Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ポーラ美術館「シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート」展

2019年09月30日 | 美術
 ポーラ美術館で同館初めての現代美術展が開かれている。「シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート」展。その題名通り、モネ、セザンヌ、ピカソなどの絵画と現代アートとを対置する企画。

 全体は12のセクションに分かれている。1番目のセクションではモネの「睡蓮」とフランスのアーティスト、セレスト・ブルシエ=ムジュノ(1961‐)の「クリナメンv.7」が対置されている。チラシ(↑)に写っている緑色の四角形がモネの「睡蓮」、その下の水色の円形がブルシエの「クリナメン」(チラシの作品は「v.4」で2017年リヨン・ビエンナーレのヴァージョン)。

 「クリナメン」は浅いプールを作り、そこに水を張って、白い大小さまざまな器を浮かべたもの。水が循環し、器が触れ合う。大小、高低さまざまな音が鳴る。エコーのようにいくつかの音が続けて鳴る場合もあれば、しばらく無音の状態が続いた後、思いがけないタイミングで一音が鳴る場合もある。偶然性そのもの。

 本作を見た(聴いた)後でモネの「睡蓮」を見ると、池に浮かぶ睡蓮が、偶然そこに位置したものであり、意図した構成ではない(あるいは、意識的に中心点を消している)と強く感じる。また逆に、ブルシエ作品に戻ると、そこに浮かぶ白い器は、モネの睡蓮のように見えてくる。

 シンコペーションとは音楽用語で強拍、弱拍の拍節感をずらすリズム処理のことだが、なるほど、本展のコンセプトを表す的確なネーミングだと思う。モネとブルシエと、それぞれの作品が、少しずつ異なる位相から、お互いを批評し、鑑賞者に新鮮な目を与える。

 以下のセクションでは、わたしは横溝静(1966年生まれ)の「永遠に、そしてふたたび」という2チャンネルのヴィデオ・インスタレーションとボナールの「ミモザのある階段」の組み合わせに惹かれた。横溝の作品は、年老いた女性がショパンのワルツを弾くシンプルなものだが、それをボナールの絵画と組み合わせることによって、「だれにでも、庭とか書斎とか、大切な場所がある」と語りかける。では、わたしの大切な場所はどこだろう?と自問した。

 異色だったのは、スーザン・フィリップス(1965年イギリス生まれ)の「ウインド・ウッド」という11チャンネルのサウンド・インスタレーション。ラヴェルのオーケストラ伴奏つき歌曲集「シェヘラザード」の中の第2曲「魔法の笛」からフルートのパートを取り出し、それを断片化して、森の中の木々に取り付けた11個のスピーカーから流すもの。森のあちこちから音が聴こえる。人間の知らない森の音楽のようだ。
(2019.8.22.ポーラ美術館)

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