚を訪ね回る
行為自体がリハビリなんでしょうね。

かなり荒療治ではあるけれど(苦笑)
自分の状況をさらけ出して、助けを求めるってことが
本当は一番大事なんだよな、と。


そしてこの結末は
いいエンドなのだと思いましたよ。


★5/23(土)からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開。

「サンドラの週末」公式サイト
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ゼロの未来

2015-05-15 20:55:02 | さ行

「未来世紀ブラジル」から
もう30年だって!ガーン・・・


「ゼロの未来」66点★★★☆


****************************

近未来の世界。

大企業で働く
天才プログラマー・コーエン(クリストフ・ヴァルツ)は
廃墟の教会で暮らす孤独な男。

彼はずっと
「人生の意味を教えてくれる」という
一本の電話を待ちわびていた。

ある日、彼はパーティーで
優しい女性ペインズリー(メラニー・ティエリー)と出会うが――?

****************************


テリー・ギリアム流、未来派アート。


こういう未来を、美術を描けるのは
この人しかいないと思うし
そこは期待を裏切らない。


話も破綻したりするわけではないんだけど
どうしても肝心のストーリーが物足りないんですよねー。

物足りないというか、
やっぱり20年くらい旧式な感じ?


描かれるものは、単純化すると
脳内トリップとか、バーチャル世界での恋愛とか、監視社会とか、
その中での人間の孤独と無とかで

わかりやすくはあるんですが

“新しいもの”として描かれるものが
すでに新しくはなく

かといって、それを皮肉っているほど
その場所から離れていない、っていうのかなあ。


スキンヘッドのクリストフ・ヴァルツは世界感にピッタリだし
ベン・ウィショーもちらっと出てるし

とまれ、
さまざまな苦難を超えての
監督の健在ぶりあっぱれ!ではありました。


★5/16(土)から全国で公開。

「ゼロの未来」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

駆込み女と駆出し男

2015-05-13 23:57:53 | か行

喜劇でドラマ。大満足。


「駆込み女と駆出し男」74点★★★★


*******************************


天保12(1841)年、
女性から離婚ができなかった時代。

鎌倉の東慶寺は
離婚したい女性が駆け込むと、離婚を成立させることができる避難所だった。

ある日、寺の居候で医者見習いの信次郎(大泉洋)は
二人の女の駆け込みに出くわす。

顔に火ぶくれのあるじょご(戸田恵梨香)と
お吟(満島ひかり)。
それぞれ、どんな事情を抱えているのか――?!


*******************************


井上ひさし原作×原田眞人監督。

ハッとさせる日本語のおもしろさ、
リズミカルなしゃべり劇をうまく映画におとしこんでます。

加えて鎌倉のしっとりした山々の風景、
苔むすみずみずしい緑と寺が美しい。

(実際の撮影は京都や滋賀、大阪、兵庫、奈良で行われているそうで、
まあちょっと“枯れ”が少なく、雅すぎるところはあるけどね)


駆け込み寺とはまさに現代のシェルターで
女性たちの事情は重く、シビアだけど

大泉洋の軽妙さとしゃべりを軸に
基本は笑いなのがいい。

フッと抜けた笑いと、シリアスな事情や、スリリングな立ち回り、
自立していく女、といったドラマが
うまく噛み合った。

東慶寺さんは知っていたけど
実際、駆け込みした女性たちがどうしてたのかを知ったのも
おもしろく。

あと
事情ある女ばかりの寺だし
もっとドロドロ女子部的なものがあるのかな~と想像しましたが
少しはあったけど、それどころじゃない方々ばかりのようでした。


樹木希林、キムラ緑子など
いい配役を絶妙に配置しているのもグーで
もちろん満島ひかりもいいんですけど

今回は
むすっと、まっすぐ、キッパリ、が似合う戸田恵梨香がよいですねえ。

映画全体、
粋という意味であだっぽい、という感じでした。
(敬称略しました)


★5/16(土)から全国で公開。

「駆込み女と駆出し男」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真夜中のゆりかご

2015-05-11 23:53:40 | ま行

スサンネ・ビア監督によるミステリー。


「真夜中のゆりかご」71点★★★★


*************************


現代のデンマーク。

刑事アンドレアス(ニコライ・コスター=ワルドー)は
湖のそばの瀟洒な家に
妻(マリア・ボネヴィー)と生後数ヶ月の息子と暮らしている。

ある日、アンドレアスが
薬物依存の前科者と、その恋人の家に踏み込むと

そこには汚物まみれで放置された
赤ん坊がいた。

家に帰っても
赤ん坊のことが離れないアンドレアスだったが――。


*************************


「しあわせな孤独」(02年)から
スサンネ・ビア監督とコンビを組んでいる
脚本家アナス・トーマス・イェンセンとのタッグ再び。


ハンサムな刑事と美人妻、赤ん坊の幸せ家族と
薬物依存の前科者と、DVされても逆らえない恋人、
汚物まみれで放置されている赤ん坊という

二組のカップルの格差が強烈で、
そこに生まれる悲劇には
社会としての“悲劇”も含まれていて、

不穏の予感で終始引きつけるんですが
なんともやるせない話ではあります。

で、
今回はミステリーなので
何も知らずに観たいかたは
このへんでストップしておいたほうがよいですねー。






まず何が起こるかというと
刑事の赤ん坊が突然、死んでしまう。

刑事は
「あの子は死んでない!」と取り乱す妻をなんとかしようと
育児放棄されている赤ん坊と、死んだ息子を取り替えてしまうんですよ。

あり得ない!とは思えないところが大ミソで
だってあんな状態で放置されている赤ん坊、
あの場所にいない方がいいに決まってるもん!

で、刑事は
妻を騙すのかと思いきや、そこは正直に話す。
当たり前か。そりゃ親なら違いに気づくよね。


でも、それは相手方のダメそうな母親だって同じ。

「死んだのはあの子じゃない」という母親ならではの確信が
「こんなはずじゃなかった」という刑事のろうばいになり
スリルを盛り上げるんですね。

さらにさらに
意外な真実も明らかになり・・・・・・?!


なかなかの本格ミステリーです。


何が正義なのか?を問いかけ
社会の問題をも突き刺しながら
人の心や悲しみを繊細に描写していく
監督の力はゆるぎないんですが

「未来を生きる君たちへ」(10年)を思うと
スサンネ・ビア作品としては、
いちストーリーのうちに留まった、やや小さい感じはする。

あとね、DNA鑑定すりゃすぐバレちゃうじゃん?とかも
ちょっと思った。

まあオチはそこではなく
ここまで読んでいただいても、まだまだミステリー本の中盤ってとこなので
楽しめると思います。


★5/15(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「真夜中のゆりかご」公式サイト
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする