2つ前のブログ〔293〕で『鴎外の恋 舞姫エリスの真実』のことを書きました。そこになぜこの本を手にしたのかということを記しています。切っ掛けは妻・福田緑の友人Uさんの紹介でした。Uさんの知り合いに作家の六草いちかさんがいらして、実に光栄なことですが、緑と共通する面があるということで興味を持ったのでした。
その後ブログをUさんが読んでくださり、そのことが六草さんにも伝えられて、とても喜んでくださったということです。
そうそう、『鴎外の恋 舞姫エリスの真実』の文庫が出版されるにあたって、4月に六草さんの記念講演が予定されていたようですがコロナ禍で残念ながら中止になったようです。ネットで知りました。
さて、この本には続編があるということは文庫本で知ってはいましたが、残念ながらすぐには手に入りませんでした。在庫があるのかどうか、アマゾンで調べても、古本はプレミアがついてかなり高価なのです。そうこうしているうちに妻が図書館に連絡を取ってあっという間に入手できました。それが次の本です。
■『それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影』六草 いちか、講談社、2013/9 、2500円+税、363頁
今回も読み出したら本当に頁をめくる手が止まりませんでした。
この本も是非文庫本にして欲しいなと思いました。出版されて数年が経っています。六草さんのことです、おそらくその後、本を巡っての様々なやりとり、判明した新たな事実があったに違いありません。そのことも含めて文庫に収めてほしいなと思っています。
さあ、本書を紹介しようと思ったら、すでに素敵で秀逸な書評が発表されていました。
●それからのエリス 六草いちか著 森鴎外の「恋人」の足跡
作家 中沢けい
森鴎外の「舞姫」ほど日本でくりかえし読まれた恋愛小説はほかにないだろう。そして「舞姫」は現代の多くの読者に困惑を与える恋愛小説でもある。『それからのエリス』の著者の六草いちかもこの作品の裏にある真実を知るまでは「女性である私にとってはたんなる『むかつく小説』」と書く。ドイツに置き去りにされた妊娠した恋人が発狂するという「舞姫」の結末は現代の読者にとって男女を問わずなかなか受け入れがたいものだ。
ドイツから東京まで鴎外を追いかけてきた女性がいることはよく知られている。著者の前作『鴎外の恋 舞姫エリスの真実』は綿密で詳細な調査によって舞姫のモデルを突き止め、モデルとなった女性が東京からドイツへ帰るまでを描いている。その女性の名はエリーゼ・ヴィーゲルトである。
『それからのエリス』は、ドイツ帰国後のエリーゼの足跡を追うものだ。冒頭、鴎外の母峰が西洋へ為替を定期的に送っていることが物語られる。この謎の送金はエリーゼにあてたものであったのだろうかという推量は、エリーゼは鴎外の子を産んでいたのだろうかという疑問を生む。
そこから、ドイツでの綿密な調査が再開される。この調査の過程が実におもしろい。調査は難渋するが、それによって20世紀初頭から中期にかけてのドイツの庶民の暮らしぶりが無味乾燥な記録の中から浮かび上がってくる。
ドイツ帰国後のエリーゼは帽子製作の職人として生き、ユダヤ人の夫と結婚していた。横浜の港で手を振って別れて以来、生涯会うことのなかった2人だが、その関係は続いていた。帰国後のエリーゼには、大きな世界史の流れに巻き込まれるという運命が待っていたのだ。
そして鴎外との関係は、鴎外の作品、遺族の証言などから解き明かされて行く。ロマンチストであり、思いやりの人であった鴎外の一面が実に生き生きと著者の中で創造されて行く。エリーゼが亡くなったのは1953年、つまり第2次世界大戦後であった。
[日本経済新聞朝刊2013年10月20日付]
400頁にもなろうとする実に丁寧で徹底的で執拗な「研究書」を過不足なくまとめ上げています。さすが作家さんですね。
この本は驚きの連続ですが、ついにエリーゼの写真を発掘したことやベルリンにある森鴎外記念館が鴎外の下宿跡ではないということなども突き止めています。手持ちの『地球の歩き方』〈ベルリンと北ドイツ、2018~19〉の「森鴎外記念館」の説明として「鴎外が下宿していた館の2階には当時の様子が再現されている。」は明らかな間違いだったのですね。ベルリンに行ったときに間違いを指摘しようと思っています。
六草さんの他のご著書も気になってきました。
その後ブログをUさんが読んでくださり、そのことが六草さんにも伝えられて、とても喜んでくださったということです。
そうそう、『鴎外の恋 舞姫エリスの真実』の文庫が出版されるにあたって、4月に六草さんの記念講演が予定されていたようですがコロナ禍で残念ながら中止になったようです。ネットで知りました。
さて、この本には続編があるということは文庫本で知ってはいましたが、残念ながらすぐには手に入りませんでした。在庫があるのかどうか、アマゾンで調べても、古本はプレミアがついてかなり高価なのです。そうこうしているうちに妻が図書館に連絡を取ってあっという間に入手できました。それが次の本です。
■『それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影』六草 いちか、講談社、2013/9 、2500円+税、363頁
今回も読み出したら本当に頁をめくる手が止まりませんでした。
この本も是非文庫本にして欲しいなと思いました。出版されて数年が経っています。六草さんのことです、おそらくその後、本を巡っての様々なやりとり、判明した新たな事実があったに違いありません。そのことも含めて文庫に収めてほしいなと思っています。
さあ、本書を紹介しようと思ったら、すでに素敵で秀逸な書評が発表されていました。
●それからのエリス 六草いちか著 森鴎外の「恋人」の足跡
作家 中沢けい
森鴎外の「舞姫」ほど日本でくりかえし読まれた恋愛小説はほかにないだろう。そして「舞姫」は現代の多くの読者に困惑を与える恋愛小説でもある。『それからのエリス』の著者の六草いちかもこの作品の裏にある真実を知るまでは「女性である私にとってはたんなる『むかつく小説』」と書く。ドイツに置き去りにされた妊娠した恋人が発狂するという「舞姫」の結末は現代の読者にとって男女を問わずなかなか受け入れがたいものだ。
ドイツから東京まで鴎外を追いかけてきた女性がいることはよく知られている。著者の前作『鴎外の恋 舞姫エリスの真実』は綿密で詳細な調査によって舞姫のモデルを突き止め、モデルとなった女性が東京からドイツへ帰るまでを描いている。その女性の名はエリーゼ・ヴィーゲルトである。
『それからのエリス』は、ドイツ帰国後のエリーゼの足跡を追うものだ。冒頭、鴎外の母峰が西洋へ為替を定期的に送っていることが物語られる。この謎の送金はエリーゼにあてたものであったのだろうかという推量は、エリーゼは鴎外の子を産んでいたのだろうかという疑問を生む。
そこから、ドイツでの綿密な調査が再開される。この調査の過程が実におもしろい。調査は難渋するが、それによって20世紀初頭から中期にかけてのドイツの庶民の暮らしぶりが無味乾燥な記録の中から浮かび上がってくる。
ドイツ帰国後のエリーゼは帽子製作の職人として生き、ユダヤ人の夫と結婚していた。横浜の港で手を振って別れて以来、生涯会うことのなかった2人だが、その関係は続いていた。帰国後のエリーゼには、大きな世界史の流れに巻き込まれるという運命が待っていたのだ。
そして鴎外との関係は、鴎外の作品、遺族の証言などから解き明かされて行く。ロマンチストであり、思いやりの人であった鴎外の一面が実に生き生きと著者の中で創造されて行く。エリーゼが亡くなったのは1953年、つまり第2次世界大戦後であった。
[日本経済新聞朝刊2013年10月20日付]
400頁にもなろうとする実に丁寧で徹底的で執拗な「研究書」を過不足なくまとめ上げています。さすが作家さんですね。
この本は驚きの連続ですが、ついにエリーゼの写真を発掘したことやベルリンにある森鴎外記念館が鴎外の下宿跡ではないということなども突き止めています。手持ちの『地球の歩き方』〈ベルリンと北ドイツ、2018~19〉の「森鴎外記念館」の説明として「鴎外が下宿していた館の2階には当時の様子が再現されている。」は明らかな間違いだったのですね。ベルリンに行ったときに間違いを指摘しようと思っています。
六草さんの他のご著書も気になってきました。