ニューヨークのメトロポリタン歌劇場(MET)の新制作「グラウンデッド 翼を折られたパイロット」。イラク戦争に従軍する女性パイロット・ジェスは、休暇でワイオミングに帰ったときに、牧場主のエリックと出会い、一夜を共にする。ジェスは妊娠する。ジェスはエリックと結婚し、休職する。子育てが終わり、復職すると、司令官からドローンの操縦への転属を命じられる。ラスヴェガスの近郊でモニターを見ながらドローンを操縦する。ジェスは敵の大物を見つける。攻撃しようとしたそのときに‥。
興味深い点は、戦闘機に乗っていたときのジェスと、ドローンを操縦するようになってからのジェスとの対比だ。戦闘機に乗っていたときのジェスは、敵の攻撃にさらされ、死と隣り合わせだった。一方、ドローンを操縦するようになったジェスは、死の危険がなくなり、勤務が終わると、家族のもとに帰る。だがモニターには自分が攻撃する敵の顔が見える。ばらばらの死体が見える。戦闘機に乗っていたときには見えなかったものだ。ドローンを操縦するようになってから、戦争がリアルになった。リアルな戦争が日常生活と隣り合わせだ。ジェスの精神は失調する。
常に戦争をする国・アメリカの現実を描いたオペラだ。オペラが今もアクチュアルな問題を扱い得るジャンルであることを示す。
台本はジョージ・ブラント。幕間のインタビューによると、当初は女性一人の芝居だったそうだ。それをMETの依頼でオペラにする際に、エリックなどの登場人物を加えたという。なるほど、そういわれると頷けるが、ジェスの襞の多い人物像にくらべると、脇役の造形が浅い。とくにエリックがステレオタイプだ。METからの依頼なので仕方ないが、いっそのことモノオペラにしたほうが良かったかもしれない。
作曲はジャニーン・テソーリ。ベテランの女性作曲家だ。幕開きのジェスのアリアなど感銘深い。幕間のインタビューによると、ジェスを歌うエミリー・ダンジェロのヴォイス・トレーニングに立ち合い、その声質と可能性を見極めたうえで書いたそうだ。本作は2023年にワシントンで初演された。今回のMET上演にあたり、指揮のヤニック・ネゼ=セガンとも合意のうえ、一部カットしたようだ。
ジェスを歌うエミリー・ダンジェロは感動的だ。しっかりと安定した硬質な声で、ジェスの軍人の喜びから、戦争のリアルに目覚めて苦悩する姿までを表現した。ヤニック・ネゼ=セガンの指揮はいつものように熱い。そしてもう一つ、現代の問題を扱うオペラを制作し、それを(観客の入りが悪いのを承知のうえで)ライブビューイングで提供し続けるMETに賛辞を贈りたい。
(2024.12.13.109シネマズ二子玉川)
興味深い点は、戦闘機に乗っていたときのジェスと、ドローンを操縦するようになってからのジェスとの対比だ。戦闘機に乗っていたときのジェスは、敵の攻撃にさらされ、死と隣り合わせだった。一方、ドローンを操縦するようになったジェスは、死の危険がなくなり、勤務が終わると、家族のもとに帰る。だがモニターには自分が攻撃する敵の顔が見える。ばらばらの死体が見える。戦闘機に乗っていたときには見えなかったものだ。ドローンを操縦するようになってから、戦争がリアルになった。リアルな戦争が日常生活と隣り合わせだ。ジェスの精神は失調する。
常に戦争をする国・アメリカの現実を描いたオペラだ。オペラが今もアクチュアルな問題を扱い得るジャンルであることを示す。
台本はジョージ・ブラント。幕間のインタビューによると、当初は女性一人の芝居だったそうだ。それをMETの依頼でオペラにする際に、エリックなどの登場人物を加えたという。なるほど、そういわれると頷けるが、ジェスの襞の多い人物像にくらべると、脇役の造形が浅い。とくにエリックがステレオタイプだ。METからの依頼なので仕方ないが、いっそのことモノオペラにしたほうが良かったかもしれない。
作曲はジャニーン・テソーリ。ベテランの女性作曲家だ。幕開きのジェスのアリアなど感銘深い。幕間のインタビューによると、ジェスを歌うエミリー・ダンジェロのヴォイス・トレーニングに立ち合い、その声質と可能性を見極めたうえで書いたそうだ。本作は2023年にワシントンで初演された。今回のMET上演にあたり、指揮のヤニック・ネゼ=セガンとも合意のうえ、一部カットしたようだ。
ジェスを歌うエミリー・ダンジェロは感動的だ。しっかりと安定した硬質な声で、ジェスの軍人の喜びから、戦争のリアルに目覚めて苦悩する姿までを表現した。ヤニック・ネゼ=セガンの指揮はいつものように熱い。そしてもう一つ、現代の問題を扱うオペラを制作し、それを(観客の入りが悪いのを承知のうえで)ライブビューイングで提供し続けるMETに賛辞を贈りたい。
(2024.12.13.109シネマズ二子玉川)