Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

下野竜也/日本フィル

2022年12月10日 | 音楽
 巷ではティーレマン指揮シュターツカペレ・ベルリンの来日公演が評判になっているが、一方では下野竜也指揮日本フィルが、外国オーケストラの来日公演では組めないプログラムを組んだ。

 プログラム前半は、ジェラルド・フィンジ(1901‐1956)の「入祭唱」、マーク=アンソニー・タネジ(1960‐)の「3人の叫ぶ教皇」そしてフィンジの「武器よさらば」を(あいだを空けずに)続けて演奏するもの。

 フィンジの「入祭唱」は、元はヴァイオリン協奏曲の第2楽章であったものを独立させた曲のようだ(等松春夫氏のプログラムノーツ)。なるほど独奏ヴァイオリン(コンサートマスターの扇谷泰朋が美しい音色を聴かせた)が終始歌い、そこにオーケストラが(イングランドの田園風景を思わせるような)穏やかなバックを付ける。

 タネジの「3人の叫ぶ教皇」は一転して激しい曲だ。ジャズのイディオムも現れる。オーケストラの編成は巨大だ。そのような曲は下野竜也の得意中の得意だ。クリアーな音(音が少しも混濁しないことが特筆ものだ)とシャープなリズムで見事な演奏を展開した。日本フィルは、近現代物の場合は、下野竜也とやるときが一番良い演奏をするのではないかと思わせる演奏だ。日本フィルのイメージを更新するインパクトがあった。

 続くフィンジの「武器よさらば」はテノール独唱が入る美しい曲だ(糸賀修平が切々と訴える歌唱を聴かせた)。歌詞はラルフ・ネヴェット(1600‐1671)とジョージ・ピール(1556‐1596)の詩が使われている。詩の対訳が掲載されていた。ともに武器を捨てて平和に生きることを訴える詩だ。

 二人の詩人がどのような人なのか、わたしは知らないが、それらの詩を読むと、共通する詩句があった。ネヴェットの詩の「鉄兜は今や蜂たちの巣となり」(三ヶ尻正氏の訳。原文はThe helmet now hive for bees becomes)という詩句と、ピールの詩の(訳文では)同じ詩句(原文はHis helmet now shall make a hive for bees)だ。二つの詩句の共通性は偶然なのか。

 プログラム後半はヴォーン・ウィリアムズの交響曲第6番。全4楽章からなり、第3楽章までは尖ったリズムの曲だが、第4楽章(エピローグと名付けられている)が一転して静かな曲になる。まるで時間が止まったような感覚だ。ショスタコーヴィチの交響曲第8番の第5楽章(最終楽章)を思い出したが、関連があるのかどうか。演奏は切れ味が良く、安定感にも事欠かない。これまた見事な演奏だった。
(2022.12.9.サントリーホール)

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