平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

コロナ蔓延の時期だからこそ、エドガー・アラン・ポーの『赤き死の仮面』を読もう!

2020年03月29日 | 短編小説
 コロナ蔓延の時期だからこそ、エドガー・アラン・ポーの『赤き死の仮面』を読む。
 冒頭の書き出しはこうだ。

「赤死病」が国土を荒廃させてからすでに久しかった。
 かほど致命的、かほど忌まわしい疫病はためしがなかった。
 血がその権化、その紋章だった──血の赤さと血の恐怖が。
 激烈な苦痛、突然の眩暈(めまい)、毛穴からの大量出血、そして死。


 この疫病で人口の半分が失われる中、プロスペロ公は宮廷の騎士や貴婦人を城塞風の僧院の中に集め、引きこもる。
 食糧を十分に蓄え、享楽に耽る。

 公は娯楽のためのあらゆる手立てを整えておいた。
 道化師もいれば、即興詩人もいた。舞姫もいれば、美女もおり、葡萄酒もあった。
 これらすべてと安泰は内部にあり、外部には「赤死病」があった。


 享楽に耽るプロスペロ公は大がかりな仮面舞踏会を開く。
 仮面をつけて皆が踊る中、貴族たちは嫌悪を覚えずにはいられないひとりの異質な人物に気づく。

 この人物は丈高く、痩せこけ、頭から爪先まで死の装束をまとっていた。
 顔をかくす仮面は硬直した死体の容貌にこよなく似せられ、いかほど目を凝らして吟味しても、その真贋を見極めるのは困難だっただろう。
 しかしこれだけなら、酔狂な連中のことゆえ、是認はしなかったにせよ、大目に見てやったことだろう。
 だがこの役者は、こともあろうに「赤死病」の化身に扮していた。
 衣裳は血でまみれ──その広い額と顔全体は「緋色の恐怖」で点々と彩られていた。


 さあ、「赤き死の仮面」の登場だ。
 貴族たちが彼を見て嫌悪を抱いたのは、それが「死」を象徴しているからだ。
「赤死病」や「死」から目を逸らすために享楽に耽っていたのに、見せつけられたら堪らない。
 プロスペロ公は激怒する。
「何者だ? ひっとらえて仮面を剥げ! 正体を確かめ、日の出には胸壁から吊して縛り首にしてくれようぞ!」
 しかし、仮面の男を捕まえてみると──

 掴みかかり、その経帷子(きょうかたびら)と死の仮面をまこと手荒く引き剥がしてみると、驚くなかれ、中には手ごたえのある姿はさらになく、その名状しがたい恐怖に、彼らは声もなく喘ぐばかりだった。

 何と「仮面の男」には実体がなかったのだ!
 そしてラスト。

 今や「赤死病」が侵入してきたことは誰の目にも明らかだった。
 それは夜盗のように潜入してきたのだった。
 宴の人びとは一人また一人と彼らの歓楽の殿堂の血濡れた床にくずれ落ち、その絶望的な姿勢のまま息絶えていった。
 そして黒檀の時計の命脈も、陽気に浮かれていた連中の最後の者の死とともに尽きた。
 三脚台の焔(ほのお)も消えた。
 あとは暗黒と荒廃と「赤死病」があらゆるものの上に無限の支配権をふるうばかりだった。


 すごいイメージですね。
「赤き死の仮面」は「赤死病」に脅えるプロスペロ公や貴族たちが見た幻覚なのか?
 はたまた「赤死病」が実体化したものなのか?

 ポーの作品は一篇の詩である。
 その悪夢のような詩の世界に酔えばいい。
『アッシャー家の崩壊』などもそうだが、ポーの作品にはつねに『死』と『滅び』がつきまとう。
 ポーにとって『死』と『滅び』こそが追い求める心のふるさとなのだ。
 それは僕たちにとっても、どこか懐かしい。


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2 コメント

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エドガー・アラン・ポー ()
2020-03-29 13:16:12
こんにちは。

エドガー・アラン・ポーは大好きでほとんど読みましたが、これは覚えていませんでした。
知らないふりをしていても、逃れることはできないということでしょうか。

久しぶりにポーの作品を読み返したくなりました。
返信する
「アッシャー家の崩壊」も (コウジ)
2020-03-29 19:54:03
沼さん

いつもありがとうございます。

沼さんはほとんどの作品を読まれているんですね。
僕は新潮文庫にあるような代表作と言われるものだけです。

『赤き死の仮面』と同じモチーフで、『アッシャー家の崩壊』がありますが、これなんか読み返してみると、すごくいいですね。
以前は『アッシャー家』の良さがよくわからなかったのですが、今、読むといいですね。
人間的に成熟したのでしょうか。
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