新国立劇場の「ジュリオ・チェーザレ」の最終日を観た。同劇場の記念すべきバロック・オペラ第一弾(昨シーズンの「オルフェオとエウリディーチェ」をバロック・オペラにふくめるなら、むしろヘンデル・オペラ第一弾といったほうがいいか)だと思った。
まず演出だが、ロラン・ペリーのこの演出は、舞台を博物館の倉庫にとっている。ローマ時代の彫刻その他が保管されている。それらの古代の遺物からジュリオ・チェーザレ(=ジュリアス・シーザー)、クレオパトラ、その他の人々の魂が動きだす。そのドラマがこのオペラだ。一方、舞台は博物館の倉庫なので、多数の労働者が出入りする。労働者たちは古代の人々の魂が見えない。その結果、舞台には古代の人々の魂と労働者たちが(お互い無関係に)共存する。その設定がバロック・オペラの世界を現代につなぐ。
オーケストラにも感心した。リナルド・アレッサンドリーニ指揮の東京フィルが演奏したが(通奏低音にチェンバロ、チェロ、テオルボ2本が加わった)、その演奏がじつに生き生きしていた。それは嬉しい驚きだった。アレッサンドリーニの指揮のたまものだろう。「オルフェオとエウリディーチェ」のときのオーケストラとは格段の差だ。
歌手でもっとも光っていたのはクレオパトラ役の森谷真理だ。すばらしい存在感があった。後述するが、標題役の歌手が弱かったので、このオペラは「ジュリオ・チェーザレ」ではなく「クレオパトラ」だという感があった。森谷真理は東京二期会の「ルル」の標題役で感心した記憶があるが、その歌手がバロック・オペラもこんなふうにうたえるとは、時代が変わったと思う。
ジュリオ・チェーザレ役だが、マリアンネ・べアーテ・キーランドという歌手がうたった。背が高くて、ヴィジュアル的には惚れ惚れするほどのズボン役だが、声にパワーがない。技巧的にはしっかりしているので、残念だ。声域的には、高音はそれなりに出るが、低音があまり出ない。キーランドはバッハ・コレギウム・ジャパンによく出演しているそうだ。そのときの評判はどうなのだろう。
敵役のトロメーオは藤木大地がうたった。率直にいって、以前ほど声の艶と伸びが感じられなかった。どうしたのだろう。今回だけのことか。日本の貴重なカウンターテナーなので、聴衆としても大切にしたいのだが。
その他の歌手は、アキッラ役の外人歌手を除いて、すべて日本人歌手がうたった。カヴァー歌手をふくめて、日本人歌手の層の厚みが増しているのだろう。なかでもニレーノ役の村松稔之(カウンターテナー)には、怪異な演技に笑いのセンスがあり、拍手を集めた。
(2022.10.10.新国立劇場)
まず演出だが、ロラン・ペリーのこの演出は、舞台を博物館の倉庫にとっている。ローマ時代の彫刻その他が保管されている。それらの古代の遺物からジュリオ・チェーザレ(=ジュリアス・シーザー)、クレオパトラ、その他の人々の魂が動きだす。そのドラマがこのオペラだ。一方、舞台は博物館の倉庫なので、多数の労働者が出入りする。労働者たちは古代の人々の魂が見えない。その結果、舞台には古代の人々の魂と労働者たちが(お互い無関係に)共存する。その設定がバロック・オペラの世界を現代につなぐ。
オーケストラにも感心した。リナルド・アレッサンドリーニ指揮の東京フィルが演奏したが(通奏低音にチェンバロ、チェロ、テオルボ2本が加わった)、その演奏がじつに生き生きしていた。それは嬉しい驚きだった。アレッサンドリーニの指揮のたまものだろう。「オルフェオとエウリディーチェ」のときのオーケストラとは格段の差だ。
歌手でもっとも光っていたのはクレオパトラ役の森谷真理だ。すばらしい存在感があった。後述するが、標題役の歌手が弱かったので、このオペラは「ジュリオ・チェーザレ」ではなく「クレオパトラ」だという感があった。森谷真理は東京二期会の「ルル」の標題役で感心した記憶があるが、その歌手がバロック・オペラもこんなふうにうたえるとは、時代が変わったと思う。
ジュリオ・チェーザレ役だが、マリアンネ・べアーテ・キーランドという歌手がうたった。背が高くて、ヴィジュアル的には惚れ惚れするほどのズボン役だが、声にパワーがない。技巧的にはしっかりしているので、残念だ。声域的には、高音はそれなりに出るが、低音があまり出ない。キーランドはバッハ・コレギウム・ジャパンによく出演しているそうだ。そのときの評判はどうなのだろう。
敵役のトロメーオは藤木大地がうたった。率直にいって、以前ほど声の艶と伸びが感じられなかった。どうしたのだろう。今回だけのことか。日本の貴重なカウンターテナーなので、聴衆としても大切にしたいのだが。
その他の歌手は、アキッラ役の外人歌手を除いて、すべて日本人歌手がうたった。カヴァー歌手をふくめて、日本人歌手の層の厚みが増しているのだろう。なかでもニレーノ役の村松稔之(カウンターテナー)には、怪異な演技に笑いのセンスがあり、拍手を集めた。
(2022.10.10.新国立劇場)