Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

インキネン/日本フィル(横浜定期)

2024年11月24日 | 音楽
 インキネンが久しぶりに日本フィルに戻って、横浜定期を振った。2023年4月の東京定期以来だ。わずか1年半ぶりにすぎないが、もっと間があいた気がするのはなぜだろう。日本フィルがカーチュン・ウォン時代に入ったからか。

 1曲目はグラズノフのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏は神尾真由子。けっこう聴く機会の多い曲だが、神尾真由子の演奏は、濃厚な表情付けで、しかもその表情付けがロシア的な節回しを感じさせる点で個性的だった。ロシアの曲なので、ロシア的な節回しは当然といえば当然だが、意外にこの曲の演奏ではロシアを感じたことはない。もっとあっさりした演奏が多い気がする。

 神尾真由子はアンコールにパガニーニの「24のカプリース」から第24番を弾いた。これも太い音で荒々しい演奏だった。音色も暗めだ。イタリア的な明るく軽い演奏ではない。ちょっと珍しいパガニーニだった。

 2曲目はリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」。100人を超えるオーケストラが舞台を埋めつくす。これほど多くの人間が集まって一つの曲を演奏する光景を見ると、最近は(「アルプス交響曲」にかぎらず)、過去の遺物というと語弊があるが、過去のある時期に生まれた一つの現象を見る思いがする。けっしてその現象を揶揄するわけではなく、むしろわたしは「アルプス交響曲」が好きなのだが。

 冒頭の「夜」の部分では、低弦のうごめきにワーグナーの「ラインの黄金」の序奏に似た動きを感じた。何度も聴いた曲なのに、なぜいまさら……と我ながら怪訝に思う。インキネンがワーグナー指揮者だからだろうか。続く前半部は(山麓から歩き始めて山頂に着くまでは)小さなエピソードの連続だ。それらのエピソードを、余裕をもって丁寧に描く。オペラ指揮者としての経験がものをいっているのだろう。

 山頂に着いた場面では、雄大で充実した音が鳴った。インキネンの音楽はずいぶん大きくなったと感慨もひとしおだ。わたしはインキネンを2008年4月の横浜定期への初登場以来聴いているが、それから16年たち、すっかり成長した姿を目の当たりにする思いがした。

 下山にかかり、嵐の激しさも迫力十分だったが、嵐が過ぎた後のスケールの大きな音楽の、とくに弦楽器のたっぷりした歌い方が感動的だった。澄んだ音で、しかも熱がこもっていた。上記の2008年当時のインキネンはクールな音だったが、今はドイツ音楽の熱い音が出るようになった。その音で旋律線を隅々まで歌いつくす。何も変わったことはしていないのに、充実した音楽が現れた。
(2024.11.23.みなとみらいホール)

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