Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

アダム・フィッシャーのCD

2020年12月05日 | 音楽
 わたしが愛読しているブログに「クラシックおっかけ日記」(※)がある。数カ月前にそのブログでアダム・フィッシャー指揮デンマーク室内管のベートーヴェンの交響曲全集のCDが紹介された。そのCDはドイツの音楽賞「オープス・クラシック(OPUS KLASSIK)2020」の交響曲部門(19世紀音楽の部)を受賞したそうだ。ティーレマン指揮ドレスデン・シュターツカペレのシューマンの交響曲全集などのCDと競り勝ったので、どんな演奏かと、ナクソス・ミュージックライブラリー(NML)で聴いてみた。

 全体を通してノンヴィブラート奏法で演奏されている。音を短く切り、アクセントが強い。強弱やテンポの変化が急激だ。隠れた声部の強調もみられる。一言でいえばピリオド・スタイルの演奏なのだが、それ以上にアダム・フィッシャーのやりたいことが徹底された演奏と感じる。指揮者の意図がオーケストラに徹底されると、これほどまでに筋の通った演奏になるのかと、啓示を受けたような気がした。

 全9曲の中でどれか1曲選ぶとすれば第8番だ。どの部分をとっても、音のベクトルが揃っている。第2楽章ではベートーヴェンが仕掛けたユーモアが全開だ。もっとも、演奏とは関係ないことだが、ひとつ問題がある。CDの編集上のミスで、第3楽章のトラックの終わりに第4楽章の頭が少し入っている。最初聴いたときには、ぎょっとした。

 その他の曲では、第6番「田園」の第3楽章が、複合三部形式の中間部で、弦の主題が独特のアーティキュレーションで演奏されている。武骨な農民たちの踊りを彷彿とさせる。また第9番「合唱付き」の第1楽章第1主題が、音を短く切って、明確な方向性をもって演奏されるので、神秘的な雰囲気が消え、むしろ決然たる音楽になっている。ベートーヴェンが想定した音楽はこうだったかもしれないと、ふと思う。

 アダム・フィッシャーは、デンマーク室内管の首席指揮者を務めるとともに、デユッセルドルフ響の首席指揮者も務めている。そのデユッセルドルフ響と録音したマーラーの交響曲第3番が、前年の「オープス・クラシック2019」の同部門を受賞している。アダム・フィッシャーは(異なるオーケストラで)2年連続で同賞を受賞したわけだ。そのマーラーのCDも聴いてみた。

 正直にいうと、最初は戸惑った。デンマーク室内管とのベートーヴェンが、ピリオド様式の尖った演奏なのにたいして、デユッセルドルフ響とのマーラーは、オーソドックスで安定した演奏だ。もう一度聴いてみて、やっとよさがわかった。この演奏はオーケストラをバランスよく鳴らした点に最大の特徴がある。くわえてアーティキュレーションに曖昧さがなく、自然な呼吸感を失わない。実演でこの演奏を聴いたら、オーケストラの充実ぶりに驚くだろう。それにしても対照的な演奏スタイルを使い分けるアダム・フィッシャーに驚嘆する。

(※)「クラシックおっかけ日記」
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5 コメント

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Unknown (Unknown)
2020-12-11 10:31:52
茂木大輔氏の著書は未読ですが、「クラシックおっかけ日記」にN響の件が書かれていたのを読みました。演奏を練り上げるに際して奏者間にバトルがあることは寧ろ良いことではないか、と私は思っているのですが、その結果不十分な演奏を聞かされるのはたまったモンじゃないですね笑。
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Unknown (Eno)
2020-12-10 09:26:27
おおっ、猫またぎなリスナーさんでしたか。お元気ですか。アダム・フィッシャーは都響を振っていたころに、何度か聴いたことがあるのですが、そのころはピリオド系の演奏ではなく、またマーラーで聴くような大指揮者でもなかったように記憶しています。
先日、茂木大輔さんの新著を読みましたが、そこにアダム・フィッシャーとN響のトラブルのことが書いてありました。アダム・フィッシャーのCDを聴くと、N響にも問題があると感じてしまいます。
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Unknown (猫またぎなリスナー)
2020-12-09 19:16:11
ハイドンの件、名無しで送ってました。猫またぎです。ピリオド志向のフィッシャーが初期中期ハイドンに合うのは、まぁ当然と言えば当然。それよりもマーラーのご感想に興味を持ちました。じっくり聴いてみます。
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Unknown (Eno)
2020-12-09 08:23:44
ご教示ありがとうございます。アダム・フィッシャーのハイドンは、何か数曲聴いた記憶がありますが、あまり覚えていません。パリ・セット、おもしろそうですね。今度聴いてみます。
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Unknown (Unknown)
2020-12-09 07:11:03
アダム・フィッシャーは数年前ハイドンの交響曲の全集をけっこう時間掛けて聴き込んだことがあります。後期のザロモンセットより、初期・中期が圧倒的に面白く思えるのはこの指揮者ならではと思います。特に「熊」や「王妃」を含むパリ・セットの6曲は大変優れた演奏でした。もし未聴でしたら是非。
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