久しぶりに美術館に行きました。しかも一日で3箇所の美術館でした。
欧米を旅行する時は一日で数カ所の美術館・教会巡りというのもけして珍しくはありません。今年の10,11月のドイツ・オーストリア旅行はそんな旅になりそうです。しかし、日本ではそんなことは本当にまれなことです。これはどうしても見ておきたいという美術展はそう多くないからです。すでに外国で鑑賞している美術作品が多いというのも食指が伸びない理由の1つです。
ところが今回は3つもの美術館を梯子したのです。
東京国立博物館の〔 特別展「古代ギリシャ―時空を超えた旅―」〕はラッキーでした。招待券が手に入ったからです。開館して間もなく会場に着いたのですが、まあまあの客足でした。
●東京国立博物館ホームページより
〔 特別展「古代ギリシャ―時空を超えた旅―」〕
平成館 特別展示室 2016年6月21日(火) ~ 2016年9月19日(月)
主催 東京国立博物館、ギリシャ共和国文化・スポーツ省、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション
ギリシャの彫刻、フレスコ画、金属製品などを展示します。新石器時代からヘレニズム時代までの各時代、キュクラデス諸島、クレタ島ほかエーゲ海の島々や、アテネ、スパルタ、マケドニアなど、ギリシャ各地に花開いた美術を訪ねる旅に出発しましょう。ギリシャ本国の作品のみによるものとしては、かつてない大規模なギリシャ美術展です。
第1章 古代ギリシャ世界のはじまり
第2章 ミノス文明
第3章 ミュケナイ文明
第4章 幾何学様式~アルカイック時代
第5章 クラシック時代
第6章 古代オリンピック
第7章 マケドニア王国
第8章 ヘレニズムとローマ
パンフレットには、「全325件 9割以上が日本初公開」「国内史上最大級のギリシャ展、奇蹟の開催!」「3600年前の色彩が目の前に。」「名品『漁夫のフレスコ画』日本初公開」という文字が躍ります。一番ピンと来たコピーは「時空を超えた旅」でした。陳列されたのは、いずれも数千年前のものばかりです。当時の日本は縄文時代か弥生時代でしょうか。そんなことをつらつら考えながら作品を眺めていました。
食事を終えて次に向かったのはそこから徒歩数分の東京藝術大学美術館でした。
〔観音の里の祈りとくらし展Ⅰ-びわ湖・長浜のホトケたち-〕は2014年でした。10年くらい前にレンタカーで琵琶湖の湖北を巡ったことが懐かしく思い出されました。第2弾の今回は、さらにパワーアップしていました。49作品のほとんどが仏像彫刻でした。
●東京藝術大学美術館ホームページより
〔観音の里の祈りとくらし展Ⅱ-びわ湖・長浜のホトケたち-〕
会期:2016年7月5日(火)- 8月7日(日)
主催:東京藝術大学、滋賀県長浜市
長浜市には、130を超える観音をはじめとするたくさんの仏像が伝わり、古くは奈良・平安時代に遡るものも多くあります。また、この地域は、戦国時代には「近江を制する者が、天下を制す」と言われ、幾多の戦乱や災害に見舞われましたが、そのたびに、地域住民の手によって観音像は難を逃れ、今日まで大切に守り継がれてきました。
これらの仏像は、大きな寺社に守られてきたのではありません。地域の暮らしに根付き、そこに住む人々の信仰や生活、地域の風土などと深く結び付きながら、今なお大切にひそやかに守り継がれています。
この展覧会では、このようなホトケたちの優れた造形とともに、こうした精神文化や生活文化を「祈りの文化」として紹介し、長い歴史の中で守り継がれてきた地域に息づく信仰のこころを全国に発信していきたいと考えています。
歴史・文化に彩られた北近江の長浜、この地に息づく「祈りの文化」と「観音の里」の魅力を通して、一人でも多くの方に、ホトケたちとそれを守る人びとの姿を感じ取って頂ければと考えています。
やはり同世代が多いのは言うまでもありませんが、若い男女がかなり熱心に鑑賞していることに驚きました。
医王寺の十一面観音立像、充満寺の伝薬師如来立像、石道寺の持国天立像・多聞天立像、宝厳寺の弁財天座像などには、やあやあ、お久しぶりでした、という懐かしい感じでした。嬉しかったのは観音寺の伝千手観音立像、正妙寺の千手千足観音立像、舎那院の愛染明王座像に会えたことです。とりわけ伝千手観音立像は素晴らしいですね。腕ががっちり太くて、ジャングルの大木を想起させられました。もっと迫力がありますが、東大寺の四月堂の千手観音立像を思い出しました(今は東大寺ミュージアムに納められていると聞きます)。どこから見てもバランスが抜群です。今回の展示作品の白眉と思います。
いずれにして、これだけの仏像を現地に訪ね歩くとしたら大変です。非公開の仏像が多いので事前連絡が必要ですし、拝観料や足代も馬鹿になりません。もちろんお寺で拝観するというのも魅力がありますが。
最後は国立西洋美術館です。ここに行く目的は2つです。一つ目は、ドイツ初期銅版画展を見ること、二つ目にフェルメール作品を見ることです。
ドイツ初期銅版画を題材にした地味な展覧会を今よく開催するなと正直思いました。でも国立西洋美術館は人で賑わっていました。先日世界遺産になったことが理由でしょう。
〔聖なるもの、俗なるもの メッケネムとドイツ初期銅版画〕はどうしても行きたかった展覧会です。リーメンシュナイダー、デューラー、グリューネヴァルト、ショーンガウアー、エーアハルト、パッハーなどは今年の旅のテーマです。そこに突然メッケネムが現れてきました。何者なのでしょうか。
●国立西洋美術館ホームページより
〔聖なるもの、俗なるもの メッケネムとドイツ初期銅版画〕
2016年7月9日(土)~2016年9月19日(月・祝)
主催:国立西洋美術館、ミュンヘン州立版画素描館、東京新聞
イスラエル・ファン・メッケネム(c.1445-1503)は、15世紀後半から16世紀初頭にライン川下流域の町で活動したドイツの銅版画家です。当時人気のショーンガウアーやデューラーら他の作家の作品を大量にコピーする一方、新しい試みもいち早く取り入れました。また、作品の売り出しにも戦略を駆使するなど、その旺盛な活動から生まれた作品は今日知られるだけでも500-600点あまりにのぼります。
メッケネム作品の多くはキリスト教主題をもち、人々の生活における信仰の重要性をしのばせます。もっとも、像の前で祈る者に煉獄での罪の償いを2万年分免除する《聖グレゴリウスのミサ》など、なかには当時の信仰生活の「俗」な側面が透けて見えるものも含まれます。また、当時ドイツの版画家たちは、まだ絵画では珍しかった非キリスト教的な主題にも取り組むようになっていましたが、メッケネムも、男女の駆け引きや人間と動物の逆転した力関係などをユーモアと風刺を込めて描いています。
本展は、ミュンヘン州立版画素描館や大英博物館などからも協力を得て、版画、絵画、工芸品など100点あまりで構成されます。聖俗がまじりあう中世からルネサンスへの移行期にドイツで活動したメッケネムの版画制作をたどるとともに、初期銅版画の発展と受容や工芸との関わり、コピーとオリジナルの問題、作品に映された当時の社会の様相などにも目を向けます。
かなり長いブログになったのでこれくらいにしておきます。これからゆっくり図録を楽しみたいと思います。
あっそうだ、秋に国立西洋美術館で日本初のクラーナハ展がありますよ。楽しみにしています。それにしても、リーメンシュナイダー展はいつ実現するのでしょうか。嗚呼。
最後にフェルメール作品について触れておきましょう。NHKのテレビドラマのモチーフにもなった「聖女プラクセデス」はかつて個人蔵ということで鑑賞できませんでしたが、現在は国立西洋美術館に常設展示されています。真贋論争の絶えない作品ですが、フェルメールゆかりの作品としては日本で唯一のものです。さすがに他の作品より注目度が高く、数人に取り囲まれていました。フェルメール作品としてはけっこう大きなものでした。ようやく鑑賞が適いました。そして、フェルメール作品は残すところあと2点、見損なったバッキンガム宮殿の「音楽の稽古」と盗難中の「合奏」のみです。はたして生きている間に「完全踏破」はなるのでしょうか。
欧米を旅行する時は一日で数カ所の美術館・教会巡りというのもけして珍しくはありません。今年の10,11月のドイツ・オーストリア旅行はそんな旅になりそうです。しかし、日本ではそんなことは本当にまれなことです。これはどうしても見ておきたいという美術展はそう多くないからです。すでに外国で鑑賞している美術作品が多いというのも食指が伸びない理由の1つです。
ところが今回は3つもの美術館を梯子したのです。
東京国立博物館の〔 特別展「古代ギリシャ―時空を超えた旅―」〕はラッキーでした。招待券が手に入ったからです。開館して間もなく会場に着いたのですが、まあまあの客足でした。
●東京国立博物館ホームページより
〔 特別展「古代ギリシャ―時空を超えた旅―」〕
平成館 特別展示室 2016年6月21日(火) ~ 2016年9月19日(月)
主催 東京国立博物館、ギリシャ共和国文化・スポーツ省、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション
ギリシャの彫刻、フレスコ画、金属製品などを展示します。新石器時代からヘレニズム時代までの各時代、キュクラデス諸島、クレタ島ほかエーゲ海の島々や、アテネ、スパルタ、マケドニアなど、ギリシャ各地に花開いた美術を訪ねる旅に出発しましょう。ギリシャ本国の作品のみによるものとしては、かつてない大規模なギリシャ美術展です。
第1章 古代ギリシャ世界のはじまり
第2章 ミノス文明
第3章 ミュケナイ文明
第4章 幾何学様式~アルカイック時代
第5章 クラシック時代
第6章 古代オリンピック
第7章 マケドニア王国
第8章 ヘレニズムとローマ
パンフレットには、「全325件 9割以上が日本初公開」「国内史上最大級のギリシャ展、奇蹟の開催!」「3600年前の色彩が目の前に。」「名品『漁夫のフレスコ画』日本初公開」という文字が躍ります。一番ピンと来たコピーは「時空を超えた旅」でした。陳列されたのは、いずれも数千年前のものばかりです。当時の日本は縄文時代か弥生時代でしょうか。そんなことをつらつら考えながら作品を眺めていました。
食事を終えて次に向かったのはそこから徒歩数分の東京藝術大学美術館でした。
〔観音の里の祈りとくらし展Ⅰ-びわ湖・長浜のホトケたち-〕は2014年でした。10年くらい前にレンタカーで琵琶湖の湖北を巡ったことが懐かしく思い出されました。第2弾の今回は、さらにパワーアップしていました。49作品のほとんどが仏像彫刻でした。
●東京藝術大学美術館ホームページより
〔観音の里の祈りとくらし展Ⅱ-びわ湖・長浜のホトケたち-〕
会期:2016年7月5日(火)- 8月7日(日)
主催:東京藝術大学、滋賀県長浜市
長浜市には、130を超える観音をはじめとするたくさんの仏像が伝わり、古くは奈良・平安時代に遡るものも多くあります。また、この地域は、戦国時代には「近江を制する者が、天下を制す」と言われ、幾多の戦乱や災害に見舞われましたが、そのたびに、地域住民の手によって観音像は難を逃れ、今日まで大切に守り継がれてきました。
これらの仏像は、大きな寺社に守られてきたのではありません。地域の暮らしに根付き、そこに住む人々の信仰や生活、地域の風土などと深く結び付きながら、今なお大切にひそやかに守り継がれています。
この展覧会では、このようなホトケたちの優れた造形とともに、こうした精神文化や生活文化を「祈りの文化」として紹介し、長い歴史の中で守り継がれてきた地域に息づく信仰のこころを全国に発信していきたいと考えています。
歴史・文化に彩られた北近江の長浜、この地に息づく「祈りの文化」と「観音の里」の魅力を通して、一人でも多くの方に、ホトケたちとそれを守る人びとの姿を感じ取って頂ければと考えています。
やはり同世代が多いのは言うまでもありませんが、若い男女がかなり熱心に鑑賞していることに驚きました。
医王寺の十一面観音立像、充満寺の伝薬師如来立像、石道寺の持国天立像・多聞天立像、宝厳寺の弁財天座像などには、やあやあ、お久しぶりでした、という懐かしい感じでした。嬉しかったのは観音寺の伝千手観音立像、正妙寺の千手千足観音立像、舎那院の愛染明王座像に会えたことです。とりわけ伝千手観音立像は素晴らしいですね。腕ががっちり太くて、ジャングルの大木を想起させられました。もっと迫力がありますが、東大寺の四月堂の千手観音立像を思い出しました(今は東大寺ミュージアムに納められていると聞きます)。どこから見てもバランスが抜群です。今回の展示作品の白眉と思います。
いずれにして、これだけの仏像を現地に訪ね歩くとしたら大変です。非公開の仏像が多いので事前連絡が必要ですし、拝観料や足代も馬鹿になりません。もちろんお寺で拝観するというのも魅力がありますが。
最後は国立西洋美術館です。ここに行く目的は2つです。一つ目は、ドイツ初期銅版画展を見ること、二つ目にフェルメール作品を見ることです。
ドイツ初期銅版画を題材にした地味な展覧会を今よく開催するなと正直思いました。でも国立西洋美術館は人で賑わっていました。先日世界遺産になったことが理由でしょう。
〔聖なるもの、俗なるもの メッケネムとドイツ初期銅版画〕はどうしても行きたかった展覧会です。リーメンシュナイダー、デューラー、グリューネヴァルト、ショーンガウアー、エーアハルト、パッハーなどは今年の旅のテーマです。そこに突然メッケネムが現れてきました。何者なのでしょうか。
●国立西洋美術館ホームページより
〔聖なるもの、俗なるもの メッケネムとドイツ初期銅版画〕
2016年7月9日(土)~2016年9月19日(月・祝)
主催:国立西洋美術館、ミュンヘン州立版画素描館、東京新聞
イスラエル・ファン・メッケネム(c.1445-1503)は、15世紀後半から16世紀初頭にライン川下流域の町で活動したドイツの銅版画家です。当時人気のショーンガウアーやデューラーら他の作家の作品を大量にコピーする一方、新しい試みもいち早く取り入れました。また、作品の売り出しにも戦略を駆使するなど、その旺盛な活動から生まれた作品は今日知られるだけでも500-600点あまりにのぼります。
メッケネム作品の多くはキリスト教主題をもち、人々の生活における信仰の重要性をしのばせます。もっとも、像の前で祈る者に煉獄での罪の償いを2万年分免除する《聖グレゴリウスのミサ》など、なかには当時の信仰生活の「俗」な側面が透けて見えるものも含まれます。また、当時ドイツの版画家たちは、まだ絵画では珍しかった非キリスト教的な主題にも取り組むようになっていましたが、メッケネムも、男女の駆け引きや人間と動物の逆転した力関係などをユーモアと風刺を込めて描いています。
本展は、ミュンヘン州立版画素描館や大英博物館などからも協力を得て、版画、絵画、工芸品など100点あまりで構成されます。聖俗がまじりあう中世からルネサンスへの移行期にドイツで活動したメッケネムの版画制作をたどるとともに、初期銅版画の発展と受容や工芸との関わり、コピーとオリジナルの問題、作品に映された当時の社会の様相などにも目を向けます。
かなり長いブログになったのでこれくらいにしておきます。これからゆっくり図録を楽しみたいと思います。
あっそうだ、秋に国立西洋美術館で日本初のクラーナハ展がありますよ。楽しみにしています。それにしても、リーメンシュナイダー展はいつ実現するのでしょうか。嗚呼。
最後にフェルメール作品について触れておきましょう。NHKのテレビドラマのモチーフにもなった「聖女プラクセデス」はかつて個人蔵ということで鑑賞できませんでしたが、現在は国立西洋美術館に常設展示されています。真贋論争の絶えない作品ですが、フェルメールゆかりの作品としては日本で唯一のものです。さすがに他の作品より注目度が高く、数人に取り囲まれていました。フェルメール作品としてはけっこう大きなものでした。ようやく鑑賞が適いました。そして、フェルメール作品は残すところあと2点、見損なったバッキンガム宮殿の「音楽の稽古」と盗難中の「合奏」のみです。はたして生きている間に「完全踏破」はなるのでしょうか。