エジプト十字架の謎
THE EGYPTIAN CROSS MYSTERY (1932)
☆事件
ウェスト・ヴァージニアの片田舎で起きた凶悪な殺人事件はT文字で彩られていた。T字路に立つT字型の道標に磔にされたT字型の首なし死体、そしてドアに描かれたTの血文字。古代宗教的狂信やヌーディスト村、中部ヨーロッパの迷信から生まれた復讐者などを背景に第二、第三の殺人が起き、そのつどエラリイの推理は二転三転する。本格派の巨匠が推理の鍵をすべて提供し読者に挑戦する、国名シリーズ中傑作の誉れ高い作品(ハヤカワ文庫『エジプト十字架の秘密』カバー紹介文より)。
☆登場人物リスト
アンドルー・ヴァン・・・アロヨ町の小学校校長
クリング・・・アンドルーの召使い
ピート老人・・・山小屋に住む変人
ルーデン・・・アロヨ町の巡査
ハラークト・・・太陽教教祖
ヴェリヤ・クロサック・・・ハラークトの弟子
トマス・ブラッド・・・敷物輸入業者
マーガレト・ブラッド・・・トマスの妻
スティーヴン・メガラ・・・トマスの共同経営者、海洋旅行家
スイフト・・・ヨットの船長
フォックス・・・ブラッド家の園丁兼運転手
ジョーナ・リンカン・・・ブラッド&メガラ商会総支配人
ヘスター・リンカン・・・ジョーナの妹、裸体主義者
テンプル博士・・・トマスの隣人
パーシイ・リン・・・トマスの隣人
エリザベス・リン・・・パーシイの妻
ポール・ローメーン・・・裸体主義者
アイシャム・・・ナッソー郡地方検事
ヴォーン・・・ナッソー郡警察刑事局警視
ヤードリイ・・・大学教授
エラリイ・クイーン・・・探偵
リチャード・クイーン・・・ニューヨーク市警警視
☆コメント
エラリイ・クイーンの作品中、最も大量の血が流される作品。
血みどろのグラン・ギニョール趣味とテンポの速い活劇的なストリー展開・・・これこそがこの作品の真骨頂であり、国名シリーズ中でも1,2を争う人気の理由となっていると思われます。
T型十字架に磔にされた首のない死体、血で塗りたくられた“T”の字のメッセージ、太陽信仰の狂信者に率いられた裸体主義者の集団、などなどミステリアスな道具仕立てにはこと欠きません。
比較的早いうちに明らかにされる連続惨殺事件の動機には、狂気の復讐というドイルばりの伝奇的要素が盛り込まれています。そして、犯人の目星もついているのにその正体が杳としてつかめないもどかしさ・・・
さすがのエラリイも最後の事件まで真相がつかめませんでした。今回の犯人は頭が良い。狂っているけれど頭が良いですね。犯人側の一貫した狂気の論理がこの作品のプロット・構成を揺るぎないものとして支えているため、ストリー全体に不自然さがあまり感じられません。次から次へと息つく暇もない展開に、エラリイは犯人の術中に陥り、読者は作者に欺かれるわけですが、エラリイが真相に気づく時点までエラリイも読者も与えられている情報は同じで、フェアプレイの精神は貫かれています。
真相にたどり着く手がかりそのものはむしろ単純で、推理と論証の過程そのものの面白さという点では、『オランダ靴』や『フランス白粉』と比べてもの足りなさを感じますが、それを補って余りあるのが前述したような派手な道具仕立てや、フーガを思わせる最後の追跡シーンの面白さであると言えるでしょう。『オランダ靴』で独自のスタイルを確立したクイーンが今回の作品に新たに導入した付加価値はシリーズ中随一の「娯楽性」と言えそうです。
(yosshy)
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