ついに『続 まど・みちお全詩集』を手に入れました。税込み7020円の本を、アマゾンの「古本」として2000円もしないで買いました。嬉しかったですね、ほとんど新本でした。
まずはどんな本なのか、理論社HPから紹介しましょう。
●身近な生き物から宇宙まで、この世界の不思議を100歳まで詩に詠み続け、昨年104歳で亡くなった詩人まどさん。1990年代以降の詩500編余に、新たに見つかった若いころからの詩約200編を補遺として収録。詳しい年譜、著作目録、総索引も収録。
●編集者コメント
「ぞうさん」で知られる詩人 まど・みちお『全詩集』待望の続篇。1992年刊行の『まど・みちお全詩集』と今回の『続 まど・みちお全詩集』の2冊で、まどさんの約80年間にわたる詩業の全貌を伝えることを目指しました。
〔2015年9月発行、576ページ、 A5変型、定価6,500円(税込7,020円)〕
600頁近い本を少しずつ紐解いていくと、いろんなことに気づかされます。「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」などの誰でも知っているような有名な詩は前著に収録されていて、本書では知っている詩はほとんどありませんでした。知っていたのは私のワークショップの定番のことば遊びの詩「じこしょうかい」くらいでしょうか。
まどさんは詳細な「年譜」によれば、10歳の時に郷里の山口・周南市(現在)を離れ、台湾に渡りそこで二十数年間過ごしています。この間、詩を雑誌に投稿、同人誌を発行するのですが、それは未だ発見されていません。その後文芸誌に掲載された詩が今回の詩集に再録されています。その詩が、本当にまどさんの詩なのかと思うほどシュールなのです。
朝日新聞(2015年9月29日)に白石明彦という記者が、「まど・みちお流20代のシュール 最初期の作品発見『続 全詩集』に収録」という記事を書いているので、紹介してみましょう。
「風呂屋が風呂屋の 煙突で空にブラ下(さが)っている」(無題)。二十歳のときの詩「風景」(29年)はこんな短詩3編からなる。「矢守(やもり)は置(おき)時計の声に恋 しすぎて/天井裏で首をくくって死にました」(「プラトニックラヴ」)。「椿(つばき)の花は空へ落ちる/椿の花は静寂の尿道にブラ下っていたのだ」 (「椿の花は」)。平明な「ぞうさん」の詩人にこんな試みがあった。
…当時、ダダイズムの詩人尾形亀之助(かめのすけ)に傾倒しており、影響を受けた可能性がある。
『続 全詩集』でもう一つ注目すべきことは、戦争協力詩を新たに3編収録していることです。前著では2編掲載され、あとがきにまどさん自身が自己批判を綴っています。このあたりの事情を白石記者は次のように書いています。
『全詩集』を出すとき、まどさんは戦時中の戦争協力詩2編を収め、自己批判した。その後、台湾文学研究者の中島利郎(としを)さんが「たたかいの春を迎えて」「てのひら頌歌(しょうか)」「妻」(42年)の3編を見つけ、2010年春に公表した。
先日、NHK日曜美術館で放送された「まど・みちおの秘密の絵」を思い出してみたいと思います。
□NHK日曜美術館(2015年9月27日放送)
●まど・みちおの秘密の絵
「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」。日本中で愛される童謡の産みの親、詩人まど・みちお(1909-2014)。今からおよそ50年前にひそかに描きためた100枚以上の絵がある。
その絵は、短く、平易なことばでつくられるまどの詩とはまるで似つかない。画用紙一面を細い線で塗りつぶしている。紙の地肌は削れ、波を打っている。何を描いたのかさえわからない不思議な絵。そこには一体どのような思いがあったのか・・・。
まどが絵に没頭し始めたのは50歳を迎えたころ。戦後、児童雑誌の編集者と童謡作家の二足のわらじの生活を続けながら、「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」などを生み出してきた。それは、童謡の創作に専念するため、退職してまもなくのことだった。「描いても描いても絵が描きたい。なんということだろう。」そんな言葉を残したほど、絵にのめり込んだ。しかし、それらの絵は完成した後、押し入れにしまわれた。長いあいだ誰にも見せないままだった。
絵に没頭したのは3年半のあいだ。そののち、まどは童謡を離れ、自由詩に活動をうつした。そして、独自の宇宙観にあふれる詩の世界をつくりあげた。詩人は絵を描くことを通して何をつかみとり、そしてどこへたどり着いたのか。
100枚におよぶ秘密の絵から、まど・みちおの知られざる姿を見つめていく。
『続 全詩集』のシュールな初期作品、戦争協力詩、そして「秘密の絵」を見てみると、多面的な「人間、まど・みちお」が立ち現れてくるようです。
*参考「まど・みちおさん 未収録160編」読売新聞、文化部 待田晋哉(2015年10月6日)
まずはどんな本なのか、理論社HPから紹介しましょう。
●身近な生き物から宇宙まで、この世界の不思議を100歳まで詩に詠み続け、昨年104歳で亡くなった詩人まどさん。1990年代以降の詩500編余に、新たに見つかった若いころからの詩約200編を補遺として収録。詳しい年譜、著作目録、総索引も収録。
●編集者コメント
「ぞうさん」で知られる詩人 まど・みちお『全詩集』待望の続篇。1992年刊行の『まど・みちお全詩集』と今回の『続 まど・みちお全詩集』の2冊で、まどさんの約80年間にわたる詩業の全貌を伝えることを目指しました。
〔2015年9月発行、576ページ、 A5変型、定価6,500円(税込7,020円)〕
600頁近い本を少しずつ紐解いていくと、いろんなことに気づかされます。「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」などの誰でも知っているような有名な詩は前著に収録されていて、本書では知っている詩はほとんどありませんでした。知っていたのは私のワークショップの定番のことば遊びの詩「じこしょうかい」くらいでしょうか。
まどさんは詳細な「年譜」によれば、10歳の時に郷里の山口・周南市(現在)を離れ、台湾に渡りそこで二十数年間過ごしています。この間、詩を雑誌に投稿、同人誌を発行するのですが、それは未だ発見されていません。その後文芸誌に掲載された詩が今回の詩集に再録されています。その詩が、本当にまどさんの詩なのかと思うほどシュールなのです。
朝日新聞(2015年9月29日)に白石明彦という記者が、「まど・みちお流20代のシュール 最初期の作品発見『続 全詩集』に収録」という記事を書いているので、紹介してみましょう。
「風呂屋が風呂屋の 煙突で空にブラ下(さが)っている」(無題)。二十歳のときの詩「風景」(29年)はこんな短詩3編からなる。「矢守(やもり)は置(おき)時計の声に恋 しすぎて/天井裏で首をくくって死にました」(「プラトニックラヴ」)。「椿(つばき)の花は空へ落ちる/椿の花は静寂の尿道にブラ下っていたのだ」 (「椿の花は」)。平明な「ぞうさん」の詩人にこんな試みがあった。
…当時、ダダイズムの詩人尾形亀之助(かめのすけ)に傾倒しており、影響を受けた可能性がある。
『続 全詩集』でもう一つ注目すべきことは、戦争協力詩を新たに3編収録していることです。前著では2編掲載され、あとがきにまどさん自身が自己批判を綴っています。このあたりの事情を白石記者は次のように書いています。
『全詩集』を出すとき、まどさんは戦時中の戦争協力詩2編を収め、自己批判した。その後、台湾文学研究者の中島利郎(としを)さんが「たたかいの春を迎えて」「てのひら頌歌(しょうか)」「妻」(42年)の3編を見つけ、2010年春に公表した。
先日、NHK日曜美術館で放送された「まど・みちおの秘密の絵」を思い出してみたいと思います。
□NHK日曜美術館(2015年9月27日放送)
●まど・みちおの秘密の絵
「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」。日本中で愛される童謡の産みの親、詩人まど・みちお(1909-2014)。今からおよそ50年前にひそかに描きためた100枚以上の絵がある。
その絵は、短く、平易なことばでつくられるまどの詩とはまるで似つかない。画用紙一面を細い線で塗りつぶしている。紙の地肌は削れ、波を打っている。何を描いたのかさえわからない不思議な絵。そこには一体どのような思いがあったのか・・・。
まどが絵に没頭し始めたのは50歳を迎えたころ。戦後、児童雑誌の編集者と童謡作家の二足のわらじの生活を続けながら、「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」などを生み出してきた。それは、童謡の創作に専念するため、退職してまもなくのことだった。「描いても描いても絵が描きたい。なんということだろう。」そんな言葉を残したほど、絵にのめり込んだ。しかし、それらの絵は完成した後、押し入れにしまわれた。長いあいだ誰にも見せないままだった。
絵に没頭したのは3年半のあいだ。そののち、まどは童謡を離れ、自由詩に活動をうつした。そして、独自の宇宙観にあふれる詩の世界をつくりあげた。詩人は絵を描くことを通して何をつかみとり、そしてどこへたどり着いたのか。
100枚におよぶ秘密の絵から、まど・みちおの知られざる姿を見つめていく。
『続 全詩集』のシュールな初期作品、戦争協力詩、そして「秘密の絵」を見てみると、多面的な「人間、まど・みちお」が立ち現れてくるようです。
*参考「まど・みちおさん 未収録160編」読売新聞、文化部 待田晋哉(2015年10月6日)