2021年ジュネーヴ国際音楽コンクールのチェロ部門で優勝した上野通明(うえの・みちあき)がB→Cコンサートに出演した。曲目はすべて無伴奏チェロ曲だ。
1曲目はジョン・タヴナー(1944‐2013)の「トリノス」。わたしには未知の作曲家だが、石川亮子氏のプログラムノーツによると、「エストニアのアルヴォ・ペルトとともに、現代における宗教音楽の作曲家として独自の存在感を放つ」人だそうだ。チェロの深々とした音が印象的だった。それは曲のためか、演奏のためか。
2曲目はクセナキス(1922‐2001)の「コットス」。初めて聴く曲だ。第1回ロストロポーヴィチ国際チェロコンクールの課題曲として作曲されたそうだ(同プログラムノーツによる)。「クセナキスの音楽に特徴的なグリッサンドや、広い音域を執拗に行き来するパッセージ」(同)にはクセナキスらしさを感じたが、全般的には散漫な印象を受けた。
3曲目はバッハの「無伴奏チェロ組曲第6番」。この曲に至って、上野通明がどんな演奏家か、よくわかった。線が太くて逞しい演奏をする人だ。小ぢんまりとした枠には収まらない。従来の日本人演奏家のイメージからはみ出すスケール感がある。この曲の演奏にはホールを満たす存在感があった。
休憩をはさんで4曲目は森円花(もり・まどか)の「不死鳥」(2022)。上野通明の委嘱作品で世界初演だ。音楽と映像のコラボ作品(おそらく映像も森円花の制作だろう)(←下記の追記参照)。森円花自身のプログラムノートによれば、「故一柳慧氏のお導きもあり、聴覚芸術の音楽を視覚芸術の美術と融合することで空間芸術として再構成したいと考えた。」とある。映像そのものは比較的シンプルだが、「通奏全5楽章」(同)の切れ目が映像でよくわかり、理解の助けになった。
肺腑をえぐるような凄みのある音楽=演奏だ。足を踏み鳴らす打撃音が何度も入り、さらに凄みを加える。後半にはピチカートによる静寂の音楽と、フラジオレットによる静寂の音楽が入る。それらの音楽にはハッとするような優しさがある。わたしは当夜の演奏の中ではこの曲に一番インパクトを感じた。
5曲目はビーバーの「ロザリオのソナタ」から「パッサカリア」(原曲はヴァイオリン独奏曲だが、チェロ独奏用に編曲)。ドスの効いた低音は上野通明特有のものだ。6曲目はブリテンの「無伴奏チェロ組曲第3番」。いまさらながら、バッハやビーバーとは全く異なる原理による曲だと痛感。中音域から高音域が主体のこの曲の、その音域の音色は、ピーター・ピアーズの声を思わせることに気が付いた。
(2022.12.20.東京オペラシティ・リサイタルホール)
(追記)
映像はSao Ohtakeさんの制作だったようだ。下記のコメント欄を参照。
1曲目はジョン・タヴナー(1944‐2013)の「トリノス」。わたしには未知の作曲家だが、石川亮子氏のプログラムノーツによると、「エストニアのアルヴォ・ペルトとともに、現代における宗教音楽の作曲家として独自の存在感を放つ」人だそうだ。チェロの深々とした音が印象的だった。それは曲のためか、演奏のためか。
2曲目はクセナキス(1922‐2001)の「コットス」。初めて聴く曲だ。第1回ロストロポーヴィチ国際チェロコンクールの課題曲として作曲されたそうだ(同プログラムノーツによる)。「クセナキスの音楽に特徴的なグリッサンドや、広い音域を執拗に行き来するパッセージ」(同)にはクセナキスらしさを感じたが、全般的には散漫な印象を受けた。
3曲目はバッハの「無伴奏チェロ組曲第6番」。この曲に至って、上野通明がどんな演奏家か、よくわかった。線が太くて逞しい演奏をする人だ。小ぢんまりとした枠には収まらない。従来の日本人演奏家のイメージからはみ出すスケール感がある。この曲の演奏にはホールを満たす存在感があった。
休憩をはさんで4曲目は森円花(もり・まどか)の「不死鳥」(2022)。上野通明の委嘱作品で世界初演だ。音楽と映像のコラボ作品(おそらく映像も森円花の制作だろう)(←下記の追記参照)。森円花自身のプログラムノートによれば、「故一柳慧氏のお導きもあり、聴覚芸術の音楽を視覚芸術の美術と融合することで空間芸術として再構成したいと考えた。」とある。映像そのものは比較的シンプルだが、「通奏全5楽章」(同)の切れ目が映像でよくわかり、理解の助けになった。
肺腑をえぐるような凄みのある音楽=演奏だ。足を踏み鳴らす打撃音が何度も入り、さらに凄みを加える。後半にはピチカートによる静寂の音楽と、フラジオレットによる静寂の音楽が入る。それらの音楽にはハッとするような優しさがある。わたしは当夜の演奏の中ではこの曲に一番インパクトを感じた。
5曲目はビーバーの「ロザリオのソナタ」から「パッサカリア」(原曲はヴァイオリン独奏曲だが、チェロ独奏用に編曲)。ドスの効いた低音は上野通明特有のものだ。6曲目はブリテンの「無伴奏チェロ組曲第3番」。いまさらながら、バッハやビーバーとは全く異なる原理による曲だと痛感。中音域から高音域が主体のこの曲の、その音域の音色は、ピーター・ピアーズの声を思わせることに気が付いた。
(2022.12.20.東京オペラシティ・リサイタルホール)
(追記)
映像はSao Ohtakeさんの制作だったようだ。下記のコメント欄を参照。
ご指摘ありがとうございます。
たぶん私がプログラムの記載を見落としていたのでしょうね。
Sao Ohtakeさんにも森円花さんにも失礼なことをしてしまいました。
申し訳ありません。