Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

新国立劇場「ジュリオ・チェーザレ」

2022年10月11日 | 音楽
 新国立劇場の「ジュリオ・チェーザレ」の最終日を観た。同劇場の記念すべきバロック・オペラ第一弾(昨シーズンの「オルフェオとエウリディーチェ」をバロック・オペラにふくめるなら、むしろヘンデル・オペラ第一弾といったほうがいいか)だと思った。

 まず演出だが、ロラン・ペリーのこの演出は、舞台を博物館の倉庫にとっている。ローマ時代の彫刻その他が保管されている。それらの古代の遺物からジュリオ・チェーザレ(=ジュリアス・シーザー)、クレオパトラ、その他の人々の魂が動きだす。そのドラマがこのオペラだ。一方、舞台は博物館の倉庫なので、多数の労働者が出入りする。労働者たちは古代の人々の魂が見えない。その結果、舞台には古代の人々の魂と労働者たちが(お互い無関係に)共存する。その設定がバロック・オペラの世界を現代につなぐ。

 オーケストラにも感心した。リナルド・アレッサンドリーニ指揮の東京フィルが演奏したが(通奏低音にチェンバロ、チェロ、テオルボ2本が加わった)、その演奏がじつに生き生きしていた。それは嬉しい驚きだった。アレッサンドリーニの指揮のたまものだろう。「オルフェオとエウリディーチェ」のときのオーケストラとは格段の差だ。

 歌手でもっとも光っていたのはクレオパトラ役の森谷真理だ。すばらしい存在感があった。後述するが、標題役の歌手が弱かったので、このオペラは「ジュリオ・チェーザレ」ではなく「クレオパトラ」だという感があった。森谷真理は東京二期会の「ルル」の標題役で感心した記憶があるが、その歌手がバロック・オペラもこんなふうにうたえるとは、時代が変わったと思う。

 ジュリオ・チェーザレ役だが、マリアンネ・べアーテ・キーランドという歌手がうたった。背が高くて、ヴィジュアル的には惚れ惚れするほどのズボン役だが、声にパワーがない。技巧的にはしっかりしているので、残念だ。声域的には、高音はそれなりに出るが、低音があまり出ない。キーランドはバッハ・コレギウム・ジャパンによく出演しているそうだ。そのときの評判はどうなのだろう。

 敵役のトロメーオは藤木大地がうたった。率直にいって、以前ほど声の艶と伸びが感じられなかった。どうしたのだろう。今回だけのことか。日本の貴重なカウンターテナーなので、聴衆としても大切にしたいのだが。

 その他の歌手は、アキッラ役の外人歌手を除いて、すべて日本人歌手がうたった。カヴァー歌手をふくめて、日本人歌手の層の厚みが増しているのだろう。なかでもニレーノ役の村松稔之(カウンターテナー)には、怪異な演技に笑いのセンスがあり、拍手を集めた。
(2022.10.10.新国立劇場)

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2 コメント

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Unknown (Eno)
2022-10-11 15:38:14
charis様もいらしてたんですね。ほんとうにおもしろいオペラでした。ヘンデルのオペラって、単純なダカーポ・アリアの連続なのに、なぜこんなにおもしろいのだろうと思います。登場人物の造形もそうですね。どの登場人物も単純だけれど、上演するとおもしろいという。
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Unknown (charisの美学日誌)
2022-10-11 15:14:14
私も昨日でした。おっしゃる通り、クレオパトラの森谷真理はとてもよかったですね。私は3月に見て、演出の工夫でこんなに面白くしたのかな、と感じていたのですが、今回見て、ヘンデルの原作そのものがとても楽しい作品であることが分かりました。
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