平成エンタメ研究所

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「ルックバック」~コミック・アニメの「革命」と言われている作品を観た!

2024年12月13日 | コミック・アニメ・特撮
 コミック・アニメ業界で「革命」といわれている劇場アニメ『ルックバック』
 わずか58分の作品だ。
 原作の藤本タツキ先生に拠ると、タイトル『ルックバック』には3つの意味があるらしい。

 ひとつは「背中を見ろ」
 作品では、漫画を描く藤野(CV河合優実)の背中がひたすら描かれる。
 その後ろには、アシスタントとしてこたつで漫画の背景を描いている京本(CV吉田美月喜)。
 京本は漫画を描く藤野の背中を見ている。
 面白い漫画を生み出す藤野を驚嘆と賞賛の目で見ている。
 そう、『ルックバック』はこの光景をひたすら描く作品なのだ。

 この背中の描写が実に見事でリアル。
 漫画を描くことにのめり込むあまり体が大きく左に傾いたり、極端に前屈みになったり。
 ただそれだけだが、ぜんぜん退屈しない。それだけで見ていられる。
 藤子不二雄先生の『まんが道』でも漫画を描く漫画家の背中が描かれたが、
 漫画を描くというのは「背中を描く」ということなのだ。

 ふたつめは「過去をふり返る」
 藤野は京本といっしょに漫画を描いていた過去をふり返る。
 それはかけがえのない時間。
 大変だったけど、とても楽しかった時間。
 こうした時間を得られただけでも人生の意味はある。

 三つ目は「背景を見ろ」
 漫画やアニメでは、どうしても「ストーリー」「キャラクター」に目が行って、
「背景」は忘れられがち。
 でも「背景」も見てほしい。
 背景ってすごいのだ。
 特に京本の描いた背景はすごかった。
 藤野は大ヒット漫画家となったが、京本をリスペクトしている。
 京本の存在を忘れないでほしいと訴えている。

 そして後半。
 藤野と京本が別れてからの物語。

 以下、ネタバレ。

※関連動画はこちら
『LOOK BACK』オフィシャルトレーラー(YouYube)

 …………………………………………………………

 そして後半。
 あの後半をどう解釈すればいいのだろう?

 京本の部屋の扉を「現実とフィクションを繋ぐ扉」と解釈している方がいて、なるほど!
 いろいろ考察がふくらむ解釈だ。

 僕はもっと単純に解釈していて、
「もし京本が部屋から出ずに引きこもりを続けていたら」の描写は、藤野の空想だと考えている。

 もし京本が部屋から出なかったら自分が空手で助けて、ふたりはいっしょに漫画を描く。
 これで京本は死なずにハッピーエンド。明るい希望に満ちた未来。
 藤野はこれを求めて空想した。
 空想の世界なら、こうしたハッピーエンドはいくらでも作れる。
 だが現実は……?
 京本は亡くなっていて帰って来ない……。

 藤野は亡くなった京本の部屋に入る。
 そこにはスケッチブックの山と、藤野の漫画のコミックスと読者のアンケートハガキ。
 別れて離ればなれになっていても、京本は藤野の漫画のファンで応援していた。
 京本はずっと藤野を見ていた。

 そしてドアの所には、藤野のサインが書かれたどてら・丹前。
 京本がいつも羽織っていたものだ。
 ここで藤野は『京本の背中』を見せられる。
 この京本の背中が訴えているメッセージは何か?

「藤野さん、漫画を描いて! 藤野さんはすごいんだから!」

 この京本のメッセージを見て、藤野はふたたび漫画を描き始める。
 しかし、このラストは明るく力強いものではない。
 藤野はひとりぼっちだからだ。
 もはや京本はいない。
 藤野はこれからひとりで漫画を描いていかなくてはならない。

 さまざまな感情を抱かせる、見事なラストだった。


※追記
 藤野役の声は『不適切にもほどがある』『家族だから……』の河合優実さん。
 上手すぎる!
 何だ、このさりげない感情演技!
 これは型にはまった既存の声優さんではできない表現!

 京本役の吉田美月喜さんもすごかった。
 僕は存じ上げなかったが、スタダのモデル・女優さんで、いろいろな作品に出ている。
 今後の活躍が楽しみだ。

※追記
 このラストを見て、僕は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を思い出した。
 カンパネルラを失ってジョバンニはこれからひとりで生きていかなくてはならない。
 人々の幸いのためにジョバンニはひとりで苦闘しなければならない。
 この姿は藤本に重なった。


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